人であるが故の無力
「あのガキンチョ、マジで!」
「ご自身の立場を理解しておられんとし言いようがないでござる!」
「………隊長」
いつものことなのだ。
危険なことに巻き込まれやすく、自分の命の基準が最も低い。
生命として決定的に欠如してはならない生存本能が希薄。
「マキナはさ、あいつの仕事量と私達の仕事量を比較したときにどのくらいのだと思う?」
「………月計算かつ遠征量を基準として『ホワイトカラー』の駆逐だけとします。先月の遠征で私と知里殿、健吾殿の遠征回数は合計8回、それに対して甲斐田殿は67回。単純に計算しても甲斐田殿は私たちの8倍も仕事をしていることになります。さらに『テロリスト』の制圧や、偵察任務もこなしているとなると、その比率は————」
「アアア! もういいわ! ムカつく!」
「知里殿、落ち着いて」
「ムカつくものはムカつくの! だけどね、最もムカついているのは、あいつ自身じゃなくて私達がいても、あいつ自身の仕事が減らないってことによ!」
知里の言い分もわかる。
この五年間で思い知った。
あいつがどれだけボロボロなのか。
自分の人生を無駄にしているのか。
他人の『幸せ』を願いながら、自分の境遇を全く理解していないことに。
「だからこそ、俺たちはあの四乃宮のご令嬢があいつの命に触れそうになった時に強い憤りを覚えた。違うか?」
その言葉に、二人が頷いた。
自分達が『死ぬ』という概念に対して恐怖を覚えるが、自身を切り捨てるまでに粉骨している『本物』に刃を向けられれば、あいつの生きざまに唾を吐かれるのと同義だ。それだけは、絶対に許さない。
「あいつには自分の『幸せ』を探してほしいと思いながら、あいつに頼るほか道がない事実に俺たちは、耐えるしかないんだ」
俺達は、自らの非力さに奥歯を強く噛みしめるしかなかった。