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黒髪賢者の恩返し  作者: しんのすけ
第4章 黒髪の賢者
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第50話



 レーゼンヒルクへ行くには馬車で約10日前後掛かります。

 ですが私の回復薬が効いたようで、お馬さんは快調に走って行くのです。

 途中の街に寄ってその土地の特色を見るのも楽しいです。

 王都から離れた街の人も、この黒髪を見て賢者と認識していました。

 景色は完全に秋になって紅葉が色とりどりで、リンドブルグ方面よりも自然が豊かな気がします。

 3日毎にお城とお母様に顔を見せるのも欠かしていません。

 途中の街に着いたら、夜中に上空へ飛んで行って魔素の消費をしていきます。

 始めて見る景色なので、結構楽しんでいます。


 そしてレーゼンヒルク領へ行く途中、結構魔物と遭遇しました。 

 と言っても、フォルナちゃんとエドニス先輩は慣れたもののようで、護衛の兵士さんと一緒に簡単に魔物を討伐していました。

 二人共魔法はとても上手です……特にフォルナちゃんの上達具合は目まぐるしくて、この1年で魔力操作がかなり上手になっていました。


「頑張りましたっ!」


 フォルナちゃんは胸を張ってそう言っていましたが、かなり頑張らないとここまで上達はしなかったでしょう。

 エドニス先輩も上級生だけあって、剣の腕前も魔法の威力も凄かったです。

 ……筋肉でも鍛えているのでしょうか……以前より胸板が厚くなった気がします。

 そうです、貴族はお姉さんが思っている以上に強いのです。

 

「ん?……てやっ」

 

 遠くの魔物に土魔法が命中しました。

 やっぱり北は少し魔物の数が多いですね……たくさん魔素を消費しないといけないようです。


「賢者様の魔法は凄いな……」

「お兄様、アレはたぶんシィナちゃんからすれば生活魔法程度ですよ」

「……アレが生活魔法?……あり得ない威力だ」

「ちょっと周辺の魔素を減らします、少々お待ち下さい」


 馬車から少し離れて全力魔法を空に放つ。

 杖を使うと音が凄いので、杖無しの風魔法です。


「……雲が無くなった」

「アレがシィナちゃんの本気の魔法ですお兄様。空が震える程の魔法です」  

「お待たせしました、行きましょうか」


 よし、魔素を減らせました。

 馬車で昨日街で買ったクッキーでもつまみましょう。


「レーア、クッキー食べたいですっ」

「お嬢様、少し我慢してください。もうすぐ次の街だそうですよ」 

「今食べたいですっ」

「ダメです」

「……レーアのけちんぼ」

「……おやつ抜きにしましょうか?」

「それは嫌なので……我慢します」


 まったく……融通の利かないレーアです。

 ……ん?

 

「フォルナちゃん、エドニス先輩、行きますよ〜」

「……あ、ああ、今行くよ」

「シィナちゃんは愛らしいですねぇお兄様ぁ?」

「………………」

 

 早く街で何か甘味を食べたいです。

 魔法で移動すればいつでもジュリエッタさんやエイドジクスさんの甘味は食べられますが、それをするとせっかくの旅が台無しなのです。

 現地で発見する甘味は一期一会ですからね。

 ……まったく、お姉さんのお陰で私は甘味が大好きになってしまいました。

 今度会ったら文句の一つでも言いたいですね。



 今日で8日目……結構早くレーゼンヒルク領にやってきました。

 ここの空気もとても澄んでいて清々しい感じです。

 リンドブルグ領のように、のどかでいいところのようです。


「ここがレーゼンヒルクですよね?」

「はいっ。領民も優しくて大好きな街です」

「…………シィナさん、家族に会った時でいいから、女神様の事を詳しく聞かせて欲しい……大体は理解していますが……」 

「はい、エドニス先輩。今夜にでもお話しましょう」


 フォルナちゃんの両親とは会った事があるので緊張しなくて済みそうです。

 この領地も何かのお店があったり、平民の通う学園があったり……馬車に駆け寄ってくる子供たちもフォルナちゃんは笑顔で手を振っていました。

 ここレーゼンヒルクでも収穫祭があるようで、フォルナちゃんから花火の魔法で領民を驚かせて欲しいと頼まれました。

 魔素消費のいい、盛大な花火を上げましょうか。


 そして大きいお屋敷が見えてきました。

 間違いなくあそこが領主様の……フォルナちゃんの実家でしょう。

 一応魔素具合を確認しておくと、ほぼリンドブルグ領と同じくらいでした。

 お屋敷に到着したので、私はまずこの風景を頭に刻みます……見える風景、お屋敷、地面……匂いも覚えていきます。


「フォルナちゃん、一度お母様に報告してきますね。レーア、すぐに戻ってきます」

「はい、シィナお嬢様。お待ちしております」


 魔法を使うとすぐに地面が切り替わる……よし、成功です。

 距離は今のところ大丈夫ですね。

 お母様にレーゼンヒルクのお屋敷に到着した事を報告して、すぐに移動魔法を使って戻ります。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ただいま、レーア」


 とりあえず客間に通されましたので、この部屋もしっかり覚えます。

 この後は移動魔法を連発していきます。

 王都の屋敷に置いた荷物をレーアと3往復して運びました。


「これで完了ですね。忘れ物があったらいつでも言ってくださいね」

「最初は移動魔法に慣れませんでしたが、もう大丈夫です……旅が格段と楽になりましたね」


 レーアも移動魔法に慣れてきたようです。

 便利過ぎますね。

 魔素も消費されているでしょうから、いい事尽くしです。



 客間で休んでいると、フォルナちゃんが訪ねて来たのでフォルナちゃんの部屋に招待されました。

 実家の私の部屋と同じような感じですが、書棚にはたくさんの小説があります。

 全部……全部、恋愛物の小説ばかりで、フォルナちゃんの愛読書をおすすめされました。

 お姉さんは可愛らしい小説は苦手だったようですが、私は結構好きです。

 私がお姉さんの記憶と同調させていた時は、あちらの世界の小説で感動した記憶があります。

 内容は勿論いいのですが、私が感動したのは挿絵という文化です。

 この世界には植物図鑑や魔物図鑑などには絵がある場合がありますが、小説の大事な場面を絵にするという、画期的な物があったのです。


「……この小説にも挿絵があれば……」

「……シィナちゃん、さしえってなんでしょうか?」

「あ、ええと……物語の印象的な場面を絵にする事です」

「え?え、とは……芸術の絵の事ですか?」

「そうです、例えば……ここの水湖のお姫様と騎士が微笑み合う場面を絵にする感じです」

「私の大好きな場面ですっ……ここの部分に絵を…………シィナちゃんならどのような感じで描きますか?」


 ……私なら……お姉さんの記憶の中の挿絵では……

 フォルナちゃんから白紙とペンを受け取って、イメージを紙に書き込んでいきます。

 男性の目はキラキラしていて、目線の先にはお姫様……人物の後ろは花びらが舞っていて……こんな感じですかね。


「……まぁまぁまぁっ!素敵ですっシィナちゃん!」

「そんなに絵は得意ではないですが、挿絵というのはこのような感じです」

「コレが挿絵……本を開くと人物が描かれている……こ、これは革命です!!」

「フォルナちゃん?」


 大興奮してしまいました。


「職人を……職人が必要ですっ!コレは小説界の革命です!頭の中の人物が絵になるなんて、一体どこでこのような手法をお知りになられたのでしょう!」


 ……これは説明が必要です。

 私はお姉さんの記憶やあちらの文化を丁寧に説明しました。

 ああ……もう日が落ち始めました。


「……なので、小説以外にも……教材などにも挿絵文化はありましたね」

「さすが当代の女神様の世界……いえ、日本とは素晴らしい国家ですっ!」


 フォルナちゃんの情熱はなかなか冷めません。

 もしかしたら近い内に挿絵職人を育てる事になるかもしれませんね。

 ……お姉さん見てますか?私たちの親友はキラキラと輝いていますよ。



 夕食の席は盛大な歓迎会をして頂きました。

 レーゼンヒルク家の料理長が張り切っていたのです。

 何度もお礼をしてきた料理長は本当に嬉しそうにしていました。

 お姉さんのレシピでこの世界の食事が向上した証でもあります。

 私は検索魔法でレシピを見ることはできますが、香辛料や調味料の事は詳しくはないので、他のレシピは想像で伝えるしか方法はありませんでした。


 そしてレーゼンヒルク家の方々にお姉さん事を説明しました。

 王家が全ての貴族に伝えてはくれましたが、私の口から聞きたいそうです。


「お父様、先程私も当代の女神様の居た国の事を聞きました。小説好きな私でも考えもしないような事を教えて頂きました。食事だけではありません……女神様の知識は間違いなく別世界の知識です」

「ほう、フォルナが珍しく熱くなる程か」

「…………一つ確認したい事があるのですが……いいですか?シィナさん」

「エドニス先輩、なんでしょう?」

「私は今まで……女神様とお話していたのですか?」


 ……まあ、そうなりますね。

 これはリンドブルグの家族も驚いていましたからね。


「はい。8歳から私の中に……女神様がいましたから」

「……そうですか…………私と踊った時もですよね?」

「はい。私は見ているだけでした」


 そう言うとエドニス先輩は黙り込んでしまいました。 

 何か考えているようでしたが、この日は口を開く事はありませんでした。



 翌日からフォルナちゃんに街を案内されて、色々なお店や景色を見に行ったりします。

 リンドブルグよりも源流に近い場所なので、大きな川は凄い景色でした。

 それからフォルナちゃんは子供たちから大人気でした。

 どこに行っても領民が話し掛けてくるので、老若男女関係無くとても愛されているようです。

 ……私は髪を引っ張られましたが、子供たちと遊ぶのは楽しいです。


 リンドブルグの収穫祭と同じ様に大広場でお祭りが開催されるようで、街は活気で溢れていました。

 ちなみにお姉さんのレシピはここレーゼンヒルクでも大人気だったらしく、屋台やお店でも美味しい食べ物がありました。

 リカンケーキに似た、メカンケーキというのもあります。

 レーゼンヒルクで採れるリカンの実はメカンの実と言われているので、同じ実でもメカンケーキは濃厚でとても美味しいのです。

 こういうちょっとした違いはとても新鮮に感じますね。


 フォルナちゃんのお友達も紹介されました。

 小説好きの少し大人びた女の子です。

 挿絵をフォルナちゃんが説明すると、意気投合して盛り上がっていました。

 大人びて見えても中身はフォルナちゃんと同じで、恋愛好きの普通の女の子でしたね。


 そして収穫祭当日は私の……賢者の噂を聞いた人々が押しかけてきました。

 私もレーアも戸惑いましたが、エドニス先輩やレーゼンヒルクの兵士さんたちが長蛇の列を上手く捌いてくれました……

 隣町や周辺の村から集まってきたようです。

 一度賢者を見てみたいとか、魔物被害が最近多いとか、色々な悩みを持つ人たちです……そこは大丈夫です。

 今は空いた時間を使って魔素を消費していますから。

 多少は魔物対策になっている筈です。

 ただ挨拶したい人もいて、お姉さんの世界でいうアイドルという感じでした。


 日が傾いて、夕方前頃に……ようやく長蛇の列が無くなりました。

 私の周りには屋台の食べ物や果物とか野菜とか……たくさん頂いてしまいました。

 ……私は女神様ではありません……お供え物をされるような者ではないのです。

 これどうしましょう?山になっています…………丁度いいので、行きますか。


「フォルナちゃん、すぐ帰ってきますっ」

「はい?」


 景色が変わり、ここは私の実家の部屋です。

 そして椅子に座るっているのは……


「……来たか、黒髪の賢者よ」

「………………」

 

 足を組んで格好をつけていますが、無視をして肩に手を置きます。

 すぐに視界が切り替わりフォルナちゃんの目の前に帰ってきます。


「うわっ!……いてて、転んだではないか妹よっ」

「……ダリル……様?」

「フォルナ……さん?」


 お互い数秒だったけど、固まってしまいました。

 ……お兄様、妹の目の前で頬を赤らめるのはお止めください。


「……おっほん!お兄様!……お兄様!」

「はっ!?な、なんだ妹よっ!?」

「ここはお兄様が思っているようにレーゼンヒルクです。お兄様をお呼びしたのはレーゼンヒルクの人々に頂いた供物……じゃなくて、善意の贈り物を持って帰って欲しいのです」

「はぁ…………アレをか?……凄い量だぞ?」

「頑張ってください」

「えっ!?シィナ?どうすればいいのだ!?」


 ……少しは反省してください。

 約束通り私の部屋で待っていたのですから、フォルナちゃんに会いたかったのでしょう?まったくダリルお兄様は……


「レーア、この果物とかを運べる木箱を借りてくれますか?半分はレーゼンヒルク家の料理長へ」 

「かしこまりました。料理長へお伝えしてきます」

「……お兄様、木箱へ詰める作業を手伝ってください」

「お、おう?構わないが……」

「フォルナちゃん、すみませんがお兄様の作業を手伝ってあげてくださいね」

「…………はいっ!ダリル様のお手伝いをします!」


 フォルナちゃん、良かったね。

 ……頑張れ、ダリルお兄様。



 何個かの木箱を料理長が運んでくれて、今はお兄様もフォルナちゃんも仲良く箱詰め作業をしています。

 ……レーゼンヒルク家の分はレーアと料理長に任せましょう。

 そろそろ私は杖を取り出して用意します。


「お兄様、フォルナちゃん、花火の魔法を使ってきます。もし何かあったら宜しくお願いします」

「ええ、お任せくださいっ」


 騒ぐ人や、驚く人もいるかもしれないからね。

 お姉さんは気遣いが出来る人でした。

 私も同じように最初は音を小さくしましょう。

 

 レーゼンヒルク領に打ち上げ花火の光が輝いていきます。

 以外とこの魔法は使う機会が多いので、もう私の得意魔法となりました。

 人が喜ぶ魔法は大好きなのです。

  


「お兄様、帰りますよ」

「一泊くらいは……」

「リンドブルグでも収穫祭なのでしょう?私と一緒に帰りますよっ」


 強制的にお兄様と木箱を移動させました。

 木箱をジュリエッタさんに預けると、リンドブルグでは珍しい果物やお野菜に興奮していました。

 ついでにこっちの収穫祭でも花火の魔法をお屋敷から使っておきます。

 もうお腹いっぱいなので動きたくありません。

 レーゼンヒルクの屋台の物を食べすぎました。


 花火はリンドブルグもレーゼンヒルクもみんな喜んでくれたかな……


「シィナァ……」

「……フォルナちゃんにはまた会えますから、自分を磨いて……申し込んだらいいのではないですか?」

「何を…………申し……込む……」


 お兄様は真顔になっています。

 その考え通りですよ、お兄様。


「フォルナちゃんも私もまだ学院生です。……狙い目は最終学年の卒業手前でしょうかね?それまでマメに連絡を取り合っていれば、たぶん大丈夫ですよ」

「……ああ……ああっ!頑張ってみるよっ!ありがとうシィナ!」


 それまで心変わりをしない事を祈りましょう。

 恋愛はどうなるかわかりませませんけどね。

 ……たぶん、女神様も応援してくれますよ。



 今日はもう王都に帰る予定です。

 レーゼンヒルク領での短い日々は充実した毎日でした。

 ……なかなか旅も楽しいものですね。

 見知らぬ土地、初めて見る動物や植物、リンドブルグでは見ることのできない景色……お姉さんの言うところの「ワクワクしますっ」という言葉が思い出されます。

 別の世界から来たお姉さんは、この世界の何にでも興味を示していました。

 そういえば以前、大陸一周とか……色々な国に行ってみたいとかを考えていた事がありましたね。

 比較的近い国はレーゼンヒルクの先にあるヒルデルート王国や山脈を越えた先のエストニア王国ですね。

 …………でも、賢者は他国に行く事を禁じられているので、それは実現しないかもしれません。

 今回は例外でヒルデルート王国へ賢者エトワルド様が調査に出向きましたけどね。

 例外とは、滅多にない事柄が起こった場合にのみ適応されるものです。


 そんな事を馬車の中で考えながら私はまだ見ぬ他国に思いを馳せます。


「フォルナちゃんはヒルデルート王国に行ったことはありますか?」

「ありますよ?レーゼンヒルクからだと、王都に行くよりも日数は掛かりますけどね」

「……どのような国でしたか?」 

「まだ子供でしたからあまり覚えては……お兄様は覚えていますか?」

「ヒルデルート王国ですか?……レーゼンヒルクよりも北にある寒い国なので、温かい料理とかが多くて……他はえ〜と…………ああっ、海があります」

「思い出しましたっ、広大な海を見ましたっ」

「海……海ですか」


 私は直接見たことはありませんが、お姉さんの記憶で知っています。

 見渡す限りの大量の水の事です。

 確か調味料のボボンは、海から採れる海藻から作られるのです。

 リンドブルグ領にある広大な森の先にも海がありますが、開通するのはまだまだ先のことでしょう。

 海かぁ……見てみたいですね。


 …………私は食べてみたい物があります。

 スシ……カレー……おにぎり……ギュー丼……ああっ!まだまだあります。

 ですがそれらに共通している食材があります……それはおコメっ!

 お姉さんは諦めていましたが、記憶の中で食べたおコメはとても美味なのですっ。

 ボボンを使ったスープはおみそ汁という、日本のスープによく似ていたのです……お姉さんが王都でボボンを見つけた時は私も感動してしまいました。

 しょーゆというしょっぱい調味料も見つけてあるのです。

 記憶と味は覚えていますが、自分の口で食べてみたいものです。

 後はおコメさえあれば、似ような物が作れるのですが……肝心なおコメが見つからないので日本食再現計画は頓挫しているのです。

 他国になら……おコメはあるのでしょうか。

 …………ああ……女神様、私におコメをお与えください。

 


 王都に到着した私は、お城へ報告をしに行きました。

 旅行中も定期的に来ていたので段々と慣れてきましたね。

 お城の中は貴族たちが世界会議に向けて忙しそうにしています。

 ご苦労さまです……私もまた補佐でもした方がいいですね。

 レーゼンヒルクで癒されましたから、頑張りますよ。


 いつものように王様に会いに行きます。

 帰った事を報告し終わると、王様が変な事を聞いてきます。


「黒髪の賢者よ、エストニアの事は何を知っておる?」

「エストニアですか?本で読んだ知識しかありません。リュデル王国を出た事もありませんからね」

「レーゼンヒルク領にも初めて行ったのであったな。まだ学院生であればそれが普通か」

「…………あの……何故ここにアルベルト先生が居るのですか?」


 アルベルト先生……賢者様の弟子……てっきりエトワルド様と一緒にヒルデルートの調査に行ったものと思っていました。

 ……個人的に見た目とかは魅力的に見えます……でも少し気まずいのです。

 

「シィナさん、ご一緒にエストニアに行きませんか?」

「え?」

「実は各国から前向きな返答が伝書鳥で届いたのです。世界会議はエストニアで行われる予定となりました」

「そ、そうなのですか?」

「ああ、つい先程まで話をしていたところでな……エストニアの第二王子であるアルベルト殿とな」

「釘を打たれてしまいました……シィナさんはリュデル王国の賢者だと。ですから、他意はありません。エストニアへ行きませんか?世界会議の為……女神様の為に」


 突然の提案に戸惑っています。

 ……ですがいいのでしょうか?


「賢者は国を出てはいけないのではないのですか?」 

「シィナさんには移動魔法もありますので、エストニアからでも帰ってこれるのではないですか?」

「レーゼンヒルクからでも何度か魔法で帰って来ていたからな。問題は無いと判断した」


 距離は確認する必要がありますけど、レーゼンヒルクの旅で思いましたが……中継点を作ればいいのではないかと考えていました。

 どれだけ離れていても中継点のイメージがあればどこまでも移動できるかなと……なのでたぶんエストニア王国に居てもすぐにリュデル王国へ帰還する事が可能だと思います。


「なのでエストニアへ行きましょう。シィナさんが各国の王族や教会へ直接説明する事が重要だと考えます。女神様を宿していた貴女が必要です」

「……我が国の貴族たちは、これまで女神様から受けた恩に感謝しておる。それは他国の貴族も同様だ。恩知らずの愚か者など貴族には居ない」

「エストニアの王族や貴族も同じ考えです。皆新しい女神様をお支えしたいのです」


 凄く感動してしまいました。

 全世界の貴族がお姉さんを支えたいと言っているのです。

 私も一貴族として誇らしいです。

 

 …………エストニアへおコメを探しに行こうとしていたのは内緒なのです。 

  


 こうして世界会議へ向けてやることがハッキリとしてきました。

 出発するのは冬が明けた春。

 私の誕生日が過ぎた後です。

 山脈越えをしなくてはいけないので、かなり厳しい旅になります。

 王族は勿論多数の貴族も同行するので、やはり女神様の事と魔素問題は世界の重大事項なのです。

 魔物被害で大変なヒルデルート王国も参加するとの事。


 それから人族以外の種族も来るとか……大陸中の知恵ある種族が一堂に会するようなのです。

 魔素問題をなんとかしましょう。

 ……女神様、どうか心安らかにいてください。


 

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