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黒髪賢者の恩返し  作者: しんのすけ
第4章 黒髪の賢者
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第47話



「シィナちゃん、ずっと王都の石碑巡りしていたのですよね?」

「うん、結構大変だったよ。路地裏とかにある石碑も確認したからね」


 フォルナちゃんや姉様と朝食を食べながらそんな会話をしていく。

 今日は学院も休みのようだったので、一緒にまったり食べよう。

 しばらく石碑巡りばかりをしていたので曜日感覚がなくなっていたよ。


「……不思議なのですが、シィナちゃんもレーアさんも日焼けしていませんよね?」

「うぐっ?」


 私もレーアも日焼けは一切していない。

 普通であれば炎天下の中、毎日外に行っていたら日焼けの一つや二つは絶対にするものである。

 この世界には日傘文化もないので、お貴族さまが移動する時は普通馬車だ。

 でも私は毎日ポニーちゃんに普通に跨がっているだけである。


「フォルナちゃん、前に凄く熱い夏に私のお水を飲んだの……覚えてる?」

「……あれは秘密のお水……ですよね?」


 フォルナちゃんが熱中病になった時は私の水……回復薬でフォルナちゃんは助かった。

 一応回復薬という事も軽く教えています。

 ちゃんと秘密を守ってくれているようだ。


「あのお水で顔や体を拭くと……日焼けが治ります」

「はっ?」

「フォルナちゃん、この事も秘密にしていてね」

「は、はい、シュアレ先生…………凄いお水ですね」


 私の出すお水は日焼け止め以上の効果がある。

 日焼けとは、メラニン色素が紫外線を吸収してうんたらこうたらである。

 ……あれ?メラミンだっけ?うろ覚えなのだが、要はお肌がダメージを負っている状態なのだ……確か……たぶん。

 なので回復薬を使った洗顔で一発で治るという訳である。

 お母様と姉様で実証済みだったので、夏に回復薬洗顔は欠かせません。

 後でフォルナちゃんにもお水をあげよう。

 日焼け対策は女の必須項目である。

 ……小麦色のお肌も健康的に見えて可愛いけど、この世界の貴族令嬢は日焼けNGなのです。

 今日は回復薬販売もしている教会へ行くので、バレないようにしよう。

 朝食も食べ終えて、一応姉様に教会に行く事を伝えてから私とレーアは屋敷を出た。


 

 ……私の髪とポニーちゃんの尻尾が揺られること約30分。

 王都の教会前に到着する。

 リンドブルグの教会に比べてかなり大きい建物だ。

 ちゃんと鎮魂祭に使われるような広場もあって、とても綺麗に掃除がされている。

 お馬さん用の小屋もあるので、ポニーちゃんを休ませておこう。


 教会の扉を静かに開けてレーアと一緒に中に入ります。

 ……中も広くて天井が高い。

 でも基本的に作りは同じような構造のようで、女神さまの像が祭壇の奥にあった。

 久しぶりに女神さまの像をまじまじと見る。

 リンドブルグの教会と……あれ?少し違うかもしれない。

 まぁ、同じ場所で同時に作るような物ではないので誤差の範囲だろう。


「あ、あの、新しい賢者様……ですよね?」 

「はい、シィナ・リンドブルグと申します」


 一人の若いシスターさんが私におずおずと話しかけてきた。

 少し戸惑っているように見えるけど、可愛い感じのシスターさんだ。

 よく見ると礼拝堂には何人かのシスターさんたちが居て、こっちを全員が見ていた……女神さまの像に気を取られていて気付かなかったよ。


「えっと……賢者様が本日は何用でお越しになられたのでしょう?」

「教皇様はいらっしゃいますか?」

「お、お部屋におられますっ。呼んできますね!」

「ちょ…………行っちゃった」


 慌てたシスターさんはダッシュで私の目の前から消えた。

 教皇様を呼び出すなんて、なんだか高慢なお貴族さまのようで居心地が悪い。

 ……あ、お貴族さまでした。

 でも、おじいちゃんを呼び出すのはやっぱり気が引けるよ。


 礼拝堂の長椅子に座ってレーアと一緒に待つ。

 レーアも普段毎日お祈りしているので、女神さまの像に向かって何か祈っていた。

 待っている間にも何人かやって来て女神さまの像にお祈りをしています。

 ……これが日常なんだよね。

 一人で来る人もいれば、親子で来る人もいる。

 信仰とは心の支えだからね。

 みんな女神さまへ感謝を伝えているのだろう……


 そんな教会の光景を見ていると、さっきのシスターさんがこちらへダッシュでやって来た。


「お、お、おまたせ、お待たせしましたっ!ハァハァハァ……」 

「あ、慌てなくていいですよ。もっとゆっくり喋ってください」 

「あり、ありがとう……ございます……ハァ…………教皇様がお会いになるそうですので、こちらへどうぞっ」


 慌ただしいけど、誠意は感じる……から回っている感じだけどね。

 別の部屋に通されるようだ。

  

「レーア、行ってくるねっ」

「はい。行ってらっしゃいませ。私はここでお待ちしていますね」


 私は椅子から立ち上がって、あわてんぼうシスターの後をついて行く。

 礼拝堂から別の通路を進んで行き、階段を上ってすぐの部屋に通される。

 中に入ると、どうやら接客用の談話室って感じの部屋であった。

 お花が飾られていていい香りです。


「シィナ様、そちらでおくつろぎください。今お茶を淹れますね」


 落ち着きを取り戻したようで、普通に給仕をしてくれます。

 お花の優しい香りと、お茶の香ばしい香りはやっぱりいいものです。

 ……うん、美味しい。

 あわてんぼうシスターは慌てることなく美味しいお茶を淹れてくれました。

 そして扉がノックされて、教皇様がやって来た。

 

「シィナ様、お久しぶりでございます」

「突然の訪問失礼かと思いましたが……ええと、例の資料等を拝見したく……」

「……シスターを含め、教会関係者であれば女神様の件は全員が理解しておりますよ」


 まだシスターが部屋の中にいたので、気を使ったけど……全員知っているんだね。

 リンドブルグのシスターも女神さま不在の件は知っていたので、恐らく国中の教会関係者は知っているのだろう。


「では、教会の女神さま関連の資料などを拝見したいと思います」

「……それは構いませんが、他に質問などはありますか?これより女神様がお戻りになられるよう神父たちと祈る予定がありましてな……」

「教皇様、私も参加したく思います。一刻も早く女神様にお戻りになって欲しいのです」

「お前はシィナ様を書庫へ案内してさしあげなさい。……祈りはどこからでも女神様に必ず……届きますよ」


 シスターさんの肩に軽く触れた教皇様は穏やかにそう言った。

 質問か……お城で会った時はあまり質問もしなかったか。


「……教皇様、魔素を認識できる事は可能なのですよね?以前は教会関係者が調べたと言っていましたよね?」

「ふむ。…………教会にだけ伝わる魔法がありましてな。貴族様と違い魔力が少ない我ら平民でも使える魔法があるのでございます」

「その魔法を知りたいのですが、可能ですかっ?」


 魔法で認識できるのか。

 まずは魔素がどれくらいなのか確認しないと話にならないのです。


「わかりました……では、後ほど書庫に届けさせましょう」 


 教皇様は立ち上がり、シスターさんに指示を出してから談話室を出て行った。

 教会だけが知っている魔法か……結構興味がある。


「……教皇様だけでなく、各地の神父様も毎日夜遅くまでお祈りをしているのですが……女神様は何もお応えにならないそうです。我々は……見捨てられたのでしょうか……」


 シスターさんはポロリポロリと涙を流してしまった。

 ……何年も前から知っている教会関係者でこの有り様だ……やっぱりこの世界の人には女神さま不在の事実は耐えられないのだろう。


「それをなんとかしてみせる為に私はここにいますっ!賢者として頑張ります!」

「シィナ様……グズっ……しょ、書庫へご案内致しますねっ」


 大見得を切ってシスターさんを励ますと、少しだけ笑顔になってくれた。

 あまりこういう事は……できないかもしれない事は言いたくないけど、この世界を好きなのは私も一緒なので、頑張るよっ!



 お茶を飲み干してから、シスターさんに書庫へ案内して貰う。

 二階の奥の部屋が書庫のようで、早速中へ入る。

 ……そんなに大きくはないけど、立派な書庫です。

 紙の匂いに包まれるのは嫌いじゃない……落ち着きます。


「シィナ様、女神様の本は……たくさんありますが、どう致しましょう?」 

「では、古い物を何冊か……あと、おすすめの本はありますか?女神さまの事はあまり詳しくはないので……」

「でしたら……こちらとか……ああ、こっちも素晴らしい内容です」


 おすすめの本がどんどん増えて積まれていき、10冊を越えたところで私はストップをかけさせてもらった。

 恐ろしい……目がキラキラしてなんでも勧めてくるのだ。


 机があるので、そこに陣取って私は最初の本を確認する。

 ……古い本だ、恐らく内容は…………やっぱり古い言葉で書かれた本だ。

 でも古語は慣れたものである。


「……シィナ様は古い言葉も読めるのですね。さすが賢者様です」


 褒められたようだけど、私は集中してこの本に向き合う。

 ……女神さまの名前ってないの?

 とりあえず名前を知りたかったけど、女神さまは女神さまとしか書かれていない。

 読み解いていくけど、なんというか奇跡の事ばかりでいまいち内容が無い本だ……凄く魔法に驚いたとか、食事を教えて貰った通りに作ったら美味しかったなど…………小学生の読書感想文……いや、日記のような内容だった。

 古い言葉で書かれた本はアタリハズレが多いので、すいませんがあなたはハズレの方です。

 ペラペラと最後まで確認してからそっと本を閉じた。

 さて……とりあえずレーアが待っているので、お昼まで頑張りますかっ!

 気を取り直して別の本を手に取って読み進める。


 そして2000年が経った頃…………いや、実際は2時間くらいだけど、体感はそれくらい掛かりました。

 だって……全部ハズレの内容だったんだよっ!

 (………………)

 ……うん、あのシスターさんが勧める本はなんていうか……女神さまを讃えるような内容ばっかりで私の求めているような内容とは違ったんだよ。

 ああ、疲れた。

 ぐったりしていたところで、書庫の扉が開いてシスターさんが戻ってきた。


「シィナ様、教皇様からお預かりした魔法の本です」


 例の魔法の本を持って来てくれたようだ。

 よし、この本を見て今日は一旦帰ろう。

 もうすぐお昼だし、たまに喫茶店で食べるのもいいね。


「…………ん?」


 これは……あれ?

 私は2回読み直すくらいページを戻ったり進んだりしていく。

 何度も確認していくと、11時を告げる鐘が鳴る音が聞こえてきた。


「……そろそろお昼ですので、今日はこの辺りにしておきます。明日また来ますね」

「はい、かしこまりました。教皇様へも報告しておきますね」


 本はちゃんとしまってから、私は書庫を後にした。

 シスターさんと礼拝堂で別れてから、レーアと合流して一緒に教会を出る。

 

「レーア、暇じゃなかった?大丈夫?」

「たまにポニーちゃんを見に行ったりしたので、退屈ではありませんでした」


 帰り道はポニーちゃんに乗ってレーアと会話をしたりする。

 結局お昼は屋敷に帰ることにした。

 ……後で試してみるか。



 屋敷で昼食を食べ終えて、私は外に出てお庭を一人で散歩する。

 少し怖いけど、試して確認しないといけないのだ。

 試すのはさっきの教会見た魔法の効果だ。

 私はいつものように魔力を循環させて願う。

 魔素が見たいです……と。

 すると、目の前の景色が紫色のモヤのように視界が覆われていく。


「これが……魔素!?」


 前も後ろも左右や上空も紫色のモヤモヤで霧がかっていた。

 手を振っても霧とは違ってなんの動きもない。

 私は焦って魔法を解除する。

 解除した途端、綺麗なお庭が視界に戻っていく。


「……ヤバイかもしれない」


 教会で見た魔法の本は……いえ、教会に伝わっていた魔法とは無属性魔法の事だった。

 本には神聖魔法と書かれていたけど、使い方は完全に無属性魔法そのものであった。

 というか……もしかしたら無属性魔法ではなく、大元は神聖魔法だったのかもしれない。

 願う事で発動する魔法……なんとなく女神さまに願う事を彷彿とさせる魔法なのだ。

 ……まぁ、一旦それは置いといて、問題はやっぱり魔素の方が重要です。


 もう一度魔素を見てみる。

 使い方はお母様の遠視の魔法と同じく、目に魔力を込めて願う事。

 すぐにまた視界がモヤに覆われていく……視界は20メートル先くらいまでうっすら見える程度。

 ……少し実験だ。

 この状態で水球を大量に出してみる。

 ポコポコと空中に現れていく水の玉……すると、私の周りのモヤが薄くなっていく。

 見える先は少し……30メートル先に増えたかな?手元ははっきりと見えるようになった。

 なるほど……これが魔素ってやつで間違いないようだ。

 じゃあ、花火魔法はどうか……なっ!

 音は出さずに花火の光だけ使うと、やはり私の周りのモヤが薄まっていく。

 効果はある。

 しかし……薄まった場所は数分で元に戻ってしまうようだ。


 ……王都の中で魔物が出たという事は聞いたことは無い。

 推測だけど、恐らくこのモヤは王都のたくさんの人が生活魔法を使っているので、このモヤモヤ具合なら大丈夫だということだろう。

 同様に、人が集まっている街や村でも、モヤ……魔素の消費がある場所では魔物は発生しない……ということかな?

 逆に……人が魔法を使わない森とか僻地では魔物が発生しやすい……そういうメカニズムと考えるのが自然かな?

 

 ……人体と魔素の関係性とかを検証する時間はないのでわからないけど、たぶん魔素が完全に無くなっても人は困るだろう。

 自分の体内にある魔力でどの程度使えるかもわかりません。

 生活魔法が使えなくなったら絶対に困る筈だからね。

 まぁ、魔素を消し去る方法なんて知らないけど。

 ……もう少し魔素を確認したいな。


 私は屋敷に戻ってレーアに伝える。


「レーア、ちょっとだけリンドブルグに戻るね。すぐ帰ってくるから安心して」

「……絶対にすぐですよ?」

「う、うん。砦で見たい物があるだけだから、すぐだよ」


 レーアの鋭い目がおっかないです。

 私はそのまま砦をイメージして瞬間移動魔法を使った。



「うおっ!?シ、シィナ!?」

「おや、ヒルク兄様。ごきげんよう」


 いきなりヒルク兄様の正面に移動してしまったようだ。

 驚かせてしまい申し訳ありません。


「急にどうしたんだ?何か困った事でも……」

「いえ、少し砦からの景色を見たくなったもので」

「はぁ?そうなのか?……便利な魔法だな」


 魔法は全部便利です兄様。

 とりあえずレーアに怒られないように早めに用事をすませないと……

 ヒルク兄様の向こう……今は春で見晴らしはいい密林だけど、ここはどうかな?

 砦の先は魔物がたくさん出現するので、ここの魔素具合が魔物発生の指針となるだろう。

 無属性魔法を使って確認すると……


「うっ!?」


 魔素の色が違うし、濃すぎる。

 紫色よりもっとドス黒い感じ……私の手元がうっすら見える程度だった。

 30センチ先が見えない感じですごく怖い。

 数秒で魔法を解除して視界を元に戻すと……さっきまでの森になっていった。


「なるほど……」

「シィナ、どうかしたか?」

「兄様、少し試したい魔法があるのですが、いいですか?」

「ん?ああ、学院では試せない魔法か?いいぞ、昼休憩で森には誰も居ないからな」

「では、遠慮なく……」


 ちょっと私の全力魔法でどの程度魔素が無くなるかの実験です。

 少しでも消費した方がいいからね。

 超高速循環で掌に一点集中を魔力を込めていく。

 杖は使わずに今回は魔力消費だけ考える。

 使うのは風魔法……ドラゴンの時は私は空を飛んでいたけど、今はこの魔法だけに集中していく。

 なので、ドラゴンでも即死するくらいの全力中の全力だ。

 砦は比較的高い場所にあるので、そのまま一点集中で風魔法を使う。


「やあーっ!!」


 ビビビッと聞き馴染みのない音と共に大気が震えて風の塊は遥か彼方へ消えていった。

 …………あ、遠く雲が吹き飛んだ……


「な、なんだ今のはっ!?」

「兄様お静かにっ」


 すかさず目に魔力を込めて魔素具合の確認をする。

 ……お?モヤが結構遠くに見える。

 さっきまでドス黒いモヤは無くなり、手元視界は良好だった。

 200メーターか300メーターくらいは今は周りに魔素はないね。

 なるほど……これくらいか。

 しばらく待っていたけど、モヤモヤはなかなか回復しないようで、ちゃんと消費はされているようだ。


「……兄様、確認したい事は出来ました。レーアが怖いので王都に帰ります」

「ちょっと待ちなさいっ!賢者就任式にあったという王族の婚約騒動は本当なのか!?」

「……ヒルク兄様、もう終わった事ですのでお気になさらず……ではっ!」

「シィナっ!?待ちな……」


 私の足元は砦のゴツゴツした床から屋敷のフワフワした絨毯に切り替わる。


「お帰りなさいませ、シィナお嬢様」

「ね?すぐ?だったでしょ?ちょっとヒルク兄様と話していたから少しだけ……すこ〜しだけ遅くなっただけだよ?」

「……10分はすぐとは言いません。次はおやつを抜きますよ?」

「ううっ……気を付けます」


 レーアはこういう時は厳しいのです。

 おやつ抜きは嫌なので注意しないといけません。

 でも、魔素の消費具合とかの感じは大体理解できた。 

 あのドス黒い感じから比べたら王都の魔素は薄いものである。

 ……薄くはないけど、魔物が発生するような感じではなかった。

 レーアに注意されたけど、調査は大事な事なのです。

 女神さまうんぬんを説明できないので、少しだけ歯痒い思いをするかもしれないけど……頑張ろう。


「レーア、今日はプリンを頼もうか。プリン好きだよね?」

「お嬢様、私の顔色を伺う事はしないように……」

「……じゃあリカンケーキがいい?」

「……プリンが至高とかと思います」


 へっへっへ……レーアはプリンが好きのよのぉ。


「……お嬢様、おやつ抜きにしましょうか?」


 うっ!?バレた。

 だめだ……ここは素直に謝ろう。

 私はご機嫌伺いを止めて、普通に謝ってからレーアと手を繋いでエイドジクスさんにプリンを頼みに厨房へ向かった。

 ……レーアは手を繋ぐ事が一番嬉しいようだね。



 翌日から私とレーアの教会通いが始まっていった。

 教会の書庫は大きくはないと言っても、かなりの蔵書量があります。

 その中から私の欲しい情報が書かれた本を探すのです。

 魔素の事を解決できるのは、恐らく女神さまだけ。

 なので女神さまの事を理解する必要があると判断した為である。

 私がこの世界の各地で全力魔法を使い続けてもキリがないと思う。

 それくらい魔素は溢れていたのだ。


 通い続けることまるっと一月……学院は夏休みを迎える。

 本ばかりの生活にも少し疲れたので、夏休みは普通にリンドブルグへ帰る事にした。

 それから実験の結果、瞬間移動魔法は生き物も無事に運べる事がわかった。

 最初は虫から始めていき、徐々に大きな生物にしてネズミのような小動物の実験もしていった。

 めちゃくちゃ神経を使った実験だったけど、ポニーちゃんの移動も無事にできた。

 回復薬をいつでも出せる状態で実験に挑むのは怖すぎたよ。

 まだ人を使った実験はできていないけど、恐らく成功する……筈。

 さすがに人体実験は恐ろし過ぎるのでできないけどね。

 なので夏休みはポニーちゃんも一緒にリンドブルグへ移動します。


 姉様と一緒に実家に帰る。

 ちなみに途中の街や村などで、私は夜中にこっそりと上空へ飛んでいき、なるべく消費量の多い魔法を使いまくる。

 もしかしたら意味のない行為かもしれないけど、少しでも魔力消費をしないといけないのである。

 レーアにもバレずにできたので、叱られることはないだろう。


 そして数日後……魔物が出ることもなく、無事にリンドブルグ領へ到着した。

 ここは自然が豊かで癒されます。

 ポニーちゃんも王都の屋敷より広い場所なので気に入ってくれるといいな。

 家族や使用人さんたちに挨拶をしながら、チャッピーを引き取りにイレーヌ姉様の部屋に向かう。

 扉をノックすると、小さい返事があったのでとりあえず中へ入ります……


「……イレーヌ姉様?」

「お帰りなさい。……ふぅ……賢者就任おめでとう」

「具合でも悪いのですか?回復薬飲みますか?」


 椅子に座っていたイレーヌ姉様はなんだか辛そうに見える。

 風邪かな?


「ううん、大丈夫よ…………これは回復薬でも治らないから」

「え?」

「……赤ちゃんができたみたいよ」

「ほ、本当ですか!?おめでたですか!?」


 優しい表情でコクンとうなずくイレーヌ姉様……すごい!お母さんになるんだ!

 ということはヒルク兄様がお父さんになるのか……すごいすごい!

 こんな感動は初めての経験です。

 いきなり嬉しい事を聞いて驚いたよっ!

 ……確か……妊娠の初期症状は人によって違うらしい。

 ホルモンバランスがどうのこうの……イライラしたりする人もいるので、あまりイレーヌ姉様を困らせないようにしよう。


「チャッピーを引き取りますが、大丈夫ですか?」

「……できればしばらくこの部屋に居てくれると嬉しいかな?可愛いからね」

「わかりましたっ。チャッピー、イレーヌ姉様をよろしくねっ」

「ピピッ!」

 

 チャッピーの頭を撫でてから、イレーヌ姉様の部屋を静かに出る。

 ……そうか……妊娠かぁ。

 家族が増える……すごい事だし、とても嬉しい。

 私はスキップをしながらこの感動を誰かと共有したくて屋敷を駆け廻る。

 丁度いいところに、玄関扉を開けてお祖父様がお屋敷に入って来た。

 

「あっ!お祖父様っ!お帰りなさいっ!」

「おおっ!シィナもお帰りじゃなっ!」

「お祖父様!妊娠しました!赤ちゃんが産まれますよ!」

「なんじゃと!!?シィナが妊娠じゃとぉおおおおおおっ!!?」


 お祖父様のバカでかい声は屋敷中に響いていく。

 いや、私じゃなくて……

 しかし時すでに遅し。

 屋敷中の人が何事かと駆け寄ってくる。

 私の言い方が悪かったのは重々承知でございます。


「相手はどこの大馬鹿野郎じゃ!!叩き切ってやる!!」

「違います!お祖父様!私じゃなくてイレーヌ姉様です!!」


 怒り心頭のお祖父様は顔が真っ赤になって私の声が届いていない。

 私はお祖父様の顔に向かって水球を出してぶつける。


「ぶはぁ!?今度は何じゃ!?」

「お祖父様!イレーヌ姉様の妊娠です!!」

「んっ?イレーヌの妊娠は知っとる。シィナ……相手は誰じゃ」

「私は妊娠していません!お祖父様のおバカ!!」


 結局私はお母様に怒られる羽目になった。

 でもいいのです。

 それ以上に嬉しいことなのです。


 実家に帰った日……私の賢者就任とイレーヌ姉様のおめでたの事で屋敷中の人がお祝いしてくれた。

 イレーヌ姉様のおめでたは既に知っていたようだったけど、めでたい事は何度でもお祝いしてもいいのです。

 お父様がヒルク兄様の肩を無言でポンポンと叩くところは何故かすごく印象的に見えた。

 これでこの世界をなんとかしたいと思う気持ちがまた一つ増えたよ。

 これから産まれてくる小さな命が安全に成長できますように。

 私が女神さまに初めて真剣にお祈りをした瞬間だった。 



 ……この10日程でイレーヌ姉様の初期症状は多少……多少は改善されたようで、鎮魂祭にも参加できるようだった。

 私はいつものようにハチカちゃんたちと会って、遊んで……彼氏さんたちに紹介されたりして夏休みを楽しんでいた。

 フォルナちゃんもそうなのだけれど、ハチカちゃんたち同年代と会うと成長の差が……おかしいと感じてしまう。

 たぶん個人差だと思うけど、完全に姉と妹くらいの差になってしまった。


「……それで、ハチカちゃんに貰った首飾りを見た王様が勘違いしちゃって、大変だったよ」

「そんな事があったのですか……シィナ様は大丈夫でした?」

「私は大丈夫ですが、王妃様が王様を叱りつけていたよ。なんだかんだあったけど面白かったかな?」

「この首飾りが王族にご迷惑を……私、どうしましょう」


 ハチカちゃんは私と対になっている首飾りを触って不安そうにしている。

 ……言わない方が良かったかな。

  

「勘違いした王様が悪いのです。ハチカちゃんも私も何も悪くありません」 

「でも……」

「賢者である私が保証します。ハチカちゃんは何も気にしなくていいよっ」


 少しだけ表情が明るくなったね……大丈夫。

 この後は鎮魂祭が待っているので、少しでも安心してほしい。

 厨房ではハチカちゃんのお父さんが彼氏君に調理指導をしていた。

 屋台で売るケーキとかを作っているようだ。

 ……このままハチカちゃんと結婚する予定のようだね。


「……ハチカちゃん、イレーヌ姉様の妊娠は聞きましたか?」

「はいっ。街中のみんなが喜んでいますよ」 

「ハチカちゃんも彼氏君と赤ちゃん……」

「シ、シィナ様っ!まだ早いですっ!ううっ」


 ハチカちゃんは可愛いのぉ……顔が真っ赤じゃよ。

 彼氏か……私はまだいいや。


 鎮魂祭はいつものようにお祖父様の肩で鑑賞して、また打ち上げ花火を放っていく。

 今回は簡単な文字の打ち上げ花火も混ぜていく。

 勿論内容はイレーヌ姉様の妊娠の事だ……新しい命をゆっくり育んでください……と、メッセージを打ち上げた。

 魔素の事があったので、今回は例年より盛大で煌びやかに魔力を使っていく。

 何種類もの光を混ぜ込んだので迫力が段違いになった。

 少し制御が難しいけど、私も日々成長しているのです。


 魔素の件はこっちの教会も把握しているだろう……結構魔力を消費したので、少しは安心してください。

 ……でもこれは対処療法でしかない。

 リンドブルグ領で休息をしたので、気合いを入れて女神さま研究の続きをしていこう。


 王都に向かう道中……秋の気配を感じながら気合だけは高まっていった。


 

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