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学園変獄  作者: 浮魚塩
9/13

第9話

「春樹お兄ちゃん、ごめ…………」

「いやいや、いいよ。あの場合は仕方ないから」


 後頭部が痛い。あと、蹴られた衝撃はなんともなかったけど、どうも少し切れてしまったようで、顎の下をさわると微量の血が手についた。

 うん、まぁ、許容範囲だよね。


「ごめ…………」

「もういいって。それじゃあ、今度は何乗る?」

「………」


 あっちゃあ、なんだろこの気まずい空気は。なんて嬉し……、いや、面倒くさい秘宝なんだ。こんな状況にするなんて。こういうとき、どんな顔したらいいかわからないの。


「月子ちゃん、次何乗る?」

「………」

「メリーゴーランドとかあるよ?」

「………」


 メリーゴーランドは嫌だったかな? ………ああ、現実逃避はよそう。


「じゃああれ乗ろう!」


 月子ちゃんの手を引き、別のアトラクションへ行く。

 あれだ。

 水の中にドボンと飛び込むあれ。滝。ウォーターフォール。絶叫系ならさすがに声を出さざるを得ないはずだ。




 と、思って意気込んで列に並んだものの、やはり人気アトラクションなのか長蛇の列だ。

 そして、前にも言った通り、僕はジェットコースターとか絶叫系は得意じゃない。並んだ後で後悔しても遅いが…。

 しかし、後悔先に立たず。僕らの番がやって来る。

 丸太を模した船に乗ると、船はゆっくりと進み始めた。

 道中にはちょっとしたビックリポイントの急な段差があったり、周囲の仕掛けや景色を堪能しながら進んだ。そして急な上り坂。山の中へと入っていく。

 暗いくらい洞窟は、照明が光ったり、恐竜がいたり、外とはうって変わって不安を募らせる。


「春樹お兄…」


 だんまりだった月子ちゃんがようやく口を開いた。


「どうしたの?」

「秘宝があ…」

「どこ?」


 ここにも秘宝があったのか。

 だけどライド系は常に移動してるから、気づいたときにはもう遅いようだ。

 どこどこ?と首を捻っているうちに坂を登りきり、からだがカクンと傾き始めた。


「わああああああああ!」

「きゃあああああああ!」


 と、様々な叫び声が飛び交う。


「きゃ…」


 という月子ちゃん。

 ええ、完璧なまでに当てが外れました。叫び声が途中で切れることなんてない。そう思っていた時期が僕にもありました。

 そもそもジェットコースターに乗ったときに気付くべきだったんだろうけど、なんせ余裕が全く無かったのですよあれは。

 ちなみに今回、僕はというと、完全に油断していて不意をつかれたため、声にならない叫び声をあげていた。

 情けないなぁ…。

 船は水に突っ込んでいった。たくさんの水飛沫がふきあがり、それがおもいっき乗客を濡らした。

 当然のごとく僕らも例外なく濡れた。

 水も滴るいい男ってか?

 …ウホッ?

 何それ?


「あはは、流石にタオルが置いてある」


 船から降りてすぐの場所に、トレジャーランドオリジナル的なタオルが並べてあった。折角なんだから売り物にすればいいのに。プレゼントする余裕があるのか…。恐るべし、トレジャーランド。


「月子ちゃんも拭きなよ。風邪ひくよ?」

「あ、ありがとぅ…」


 お、珍しく最後まで言葉が聞こえた。


「絶叫系もたまに乗るくらいならいいかもね」

「私は…好き…だけど…」

「けど?」

「春樹お兄ちゃ…、無理して乗らなく……………」

「無理はしてないよ」


 嘘です。吐きそうです。


「顔、真っ青……」

「マジ?」

「嘘」

「…な、なんだよそれ」


 月子ちゃんにからかわれるとは思いもしなかった。


「春樹お兄ちゃ…」

「ん?」

「もうおひ………」

「ああ、もうお昼か。最初の広場に集合だっけ? 良介の奴、こういうときだけは時間厳守だからな。間に合わなかったらうるさいぞ」


 遅刻魔のクセになぁ。

 それとなく良介を責めつつ、僕と月子ちゃんは集合場所へ向かった。











「一分と十二秒遅刻」


 良介が不満そうな顔で腕時計を見つめていた。


「良介、時間ずれてるぞ?」

「え? マジ?」

「マジマジ。マジヤバい! 致命的にヤバいわ」

「これ電波時計だぜ?」

「チッ…」

「ああっ! タイソン今舌打ちしただろ?!」

「してないよ」

「した!」

「まぁまぁ、落ち着きなよ良介」


 陽太の仲裁で一旦この場は収まる。

 その後も良介はウダウダ言っていたが、とりあえず全部聞き流すことにした。

 そして僕らは昼食を食べるために、適当なレストランに入ったのだが、甘かった。昼時のレストランは完璧に容量オーバー。入店率120%で回転率は10%くらい。待てど暮らせど入れるわけがなく、諦めた僕らはハンバーガー等の軽食で簡単に済ますことにしたのだった。つうか、どれだけ人気なのトレジャーランド?!

 そして。


「よし、メンバーチェンジな!」


 良介の言葉を全て聞き流していた僕はメンバーチェンジと聞いて驚いた。

 再び現れた竹串。

 例のごとくそいつを引っこ抜く。

 先の色は『赤』。


「あ、今度は春樹さんとですか!」


 と言うのはおでこの赤松さん。

 赤松さんは当然といった風に僕に腕を絡ませてくる。


「ちょ、ちょっと?! 赤松さん?!」

「沙夜ですっ!」

「さ、沙夜……、ちゃん。そんなにくっつかれると…」


 初期の印象と大分変わってしまったなぁ、この子は。


「いいじゃないですか。減るものじゃないですし」


 いや、なんというか、僕の精神がね、こう、ゴリゴリと石臼で磨り潰されるように磨り減っていくわけですよ。

 ほ、ほら、冴草のあの魂を抜かんばかりの威圧のこもった視線と笑顔でさ。

 でも、こればかりは未だ返答をしていない自分が悪いわけで、何も言えないわけで。

 というか、こんな状況でよく冴草と赤松さんはいつも通りにしていられるな。もっとギクシャクしそうなもんだけど。

 やっぱり僕が早く応えるべきなんだろうけど…。


 …けど、本当のところ僕は分からない。この二人に出会ったのはつい最近のことなのだ。突然告白されて、「うん、いいよー」と答えられるような甲斐性は、生憎持ち合わせていない。

 要するに世間一般で広く知れわたっている『ヘタレ』という存在なんだろうな、僕は。

 握力はあるんだけどなぁ。まともな場面で役にはたたないし。役立たずな僕。

 …あ、自分で言ってて切なくなってきた。


「げっ、冴草とかよ」

「チッ…!」

「ああっ! お前まで舌打ちを?!」

「まあまあ、良介落ち着いて」

 と、再び陽太。

「………ん? って、ことは、僕は月子と?」

「よろしくね、お・に・い・ちゃ・ん」

「ぐ…」


 あれ? 月子ちゃん普通に喋って…。


「つ、次は15時集合な! もう一回入れ替えするから!」


 こうして僕らはまた別行動をすることになった。


「さて、何に乗ります?」

「んー、特にこれってのは無いかなぁ」

「それでは、あれはどうですか?」


 と言って赤松さんが指差したのは。


「トレさんのトレジャーライフ? てか、トレさんて?」

「トレさんはトレジャーランドのマスコットキャラクターですよ? 正式名称はトレジャー・ショーンス」


 あの帽子をかぶったカウボーイ風の髭を生やした渋いあのイン○ィジョー○ズ似のおじさまをデフォルメしたようなあの着ぐるみがマスコットキャラクターだって?

 てか、妙に詳しいな赤松さん。


「で、あっちの女の子がジェーンちゃん。あの犬がバター。そこのおじいさんがジァイムズ。であそこの…」

「わ、わかった。うん。ありがとう。よく分かったよ」


 赤松さんがやたら詳しいと言うことがよくわかった。


「これだけ詳しいと、秘宝の事もよく知ってそうだね」

「ほぼ全部分かりますよ?」


 それでもほぼなのか…。

 トレジャーランド、恐るべし…。


「ただ、ミラーハウスの秘宝。女の子と行く場合、あれは気を付けた方がいいです」

「後の祭だよ」

「へ?」


 到着した時点で…、いや、出発する以前に…、いやいや、遊びに行くと決めた日に伝えてほしかったなぁ。


「取り合えずそのトレさんのなんとかに行こうよ」

「はい。了解です!」


 メンバーチェンジ。

 ずっと赤松さんのターンが始まる…!











 何勘違いしてやがる! 赤松さんのターンはまだ終わっちゃいないぜ!


「ひょっ?!」

「ど、どうしたんですか、春樹さん?」

「いや、すまない。ちょっと悪夢が…」

「悪夢って…、寝てたんですか?」

「いや、思い出し笑いみたいにおかしな記憶の断片が突然蘇った、そんな感じかな」

「は…、はぁ…?」


 赤松さんのターンは始まったばかりなのである。

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