ずっと一緒
馬鹿をおいて、喫茶店から二人で出た。
もう一人?
知らんな。
お店側の都合?
不味いコーヒーを出したからしかたないでしょ?
近くの公園でちょうどいいベンチを見かけてアズサと一緒に座った。
「今更だけど付き合う前に、『私を倒せたなら許可してあげよう』ってやってみたかったなあ」
その言葉にアズサは苦笑いした。
「それだと一生現れないよ。紅葉ちゃんを倒せる人なんて………」
「そうですか? 少なくとも、魔法は使いませんよ?」
「それでも、十分強いと思うけど」
まだまだ世の中を知らないようだ。
実際、私が嫌悪しているあのクソ女と私は魔法を使わなければ決定的に勝つことができない。体術、ナイフ捌き、射撃等、どちらも一歩も引かないのだ。
「我が家では、二人は魔法無しで———」
「そこを基準にしちゃいけないよ、紅葉ちゃん」
いえ、私に鍛えられれば私と同格くらいにはなります。
まあ、その話はおいておこう。
「それで、これからどうするの?」
「正直、いろいろ不安があるけど、昔のように悩むことはないかな。困ったときの友達もいるし」
「私は、ベビーシッターではありませんよ?」
「そうじゃないよ。でも、話し相手くらいにはなってよ?」
「………その程度なら」
お互いに笑いあいながら、外の風に当たる。
すでに、時間は夕暮れ時だ。
人口の太陽が、光量を調整し始めた。
自然の光、それも本物の太陽でもないのに。
夕暮れ時の日光は、どこか寂しさを感じる。
「ねえ」
「なんですか、アズサ」
「どうして、軍部、やめちゃったの?」
…………。
「以前に答えたはずです。四乃宮家当主、真衣お嬢様に仕えるためです」
「それは『表向き』の理由でしょ?」
本当に私のことをよく見ている。
「本当は、あなたのお父さんを犠牲にした軍部に辟易したから、でしょ?」
「………」
嫌というほど、理解されている。
いや、それほど私が単純なのかもしれない。
「それを言ってどうしたというのですか?」
「私の夢が一つ消えちゃったから、嫌味を言いたかっただけ」
「夢、ですか。」
夢なんて見たことなかった。
「私ね、紅葉ちゃんの戦闘の役に立ちたかったの」
「………初耳ですね」
「そうね。言ってなかったから」
私の肩に頭を預けて彼女は語りだした。
「当時の紅葉ちゃんって、軍学校では人気者だったんだよ? 突然、現れて強者で編成されたチーム『零』部隊に私たちと同じ年代の子がいるって」
「それも初耳です」
「それはもうすごかったよ。週に一回の模擬試合が私たちの間で映し出されたとき、みんな映像に釘付けになったんだから」
「そんなすごいものでもなかったでしょうに」
「それを言ったら、当時の私たちががっかりするわよ? だって、あなたのお父さん以外ほぼ完封させるくらい圧倒的だったんだから」
「………」
「だから、そんな人の手伝いができればいいなあ、と思ったの。今にして思えば、私は行動派だったのね。運動とかはどんくさいくせに、軍部の防衛局へ侵入路の確保を徹底的に調べ上げたりしていたから。なんとしても、あなたに会いたいって」
なぜだか、口が勝手に綻んでいた。
「突然、来られた身にもなってほしいわ」
「ふふふ、でも紅葉ちゃん。あの後も心配してくれて私が勤めていた工場に時々、顔を出してくれたりして、………うれしかったなあ。遠い存在と思っていた人が近くにいるの」
「すれ違うくらいあるでしょ?」
「そうじゃないけど………。それに普通に会話なんてできるものじゃないのよ」
「………わからないわ」
「そうだと思った」
少し、あきれたような表情をして腕にしがみつかれた。
「防衛局でも知らない人がいないように、軍学校でもあなたを知らない人はいなかったのよ。だから、私はいつの日かあなたの役に立ちたかった。………でも、あなたはあそこから、去ってしまった」
「私は、あなたのパートナーと違って優しい言葉をかけてあげられないわ」
「紅葉ちゃんはそれでいいの。だけど、罰は受けてよね」
「罰?」
「ええ」
そんなもの受ける義理なんてない。
「あなたのお父さんが亡くなったとき、私はあなたのそばにいるべきだった。でもね、最初にあなたを見たときに、目も当てられないほど壊れていた。その事実から私は目を背けてしまった。あなたを一人にしてしまった」
「私は、一人ではありませんでしたよ。四乃宮家の方々に———」
「私が行っているのは、肩書きで支えあう人たちじゃなくて心から支えられる人のことよ。少なくとも、あの時の判断を私は後悔したわ。だって、自分が必要なときに手を指し伸ばしてくれた人たちに、助けられないからって、最初からあきらめてしまって、手をのばさなかったことを、ね」
「………」
「だから、これは私に対しても罰。これからは、紅葉ちゃんを一人にしないから」
面倒な友達をもったなあ。
でも、口元は意図せず笑っていた。
「大丈夫ですよ。我が家には、一人になるどころか、問題ごとを持ってくるお転婆娘や、社長になったのにもかかわらず、ぐうたらな破綻者や、………嫌になるほどお父さんの面影がある養子がいますから」
「それでも、この瞬間だけでも紅葉ちゃんと一緒に———」
「これから、母親になる人が甘え事ですか?」
「いいの。お互い友達なんだから、弱さを見せてもいいのよ」
その言葉に少しだけ救われた気がした。
だから、アズサの反対側の肩を引き寄せた。
「ありがとう」
お互いくすぐったい関係ではあるものの、これからも付き合いは長くなっていくのだろう。月日は過ぎ去っていく。それでも———。
私の友達は、最高の友達だ。
あの時の、お父さんの言葉には、間違いはなかった。
『それが、君の大切な思い出になるからさ』




