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学園変獄  作者: 浮魚塩
6/13

第6話

コソーリ更新

 おかしい。

 絶対何かがおかしい。


「春樹さん、起きてください」


 おかしすぎる。

 僕は狂ったのか、妄想の果てに幻を見ているのか、それとも単なる夢なのか。


「いでででで! ひ、引っ張らないで、赤松さん!」

「沙夜です。そう呼んでください」

「呼び方はさておき、どうしてここに…」

「彼女ですから!」


 この子はおっとりした見た目に反して実に行動的な性格のようだ。今日も広いおでこの彼女は僕の頬を引っ張っていた。


「遅刻しますよ?」

「遅刻ったって、まだ7時だよ?」


 ここから学校まで徒歩20分程度。HRが始まるのは8時45分から。まだ早すぎる。早起きは三文の徳とかなんとか、言うけれど実際ど…


「早起きは三文の徳です」


 ですか。


「早く支度しましょう!」


 というか我が両親は何をしているのだ。見ず知らずの女の子が突然押し掛けて勝手に息子の部屋に上がってあんなことやこんなことをしているというのに。


「あら、沙夜ちゃんいい子じゃない」


 と、母。


「青春は今だけだぞ」


 と、父。


「いただきます」


 と、何故か一緒に朝食をとっている赤松さん。

 いつの間にうちの両親を抱き込んだんだこの子は。侮れん…。


「あ、春樹さんご飯お代わりしますか?」

「え、あ、うん…」


 赤松さんは僕のお茶碗を取り、それにご飯をよそう。


「沙夜ちゃんならうちの息子も任せられそうだな」

「いえ、そんな」


 やっぱりおかしい。

 夢だ。これは夢なんだ。イッツ・ア・ドリーム、HAHAHA〜。

 目を瞑って開いても目の前の光景が変わるはずもなく、ゲームとか漫画みたいな世界でしかあり得ないだろうと勝手に思い込み、妄想の産物だと決めつけていた現実が目の前にある。

 いや、そもそもこれが現実だとどうして言い切れる。なんだ、あれだ、私が蝶の夢を見ているのか、蝶が私のを夢を見ているのかっていう、古文かなんかでやったあれに違いない! そうだ! そうに違いない! あ、いやまて。そんなことを言っても、夢の中なら夢の中の登場人物は夢の中が現実だから、結局なんにしても現実には変わりないわけじゃないのか。というか私と蝶のようにどっちがというふうに比べるもの自体が無いじゃないか!

 ぬあー! 頭がこんがらがる!


「春樹さん、具合が悪いんですか?」


 一人脳内会議をしていた僕の様子をどう受け取ったか判らないが、赤松さんが心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。うう、どうしてそんなまっすぐな目で僕を見るんだ! おでこ共々キラキラしていて直視できないじゃないか!


「だ、大丈夫…、です」

「もし具合が悪いんでしたら今日は休んだ方が…」

「平気ヘイキ、キニシナイデよ」


 畜生! そこの両親! 何でそんなににこやかな顔でこちらを見ているんだ。

 そりゃ、赤松さんはおでこだけど、普通に見ても可愛いし、性格も強引だったけど悪くないし、きっかけはなんであれ僕を好いてくれてるのは嬉しいし。


「…ん?」


 嬉しいのか。

 なんだ、嬉しかったのか僕よ。色々段階をすっ飛ばしたせいで受け入れられなかっただけなのか。そうか、それならよかったじゃないか。素直に喜べよ。男の妄想に限られていた夢がほら今現実にこうして我が身に降りかかっている。

 やー、よかったよかった。ぼかぁ幸せだなあ。


「…………って、ならねぇよ!」

「あの、やっぱり…」

「あ、ごめん」


 一人脳内ノリツッコミが暴発してしまったようだ。やはり、ここは落ち着いて状況を整理しようか…。って、見たまんまか。だが、こんな嬉しい状況をありのまま受け入れられるほど僕はできた人間じゃない。やっぱりおかしいんだ。赤松さんだってあんな約束守る必要ないのに。ただ、友達になりましょう、うふふで全然オッケーなはずなんだ。

 よしそれじゃあ、言おう。赤松さんの気持ちをちゃんと確認しないと。




「って、あれー?」

「どうかしましたか?」


 いつの間にか登校中? 家を出た記憶が無いぞ?

 考えすぎて物事に目が行かなくなったのか。赤松さんと2人並んで登校してるじゃありませんか。何にせよ、タイミングは今しかない。


「赤松さん」

「沙夜です」

「あか…」

「さ・よ・で・す」

「さよ…、ちゃん…」

「なんですか?」

「あんな約束守る必要ないんだよ?」

「え?」

「別にあんな約束守って彼女やらなくてもいいよ」

「ふーん、そうですか」

「うん。だから…」

「じゃあ、約束なんてどうでもいいです」

「じゃあこれで…」

「約束とか関係なく、春樹さん、私とお付き合いしてください」

「えー」


 どゆこと?

 ねえ、神様?

 そういうのって僕の薄っぺらいプライド的に是非自分から言いたい台詞なんですけど。


「正式な私の告白として受け取ってください。とりあえず、お返事を頂くまでは友達以上恋人未満の微妙な距離で付き合わせてもらいますね」

「は、はぁ…」

「じゃあ行きましょう!」

「は、はい…」


 ん…?

 あれ?

 なんというか、これって、状況的に何も変わっちゃいないんじゃ…。むしろ、真剣に相手の気持ちを考えて行動しなくちゃいけなくなった分、以前より状況が悪化したと、そう捉えられるんですが…。











 んで、学校に着いたんだけど、教室で何故か怖い顔をしていた冴草が僕を待ち構えていた。


「ちょっとタイソン、屋上に来なさい」

「は?」

「いいから屋上に来なさい!」

「な、何?」

「いいから早く!」

「ひ、ひぃっ?!」


 物凄い剣幕だ。全然断れる雰囲気じゃない。断った瞬間蹴られて80日かけて世界を一周してしまいそうだ。


「というわけでさよぽん、タイソン借りるわね」

「トコちゃん…?」


 あ、因みにトコちゃんてのは冴草のあだ名らしい。僕が呼んだら蹴り飛ばされたんだけどね。




 そんでもって、半分引き摺られるようにして僕は屋上にやって来た。


「な、何をしようっていうんだよ」

「決闘」

「前にやったじゃないか! 僕の敗けだ。それが何か気にくわないの?」

「ええ、気に食わないわ。私は不意討ちで勝っただけですもの」

「不意討ちでも勝ちは勝ちだろ? 僕はもう蹴られるのは御免だよ」

「そんなこと言ってられるのも今のうち、よ!」

「ちょっ!?」


 素早い蹴りが僕の前髪を掠めた。


「次、当てるから」

「待て! 僕の話を聞け! 五分だけでもいい!」

「HRまでに済ますんだから時間はないのよ!」

「そんな勝手な都合!」

「勝手で結構!」


 右側頭部への蹴り。不味い。避けきれない! 当たるしか…、でもあの蹴りは下手したら首が飛ぶ、というのは大袈裟でも少なくとも首が折れる。てかどっちにしろ死ぬ!


 ―パァンッ!


 耳元で聞こえた乾いた音。これが女の子の蹴りの音ですか…。


「あ、あぶねー!」

「ようやく正体を現したわね、タイソン」

「正体?」

「私の蹴りを受け止めたわ」

「女の子の蹴りくらい受け止められるよ」

「そうかしら。私は本気で蹴ったのよ? それこそ殺すくらいのつもりで」


 なにそれこわい。

 いや、洒落になってないっすよ!


「受け止められる程度ってことで…」

「それじゃあ少し退いてくれる?」

「う、うん」


 冴草は僕の横を通り過ぎ、屋上から下る階段のある場所まで行くと、足を振り上げ、思いっきりコンクリの壁に叩きつけた。ボコンかベコンか、聞いたこと無いような音が空にこだました。壁はベコリと凹み、多くの亀裂を走らせながら、辛うじて壁としての機能を残しす。


「うそん…」

「今のは本気じゃないわ」

「まじっすか」

「あなたはそれを受け止めたのよ。その手で」

「えっと、つまり…?」

「あなたの異常握力。それが噂の悪の軍団を解散させた力、でしょ?」

「冴草のそれは…」

「異常脚力」

「ど、どうりで…」

「だから、私を受け止められるのはタイソン、あなたしか居ないのよ」


 まぁ、確かに。コンクリを砕く蹴りなんて誰が受け止められるというのか。


「だから…、その…」


 突然端切れの悪くなる冴草。どこかで見たような光景が…。


「な、なにさ?」

「えっと…」


 そうそう、そうやって大人しくしてさえいれば可愛いんだよな冴草は。


「だからつまり、わ、私と…」


 デジャブ? どこだっけ、確か今と似たような状況に遭遇した記憶が…。


「わ、私と付き合いなさい!」

「どこに?」

「…ば、馬鹿! 何言ってんのよ! こういう場面で言うことってひとつに決まってるでしょ?!」

「殺されそうになったあとで…?」


 あの世に付き合えって?

 冗談じゃないっすよ。


「このニブチン!! 好きだから付き合えって意味よ!!」

「あー、なるほど」


 そうだ。冴草との出会いも確かこんな感じで…。











 ん…?











「…でえええええうぇええええ!?」

「何よそのリアクション」

「どういう経緯で?! 何があって?! どうしてこうなった?!」

「そ、そもそも、前に呼び出したときに言うつもりだったのよ! …でも、やっぱり緊張してワケわからないこと口走って蹴飛ばしちゃって…」


 混乱するのは俺だ! こんな状況想定してないっての。まさに想定の範囲外だっての。


「返答はまたでいいから」

「ちょっと!」


 冴草は僕の声を無視して階段を駆け降りていった。

 取り残された僕はというと、冴草と赤松さんの突然の告白に板挟みにされて、ただただ狼狽えるしかなかった。


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