私の転生者をぶち殺す生活は続く!!!
「な、なんですの?」
私の声は思わず裏返る。目を泳がせて、視線をそらす。
「いえ、私の愛しの勇者様が女神様によって別世界へ移動したと聞きましたので」
私の目を追いかけるように顔を覗き込んだ。
「で、どこへ隠したんですか?」
彼女はぐいっと顔を近づかせた。
な、なんですの……。あ、圧が強すぎますわ……。
私は一歩後退り、声を絞り出した。
「げ、現世へお返ししましたわ」
私の声に反応してか、私の目と目が合う。
「本当にですか?」
私の言葉の裏の裏まで読み取ろうとする意志を強く感じる。
ゴクリと生唾を飲み込む。
なんでこんな緊張感を味わないといけないのですか。
「私は女神ですから、嘘をつけないのですわ」
恐る恐る言葉を口にした。
うぅ、女神なのに。これじゃ詰められているような気分ですわ。
よく刑事ドラマにあるような詰められているシーンがありますが
まさにそれ、2人っきりの密室でカツ丼を提供されているような……。
もごもごと口を動かす。
「ふーん……」
品定めをするようなそんな冷たい視線だ。
勇者のせいですわ、こんな屈辱を……。
だいたい、なんでこんなヤンデレ女性がここに……。
確かヤンデレというのは命を奪っていたはずですわね。そうですわ!
こいつを勇者の元へ送り込んでしまえば命を狙ってくれるはずですわ
深呼吸をして、息を呑む。
取扱注意かもしれませんが、爺やを失った私にはこの手段しかありませんわ。
声を恐る恐る出していく。
「そ、相談がありますわ」
少しだけ間を空け、聖女は言葉を開いた。
こちらに敵意を向けたかのような視線をむけ、「何ですか、女神様」とこちらに問いかける。
「い、いえ」
思わず口ごもってしまった。ゴホンゴホンと咳き込む。
「あのですね、私があなたを勇者の元へ送ってあげましょうか」
彼女は目を大きく見開いた。私の手を握りしめ、顔をギュッと近寄らせる。
「ほ、本当ですか!?」
勇者にこのヤンデレ聖女をぶつける。
そうすることで命を狙うのですわ。
勇者が他の女性と話す度にヤンデレを発動して勇者をぶち殺すことを祈るしかありませんわね。
他人任せ?のんのん、使えるものは使うだけ。
「えぇ、あなたを置いていった勇者を徹底的に追いかけていくといいですわ!!」
私はビシッと指を指し、決めポーズを取ることにした。
「あぁ、女神様……!!あなた様はなんて慈悲深いお方なんですの……!!」
彼女は私に尊敬のまなざしを浮かべている。
あぁ、これですね。私にはこのような敬愛が足りなかったのですわ。
鼻を鳴らす。ふふんと得意げに。
口元がニヤリと釣り上がっていく。
「ま、当然ですわよ。なぜなら私は女神!これくらい容易いことですわよ」
指をパチンと鳴らして、彼女は光輝き出す。
「こ、これは……っ!!?」
「今からあなたを勇者の世界へと飛ばしますわ、さっさと……いきなさい!!」
クスリとほくそ笑み、私が指を向ける。
「あ、あの準備とか……」
彼女が何やらわーぎゃーわーぎゃー騒いでいる。
だけどまったく関係ない。
聖女はそのまま異世界へと吹き飛ばされて行った。
「ふふん、これで勇者の件は問題ありませんわね……!」
さぁ、これで聖女も居なくなったわけだし。
正直今現状がどうなってるのかまったくわかりませんけど。
「さてと、あと私は……お茶でも飲んでくつろぐとしますわね」
ふぅ、と一息をついた。手をパンパンと叩く。
だけど何も反応はない。
「じ、爺や……。」
そう、爺やはもうここにはいないのだ。
失ってしまったモノの大切さを今まさに痛感する。
わなわなと手が震える。
地面をジッと見つめ、顔を左右に振る。
こんなことでくよくよしてもよくない。
私は顔をあげて、目を見開き上を向く。
とりあえず異空間に戻るとしますわ。
女神としての翼を羽ばたかせて勢いよく飛び上がる。
シュタッと音をたてて、目の前には今まで自分が過ごしていた世界にくる。
本来なら爺やが迎えてくれるはずだがここにはいない。
自分で紅茶をいれて口に運ぶ。
ゴクリと喉を鳴らして温かい飲み物で喉を潤していく。
「ひとまず勇者は聖女に任せるとして……」
紅茶をその場にあるテーブルの上に乗せた。
「はぁ……落ち着きますわぁ~~!!」
一息つく。
さてと、ここから先はどうするべきか……。
そんなことを考えていると目の前にはお父様のホログラムが映る。
「お、お父様!!?」
「あぁ、娘よ……元気にしているだろうか」
懐かしい。
滅多に見ることができないから話すこと自体久々だ。
「お父様、いったいなんですの!!?」
私の胸が躍る、久々に話すから嬉しく感じますわ。
髭を触り私をジッと見つめて目を細める。
重々しい雰囲気の中、彼は口をゆっくり開く。
「最近、転生をさせていないようだが……」
「そ、そんなことありませんわ!!
だって、ちょっと……イレギュラーがありまして」
「言い訳はいらない。ノルマとして100人の転生をすること」
「ひゃ、100ですの!!」
私が何かを言う前に消えてしまった。
「ちょ、ちょ……ちょっと」
私の声は届かない。
まだ勇者さえ転生させていないのに、どうしたらいいのだろうか。
これからも私の転生者をぶち殺す生活は続くようだ