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あ~~~、勇者を殺せない、作戦会議させていただきますわよ!!え、爺や、それは何……?さ……

「なんなんですの、いったい!」

私は勢いよくトラックから飛び降りた。

ふわりと一瞬だけスカートが浮く。トンと地面に降り立つ音と共にスカートは閉じていく。

私はくるりと回転し、開きっぱなしのドアに力を込め押した。ドアは音をたててドンと閉まっていく。


その場は全体的に西洋風に作られている。明るめの色で彩られ、部屋の中央に飾られたシャンデリアが特徴的だ。

赤色の真っ赤な絨毯が敷かれていて、広めの空間には小さめの机とソファーが備え付けられている。

部屋の隅には天井付きのベッドが置いてある。ひらひらの薄い生地で出来たカーテンがベッドを囲む。


この空間は女神の間、私の憩いの場。各女神ごとに用意されている場所であり言わば個室である。


ポンッとソファーの上に腰を下ろした。

私が合図をするように手を叩く。するとトラックはテーブルの前にたどり着く。

トラックからポットとティーカップが飛び出る。ポットは宙に浮いたまま勝手にティーカップへとお茶を注ぐ。

『お嬢様、お茶でございます』

「あら、気が利くわね」

私はティーカップをそっと掴む。ゆっくりと口元へと運ぶ。

淡く綺麗な色合い。半透明であるものの味はしっかりとしていて強め。

それでいて柔らかい味わいに包まれる。

私の心に生えたトゲを溶かすかのように、温めてくれる。


「ふぅ、落ち着きましたわ」

小さく息を吐きだし、息を吸い込む。

「それでは作戦会議の時間でしてよ」

私はティーカップを机の上にトンっと置いた。

目の前にあるトラックに視線を移す。私は意見を促すように机を叩いた。

トラックは背後についているライトをカチカチと点灯させる。一瞬だけ黄色のライトが走る。


『まずお嬢様、何故転生なのでしょうか』

「簡単なことでしてよ」

トラックは疑問を口にしたのだろう。様子を伺うように、エンジン音を鳴らす。


「女神の仕事は世界の管理、元凶を殺してしまうのが一番でしてよ」

私はクスリと微笑んだ。簡単なことだ、問題が起きてるならその原因を取り除けばいい。

そうすれば解決する。私がここに勇者を戻したことを知る人物は誰も居なくなるし、口封じも出来る。


『他の方法はないでしょうか』

「ふふっ……」

他の方法はあるかもしれないが勇者といえどたかが人間。

人間のために女神である私が手間をかける必要はいっさいない。

私は世界を管理している。人間はそこに住み着く生き物であり女神とは生きている次元が違う。

たかが一人のために他の方法を探すのはコスパが悪い。


確かに転生させることが難しいのであれば、別の方法を検討する必要もあるだろう。

だが今まで人間は転生を喜んで受け入れていた。なので勇者も今は拒否しているだけで心から望んでいるはずだろう。

今まで通りの方法で問題ない。そのはず……。

それに、生きていたら何かの際に私がちゃんとチェックをしなかったことがバレてしまう。

お父様を失望させたくない。せっかく女神として仕事をしているのですから。


汗がじわりと額から垂れる。目が泳ぎ、視線が定まらない。

拳をギュッと握りしめる。

『お嬢様、私はあなたをサポートするために存在しています』

トラックは言葉を述べる。

相変わらず渋い声、人間の見た目ならダンディな男性だろう。


『なので安心して本音を教えてください』

「爺や……」

思わず声が出る。見た目はトラックなのに、私の執事なのだということを実感する。

だからといって弱みを見せるのは良くない。主が弱っているところを従者に見せるのはただ従者を不安にさせるだけ。


「……ふんっ、余計なお世話ですわよ」

握っていた拳をそっと胸元へ押し当てる。

私は女神、女神なのだ。イレギュラーは転生という形で処理する。

それがきっとお互いのためになるはず。


「お気持ちだけ受け取っておきますわ、爺や」

私はトラックに向かって優しく微笑みかけた。

さて、絆を深めるのも大事なことではあるけど……今は転生の手段を探さないと。


「ねぇ、爺や。マニュアルには事故死が一般的とありましたが何か他の死因はありませんこと?」

『いくつかございます』

私の問いかけに対して、トラックは反応を示した。

前方のライトがカチカチと光る。シャンデリアに照らされた灯りが消えた。

トラックから放たれる光だけがこの場を照らす。

その光は壁に向かって放たれ、そして[調査結果]と映されている。


『この世界には映画というものがありまして……フィクションつまり創作物ではあるのですが』

画面が切り替わる。そこには大きな魚の映像が映る。

大きく口を開け、剥き出しになった牙がそろっている。色は黒く頭に刺さったナイフのようなヒレが見えた。

海の中を勢いよく泳ぐ姿が映し出される。次に海辺でイチャイチャしているカップルが映ったかと思うとその生物が襲い掛かり真っ赤な液体が広がった。


「まぁ……」

思わず口を開けてしまった。一瞬の間だった、人は為すすべなく食べられてしまった、恐るべきモンスター。

『サメでございます』

「サメ……?」

それがこの生物の名前なのだろうか。まさかそんな恐ろしい生物がこの世界にも存在していたとは。


「だとすると、海へ行く機会を狙うということでして?」

私は自身の顎に触れた。視線をトラックの方へ向ける。


『と思われたでしょう、ですが心配いりません』

映像が切り替わる。どうやら場所は誰かの家らしい。

トイレが映っている。しかし便座からはみ出る大きな背ビレ。


「いやいや、そんなまさか……どう見ても一軒家でしてよ」

目をパチパチとさせた。信じられない、こんな生物が自宅でも現れる可能性があるだなんて。

なんて過酷な世界なんですの……。


気が付くとそこは血の海だった。どうやら用を足しに来た人間がそのまま襲われたらしい。

『他にも砂の中に生息していたり、このサメという生物の可能性は無限大だと思われます』

トラックは得意げにエンジン音を鳴らす。


「さすがですわよ、爺や」

私はそのままトラックに手を伸ばしてできる限り包み込んだ。

手を伸ばしてドア付近の窓を優しく撫でる。


『……っ、お嬢様に感謝され嬉しく思います』

トラックは恥ずかしいのかワイパーを動かす。窓をキュッキュッと磨くように音をたてた。


そんなトラックの反応が可愛らしくて思わず笑みが零れる。

私のテンションはどんどんと、アドレナリンが溢れるかのようにあがっていく。

すぐに打ち取りに行きたい、そんな思いが先行する。私は勢いよく立ち上がった。


「なら早速試しにいきますわよ!」

『お待ちください』

トラックはそんな私を静止する。

私は目を丸くした。視線をトラックの方へ向ける。


『サメはインパクトが大事』

「い、インパクト……ですの?」

頭に大きくクエスチョンマークを思い浮かべる。

インパクトが大事、と言われても想像がつかない。

それが何になるのだろうか、小首を傾げた。


『お嬢様、サメは獰猛な生き物でございます』

「知っていますわ、爺やが先ほど見せてくださった映像を見ましたら……」

私は視線を再び映像に移した。逃げ惑う人々、それを追いかけるサメの映像が見えた。

確かに迫力はある。ただ所詮作られた映像。人々を喜ばせるために作られた娯楽である。

刺激を与えるために多少過剰に作られているモノだろう。

トラックが言いたいことがよくわからない。

私は人差し指で頬を触る。眉間にシワを寄せてうんうんと唸る。


『サメのデメリットは、誰も彼も襲うという点となります』

トラックからフッと笑うようにクラクションが一瞬鳴った。

『インパクトがありませんとターゲット以外の方々が逃げるタイミングを見失うかもしれません』

「……っ!!」

私は思わず息を呑む。目から鱗が落ちたかのように感じた。その発想はなかった。

女神の力でいくつかリカバリーが効くとは言え限度がある。勇者以外は殺さないに限る。


「そうですわね、出来る限り被害は少なく……気づきませんでしたわ」

『これを機にお嬢様も人間のことを知ってもよろしいのではありませんか』

「愚問ですわね、なぜ私がそこまでしないといけないのでして」

私は口をムッと堅く閉ざす。指先で机をトントンと叩いた。


人間なんて、生きているのに死にたがる。

転生を望み自らの欲を満たそうとする生物なのだ。

そんな生き物のことを知って意味があるのだろうか。


私はティーカップへ手を伸ばす。

紅茶を口に少しだけ含む。少し冷めているが気持ちを落ち着かせるのにちょうどいい。


「それで、インパクトと言いましてもどうするつもりですの?」

コトン、と音をたてて再びティーカップを机の上に置いた。

じっとトラックの方へ視線を向ける。5秒ほどだろうか、時が止まったかのように間があった。


トラックは咳払いする。ゴホンと、スピーカー越しから聞こえてくる。

『私にいい考えがあります』

自信満々にライトをチカチカと輝かせてトラックは言い放つ。

人間で例えるなら、メガネをクイっとあげる。自信満々の笑みを浮かべている。

そんな姿が目に浮かぶようだ。


そんな自信満々の様子がなんとく鼻につく。

私はバンと机を叩いた。そしてその勢いのまま立ち上がる。

息を荒々しく吐き出して、トラックを力強く見つめる。

「な、なら聞かせてもらおうじゃありませんの!!」

指先でビシッとトラックを指し示した。

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