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学園変獄  作者: 浮魚塩
11/13

第11話

 僕らは集合場所に戻ってきた。

 もちろん僕は赤松さんを抱えた状態。お姫さまだっこの状態でだ。

 少し距離を歩いての登場のため、周囲の好奇の目が恥ずかしかったのは言うまでもない。

 赤松さんも、僕の腕の中で顔を伏せながら赤くなっていた。

 彼女の提案だったのだけど、当人が恥ずかしがってちゃ話しになんないんですけど。

 ちなみに、お姫さまだっこをしている理由は、赤松さんが捻挫をしたから、ということにしておいた。

 冴草をからかうためとは口が裂けても言えない。


「赤松さん、どうしたの?」

「つぅか、タイソンなにやってんだよ」

「ちょっと、足を挫いてしまいまして…」

「というわけで僕がここまで運んできたんだ」

「赤松さん、だい………」

「………ふぅん」


 最後に冴草。

 うん。凄く怖いね。

 だけど、仕方ないというところもあるみたいで、表情が微妙。


「で、なんでお姫さまだっこなわけ?」


 冴草の鋭い突っ込み。

 わざわざだっこしなくても、おんぶでいいはずだもの。当然の疑問だよね。


「………」


 答えられるわけがない。冴草をからかうためだなんて。


「春樹さん、私はもう大丈夫ですから、降ろしてください」


 きっと冴草の威圧感に耐えられなくなったのだろう。

 僕は赤松さんをゆっくり降ろす。あくまで捻挫ということにしていることを忘れてはいけない。


「ゴホン…。おかしなハプニングもあったようだが、今一度チーム分けをする」


 もはや恒例となったチーム分け。皆が竹串を引く。










 で、いや、予想できた展開だけど、さっきのフリからだと気まずすぎる状況でして。


「タイソン、行くわよ!」


 行くってどこですか?

 地獄ですか? ごーとぅーへぇぇるうぅぅぅ! でぇすか?

 やべ、また思考で噛んだ。


「地獄は遠慮したい…」

「地獄? ああ、地底探検のライドがあったわね。あれ怖かったの? 面白いと思ったけど。あ、タイソンって閉所恐怖症とか?」


 そういう意味じゃない。

 かといって本音を漏らしても蹴り飛ばされるだけなのでやめておこう。


「で、冴草は何か乗りたいアトラクションあるのか?」


 冴草がキョトンとした顔で僕を見る。


「な、なに? なんか顔についてる?」

「う、ううん。そ、そうだったわ。遊園地だから乗り物に乗らないとね」


 どうも様子がおかしい。

 いつもの高圧さがないと言うか、滑らかでないと言うか。妙に歩き方がぎこちない。

 ん…、そういえば男と女と歩く早さが違うって言うしな。早く歩きすぎかな…。

 でも、月子ちゃんも赤松さんも特に何も…。

 …いや、あれはどちらかと言えば僕が引きずり回されてた感じだったな…。ちょっと情けない。


「冴草、疲れてるか?」

「え? なんで?」

「いや、お前遊園地初めてだし、体力考えないでバカみたいに走り回ってたんじゃない―――」


 やべ、バカとか失言だったか。

 瞬時に身構える。

 条件反射の回路が繋がってしまったのが哀しい。


「だ、だだいじょうぶよ! そん、な心配、無用よ!」


 口は不機嫌そうだが、蹴りはとんでこない。

 それにしても、やっぱり冴草は何かおかしい。

 調子が違うと言うか、勝手が違うと言うか。所詮この世は弱肉強食! という問答無用感が全く無い。

 これどうしたことか。


「冴草さっきから変じゃないか?」

「へ、変? 私の何が変だって言うのよ!」


 体を捻る動き。




 ………来る!




 と、思ったけど片足をあげて構えた状態で冴草の動きが止まった。


「…スカートだし、人目があるし…」


 うん、スカートは学校でも同じだね。他の生徒の目もあるよね。ここと同じはずなのになんで学校では蹴れるのよ。

 助かったけど。


「と、とにかく行くわよ!」


 いったいどこへ行こうと言うのだ君は。


「ほらあれ!」

「観覧車?」

「あれに乗って園内見渡して目ぼしい乗り物見つけるのよ」

「あー、なるほど」






 観覧車というのはどうしてこうもでかいものなのか。

 『観覧』というくらいだから、まぁよく見えるようにというところだろうけど、『車』ってなんなんだろう。車輪とか、わっかとか、車みたいにはしるわけでもないのに、観覧輪とかにしたらいいのに。でもそれだとやっぱり変か。


「というわけで、観覧車までやってきたわけだが…」

「なに言ってんのよ?」

「心のナレーションだ」

「ふーん。じゃあ、『だが…』の後は何が続くのよ」

「それはこれから起こること次第」

「あんたも暇ね…」


 なんとでも言え。


 で、観覧車に乗ったわけだが。

 今回音声はありません。


「高いわねぇ。なんでこんなに高いのかしら」


 椅子の上に乗っかって、冴草は外を見ている。まるで初めて電車に乗った子供が流れる景色に目を奪われるように。

 要するにマナー違反な訳だけど。ここは個室だし咎める意味もない。


「これだけデカかったら高くなるんじゃないの」

「それもそうね」

「それで、目ぼしいアトラクションは見つかった?」

「うーん、微妙。心惹かれるのは大方乗っちゃったし」


 相変わらず冴草は外を見たまま。

 しかし、なんという微妙なアングル。

 膝をついて椅子に乗っかっている冴草だが、本人も言っていたように今日はスカート。決して短いというわけではないが、微妙に見える後ろのふとももが気になって仕方がない。

 足フェチは陽太の専売特許なんだけど…。

 感染うつったか…。


「ねぇ、タイソン」

「な、ななななに?」


 一瞬視線がばれたかと思ったが、冴草は外を見たままだ。


「なにそんなキョドってんのよ」

「べ、別に」


 冴草がこちらを向いた。


「なんか変なこと考えてた?」

「な、にも?」

「個室だからって変なことしたら蹴り出すから」


 蹴り出すということは、外に蹴り落とすという意味だろう。

 そろそろ頂上に到達する位置なので、超人か、ラッキーマンか、九死に一生スペシャルとか、衝撃映像100連発とかの番組に出れる人じゃないと死ぬ。


「し、しないって」


 命は惜しい。


「そう」


 なぜか残念そうに冴草は呟いた。

 えーっと? 個人的な妄想分を多量に含んでいいのだとしたら。あれなのか? 変なことをシテほしいと? 据え膳喰わぬはなんたらってあれですか?

 でもまて。僕らの年齢的にRとかZとかの指定はあまりよろしくないわけで。「あんああん」的な展開はいけないし、かといって「オニチク(なぜか変換できない)」なのもよろしくないわけで。

 せいぜいABCで言うところのAでストップミー! モラトリアムな純情チックな程度ですよね?


「訊きたいんだけど」

「にゃ…、なんれすか?」


 言い直したのに舌が回ってねぇ!


「さよぽんと何かあった?」

「え? なんで?」

「なんか、帰ってきたとき、仲、よさそうだったし…。その…、だっこ…、とか…」


 様子が変だったのはその事を気にしてたからか。

 赤松さん。貴女の目論みはものの見事にクリティカルヒットで大成功みたいです。


「なにもないって」

「そ、そう…。それならいいけど…」


 いいのか。


「ねぇ、タイソン」

「なに?」


 だいぶ落ち着いてきたな、僕。


「キスしよっか」











 …は?











「な、なに言って…」


 冴草がこちらに近づいてくる。


「真面目に言ってんのよ?」

「や、ちょっ!」

「こんなに可愛い娘とキスするのは嫌?」


 ぐっ、まさかこいつ自分の容姿が僕好みだと気付いていたのか?!


「そ、そんなこと、な…い…」


 まてまてまてまて!

 近い近い近い近い!

 呼吸が当たる。

 シャンプーのいいにおいがする。

 後ろには逃げられない。

 かといって横に避けるほどのスペースもない。

 いかん!

 嬉しいけどなんかダメだ!

 つうか、昼にハンバーガー食べたよ!

 あんたも食べたよね!

 ちゅうなんかしたらケチャップとかマスタードとかの味がしそうだよ。

 ファーストキスはレモン味とか夢想的幻想的ロマンティックな都市伝説がブレイクアウトしちゃうよ!


「………」

「………」


 まずい!

 このままじゃホントに…。

 これまでに無い大接近!

 あ、愚息め…!





―ゴウン…!






「イタッ!」

「…鈍痛ぅっ!」


 変な衝撃が僕らを襲い、唇じゃなくて頭がぶつかった。


「な、なんだ?」


 いいところだったのに。


「止まってる」


 冴草が呟いた。

 すぐに放送が入ってきた。


『トラブルのため五分少々停止致します。ご乗車のお客様には大変申し訳ありませんが、しばらくお待ちください』


 僕と冴草は顔を見合わせた。


「故障か」

「…みたいね」


 なんか、変な空気も何処へやら。すっかり冷めてしまった感じで。


「つうか、変なことしたら蹴り出すって言ったくせに、そっちから仕掛けてくるとは予想外だった」

「…『タイソンが』したらよ。私はいいの」


 なんという屁理屈。

 そういうのはされたくないからする牽制だろ、常識的に考えて。


「とりあえず、今のは忘れて。あんな恥ずかしいの嫌」

「一方的だな…」

「いいから忘れなさいよ! 蹴飛ばすわよ!」


 忘れられるわけがないだろ!

 思いっきり好みの女の子と接吻(と書くとなんかイヤラシイ)しかけたんだぞ!


「しっかり根深く記憶に刻まれてしまったよ!」

「ならー、頭を何回か蹴ればいいのかしらねー」


 冴草の蹴りなんか何発も食らったらすぐに死んでしまいます。やめてください。コンクリの壁を砕く蹴りでしょうに。


「わ、分かった! 忘れるから! もう刻み込まれた記憶の上にベニヤ板なりコンクリなり塗りたくって左官して、綺麗さっぱり抹消するから!」

「そ、そこまでしろとは言ってないでしょ! す、少しくらい、憶えてなさいよ」

「どっちなんだよ!」

「も、もういいわ! 一回蹴れば少しだけ消えるでしょ!」


 冴草の靴の裏が再び僕の顔面を踏んだ。

 ええ、もちろん最後に見たのは決まってます。

 あ、今日もあなたは白―。

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