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学園変獄  作者: 浮魚塩
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第5話

「あいつです。あいつがうちの弟を…」


 町のゲームセンター。そこから出てきたいかにも不良というかヤンキーな男。あいつが赤松さんの弟を恐喝し、金を取るだけ取って暴行を加えたそうな。


「正直、警察に行った方がいいと思うんだけど…」

「それじゃあ腹の虫が収まらないんです!」

「例の作戦なら最悪の事態にはならないはずだ。タイソン、沙夜ちゃんのためだ! 頑張れ!」

「さよぽんのためよ!」


 ため息一つどころかマシンガンのように連射できそうだ。


「作戦どおりに頼んだぜ」

「はいはい」


 僕はとぼとぼ歩き出す。

 どうもあの男は自分より弱そうな相手を探しては金をせびっているとか。弱そうって言っても、実際どこで判断するのだろう?

 冴草の例もあるから見た目だけで判断すると痛い目見るのに。

 まぁ、早く終わらせてしまおう。

 とか思ってる側からなんか始めたぞ?

 高校生くらいの男の子が歩いている。つうか、うちの生徒じゃん。それにあのヤンキーさんがぶつかって…。


「どこに目をつけてんだ…?」

「す、すみません!」


 どう見ても自分からぶつかったように見えたけど。よくある手だよね。この後は大抵。


「慰謝料、払えよ」


 ですよねー。


「あ、いや、その…」


 そこで渋ると相手は付け上がるんだ。


「払えってんだよ!」

「す、すみません!」


 回りの人は見て見ぬフリ。まぁ、当然か。人は暴力に弱いからな。

 ああしかし、このままじゃ彼が払ってしまう。

 後ろを見ると物陰に隠れた三人がイケイケとジェスチャーしている。

 冴草、お前なら勝てるんじゃないか?


「行け!」


 はいはい、わかりましたよ。行けばいいんでしょ、行けば。そんな怖い顔しなくたってわかりますよ。作戦とは内容が変わってしまったけど、応用ができない訳じゃない。

 僕はゴタゴタの場所へ歩いていく。そこまで行くと立ち止まった。

 ヤンキーさんと目が合う。


「ああ? てめぇ、何見てやがる。なんか文句あんのか?」

「た、たすけて…」

「おお? よく見りゃテメェら同じ学校か。じゃあテメェも慰謝料払ってもらおうか。連帯責任てやつだよ。へっへっ」


 なんというありきたりな展開。こんな場面に居合わせるなんて一生に一度有るか無いかだろ。すごく珍しい経験をしてるのに、浮かない気分なのは全部あのヤンキーさんのせいなんだろう。


「なんとか言ったらどうだ?」

「払うよ」

「へへ、それでいいんだよ」


 さっき、人は暴力に弱いなんて言ったけど、全てにおいてそうというわけじゃない。対抗しうる力があるのなら、暴力に屈服することはないのだ。

 勿論僕は金を払うつもりなんて毛頭無い。

 けれど、払うと言った以上、渡さなければ相手が納得しないだろう。

 ポケットに入れてあった財布からありったけの紙幣を取り出す。


「結構持ってんじゃねぇか!」


 それを手渡しでヤンキーさんに渡す。


「ん?」


 と見せかけて紙幣と一緒にヤンキーの手を握った。


「おい、別に握手しろとは言ってねぇぞ?」

「………」

「…いっ! イデデデ! て、てめ、離っ!」

「お金、いらないの?」

「金はほし、いだだっ! い、いらね、から、離せ!」

「もうこんなことしない?」

「しないしない!」

「わかった。じゃあ指一本で許してあげる」

「―――――!!!!」


 声にならない悲鳴をあげたヤンキーさん。手のひらに、しっかりと砕ける感触が伝わってきました。

 握っていた手を離すとヤンキーは金も持たずに逃げ出した。

 これでまぁ、しばらくは握手恐怖症くらいにはなるかな。

 落ち着いたところで金を拾う。これがないと生活が大変なんだよね。


「あ、ありがとうございます」


 お金を拾い集めていると、絡まれていた男子生徒がお礼を言ってくれた。


「いや、同じ学校だし、あんな奴も嫌いだしね」

「ほんとうにありがとうございました!」

「おーい、タイソン!」


 良介達が駆け寄ってくる。


「タイ、ソン…?」

「流石だぜ!」

「今、タイソンって…」


 男子生徒が僕を指差してわなわなと震えていた。


「タイソンって、あのうちの学校の最恐の…、ひっ、ひぃっ!!」

「あ、おいっ!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃっ!!」


 男子生徒は逃げ出した。


「なぁ、良介。タイソンの噂ってどんな伝わり方してるんだ?」


 これまで全く気にしてこなかったけど、さすがにあの生徒の様子は尋常ではない。


「その昔、我が黒柳高校には加藤真澄率いる悪の軍団が…」

「え、何? その仰々しい語り」

「まぁ黙って聞けよ。兎に角、その悪の軍団が学校を支配していた。しかし、昨年の入学式、地区最強とまで謳われたその軍団がまさかの解散をする。そこにはとある男の姿。彼はその軍団を千切っては投げ千切っては投げ、残虐非道な手法を用い、その軍団を解散させた挙げ句、彼らを配下に従え新たな軍団を作り上げた、と」

「はいストップ! なんだその不良漫画的なストーリーは!?」

「でもこれがタイソンの噂だぜ?」

「私もそう聞いたわよ?」

「黒柳高校の有名な伝説ですよね」


 なんというねじ曲がり方をしているんだ。事実が全然おかしな方向へ行ってしまっているじゃないか。

 …まぁ、粗筋としては大体合ってるんだけど。


「とりあえずこう言いたい。それは誤解であると!」

「誤解も何も、さっきああやってヤンキー撃退したことだし益々信憑性が増したわ」

「あ、でも誤解は一つありました。噂だととても怖い人のように言われてましたけど、そんなことなかったんですね」

「大きな誤解はこの際置いておくとしても、少しでも判ってくれたなら嬉しいよ、赤松さん!」


 本当に嬉しい。


「やだっ! そんな他人行儀で。沙夜でいいですよ。私、あなたのものになります」

「えー…」

「ちょっ、さよぽん! あの約束マジなの?」

「女に二言はありません! それに、タイソ…、いえ。春樹さんとなら一生を添い遂げてもいいです」

「おー! タイソンに嫁ができたぜ!」

「さ、さよぽん…」


 どうしてこうなった…。

どうしてこうなった…。


いや、ノープランから始めたものなので当然の結果なのですが。やってしまったからには最後まで責任持たないとね。

それに、今話でなんとなく方針が決まったのでよかったよかった。


…え、遅い?

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