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学園変獄  作者: 浮魚塩
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第4話

先がまるで見えない

「はぁ…」

「春樹、ため息したら幸せが逃げ出すんだぞ」

「もう僕に幸せはありません」

「タイソンのやつ相当重症だぜ?」


 なんとでも言うがいい。誰も僕の気持ちなんて分かりゃしないのさ。

 チラリと冴草の方を見る。

 向こうも此方を見ていた。何か企んでいるような顔でニヤリと笑っている。被害妄想かもしれないが…。もう、あいつが悪魔にしか見えない。いや、死神か。


―ガラガラ…


 机に突っ伏していると教室のドアが開いて先生が入ってきた。


「えー、今年一年君達の担任をすることになった竜崎晶りゅうざき あきらです。よろしく。中には去年担当した子もいるからあんまり緊張せずにできそうです」


 へぇ、女の先生か。

 綺麗というか可愛いというか、あからさまに女の子女の子してるな。あんなんでも先生になれるんだな。


「…えー、勘違いしている生徒も居るようなので、言っておきますが、先生は男です」


 うそん!?


「可愛いよアキちゃん!」

「可愛いとか言うな!! 廊下に立ってろ!」


 うん、可愛い。


「でもその服装で説得力無いですよ?」

「う、うるさい! これは、職員室で無理矢理着させられたんだ! と、とにかくまずは自己紹介だ! 廊下側の列から順番に言って。あと、好きなものを一つ教えてください」


 席順は最初なので五十音順になっている。


「赤松沙夜です。よろしくお願いします。好きなものは、そうですね。最近は紅生姜パンです」


 だから僕の順番はわりと早めにやって来る。


「大村春樹です。よろしくお願いします」

「タイソンって読むんじゃねぇの?」


 誰かが言う。


「まぁ、僕はどっちでもいいけど。ちなみに好きなものは鯖の味噌煮」


 あだ名だけ一人歩きっていうのも面倒くさい。否定する気にもならなかった。

 さて、僕の後に一人置いて、次は陽太だ。


「片山陽太です。よろしく。好きなものは、お菓子全般。自分でも作ります」


 陽太のお菓子好きはハンパない。この間遊びに行ったとき、ケーキ2ホールをペロリと食べていた。成人病が心配される。


 さて、それからしばらくすると例のあいつの自己紹介となった。


「冴草兎卯子。好きなものは新聞」


 新聞?

 意外というか、まるで想像してなかったな。まぁ、外見は優等生だから初見での印象としては間違っていないのかもしれない。


 そしてつつがなく自己紹介は進み、良介の番がやってくる。


「谷田良介。好きなものは遅刻」


 なんか変だが、とりあえず気にしない。良介は遅刻魔として有名だ。酷いときは午後からやってくるという重役出勤ぶりに、先生たちも匙を投げたという。

 でもわざわざ好きなものとして挙げるのもどうだろう。


「ありがとう。始業式もやりましたし、取り合えず今日はこんなものです。お疲れさまでした」


 初日なんてこんなものだ。

 午後からは自由だけど、さてどうしよう。


「というわけでタイソン、ゲーセン行こうぜ!」

「唐突にどういうわけか分からんけど賛成」

「陽太も行くだろ?」

「ごめん。今日は用事があるんだよ。悪いけどまたにしてくれない?」

「そうか。じゃあ仕方ねぇな。行こうぜタイソン!」

「ああ」


 鞄をもって立ち上がる。


「ちょっと待ってください」


 と、一人の女子が話しかけてきた。

 僕と良介は顔を見合わせる。


「えっと、確か…」

赤松沙夜あかまつ さよです」


 そうそう。一番最初に自己紹介した子だ。

 首くらいで切り揃えられた髪の毛で、前髪を上げておでこの広い子。ほんわかしたイメージの女の子だ。


「赤松さん。どうかした?」


 と良介。


「ちょっとタイソンさんにお話が…」


 自己紹介したのに、しかも初対面なのにタイソンだなんて、どんだけ浸透してんだよ…。自然とため息が漏れる。


「は、はい、何ですか?」

「実は…、その、あの…」

「?」


 何かとても言いにくそうだけど、何を言うつもりなんだ?


「さよぽんどうしたの? そいつらに苛められてんの?」


 苛めているとは人聞きの悪い。


「苛めてるのはお前じゃないか冴草。主にタイソンをだがな」


 良介…、やっぱり君は僕の味方なんだね! 嬉しくて涙がちょちょぎれる!


「人聞きの悪いこと言わないで。タイソンが勝手に苛められてるのよ」


 僕はマゾかよ!


「なるほど」

「納得するなよ!」

「あの、タイソンさん…」

「うおっ!」


 忘れてた。赤松さんの存在が一瞬消えてたぞ。


「つまり言いたいことはですね…」

「さよぽん。帰りにケーキ食べようよ」

「あっ! 行きましょう!」

「って、おーい! 話が途中だよ?!」

「あ、すみません。それで私が言いたいのはあれです。その…」


 もじもじとしながら赤松さんは言った。


「ぶっ殺してほしい奴がいるんです!」










「…………………………………」










「は?」

「ですから、ぶっ殺してほしい奴がいるんです!」

「ちょちょちょちょちょっと待ったあ!!」


 可愛い顔して何言い出すのこの子は! そういうのはどこかにプロフェッショナルがいるでしょ? 某十三とか!


「聞きました。タイソンさんの伝説。タイソンさんならきっとあいつをぶっ殺してくれるって…」

「穏やかでない空気だなタイソン」

「いや、殺すとかそういう物騒なのは避けてほしいなぁ…、なんて」

「勿論、本気で言ってる訳じゃありません。ただ、それくらいの意気込みがあるというだけで…」


 そうか、それなら安心した。


「だが断る!」

「ええっ!?」

「だって僕に全然利益が無いじゃないか」

「そ、それは…、確かに…」

「タイソン! さよぽんの頼みが聞けないって言うの? 蹴っ飛ばすわよ?」


 ぐ…、だがここで折れるわけにはいかない。


「蹴られてもダメ」

「おお、タイソンが冴草に対抗してる!」

「わ、わかりました…」


 赤松さんもようやくわかってくれたみたいだな。


「それはよか―」

「私タイソンさんの彼女になりますからお願いします!」

「えー」

「ちょっと! さ、さよぽん何言ってるの?! こんなのの彼女になるって?」

「き、決めたんです! 駄目ですか?」


 と、涙目での懇願攻撃。


「や、ちょ…」

 泣くならやめればいいのに。

 ま、まぁ、赤松さんは目立たない感じだけど、見た目も可愛いし、なんか守ってあげたくなるような感じだし、従順そうなところも…。

 って、ちがうちがう。


「これで断られたら私もうお嫁に行けません!」


 お嫁とかそういう話じゃないと思うんだけど。


「タイソン、女の子にこれだけ言わせたんだ。お前の負けだよ」

「う…」

「そうよ! これ以上さよぽん泣かせたら隣街まで蹴り転がしてやるから!」


 流石にそれは…。


「どうなのっ?!」

「タイソン!」

「タイソンさん!」


 三人に囲まれた。

 逃げ道がない。


「わ、わかったよ…」

「ありがとうございます!」

「はぁ…」


 なんでこんなこと…。

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