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黒髪賢者の恩返し  作者: しんのすけ
第1章 新しい家族
8/70

第7話



 ……シフォンケーキを作ってから、なんだかんだで3時のお茶も一緒にしたので、今度は少し運動したいけど熱くて動きたくない……

 ああ……こういう時はプールに入りたい……

 薄手のワンピースを着ているが、暑いものは暑い……今年一番の夏日だよ……

 何か涼を取れるような……何かは……ないかな?

 部屋を見回しても特に何もない。

 ……エアコン欲しい。

 ……とりあえず風魔法を自分に向けて使う……扇風機並みには涼しい……

 これが最善の方法かなぁ?……シフォンケーキとお茶でお腹は一杯だから……ああ……でもアイス食べたい……ミルクのシンプルなヤツが食べたい……

 汗が止まらないよ……暑い………………

  

「……暑いぃ………………もうイヤっ!」


 私は裸足になって部屋を出る。

 普通は怒られるけど、怒る人は今はいない。

 玄関扉を開けて外に出ると、外はもっと暑い……昨日に比べて10度以上は暑い……この世界も異常気象とかあるのかな?

 まぁ、今それはどうでもいい。

 庭の芝生の上で、水の生活魔法を真上に出す。

 魔力制御は普通にする。

 すると以前のように無数の水の玉が真上に出現していく。

 水の玉が出来た事により、周りの空気の温度が下がったみたいで、これだけでも気持ちいい。


「はぁあぁぁ……涼しい……これよねぇ……」


 夏、水で遊ぶのは子供の特権だしね。

 私は魔力制御を解いて真上の水の玉を自分に降らせる。


「あはぁっ!気持ちいい〜っ!冷たいっ!!」


 一瞬で全身がずぶ濡れになる。

 水の玉は結構冷えているように感じた……これ最高っ!

 玄関前は水浸しになったけど、そのせいで周りの温度が下がったようになる。

 もっと周りを水浸しにすれば、もっと涼しくなるだろう。

 少し離れた場所で同じ様に水の玉を出現させて真上で水を被る。


「ああっ……魔法最高ですっ!」


 それを何度か繰り返していると、私は少し……いや、かなりマズイ状況だと気付いた。

 玄関でレーアがこっちを見ていたのだ……表情が……怖い……ああマズイ……

 レーアは無言でこっちに来てと、手招きをしている。

 ここは素直にレーアのところへ歩いていく。


「お嬢様、一体何をしているのですか?レーアに説明してください」


 マズイ……これはマズイ……貴族令嬢としてたぶん……いや、間違いなく失格な行為だ。

  

「あ、暑くて……頭がボーっとしてきたので、水の生活魔法で遊んでいました……」

「……そのようですね、涼しかったですか?」

「は、はぃ……」

「全身ずぶ濡れになれば、それは涼しいでしょうね?」


 ううっ……こうなったレーアはネチネチくるので面倒くさいのだ。

 もう一刀両断してくれた方がまだいい……


「庭も水浸しですね……」

「これだけ暑ければ……すぐ乾きますよ?」

「お嬢様、裸足なのは貴族令嬢として0点です……品位のかけらもありません、私は奥様にシィナお嬢様を任されているのですよっ」

「申し訳ありません……」


 ……レーアのお小言は約10分くらい続いていった……もう髪も服も乾いてしまった程だ。

 玄関先で怒られているので扉の奥では使用人さんたちが何事かとこっちをみて晒し者になる……もう止めて欲しい……

 反省したから……勘弁してください。


 そこに一頭の救世主が現れた。

 お馬さんに乗った誰かが私の後ろに来たのだ。

 助かったよ誰かさん……


「ああ、レーアっ!旦那様か奥様はいるか?緊急だっ!シィナお嬢様、馬上より失礼しますっ」


 名前は知らないけど家の使用人さんだ、なんだろう緊急って?


「シィナお嬢様以外は夕方まで戻りません、どうしたんですか?」

「誰も居ないのかっ!?オレはダリル様とシュアレお嬢様の護衛だっ!2人の乗った馬車の馬が2頭とも泡を吹いて倒れたっ!」


 アレ?それってまずくない?


「この暑さでやられたんだろう、済まないが俺に水をくれ馬にも水を……もう魔力がないんだ……」

「私が水を出します飲んでくださいっ」

「シィナお嬢様お待ち下さい、いま……」

「レーアは他に誰か対応出来そうな人を呼んできてくださいっ!」

「っ!かしこまりましたっ!」


 私は焦らずに水を出す。

 まずはこの男性へ……


「シィナお嬢様?あ、ありがとうございますっ!」


 男性は水の玉を食べるように飲み込んだ。

 とりあえずこれで乾きは癒える。

 

「あなたにも水を出しますね……」


 お馬さんには水の玉ではなく、流れる水のようにジャバジャバと少し多めに出してあげると、お馬さんも美味しそうに水を飲んでくれた。

 これでしばらくは大丈夫だろう。

 後ろから何人かの足音がする。


「お嬢様っ何人か連れて参りましたっ」


 男性3人を連れてきてくれた、お父様の側近さんだ。

 

「とりあえずどうすればいいかを教えてくれる?詳しい状況を教えてください」

「えっと、まず水が……ダリル様もシュアレ様も魔力が底をついてしまったようで……」

「どれくらい離れているのですか?」

「馬で半日くらいのところです、実は魔物が現れて……」

「魔物って……2人は無事ですか!?」

「大丈夫です、落ち着いてくださいお嬢様、魔物はダリル様とシュアレ様が退治してくれましたっ……魔力をそれで使ってしまって……今は魔物避けを使っているので大丈夫な筈です」 

「屋敷にお馬さんは何頭いるのですか!?」

「……今日は旦那様たちが使っているので……2頭は残っていますっ!」

「ではまずその2頭を連れてきて頂戴っ」

「ただいま連れてきますっ!」


 2人の側近さんが馬小屋へ走っていく……


「貴方名前は?」

「エントと言いますお嬢様」

「ではエントさん、貴方はまだ動けますか?」

「はい、オレは大丈夫ですっ……ですがこの馬はもう限界でしょう」

「分かりました、誰かこの馬を休ませてあげて」

「かしこまりましたっ!」

「馬車に食料はありますか?足りないのは水だけ?」

「…………はい、食料はまだ残っていた筈です、水がないんです」

「途中に川はないの?」

「丁度川から離れた場所でして、どうしようもありません」

「……レーア、私が行きますね」

「な、なにを言っているのですか!?シィナお嬢様が向かったところで…………ああ、そう言うことですか……ですが……」

「私は水が大量に出せます、バケツがあればお馬さんに水を与えられますから」

「旦那様と奥様になんと報告すれば……シィナお嬢様、せめて靴だけでもお履きくださいっ」

「……ああ……忘れていました……」


 レーアは私の部屋へ大急ぎで駆けていく。

 その間にお馬さんの準備が済んで、側近のエミールさんとエントさんの準備も出来た。


「私はお馬さんに乗ったことありませんが、宜しくお願いします……」 

「このエミール、シィナお嬢様を安全にお運び致しますっ!」

「エント、道案内お願いしますね」

「ハッ!お任せくださいっ」

「シィナお嬢様っ、靴を……今履かせますっ!」

「行ってきますレーア」

「どうかご無事でっ!」


 そうしてこの暑い日に私は初めて馬の乗り心地を初体験したのだった。



 リンドブルグ家を出発して約1時間……最初は緊張感があったけど……

 初めて見る外の景色にも飽きてきた……うん、暇っ!!

 まだ数時間も掛かるの?

 走っている最中は舌を噛むから危ないと言われたので会話も出来ない……

 暇だ。

 だけど、ようやく馬に休憩させるようだ、暑いからね……


「お嬢様、馬に水をお願いしますっ」

「は〜いっ」


 2つのバケツにジャバジャバ水を入れてお馬さんに飲ませる。

 ついでに私にも水の玉を出してチュウチュウと飲んで渇きを癒やす……

 冷たくて美味しい……最高です……


「あ、お嬢様オレにもくださいっ」

「……私にもいいでしょうか?」

「は〜い、遠慮しないで、喉が乾いたら言ってね」


 2つの水の玉を出して、エントとエミールに飲ませてあげる。


「……っはぁあっ、美味いですねっ、自分の水はこんなに美味しくありませんよ?」

「確かにシィナお嬢様の水は美味いです、冷たいし……生きかえりますよ」


 1時間ぶりに会話ができた……

 今は街道の日陰で休憩中だ。


「こんなに暑い日は初めてです……」

「この10年で一番の暑さですね……」

「ああ、そうだな、今日は異常に暑い……」

「お馬さんはどれくらい休ませるのですか?」

「……そろそろ出発しても大丈夫です、全速力ではありませんからね」

「そうですね、この馬たちは若くて体力もありますから」

「ではまた宜しくお願いしますっ」

「「はいっ!」」


 バケツを回収して、また進み出す……

 待っていてください、ダリル兄様、シュアレ姉様!!



 それから馬の休憩と自分たちの水分補給を3回したところで、徐々に暗くなってくる。

 暑さは少しだけ落ち着いたけど、まだ暑い……早く着かないと危険な気がしてきた…………そんな事を考えていたら、前方を走るエントさんがこちらに話しかけてきた。


「もうすぐ着きますっ!」

「分かったっ!薄暗くなってきたから気を付けろっ!」

「はいっ!!」


 少しだけお馬さんのスピードが緩んで、左右には森が出てきた。

 確かにこんな所に川はないだろう。

 森のせいで更に薄暗くなった……少し怖い……

 道は真っすぐ伸びている……奥は暗くてよく見えない……

 だけど……あれだっ!馬車の形が見えてくる。


「ダリル様!シュアレお嬢様っ!ご無事ですか!!」


 エントさんが馬を急いで降りて確認していく。


「エミールさん、私たちもっ!」

「はいっ!お嬢様!」


 私も、エミールさんに降ろしてもらう。

 凄く心臓がドキドキしている……どうして馬車から返事が無いの? 


「シィナお嬢様、水をっ!お早くっ!」

 

 馬車の中からエントさんが叫んでいる……早く行かなくちゃっ!

 私も馬車に乗り込むと、4人がぐったりとしていた。

 でもちゃんと生きている。

 私は焦らずに魔力制御をして大きな水の玉を出現させる。


「エントさん、この水を飲ませてあげてっ!」

「はいっ!ダリル様っ!!」

「エミールさんもお願いしますっ!」

「シュアレお嬢様っ!!」


 私は2つ水の玉を作って奥のメイドさん2人に飲ませると、ちゃんと飲んでくれた……

 ダリル兄様とシュアレ姉様も飲んでくれている。


「はぁはぁはぁ……助かったよ……エント……」

「んんんっ……っはぁぁあっ……生き返りますわ……」

「ダリル兄様っ!シュアレ姉様っ!大丈夫ですかっ!?」

「……えっ……シィナ?」

「兄様、シィナがいますわ……」

「良かった……ちゃんと生きてるっ!」

「シィナ……私たちを助けに来てくれたの?」

「兄様も姉様も私の家族ですっ!助けるのは当たり前ですっ!」

「シィナ……ありがとう」

「シィナお嬢様、馬にも早くあげないと、一度外へ行きましょう」

「はいっ!エントさん、奥のメイドさんにも水をっ!」

「はいっ!!」


 バケツに水を入れて、エミールさんに任せる。

 弱っていたけど、ちゃんと飲んでくれた。

 2頭とも無事だった……良かった……全員生きてる……

 そしてお馬さんの近くに何かの毛の塊があった……なんだろう?大きい……


「エミールさん、それなんですか?」

「え?…………うわっ!これ魔物ですよっ!……死んでますね、暗くて気付きませんでした」


 魔物……いきなりファンタジー世界に引きずり込まれた気分だよ。

 どんな魔物なんだろう?よく分からない。

 ……怖いから近付かないでおこう。

 また馬車に入る。


「エントさん、大丈夫そうですか?」

「はい、シィナお嬢様、メイドの2人も無事ですっ」


 少し暗くて分かりにくい……指先に魔力を集中させて、光の魔法を使う。

 光の玉が現れて馬車の中を明るく照らす。

 全員が光を見つめている……意識も回復したね……よかった。


「……これ……シィナが出したの?」

「はい、シュアレ姉様……水はまだ飲みますか?」


 また水の玉を作って見せる。


「兄様、シィナが魔法を使っていますわ……」

「見えているよ……しかもこんなに明るいなんて……」

「エントさん、これからどうしましょう?」

「もう少し先に進めばこの森が終わりますので、そこで野営しましょう」

「私もそれがいいと判断します、また魔物が出ては大変ですからね」


 エミールさんもエントさんも野営する判断だね。

 もう結構暗い……今日中に屋敷には行けないだろう。

 お馬さんが限界だからね。


「ではお任せします、私は馬車にいますね」

「はい……シィナお嬢様はまだ魔力が残っていますか?」

「はい、まだまだ大丈夫ですよ」

「凄いですね、さすがリンドブルグ家のお嬢様だ……」

「馬車のお馬さんは大丈夫ですか?」

「森を抜けるまでなら大丈夫です」

「では出発します」

「はい、お願いしますっ」


 馬車のドアをゆっくり閉めてくれた後で、ゆっくり馬車が進みだした。


「シィナ、大丈夫かい?」

「ダリル兄様よりは元気です、また水が欲しい時は言って下さいね」

「あ、ああ……ありがとうシィナ」

「シィナのお陰で助かったわ、ありがとうシィナ」

「シュアレ姉様も体調は大丈夫ですか?」

「水が飲めてだけで良かったわ今日は暑くて……あ……涼しい」

「シィナは風魔法も出来るんだね、ありがとう涼しいよ」

「侍従さんたちも大丈夫ですか?」

「はい、私たちも涼しくて……本当に助かりました」

「シィナお嬢様、感謝致しますっ」


 うん、皆大丈夫そうだね……良かった……

 でもまだ気は抜けない……魔物が出てきたら大変だしね……


「そういえばあの魔物はどんな魔物なんですか?」

「ん……アレは、ノックスという魔物だよ……群れと出くわしたんだ」

「馬車に突っ込んできたのよ……何匹も……疲れたわ……」

「……そういえばどうしてシィナが来たんだい?お父様は?」

「お父様、お母様、ヒルク兄様、お祖父様はどこかへ出掛けていて、夕方に帰ってくる予定だったのです」

「誰も居なかったのね……」

「エントさんが助けを求めて来たので、私が来ましたっ」

「シィナが来てくれて本当に嬉しいよ、ありがとう」

「さすが私の妹ですっ、ありがとうシィナっ」


 2人から頭を撫でられる……嬉しそうだけど、やっぱり疲れているみたい。

 メイドさんたちも疲れが見える。

 

「食材はまだ残ってるんですよね?」

「はい、いつも2日分くらいは余裕を持っていますので」

「じゃあ私も夕食のお手伝いしますねっ」

「……それはありがたいですが……」 

「水はいくらでも出せますので、後で顔でも洗うと気持ちいいですよ」

「シィナ、それよっ!もう汗で気持ち悪いのよっ」

「私は今日……全身ずぶ濡れになって水で遊んでいました……怒られましたけど……」 

「アハハッそれは怒られるよっ……でも今日は全身水浴びしたいくらいだね」

「……兄様……できますよ……」

「うっ……シィナそれは……」

「魅力的な提案だけど……はしたないですわよシィナ……」

「まぁ、残りは半日くらいで家に着きますから、もう少しの我慢です」

「そうね、もう少しで家に着けるのよね……」

「でも……我慢できなかったら言って下さいね……」

「シィナが悪魔の囁きを……」

「……顔っ!顔は洗わせてくださいねっ」

「はい、なんでも言ってくださいっ!」


 私は皆に少しでも疲れが癒やされることをしたいだけなんだよ。

 他意はない、ただの親切心だけだしね……キツイ時は貴族とか関係ないと思うけど……


 そうこうしている内に馬車は森を抜け、見晴らしの良い場所に出た。

 月明かりがあるので明るく感じる。

 そして街道から少しだけ外れた平地に馬車は止まった。


「ここで野営しますっ!シィナお嬢様、すいませんがまた馬に水をお願いしますっ」

「は〜いっ、今行きますっ!」


 馬車を出ると、風が気持ちいい……これなら大丈夫かな。

 とりあえずバケツに水を出していく。

 4頭分出してあげた後は……


「皆これで顔や手を洗ってねっ!」


 魔力制御を普通にして水の玉を無数に出して、以前のように一面水の玉状態にする。


「うわっ!なんですかこれはっ!」

「シィナ!?大丈夫なの!?」

「魔力枯渇になっていないのかいっ!?」

「凄い……」


 皆が、驚いて私を心配してくれる。

 全然大丈夫だけどね……


「皆、手や顔を洗ってね、私は大丈夫、まだまだ出せるよっ!」


 まずは私が手を洗って、顔もバシャバシャする。

 

「きもちいい〜っ!」 


 すると皆が、わいわいと一斉に洗いだした。

 男性は豪快に……女性は静かに丁寧に。

 皆気持ちよさそう、あ……兄様髪も洗ってる……いいけどねっ。


「まだまだ出せるよっ!ほらっ!」


 水の玉を追加すると、エントさんとエミールさんも頭や腕も洗っていた。

 兄様も上着を脱いで色々と洗っていた……おお……兄様細マッチョ……眼福ね……

 女性もある程度脱いだりして洗っている。

 タオルを持ってきたみたいで、シュアレ姉様も貴族の尊厳を守れる程度に洗っていた。


 皆一通り洗い終わり、残った水の玉を飲んだりして一息ついていた。


「シィナ……最高だったよ、生き返った気分だ」

「こんな魔法初めて見ましたっ凄いですっ」

「本当に生き返ったわ、ありがとうシィナっ」


 皆が笑顔になっている……それだけで嬉しい。

 私も笑顔になるよ……

 

「私は野営ってしたことないけど、どうするの?」

「暑いですが火は起こさないといけませんね、魔物は火があるだけで近寄ってきませんから」

「オレたち男が薪を拾ってきますので、女性は料理をお願いしますっ」


 そういうと各自動き出した……慣れているみたいだね。

 私は料理担当だけど、メイドさんは馬車の荷物を取ってきて色々と広げて見せた。

 保存食が中心かな?この暑さで傷んでいないか確認しているみたいね。

 というか暗い……光の魔法で……


「わっ……シィナお嬢様の魔法は本当に明るいですね」

「これでよく分かる?」

「ええ、ありがとうございます」

「……一部駄目になっていますね……パンは大丈夫なので、後は何かスープでも作りましょうか」

 

 見慣れない野菜だけど、たぶん食べたことあるやつだ……ジャガイモと玉ねぎもどきもあって、干し肉もあるから十分な量があるね。


「スープは任せてくださいっ、道具はありますか?」

「ありますが、私もお手伝い致します。お嬢様だけにやられては私が叱られますっ」

「はいっ!一緒に作りましょうっ!」


 まだ薪がないので火が起こせない……今のうちに食材を切っておこう。

 シュアレ姉様はまだ馬車でメイドさんとお着替え中か……

 まな板や包丁を借りて適当な大きさにカットしておく。

 外でキャンプなんて初めてだよ。

 風も少しだけあるから気持ちいいし……


 よし、食材のカットはこれでいいね、水の玉を出して包丁を洗って……


「水があると外でも捗りますね、洗い物がとても楽になります」

「これまではどうしていたの?」

「旅では水は貴重ですが、生活魔法で最後に使っておりました。シィナお嬢様は魔力量が多いのですね、羨ましいです」


 平民さんたちはそんなに魔力がないんだよね……そういう意味では貴族で良かったけど……なんとなく淋しく感じるのはなんでかな?

 孤独感……皆私の魔法が凄いっていうけど……正直よく分からない。

 他の人の魔法ってあんまり見たことないんだよね……

 そんなに違うのかな?


「シィナ〜!薪を拾ってきたよっ!」

「ダリル兄様、お帰りなさいっ」


 3人の男性陣が両手で抱えるくらいの薪を抱えて戻ってきた。

 そしてそこらにある石でかまどを作ってくれた。

 皆野営を慣れているね……仕事が早いよ。


「シィナの明かりのおかげでとてもやりやすいよ」

「兄様、薪に火を点けてもいいでしょうか?」

「いや、これくらいは任せてくれ、それくらいの魔力は残っているからね」

「はい、お願いしますっ」


 兄様の魔法も初めて見る。

 お母様に習った魔法だよね、兄妹の繋がりを感じる瞬間だった。

 すぐに薪に火が灯り、小枝に燃え広がる……


「最近暑かったから乾いた木片が多くてそこは助かるよ」

「湿っているとやっぱり火が点かないのですか?」

「なかなか火が点かなかったり、火が弱いと途中で消えたりする場合もあるんだよ。だから基本は乾いた薪や枝を拾ってくるんだ」

「兄様は色々と知っていますね」

「沢山失敗したからね、同じ間違いをしないようにしてはいるつもりだけどね」


 兄様ははにかみながら淡々と喋っていた。

 パチパチと火の爆ぜる音とイケメン……尊い……萌える……


「シィナお嬢様、このお鍋をお使いください」

「は、はいっ!兄様、この鍋を火にかけて下さいっ」

「ああ、水は大丈夫かい?」

「今入れますっ」


 危なかった……兄様の横顔が尊すぎた……焦らないで水を入れよう。

 火を消してしまったら最悪だっ!

 鍋は煤で焦げている感じで、キャンプっぽくていい味を出している。

 この人数がおかわり出来るくらいの水量を煮立たせていく。

 後はカットした野菜や干し肉、塩を適量入れて煮込むだけだ。

 オタマでちゃんとアクも取っていけば完成だ。

 根菜も細く切ったから火の通りも早いだろう。

 干し肉は水分で結構戻る。

 それからパンは少しだけ炙ると香ばしくておいしいので、軽く炙っておいた。


「完成ですっ!ちゃんとスープで塩分を取って下さいね」


 シュアレ姉様も着替え終わってこちらに来たので、皆で夕食を食べる。

 

「シィナの作ってくれた料理はおいしいよっ」

「おかわりもありますからね」

「シィナは本当に料理が上手ね……私も勉強しようかしら……」


 野菜の甘味と干し肉の旨味……いい感じのスープが出来た……

 塩分もこれくらいでよかったかな……皆結構汗をかいたはずだからね。


 スープはすぐになくなり、全員が飲み干していた。

 満足してくれたようで良かった。

 後片付けもしっかりとするよ。

 メイドさんにはずっと感謝されていた。

 やはり洗い物が楽らしい。

 だけどこの8歳児の体はそろそろ限界の……ようです。

 眠くて仕方ない。


「姉様……もう眠いです……」

「私と馬車で眠るわよ……こっちおいで」


 女性は馬車で……男性は見張りで交代で眠るらしい。

 馬車でタオルケットを渡されてからは記憶はもうない。

 姉様が優しく抱きしめてくれた事は覚えている。



 翌朝……眠りから覚めると、まだ朝日が出る前だった。

 体が少し痛い……馬車だからしょうがないか……

 まだ寝ている姉様は寝顔が可愛い。

 メイドさん2人は丁度着替えている最中だった。


「……起こしてしまい……申し訳ありません……」


 小声で話しかけてきた……私は姉様を起こさないようにして、背伸びをする。


「……おはよう……ございます……」


 メイドさんに顔を拭かれてから、髪もクシでとかしてくれた。

 私はこのワンピースしかないので別に構わないけど、この後はシュアレ姉様の着替えなどのお世話をするのだろう。


「……外に出ますね……」

「……はい……」


 扉を開けて外に出る。

 空気が美味しい……草の香り……木の香り……昨日よりは暑くないので丁度いい……パチパチと音がして、まだ焚き火は消えていない。

 交代で火の番をしていたのだろう。

 火の側でダリル兄様とエントさんがまだ寝ていた。

 今はエミールさんが起きていた。

 私はエミールさんに無言で挨拶してから昨日の鍋を持ってかまどに置く。

 水を魔法で作り出して鍋でお湯を作る……お茶用のお湯だ。


 それからお馬さんのバケツに水を注いでいく。

 早速飲んでくれた。

 お馬さんの目は優しくてずっと見ていられる……なんか癒やされるのだ……


 エミールさんの所に戻るとダリル兄様とエントさんも起き出したようで、目を擦っていた。


「ダリル兄様、おはようございます」

「ああ、おはようシィナ……よく眠れたかい?」

「はい、少し体が痛いですけどね」

「それが旅の醍醐味ってやつだよ……この朝の空気もね」

「確かにいい朝です……体の痛みの醍醐味はいりませんけどね」

「そうだね……こっちも痛いよ……ふぁあぁぁっ」


 大きなあくびをしてから立ち上がって伸びをしていた。


「今お茶の準備をしますね」

「ん?……ありがとう、朝からシィナはよく働くね」

「私もお手伝いしますね」


 メイドさんも馬車から降りてきて、お茶の道具を持っていた。

 早速お茶を淹れていく。

 いい香りだ……


「姉様は?」

「今支度をしています……」

「朝食は食べるの?」

「いえ、昨日の夜話して、お茶をしてから帰るということになりまして……何か食べますか?」

「いいえ、私もお茶を飲めればそれでいいです」

「かしこまりました」


 すぐにシュアレ姉様とお付きのメイドさんも馬車から降りてきて、皆で、お茶を飲む。

 朝日も差して今日が始まる。


 各々支度をしていき、馬車の馬も調子が良さそうだ。

 ちゃんと焚き火に水をかけて完全に鎮火させてから出発です。

 

 私は馬車に乗る。

 エミールさんが御者になって馬車を操るようだ。

 ダリル兄様とエントさんが2頭の馬に乗る。

 馬車の左右で護衛する形のようだ。

 この世界に来てからお馬さんを間近に見ることができた。

 しかも本物の馬車に乗れるのだ……なかなかあっちの世界では出来ないことだよね……そのぶん飛行機や車はないけどね。

 毎日何かしら初めての事があるので面白い。

 昨日は馬の乗り心地を知ったし……キャンプの良さも知れた。

 今日もいろんな事を知るのかな?

 楽しいことだといいな……昨日は少し怖かったからね……


 馬車は順調に走っていく。


 …………私……怒られないよね……

 なんか不安になってきたよ?


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