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黒髪賢者の恩返し  作者: しんのすけ
第1章 新しい家族
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第5話



「シィナ、もうすぐお祖父様が帰ってくるぞ」

「はい?……お祖父様?」


 ……お父様が夕方に帰ってきて突然そんな事を言い出した。

 あれ?名前はなんだっけ?

 覚えていない……後でレーアに聞こう……


「……そうか、お祖父様も記憶にはないか……」

「すいません……」

「いや、しょうがない……シィナは謝らなくていいんだ……」

「いつ頃ですか?」

「…………遅くても2日以内かな」

「お祖父様は……怖い方ですか?優しい方ですか?」

「そうだなぁ…………怖くて優しいお祖父様だ」


 そうきたか……あっち世界のおじいちゃんタイプか……孫には優しかったおじいちゃん……また会いたかったな……


 お父様は一旦自室へ向かいます。

 あれ?ヒルク兄様は?……ああ、お馬さんのお世話かな。

 お馬さんに乗ってみたいなぁ……でも今の身長では無理かな。

 お父様もヒルク兄様も毎日仕事で忙しいそうだから無理か……


 ヒルク兄様を玄関で待つ…………その間は暇なので魔力制御をしていく。

 もう魔力制御は慣れてきた、歩きながらでも出来るようになったよ。

 今度は走りながらやってみよう。


 玄関扉が開いたので私はヒルク兄様を出迎える。


「ヒルク兄様お帰りなさいっ!」

「…………あああっっ!!シィナっ!!」

「うっひぃいっ!!だれぇ〜!?」


 私の体が大きな手で持ち上げられていく。

 高いっ!?怖いっ!!

 まさか魔物っ!?

 怖い怖い怖い怖いっ!!止めてっ!食べないでっ!

 

「お祖父様っ!シィナが泣いていますっ!降ろしてくださいっ!」

「ギャァァァァァァァァ!!!死ぬぅぅぅぅ!!」

「なにっ!!シィナが死ぬのかっ!!いかんっ!いかんぞぉおおっ!!」


 私の下でな何か会話しているけど私は現在パニック状態だっ!

 何が起こっているのっ!!


「何事ですかっ!!」

「なんだっ!シィナの悲鳴が聞こえたぞっ!!」

「ギャァァァ!!おがあざまぁぁあっ!!レーアたずけでぇぇぇ!!」

「先代様っ!!シィナお嬢様を降ろしてくださいっ!!」

「父上っ!何をしているのですかっ!!」

「いかんっ!シィナは死なせんっ!!絶対にだっ!」


 ううぁあっ!?なに?寒気がするよっ!!なんなのっ!?

 

「…………お義父さま……ゆっくり手を降ろしてください……」

「っ!!……ゾ、ゾーイ?……魔力が……怖いぞ?降ろせばいいのか?シィナは死なないか?」

「……ええ、シィナは死にません……」

「ぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙っ!!」

「シィナお嬢様っ!もう大丈夫ですっ!」


 この匂いはレーア……助かった?ヤバい、大泣きしてしまって……どうなったの??……久しぶりに大泣きしたよ……怖かった……ああっまだ混乱してるっ!


「シィナっ!すまんかったっ!大丈夫かっ!?」

「おっきいのこわいぃいいいっ!!」


 デカい人?が私を見てるっ!!誰?怖い怖い怖い怖いっ!!


「先代様!!シィナお嬢様から離れてくださいっ!怖がっていますっ!」

「うっ!?ワシが……怖い?」

「父上っこっちに来てくださいっ!」

「お祖父様、一旦あちらへっ!」


 巨人がどこかへ去っていく……怖かった……


「お嬢様、もう大丈夫です、落ち着いてくださいましっ」

「シィナ、母を見なさい…………もう安心よ……」


「は、はぃ…………お母様……レーア……何アレ?」

「怖がらないで…………貴女のお祖父様よ……」

「おじいさまは2日後に帰って来るってお父様が言ってました……」

「ああ……たぶんシィナお嬢様に会いたくて急ぎで戻ったのでしょう……」

「あんなに大きいと思わなかったの……ごめんなさいっ!」

「いいのよ、怖かったわね……大丈夫」 


 頭を撫でられて少し落ち着いた……

 はぁ〜……疲れたよ。

 2メートルくらいあるんじゃないの?デカいお祖父様だ……バレー選手並み……手も大きかったし…………あっ……ヤバい……


「レーア……」

「どうしましたか?」

「……ちょっとちびった……」

「あらあら……お着替えしましょうね、大丈夫ですよ」

「レーア、頼みます……食堂で待っていますね…………シィナ、お着替えしたらちゃんとお祖父様に挨拶できる?」

「……出来ます……もうお落ち着きましたので……」

「偉いわ、大丈夫……お祖父様は本当はお優しいお方なのよ…………レーア」

「かしこまりました……お嬢様、お部屋へ行きましょうね……」


 ううっ……恥ずかしい……大泣きしたし…………粗相するなんて……

 くうぅううっ!……段々と腹が立ってきた……おのれ……お祖父様め。


 レーアが私の部屋で軽く体を拭いてくれた。

 着替えも終わり、心機一転私は戦闘態勢で階段を降りる。

 おのれ……もう負けない……怖くない……怖くないっ!


 食後へ行くと、お父様とヒルク兄様の間に大柄な人がいた。

 体は大きく、白いおヒゲのお祖父様が椅子に座っていた……椅子に座ってもデカいなんて卑怯よ……

 私はレーアの後ろからコソコソして見ている……

 観察は大事……しっかりと敵の情報を見極めるのだ。


「先代様、大きな声はおやめくださいね……シィナお嬢様がまた怖がりますよ……」

「おおレーア、さっきはすまんかった………………レーアの後ろのシィナ……ワシを許しておくれ……すまなかった……」

「………………」

「シィナ、黙っていないでお祖父様に挨拶なさい……」

「…………お祖父様……初めまして……」

「……っ!……手紙の事は本当なんじゃな……そうか…………ふぅ〜〜……シィナ……シィナ初めまして、ワシはヘンリー・リンドブルグ、このリンドブルグ家の先代当主……シィナのおじいちゃんじゃ……これから宜しくな……シィナ」

「…………こちらこそ宜しく……お願い致します……」

「父上、まだ警戒していますが、シィナは昔と同じで優しくて頭のいい父上の孫ですよ……しばらく静かに驚かせないようにしていれば大丈夫です」

「そうか……静かにしていればいいのじゃな?」

「お義父さま、シィナはお義父さまの大きい体がまだ怖いようです……後ろに立って驚かせたりしてはいけませんよ、大きな声もダメです」

「…………努力しよう……ワシはまたじいじと呼ばれたいのじゃ」


 じ、じいじって呼んでいたの?シィナちゃんは……

 今はしょぼくれているので怖くはない……少し距離もあるからね。

 ……それにしても……なんかどこかで見たことあるような…………ないような……

 白髪で髪はフッサフサで、凄いおヒゲだ…………ああ、分かった……サンタさんだ。

 赤い帽子と服を着れば完璧なサンタさんになる。

 そう考えだしたらサンタさんにしか見えなくなってきた。

 少しはマシになったかも……サンタさんはいい存在だ。

 夢が詰まったおじいちゃんだ……うん……私のお祖父様はサンタさん。

 絵本のタイトルになりそうなフレーズだ。

 ……よし、もう怖くない。

 

「……お祖父様は急いで帰ってきたの?」

「っ!……う、うむ……」

「シィナ聞いてくれ、さっきお祖父様からお手紙が来たって言ったよね?」

「はい、お父様……」

「手紙を出した途端にシィナに会いたくなったお祖父様はね、手紙の配達人と一緒にここまで来ちゃったんだって……少しだけ配達人の馬が早かったけど、一生懸命頑張って急いだんだ……」 

「私の為に……頑張ったの?」

「そうだよ、だから父上を……お祖父様を許してあげて欲しいんだ」


 まぁ?別に怒ってはいないけど?

 (………………)

 ……シィナちゃんはお祖父様と仲良しだったんだ…………そうか……

 シィナちゃんのお願いは全部叶えるよ……大丈夫。


「怒っていないよ……驚いただけ……だから……前の私はお祖父様と仲良しだったんでしょ?」

「っっ!…………ワシとシィナは仲良しじゃったよ……でも今のシィナはまだワシのこと苦手じゃろ?…………少しずつでいい……ワシはシィナとまた仲良しになりたいぞ……」

「まったく……昔は鬼神なんて呼ばれた父上が……今は孫相手に……」

「う、うるさいぞ……シィナもシュアレもワシの大好きな孫じゃからな」

「お祖父様、私は?」

「ヒルクもワシの自慢の孫じゃ、頭もいいし立派なリンドブルグの男じゃ、ダリルも男らしくなってきて……ワシは孫に囲まれて幸せなんじゃ……」


 ああ……やっぱりいい家族なんだね……


「ふふっ、それじゃあ夕食にしましょう、お義父さまもお疲れでしょうから早く食べましょう」

「ゾーイは気が利いて息子には勿体ないくらいじゃ……さっきは殺されるところじゃったが…………」

「お義父さま何かおっしゃいましたか?」

「いや、ワシは何も言っておらんよ?風の音ではないかな?ああっ風が強くなってきおったかなぁ?」

「うふふ、それは大変ですね」

「ヒルク……お主の母は強いなぁ……」

「お祖父様……母は最強ですから……」

「ほら、シィナもこっちで夕食ですよ」

「は、はいっお母様っ!」

「…………少し背が伸びたな……」


 お祖父様は誰にも聞こえないくらいの小さな声でそう言った……気がした。

 夕食は至って普通に食べ進めていく……

 お父様とヒルク兄様はお祖父様と何か仕事の話をしているようだった。

 私はお祖父様がいる空気感は結構好きなようだ。

 まだ面と向かって話す度胸はないけど……

 だってやっぱり大き過ぎます。


「さて……食事も食べ終えましたが……お義父さま、まだしばらく体力はありますか?」

「ん?ワシはまだまだ元気じゃが?後は風呂に入って寝るだけじゃし」

「では、もうしばらくお付き合いくださいね……家族会議を始めます」

「……シィナ……また何かしたのか?」

「シィナ……」


 うっ……お祖父様の急な帰省騒ぎで完全に忘れていた。

 レーアたちメイドさんがお茶とクッキーを用意してから部屋を出ていく。

 レーアは残ったが……


「ん?……お茶はいいが、ワシは甘味はいらんぞ?」

「お義父さま、そのクッキーはシィナが考案した新しい甘味です……」

「な、なんと?……これをシィナが?…………じゃが、見た目は普通に見えるが…………どれ、孫の甘味なら食べられるぞ?…………」


 お祖父様はお茶を飲んでからクッキーを一つポイッと口に放り込んだ。

 大きい体なのでクッキーが小さく見える……なんかおもしろい。


「んおっ?……これは美味い……甘すぎないし、味が濃厚じゃ……これならいくらでも食べられるぞっ……美味いっ」

「では、次に……レーア、アレを持って来てくれるかしら」


 レーアは小さい羽毛布団を持ってお母様に渡す。


「ゾーイ、それはなんだ?布団か?」 

「ええ、少し小さいですが試作品の掛け布団です、ヒルク、膝にでも掛けてみなさい……」

「はぁ?……これは軽いですね?…………あ、温かくなってきました。なんですかこの布団っ?凄く温かいですっ!お父様もどうぞ……」

「…………軽い……この布団は凄い……なんて心地よいのだ…………これは何だゾーイっ!」

「ワシにも貸してくれっ…………ほうっ!……ほうほうほうっ!……これは羽の布団か?」

「お義父さま、その通りです……」

「しかし……羽の布団は使いづらい……なんじゃこの縫い目は…………んっ!そうかっ!羽を閉じ込めておるのかっ」

「お義父さま、その通りです……」

「これをシィナが?」

「デールよ何を言っておる?こんな羽を閉じ込める技法なぞ天才の発明じゃぞ?なぜそこでシィナの名が出てくるのじゃ?」

「お義父さま、不正解です……これもシィナが考案した技法です」

「なぬっ!?どういうことじゃ?シィナはこんなに可愛いのじゃぞ?」


 お祖父様はだいぶ混乱してるようです……


「ゾーイ、この羽はなんだ?どこから仕入れた?」

「そこらにいるモコモコの羽です」

「あのモコモコか…………なるほど……これは金になるな……」

「昨年から綿花が少し不作気味ですから、民の懐もとても助かりますね」


 ん?今って綿が高いの?それは初耳だ。


「この技法を民に公開すれば自分たちで作ることも出来るし、他の街に作った物を売りにも出せる……まぁこの技法は簡単に真似されるかもしれないが、モコモコはどこにでも居るわけではないからな……国にとっても有益な話になる……」

「なるほど……経緯はよくわからぬが、この軽い布団は野営するような連中もたぶん欲しがるぞ……冒険者や軍人たちも重宝しそうじゃ」

「縫い方一つでここまで大きな話になるとは思っていませんでした……」

「モコモコの羽を刈る職人を育てても良さそうですよね、アナタ」

「そうだな……モコモコは凄い数がいるからな、専門職も欲しいが、羽を保管するような倉庫も欲しいな……」


 色々な意見が出てくる……貴族は人を動かすのが上手い。

 だけど結果的にそんなに強引にはならないので、ここの領主であるお父様は人々から信頼されているみたい。

 前の甘味騒動も王都で出店準備が進められている。

 私も色々な提案を出したら採用されたし……結構柔軟。

 物語の貴族は傲慢でプライドばかり高いイメージの悪役が多い。 

 私の読んだ小説では多かった……だけど私の読んだのはファンタジー小説ではなく、リアル寄りの小説だ。

 やっぱり嫌な貴族もいるのかな?そこは不安なところかな。

 でもリンドブルグ家は嫌な感じはしない。

 まだお祖父様は苦手だけど……


 今日も家族会議という名のお金儲けの会議は続く……私はもう寝たいよ……

 お金は大事……それは私でも分かる。

 だけど8歳児にはもう限界なのでレーアと一緒に退散した。

 今日は色々と疲れたよ…… 



 ……屋敷が少し怖い。

 理由は簡単……それは昨日帰ってきたお祖父様がいるから。

 どこで遭遇するか分からないの。

 お祖父様探知機が欲しい……だけど今は必要ないようです。

 早朝、お祖父様は朝の稽古を庭でしていた。

 たぶん毎日の日課なのだろう……私も着替えが終わり、魔力を体に巡らせる。

 私の魔力制御も毎日暇な時に自然としている、もう遊び感覚だ。

 普通にやっても飽きてくるので流れをゆっくりにしたり高速で流してみたり、逆の流れをしてみたりするのも面白い。

 いつでもあやとりが出来る感覚なので色々と試行錯誤してしまうのです。


 庭のお祖父様も剣の素振りをしているが、ずっと同じ動きではない、時に鋭くなったりして動きがたまに変わる。

 ジッと2階の窓から隠れて見て観察していると、お祖父様に気付かれそうになる……キョロキョロとしてからこっちを見そうになるので、私は咄嗟に頭を隠す……視線に敏感なのか?凄いな……

 だが私は見つからないように別の窓に移動してからお祖父様をまた観察する……ふふっ、これなら見つけられまい。

 ずっと私の視線を感じながら素振りを続けるがいい……気になるでしょう?


「お嬢様、朝食の用意が出来ました…………何をしているのです?」

「ただ魔力制御をしていただけですよ?今日もいい天気ですっ」

「そう……ですね?」


 レーアと一緒に食堂へ向かうと、玄関扉が開いてお祖父様が入ってくる。


「先代様、朝食が出来ておりますよ」

「むっ、そうか………………シィナ……おはよう……」

「……おはようございます……お祖父様」


 まだお互いにぎこちない……お祖父様は静かに喋って私を刺激しないようにしてくれている……気遣いは嬉しいが、まだ気軽に話せる気がしない。


「先代様、こちらで汗を拭いてください……汗臭いとシィナお嬢様に嫌われますよ……ではお嬢様、お先に食堂へ行きましょう」

「ああっシィナ……」


 レーアはお祖父様にタオルか何かを渡してから私を食堂へ歩かせる。

 若干……レーアが冷たく感じた……いや、お祖父様から私を遠ざけたのかな。

 さすがレーア……私を第一に考えてくれる……だけど、少しお祖父様が可愛そうに感じた……



 昨日は皆何時まで会議をしていたのか分からない。

 食堂の家族は皆疲れた顔になっていた……私のせいじゃ……ないよね?エヘヘっ………ごめんなさい。

 普通に朝の挨拶をして普通に食事を食べる。

 それにしても……この食事…………美味しいけど、物足りない。

 基本の味付けが塩しかないのかな……段々と醤油や味噌などの味が恋しくなってくる。

 でもこればっかりはしょうがないよね……あまり考えないようにしよう……


「今日はデールもヒルクも外か?」

「いや、今日は書類仕事をするよ、ヒルクにも手伝ってもらうぞ」

「はい、お父様。私も書類仕事に慣れてきたんですよ、お祖父様」

「ヒルクは頭がいいからのぅ」

「お祖父様はどうなされます?」

「今日はのんびりするとしよう……さすがに歳のせいか、いつもの素振りが調子が悪くてのぅ」 


 …………私の視線のせい?……いやいや、違うよね?…………違う……よね?


「おや、珍しい……父上も歳には勝てませんか」

「ワシをなんじゃと思っておる……まったく……」

「シィナは今日はまた勉強かい?」

「シィナお嬢様は基本文字を覚えたばかりですので、復習を兼ねて読書をするのが良いかと思います」 

「…………そうか、基本文字も忘れておったか……ふぅむ……魔法の方はどうなっておる」

「魔力制御は出来ています」

「じゃあ、基本の魔法も少し教えていきましょうか……最近色々と忙しかったからね……まだ……忙しいけどね……はぁ……」


 おおっ!?魔法っ?使えるようになるんだ?テンション上がるよっ!

 魔法少女シィナちゃんだねっ!くぅぅっ!いいっ!いいよっ!

 お母様が教えてくれるのかな?ワクワクするっ!


「奥様の準備が出来るまではお部屋で読書をしましょうね、シィナお嬢様」

「分かりましたっ」



 私はルンルン気分で部屋に向かう。

 魔法っ!どんな感じなのかなぁ……男の子のゲームはやったことないけど火の玉とか氷の塊とか出せるのかな?それともアニメで見たようなキラキラした感じ?

 はっ!?衣装……衣装はどうするの?変身する系?魔法少女はみんな変身してるよ……でもあんな可愛いのは……ううっ……またピンクのフワフワを着るの?


「お嬢様?大丈夫ですか?なにやら難しいお顔になっていますが……」

「んあ?……な、なんでもありませんよ?ほほほっ」


 とりあえず読書をしながら考えよう……



 レーアが持ってきてくれた本は簡単なお子様向けの児童書だった。

 簡単な文法ばかりなので今の私にはとても読みやすい。

 読みやすいのだけど、正直つまらない……もう少し難しいのがいいけど、私は難しすぎる本では居眠りしてしまう気がする。

 病室では睡眠導入剤だったからなぁ……

 それにこのぽかぽか陽気もいけないのよ……自然と考える力が奪われる……

 つまり、もう眠たくてしょうがないのだ……


「…………うっ……もう無理……」


 ちょっとだけ……ちょ〜っとだけ寝よう……


「お嬢様っ!!お客様がいらっしゃいましたよ!」 

「はっ!はぃ?」

「1階の応接室へ通してあります。 さあ、お嬢様」


 まだハッキリしていない頭だったけど、なんとか階段を降りて歩いていく……応接室はここだ……っていうか誰が来たの?私にお客さんなんて誰も来ないと思うけど……なんか……応接室からは話し声もするし?

 誰か対応しているのだろうか……とりあえず開けるしかないよね?


 扉を開けて中を覗くと…………お祖父様がいたっ!


「おお、シィナ…………お前に客だ……ほら……」

「は、はい、失礼します…………あっ!」

「お嬢様っ!先日ぶりですっ!いやぁ〜まさかヘンリー様がご帰還なされていたとは思いませんでしたっ!」


 お祖父様と一緒にいたのは鍛冶屋のドワーフさんでした。

 完全に頭から抜け落ちていた……ごめんなさい。


「まさかお前が来るとは思っていなかったぞ、しかも我が孫が注文していたとは」

「お嬢様、注文の品を持ってきましたっ、お嬢様、ご確認してくださいっ!」

「ああ、もう出来たのですね……では確認してみますっ」

「もしも出来が悪い場合は言ってください、作り直してきますっ!」


 立派な木箱に入っているけど……蓋を開けてみる。

 蓋はスッと取れて中身が姿を現す……いい箱です。

 …………見た目は……どこからどう見ても泡立て器そのもの。

 金属の輪っか部分も丁度いい太さと長さだし、取っ手の部分は何か彫り込まれていて、とても高級そうに見える。


「ん?なんじゃこれは?」

「お嬢様が言うには台所で使う調理器具のようですが……ワシにもよく分かりません」


 手に持って少し振ってみる。

 チャッと金属の音がする……たぶん強度も良さそうだ。

 それに結構軽い、私が持っても軽く感じるので十分軽い。

 これが重かったら地獄の作業になるよ……


「シィナ、それは…………どう使うものなのだ?」

「え、えっと…………卵の白身をこれでかき混ぜます……」

「……白身?あの透明な部分を?そうするとどうなるんでしょうか?」

「泡立ちますっ」

「ああ、それで泡立ち器という名前なんですね?」

「……泡を作ってどうする?……まさか……遊ぶ為ではないじゃろうな?」


 お祖父様の目つきが怖くなる……ちゃんと孫でも叱るような目つきだ。


「いえ、泡立てた卵白は料理や甘味に使えるようになるのですっ!」

「ほう?」

「……シィナお嬢様、実際にやってみてはいかがでしょう?その道具が使えるかどうかの検証にもなりますので」

「そうですね、ドワーフさんも一緒に見ますか?」

「へい、出来れば……ワシも気になっています」

「よし、レーア、先に厨房へ行って支度せよっ」

「レーア、ボウルと卵があればいいわっ」

「かしこまりました……」


 レーアが先行して厨房へ行った。

 料理長のジュリエッタさんの迷惑になったらどうしよう……

 というか……何を作ろう?

 メレンゲの可能性は色々ある……そのまま焼いてもいいよね?

 でもやっぱり甘くしたい……だけどケーキ系は型もないから無理。

 となると……一番簡単なモノにするか……フライパンがあれば出来る。


「ドワーフさん、今度また注文しに行きますね、今度は型を作って欲しくて」

「型?何の型ですか?」

「ん〜……甘味を作る型で……焼き窯に入れます」

「今ここで注文を受付ましょうか?」

「シィナ、今注文した方がいいのではないか?」

「いいえ、少し説明が面倒なので、今度街に行きます……それに……お友達にも会いたいし……」

「なるほど、逢引ですかな?お嬢様」

「シ、シィナっ!?なな、な、なにっ!?逢引……」

「お祖父様っ!宿屋のハチカちゃんに会いに行きたいのですっ!!ドワーフさんのおバカっ!!」

「うっ!も、申し訳ありませんっ!てっきり……」

「お主の勘違いじゃ!ワシの可愛い孫は男になんか興味ないわっ!まだ8歳じゃぞっ」

「そろそろ行きますよっ!もうっ!」


 応接室から食堂は近いので、すぐに厨房へ移動した。

 そういえば……お祖父様と普通に会話出来てる?いつの間に出来たの?

 記憶にない……ついさっきの事だけど……


 厨房はお祖父様が来るからか全員が背筋を伸ばして待っていた。

 作業の途中でごめんなさい……


「お嬢様、用意は出来ております、他に何かあれば料理長が対応すると言っておりますので……」

「レーア、ありがとう。 ジュリエッタさん突然来てすいません」

「いいえ、シィナお嬢様は大歓迎です、また何か変わった事をするので?」

「ほう、ジュリエッタが随分シィナを買っておるな、珍しい」

「アタシはシィナお嬢様が天才だと断言できますので、凄いのよヘンリー様っ!……って鍛冶屋の……アンタまできたのかい?」

「ワシの新作がどう使われるのか気になっただけじゃ……お前はあいかわずだの……」


 ジュリエッタさんとドワーフさんは仲が悪いのかな?

 正直そんなに興味はないけど……

 さて、卵を黄身と白身に分けよう……


「ほれ、シィナが何かするぞ……黙って見ていろ……」

「……卵は何個必要です?」

「取りあえず……3つあれば大丈夫です、あと塩も少し使います」

「塩だね、そこの箱が塩の容器ですよ」

「ありがとうございます」


 ボウルに卵の白身だけを入れる……黄身は割れないように殻を移動させる。

 それを3回……丁寧に……


「白身を分けるなんてしたことないよ……はぁ〜器用だね、こっちの黄身は使わないのかい?」

「後で使います、これからが本番ですよ」


 側に置いてあった泡立て器を持って白身を混ぜ始める。

 一応洗ってくれていたらしい。

 シャカシャカとボウルの白身を混ぜるのだ……一心不乱に混ぜるっ!

 ……正直電動タイプがあればもっと楽になるがこれはしょうがない。

 ひたすら混ぜるっ!


「ほう、確かに細かく泡立ってきたな……」

「なるほど、こう使うのか……ふぅむ……」

「何の器具かと思ったけどこういう風に使うんだね……」


 気が付いたら厨房の人たちが集まっていた。

 私は手首のスナップを効かせてひたすら混ぜるっ!

 でもまだまだだ……まだ全然足りない……ぉぉぉぉぉおっ!


「はぁはぁはぁ……疲れた……誰か代わってください……」

「じゃあアタシが……」

「待てジュリエッタ、ワシがやろう……」

「ヘンリー様が?」

「ふふっ任せておけ……」


 お祖父様が作業の続きを引き受けてくれる……ボウルが小さく見えるよ……


「うぉおおおぉおおぉぉっ!!」


 お祖父様は私の様に手首をスナップさせて私より高速で泡立て器を使っていく……凄い……勢いが止まらない……もうすぐ出来そうだ。


「ジュリエッタさん、オムレツを作りますので、塩を投入してください……塩加減は任せますっ」

「これをオムレツに??じゃあこれくらいだね……」


 自動泡立て器になったお祖父様はまだ高速で動いている。

 ジュリエッタさんはそのボウルに塩を2つまみ程投入した。


「お祖父様、一旦止めて見せてください」

「んっ!……どうだ?」

「ちゃんとつのが立っていますので、もう十分です、誰かフライパンにバターを入れて溶かして下さいっ」

「お、俺がやりますっ」


 若い男性がフライパンを温めてくれる……その間に……


「ジュリエッタさん、黄身をその中に投入してください」

「はいよっ」

「お祖父様、今度はゆっくりと黄身を混ぜ込んでください」

「こう……か?」

 

 徐々に黄身が混ざって、メレンゲが黄色くなる……

 よし、そろそろいいね……


「お嬢様、もうすぐバターが溶けますが、どうしましょう?」

「弱火にしてください……後は……私がやりましょう、お祖父様、ありがとうございます。……とても助かりましたっ」

「そうか?……そうか……ワシも嬉しいぞ……シィナの役に立てた……」


 お祖父様からボウルと泡立て器を受け取ってフライパンの方へ移動する。

 失敗してもいいように半分だけ作ろう……

 ここで失敗したら最悪です。

 ボウルの中身を半分程度フライパンに入れていく……弱火で素早く混ぜ、ある程度火が通ったら……半分に折る……皿に乗せて完成〜。

 表面は少し焼き色が付いて、中の卵はフワフワになっています。

 

「スフレオムレツです、試食してみてくださいっ」


 皆が、おおっと驚いていた……

 先にお祖父様がフォークで一口食べだした。


「……っ……これは……口の中で溶けたぞっ……雲のように柔らかい……」

「ワシにも一口くれっ!…………なんだこれはっ……本当に溶けた……」

「アタシにも残せバカモノっ!……これしかないよまったく…………んっなるほどねぇ……シィナお嬢様、その残りは焼いてもいいのですか?」

「ええ、ジュリエッタさんなら私より上手いですからね、お任せします」


 ジュリエッタさんは素早くバターを溶かして私以上にフワフワに仕上げていった……あ、私も一口貰う…………んっまぁいっ

 レーアや他の使用人さんたちも試食して驚いていた。


「シィナお嬢様、この泡立て器……ですか?これは凄い発明ですよっ」

「もう2,3本追加で作れるか?」

「へい、何本でも作ってきますよっ!」


 今度はお祖父様がドワーフさんに追加発注したようだ。


「ジュリエッタさん、さっきは塩を入れましたけど、砂糖を入れたらどうなると思いますか?」

「お嬢様はやはり天才だよっ!お前達、この泡立て器を使いこなしてみなっ!」

「「はいっ!料理長っ!」」


 厨房の使用人さんたちは気合が入ったようで、卵を取り出して各自で練習が始まった。

 私とレーア、お祖父様とドワーフさんは大広間まで歩いていく。


「まさかあの変な形の道具がああいった使い方をするとは思ってもみませんでしたよ……シィナお嬢様、型の注文もお待ちしていますよっ」

「今度行きますね、その時は宜しくお願いします」

「へいっ!ヘンリー様、お嬢様、今日はありがとうございました、では追加で作ってきますっ!」


 ドワーフさんは上機嫌で街に帰って行った。


「シィナお嬢様、また奥様が会議をするかもしれませんね……」

「うっ……」

「アーッッハッハッ!なるほどのぉ!これでは毎晩家族会議じゃなっ!」

「お祖父様、少しは助けてくださいっ!」

「いやぁ〜、あの美味い卵を食べてはどうしようもないぞ……ジュリエッタのことじゃ、多分昼か夜にでも出してくるぞ」


 私抜きでやって欲しいよ……


「……お母様にはそれまで秘密にしてください……」

「分かった、これから魔法の訓練じゃないのか?」

「レーア、お母様の様子を見てきてくれる?私は部屋にいますから」

「かしこまりました、お嬢様」


 レーアはお母様のところへ向かってくれた。

 私は読書の続きでもしていよう。


「シィナ……」

「はい、お祖父様」

「ああ〜、そのじゃな……」


 大きい体のお祖父様が珍しくモジモジしている。

 ……昨日のことかな?……ちゃんと言っておいた方がいいよね。

 もう怖くないし……なんか慣れた。


「お祖父様、昨日は取り乱してしまい申し訳ありませんでした……私が心配だったのですよね?」

「う、うむ……」

「遠くから急いで来てくれてありがとうございます、今の私は……記憶がないのでごめんなさい、でもお祖父様は優しいとよく分かりました、これからも宜しくお願い致します」

「シィナ……お前は本当にいい孫じゃ、記憶がなくてもシィナは優しく聡明でワシは安心した……また一緒に遊んでくれるか?」

「お祖父様がよければ私と一緒に遊んでくださいっ」

「おおっ!おおっ!シィナッ!ワシは嬉しいぞぉ!」


 また昨日のように大きな手で持ち上げられる。

 こんなに高く持ち上げられたのは人生で初めてだ。

 昨日とは違い、お祖父様の高い高いは面白かった、結構爽快で気持ちいい。

 もしかしたらシィナちゃんはこれで喜んでいたのかもしれない。

 そういう私も今は笑顔なっている。


「おおっと、すまんまた興奮して持ち上げてしまったっ、大丈夫かシィナ」

「ふふっ、お祖父様は力持ちですねっ」

「……以前にもそう言ってくれたのを思い出したぞ……シィナ」


 今度は大きい手で頭を撫でてくれる……硬くて無骨な手だ。

 だけど、とても安心できるのは愛情があるからだろう。


「あら?お義父さま、シィナと仲良くなったのですか?」

「んっ?ゾーイか……ああ、ワシとシィナは仲良しじゃよな?」

「はい、お祖父様っ」

「そう、シィナ良かったわね」

「はい、お母様っ」

「先代様、旦那様が探しておられましたよ」

「むっそうか……ではシィナ、また後でなっ」


 お祖父様はニコニコ笑顔で2階へ上がっていった……執務室かな……


「お母様、もう宜しいのですか?」

「ええ、これからシィナの部屋で軽くこの本で魔法の基礎を教えます、午後から庭で実践してみましょうね」

「はいっ!お母様っ」


 うぉぉおっ!魔法の勉強だぁ!


 

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