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黒髪賢者の恩返し  作者: しんのすけ
最終章 私たちの願い
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第59話



 飛竜との戦いは、私の魔法が開戦の一撃となります。

 エージント国の船は私を乗せた後、港へ戻っていきました。

 上空から船を確認します……この距離なら船が襲われる事はないでしょう。

 ……風が強いです。

 そして……アレが飛竜ですね。


 私は今、エージント国から近い島の上空に浮かんでいます。

 遠視の魔法で飛竜を確認すると、五体の飛竜が確認されました。

 一体一体が大きく、リンドブルグ領に飛来した飛竜と酷似しています。

 黒く禍々しい魔物です。

 今は寝ているように見えます……これなら確実に魔法が必中するでしょう。

 まだ合図はありませんが、魔力循環を最大にしておきます。

 ……これで私の準備は完了です。


 そして……エージント国から打ち上げ花火が上がります。

 あちらの準備が完了した青い色の合図です。

 私もペ!アレンさんたちに同じ青い色の花火を見せて合図を送ります。

 さあ、開戦の一撃をお見舞いしますよ!


「凍りついていなさいっ!!」


 氷魔法のパキパキとした音がここまで聞こえてきます。

 三体の飛竜を氷漬けに成功しました。

 アレならしばらく動けもしないでしょう。

 ……死んでもいないはずなので、しばらく大人しくしていてください。

 続いて二回……ぺ!アレンさんたちへ赤い花火を見せます。

 二体の飛竜を誘導する合図です。

 っ!……飛竜が気付きましたね。こちらを睨んでいます。

 ここまでは作戦通り……次はびーむこーせん魔法の連射ですっ!


「やぁあああっ!!」


 狙うのは大きな翼です。

 確実に当てて飛行能力を低下させます。


「ハァハァ……おバカ飛竜っ!!こっちに来なさーいっ!!」


 大きな咆哮をして……こっちに飛んできます。

 私を敵と認識しましたね……作戦は順調です。

 ……穴の開いた翼ならそこまで早くはないでしょう。

 さすがお母様とお姉様の作戦です……えげつないです。

 後はゆっくりエージント国へ向かいましょう。

 高速で飛ぶと体力の消耗が激しいので、ゆっくりなら大丈夫です。

 エージント国に居るお母様なら遠視の魔法でこの状況を確認しているでしょう。

 ……緊張感は無いですが……まったりゆっくりふわふわと二体の飛竜を引き連れて行きます。


「ノロマな飛竜!ちゃんとついて来なさいっ!!」


 ……いい鬱憤解消になります。

 あまり相手を貶すような言葉は使った事が無かったので……なんだか面白いのです。

 伝わっているのかはわかりませんが、怒ったようにも見えます……恐ろしいです。



 作戦……これは知恵ある種族に与えられた力でもあります。

 魔物と比べると、私たちは貧弱ですからね。

 だから遠慮なんてしません。

 全力で駆除します。


 そんな事を考えながら予定地点まで飛んで行きます。

 エージント国の城壁の外で待ち構えているのは各国の賢者様や貴族……王族もたくさんいます。

 全員杖を構えて今にも魔法が飛んで来そうです。

 これだけの数を揃えれば飛竜はひとたまりもないでしょう。


「連れてきましたーっ!!」

「でかしたーっ!必ず避けるんじゃーっ!!」


 お祖父様が陣頭指揮を取って、魔法を打つ機会を計っています。

 速度を一気にあげてお祖父様の横を通り過ぎた瞬間……杖の一斉射が開始されていきます。

 貴族の中でも最上位の魔法が二体の飛竜を襲います。

 こんな派手で大量の魔法は見たことがありません……二体の飛竜は避けようとしても傷付いた羽では避けきれずに、大きな音を立てて地上に落下しました。

 可哀想ですが、これでお終いです。

 ほぼ瀕死状態の飛竜に襲い掛かるのは各国の屈強な戦士たちです。


「手負いの飛竜を逃がすな!!必ず打ち取れいっ!!」


 戦士たちが巨大な飛竜へ群がって……とどめを刺します。

 残酷ですが、エージント国を守る為です。

 世界中の戦力が合わさればできない事なんてないのです。


「シィナ良くやった!この調子で残りの飛竜も駆除するぞ!」

「はいっ!お父様っ!」

「残りは何体ですか?」

「アルベルト先生も参加していたんですね。ええと三体ですっ」

「いけるぜ!もっと飛竜を連れ…………なんだっ!この鐘はっ!?」


 え!?この鐘の鳴らし方は……


「魔物が来ます!!氾濫発生!!氾濫発生!!」


 城壁の上から大きな声が響きます……こんな時に……まだ三体は凍っている筈ですが、いつまで保つか分りません。

 ここは一気に私の魔法で……


「シィナさん!貴女は温存させます!ここはお任せください」

「アルベルト先生!?ですが……」

「シィナちゃん下がっていて!大丈夫だから信じて」

「イレーヌお姉様……」

「ふふっ。お母さんは強いのよ。見ていて!」


 ……皆さんの状況判断にお任せしましょう。

 少し……喉が乾きました。

 城壁まで移動して、少し休憩を取ります。


「お嬢様!お怪我はありませんか!?」

「レーア、大丈夫よ……何か飲み物をください」

「シィナ様、果実水です」

「ありがとうミオ」


 ああ……生き返ります……冬でもエージント国は暑いです。

 ……っ!始まりました。

 外から大きな声が上がっていきます。

 魔物の大群と正面衝突です。

 エージント国は海に面しているので、向かってくるのは正面からのみです。

 城壁の上から少しでも援護しましょう。



 上から眺める景色は凄まじいです。

 騎士たちが貴族を守り、貴族は魔法で魔物を攻撃しています。

 幸い大きな魔物ではなく、小さな獣ばかりです。

 ですが凄い大量の魔物です。

 ……あ、お祖父様はすぐわかります……凄い勢いで、魔物を駆除しています。

 感心していないで私も参加しますっ!


「やああっ!」


 ドワーフの戦士たちや騎士たちに絶対に当たらないように、少し離れた場所を凍らせていきます!これなら障害物にもなるので少しは時間稼ぎができる筈です!



 長い戦いです。

 私は途中から回復薬を出してシスターさんたちと怪我人の治療をしていきます。

 ……失明している方もいます……後で回復魔法が必要です。

 ドワーフ族の戦士は回復薬を渡すとすぐに戦場へ戻っていく方も居ます。

 傷ついた貴族も運ばれてきて、悔しそうにしています。

 戦場は色々な感情が渦巻く場所です……恐ろしいですが耐えなくてはいけません。

 そんな中、シュアレお姉様の声が響きました。


「シィナ!!飛竜!!」

 

 来たっ!必ず来ると思っていましたっ!

 厚い氷を砕いてきたようです。


「行ってきますっ!」

「お嬢様!女神様のご加護がありますように……」

「シィナ様、怪我だけはしないでくださいませ!」

「頑張りますっ!」


 まだ魔物が来ていますが、こちらもしっかり押し返しています。

 皆頑張れっ!


「天才賢者っ!しっかりしなさいっ!」

「お!?おお!!任せてください!!大好きです!」

「ペアレン!よそ見するな!」


 っ!飛竜が一体っ!近いですっ!

 風魔法は避けるかもしれないので、やはりびーむこーせん魔法ですっ。


「ていやっ!……アレっ!?避けないでくださいっ!」


 飛竜は魔法を撃つ瞬間左右に移動して……頭のいい飛竜です。

 直感的に避けているように見えます。

 なら……闇魔法で視界を奪いますっ!

 これなら見えないでしょうっ!今度こそ当て……ます?……あれ?なんかお腹が真っ赤になっています。

 そう思った瞬間……飛竜の口から真っ赤な炎が吹き出してきました。

 

「シィナ!!」

「うわぁああっ!?お父様ーっ!!」


 直撃はしませんでしたが……お父様が庇ってくれました。

 っ!!このっ!全力魔法ですっ!!


「お父様っ!!今、回復魔法を使いますっ!!」

「ううっ!!……シィナ……無事か!?」

「お父様のお陰でなんともありませんっ!動かないでくださいっ!」


 腕がこんなに火傷していますっ!直撃していたらと思うと恐ろしいです。

 女神様……お父様を癒してくださいっ!


「ハァハァ……ひ、飛竜はどうなった?」

「首をはねましたっ!即死です。静かに……集中します」

「お父様!!……シィナ、お父様を助けて!」


 シュアレお姉様……大丈夫です。

 お父様にはまだ親孝行も何もしていないのです……絶対に癒します。


「飛竜がもう一体来ます!!」


 ……落ち着いて……まずお父様をしっかり癒やすのです。


「ハァハァハァ……ワシが囮になる。シュアレ……シィナを頼むぞ」

「お祖父様!!そんな怪我でどうするというのです!回復薬を貰ってきます!……お祖父様!お祖父様!!」

「……シィナ……ここまででいい!父上を……うっ」

「っ!!シュアレお姉様、お父様を!」

 

 まだ途中だけど、お祖父様を放っておけませんっ!

 一人であんなもう遠くまでっ!……間に合ってください!

 また飛竜のお腹が赤くなっています!!


「ダメーっ!!あああああっ!!」


 お祖父様を守るように大きな氷の壁を作りますっ!!  

 炎が!……もっともっと分厚い壁ですっ!!絶対に溶けない高く巨大な氷を作りますっ!!


「っーー!!ああああっ!!お祖父様ーっ!!」


 超高速循環で体は吹き飛びそうになりますが……絶対にお祖父様を守りますっ!!…………アレ?お祖父様はどこですか?


「シィナ!もういいわ!お祖父様は……上よっ!」

「上?」

 

 上?上ってなんですかお姉様!?も、もしかして女神様の元に……

 違いました……お祖父様は私が作った氷の壁を……駆け上がっています。

 何をしているのですか!?

 その瞬間……飛竜目掛けて放ったお祖父様の渾身の一撃が当たりました。

 飛竜の首が吹き飛びます。

 一瞬の間の後で、飛竜が地面に落ちました。

 ……ああ、お祖父様が最強でしたね。

 笑いながらこちらに戻って来ています。


「アッハッハッ!!どうじゃシィナ!シュアレ!飛竜の首を刎ねたぞ!!」

「「お祖父様のおバカ!!」」

「うおっ!?祖父に向かってバカとなんじゃ!!」  

「いいから治療しますっ!!お父様とそこに並んでくださいっ!!」


 回復魔法を使います……お祖父様は血だらけでしたが、傷は浅く直ぐに回復しました……お父様の方がよっぽど酷い火傷です。

 ……あっちも終わったようです。

 城壁を守り抜いたみたいですね……良かった。

 ですが……もう魔力がありません。

 これが枯渇というやつですか……頭がクラクラしてもう限界です。


「眠りなさい、ゆっくり寝ていいから……大丈夫」

「はい……お姉様……もうダメです……」


 ……うっすら話し声が聞こえてきます…………お母様とお兄様方……イレーヌお姉様……みんな……無事で良かったです。



 私の意識が回復したのは一日以上経過した頃でした。

 食欲もあって、エージント王国の料理を満喫しました。

 たくさん褒められましたが、それより魔物の氾濫を各国が協力した事で生まれた連帯感はいいものです。

 私個人ではなく、みんなで勝ち取った勝利の喜びはとても大きいのです。

 飛竜のお肉はやはり美味でした。


 移動魔法で皆さんを自国へ送り届け、後はドワーフの職人さんの精霊結晶の加工を再開させていきます。

 やはり魔素対策は必須なのです。

 エージント王国の魔物の氾濫があってから、しばらくの間緊張の糸を緩めずにいましたが、30日程は何事もなく順調に作業が進んでいきました。


 私の誕生日が過ぎた頃……もう冬が終わり、春の気配がリンドブルグ領に訪れてきました。

 もうすぐ精霊結晶を作動させる事ができる頃……一つの報告が上がってきました。


「シィナ、確認するが……飛竜は何体居たのだ?」

「…………確か……四体か五体……あまり覚えていません」

「そうか……気を引き締めておけ……我々が倒したのは四体だ」


 勝利の喜びで忘れていたのは……私の不注意です。

 あの島には恐らくまだ飛竜が残っています。

 リンドブルグ領に来るかもしれませんし、エージント王国へ来るかもしれません。

 これまでは、エージント王国の賢者様が上手いこと追い払うくらいで済んでいたようですが、何か嫌な感じがします。

 ……いっそのことまた不意を突けば……凍らせられれば簡単に駆除できますからね。

 こういう時は相談しましょう。

 まだエストニアでは各国の王様が復興支援を行っていますから。


「と、いうことで……どうしましょう?」

「ふむ……精霊結晶を可動させてから、魔素を収めてからではダメか?」

「今は復興と精霊石加工が最優先ですから……今のところ被害はありませんよね?」

「飛竜は凶暴じゃが、普段は寝ている事が多い魔物と聞く。エージント国の賢者殿の意見を聞いていた方が良いかもしれん」

「賢者様は自国で動きがないか監視を行っています」


 なるほど……こちらから手を出さなければ、そこまで凶悪な存在ではないのですね……ですが何かの弾みで襲って来ることもあるようです。

 まさに自然災害のような存在です。

 では魔素吸収を行ってからの方が良さそうです。

 間もなく完成しますからね。

 ……ですが、私の中では嫌な予感は収まっていません。

 何か分りませんが……少し息苦しいような…… 


「あら、シィナちゃんじゃない……また大きくなってきたわね。新しい服を用意しましょうか」

「えっ!?いや、王妃様、少し息苦しいですが……それよりも……」

「息苦しいならちゃんと自分に合った服にしないとね〜。行きましょうっ」

「あああっ」


 また縁談を押し付けてきそうですっ!

 足の痛みも引いてきたので……私の成長は……終わったかもしれません。

 ……お魚を定期的に食べていますが、成長のお祭り騒ぎは終了のようです。

 まだそんなに大きくなっていません。

 16歳になりましたが……まだ13歳か14歳くらいの身長です。

 こんな身長で王妃様なんて嫌です……王妃なんて面倒そうですし。

 ……真剣に考えるのは後でいいですね。

 私に合った男性が王族以外にいる筈です。

 …………たぶん。


 

 精霊結晶の加工は最後の国で作業が進んでいきます。

 進捗具合からして、もう1日か2日くらいのようです。

 これが終われば魔物の被害も少なくなる筈です。

 結局魔物の氾濫が起こってしまいましたが……各国の復興状況は徐々に進んでいます。

 ……一つだけ心残りというか引っ掛かりがあるのが……飛竜です。

 あの島は定期的に行って魔素を減らした方がいいかもしれません。

 もしくは精霊結晶を配置するという手もありますね……大変ですが。

 なるべく早く駆除したいですが……待ちましょう。


 教会へ行って回復薬を出してあげました。

 この国もまだ負傷者が多いので、少しでも助けになりたいです。

 特にすることもない私は各国の教会へ行って負傷者の手当を手伝いました。

 レーアとミオも頑張ってくれます……付き合ってくれてありがとう。

 今度は二人と美味しい物でも食べに行きましょう。

 午後からは久しぶりにリュデル王国で過ごしますか……ミオに王都を案内するのもいいですね。

 ロッカちゃんに何か購入するのもいいです。

 もう目が見えているのでジッとこちらを見てくるのです。

 あれは堪りません……可愛すぎます。

 久しぶりにまったり過ごしましょう……甘い物も食べたいですね。


 ……エイドジクスさんの新作は全部甘味でした。 

 昨日は少し食べすぎましたが……満足です。

 今日は昨日買ったロッカちゃんの喜びそうなおもちゃを持って実家に行ってみましょう。

 動く物を興味深く見ている事が多いので、左右にゆっくり動く変なおもちゃです。

 喜んでくれるといいですね。

 ついでにお祖父様用にお酒も買ってあるのでこれは必ず喜ぶ筈です。

 ドワーフの職人さんへ大量のお酒を寄付してあるので、数が少ないのです。

 さて、行きますか。



 実家は静かです。

 いつもの事ですけどね。

 まずはロッカちゃんへ挨拶です。


「お嬢様、お酒はジュリエッタさんへ運んでおきます」

「お願いします。お祖父様には夕食にこっそり出すよう言っておいてくだい」 

「かしこまりました。ミオ、貴女は部屋をお願いします」

「ええ、頑張ります!」


 ……ミオは私の部屋を掃除するそうです。

 ほぼ使ってないので綺麗なのですが……楽しそうなので止めはしません。

 イレーヌお母さんの部屋に行ってみます。

 もう朝食は終わっている筈なので、必ず居るでしょう。


「あら、シィナちゃん。おかえりなさい……」

「ただいま帰りました…………寝ていますか?」

「ええ、お乳を飲んでお腹いっぱいで寝ちゃったわ」

「……可愛いですねぇ…………イレーヌお母さん、お胸はどうやったら大きくなりますか?」

「……そうねぇ……赤ちゃんが出来ると大きくなるけど…………まずは恋をしないとねっ」

「うぐっ……難しいのです……」


 …………お胸は諦めたほうがいいかもしれません。

 困難過ぎます。


「……シィナちゃん、今帰って来たばかり?誰かに会った?」

「帰って来たばかりです……誰にも会っていませんけど……何かありました?」

「ヒルクくんが慌ててどこかに行ったけど……大丈夫かしら」

「……少し確認してきます」

「ごめんなさい……お願いね……」


 ……なんでしょうか…………凄く嫌な感じがします。

 ずっと感じていた何か……こういう時は砦からです。

 砦なら誰か必ず居るでしょう。


 …………あれ?誰も……居ません。

 おかしいのです。

 砦が無人という事はあり得ないので、誰か探しましょう。

 兵士の一人くらいは必ず居る筈ですが……


「シィナお嬢様?」

「あ、居ました。皆さんどこに行ったか知りませんか?」

「え?それが……オレ寝起きでして……なんで誰もいないのでしょう……」


 情報がありません……どこに行ったというのです。

 嫌な感じです。


「貴方に砦を任せました!探してきますっ!」

「は、はい!お任せください!」


 ……お馬さんが居ませんっ!どこっ!?何かが起きていますっ!

 空から確認です。

 密林はわかりません、お馬さんを使っているなら森には入らないでしょう。

 じゃあ街の方ですっ!

 辺りを確認しながら街を目指します…………居たっ!!大広場ですっ!


「……シィナ!帰って来ていたか!」

「ヒルクお兄様っ!何事ですかっ!?」

「飛竜だ!飛竜が出て王都方面へ向かったらしい!父上とお祖父様が追跡して行った!」

「王都方面ですねっ!わかりました向かいますっ!」

「すまん!任せた!私は砦を監視しておく!」


 上空へ昇って確認はしますが……遠視の魔法でも分りません……とりあえずお父様とお祖父様を探しましょう。

 街道を進む筈です……焦らないで急ぎます。

 飛竜はそこまで速度は出ない筈です……が、お馬さんよりは早いです。

 ……胸騒ぎがします。

 なんでこんなに不安になるのかわかりません……どこですかっ!?


 しばらく街道を進んで行くと、途中にある平野にお馬さんの集団が居ました。

 お父様とお祖父様が率いるリンドブルグ中の兵士たちです。

 良かった……見つかった。


「お父様っ!お祖父様っ!」

「シィナっ!来てくれたか」

「飛竜はどこですかっ!?」

「シィナ落ち着くのじゃ。飛竜は山脈の向こうへ消えていった」

「山脈へ?エストニア方面でしょうか?」

「東ではなく西じゃ。これではどうしようもできん」  


 西の山脈?そっちは山々がありますが、山の先は海が広がっている筈です。

 人族も他の種族も住んでいない地域の筈です。


「確認してきます。どこに向かったのか知らないと、また被害がでます」

「……シィナ、なるべく一人では戦うな。飛竜は危険過ぎる」

「ワシらはここで待機しておるから、必ず帰ってくるのじゃぞ?よいな?」 

「はいっ!確認だけしてきますっ!」


 お父様が示した方向へ飛んで行きます。

 飛竜のこんな行動は聞いた事がありません。

 動く時は人を襲う時だけの筈。

 ……山はまだ雪が残っていて寒そうです。

 高く険しい山を進みます。

 山頂付近の足場がしっかりしている場所に降り立ち、四方を確認しますが……飛竜の姿を発見する事は出来ませんでした。

 険しい山なので、大きな巨体が隠れる場所でもあるのかもしれませんが……何の痕跡も見当たりません。

 綺麗な海と雪山しかありません。

 飛竜は最初から居なかったと言われても不思議ではありません。

 海側からも確認しますが、断崖の絶壁にも姿はありませんでした。

 ……これ以上はお父様たちが心配します。

 悔しいですが、一旦引き返しましょう。


 

 こうして……一体の飛竜が姿を消し、どこかに居なくなってしまいました。

 私はこの後で各国へ厳重警戒をするように指示を出しました。

 西側の国や、リュデル王国、ヒルデルート王国、エストニア王国などが一番狙われる可能性があります。

 次の日に、各国の精霊結晶が一斉に稼働をし始めました。

 これで魔素を吸収してくれるでしょう……安全になりますように。

 エストニア王国で大きな式典がありましたが、私は出席を拒否し、あの飛竜を見失った場所で監視をすることにしました。

 ずっと胸騒ぎが収まらないのです。

 ……何事も起こりませんように……いえ、違います。

 何も起こさせはしません。

 必ず見つけてみせます……お姉さん……見守っていてください。

 

 

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