第45話
……今日はお城で賢者就任式がある。
早朝の日課をしてから早速王妃様が作ってくれた賢者衣装を着せて貰う。
若干緊張しているのでハチカちゃんのペンダントがよく見えるように、服の上に出しておこう。
綺麗なデザインのペンダントなので、賢者衣装にも良く似合うから違和感はないだろう。
レーア以外にもメイドさん数人で髪を結ったりしていく……
一応晴れ舞台って感じなので気分は成人式の振り袖を着ていく感じだ。
貴族令嬢としての礼儀作法と、日本人女性として振る舞いも一応は兼ね備えているので……そこそこ見栄えはいいだろう。
しかし、お父様とお祖父様に強制的に抱っこされる度に着崩れてしまうので、お母様から二人は怒られていた。
メイドさんたちも苦笑しながら手直ししてくれる。
そんな時はペンダントを握って落ち着けるのだ。
……よし、準備はできた。
姉様とフォルナちゃんからも綺麗だと褒められたので、変ではないね。
後は馬車に乗ってお城を目指すよっ。
リンドブルグ家とレーゼンヒルク家の馬車が静かに動き出す。
今日はエドニス先輩も一緒に行くのでフォルナちゃんも嬉しそうだった。
うん……いい天気だし、晴れやかな気持ちになってきた。
馬車はゆっくりお城へ向けて進んでいく。
王都の雰囲気はそんなに変わらない……就任式はお城の中でするからね。
「シィナ、緊張していないか?」
「少し緊張していますが、大丈夫です。お父様」
「そうか?シィナは大物だな。私の方が緊張しているかもな……」
「お父様が緊張してどうしますか。しっかりしてください」
「う、うむ。……シュアレは平気か?」
「ええっ。お城へ行くのは好きですので」
……シュアレ姉様の方が大物です。
馬車の中では家族の他愛ない会話で盛り上がっていく。
王都の好きなお店とか、大道芸人が凄いとか……思い出話など何気ない会話だけど、それがいいのです。
家族って感じがしてほっこりする。
会話に花が咲いていたので、いつの間にか馬車はお城へ入って行った。
何度目かのお城訪問は……私はまだ慣れないけど、今日は家族が一緒なので頼もしい限りである。
正面入口にはいつもとは違ってお城の兵隊さんたちが勢揃いしていて私たち一行を出迎えてくれた。
以前精霊祭の時にお世話になった人も居て、また対応してくれるようだ。
リンドブルグ家とレーゼンヒルク家はお城の控室へ案内されていく。
でも他の貴族も沢山いて、ひっきりなしに挨拶されるのでなかなか部屋まで辿り着けなかったけどね。
そんな中、細身の人が近付いてきた。
「……貴女がシィナ・リンドブルグ様かな?」
この間見た長い耳のエルフさんだ……身なりからして偉い人……偉いエルフさんのようだ。
エルフさんはあまり人とは関わらないようにしていると聞いていたけど、このエルフさんは優しそうな表情をしている。
「はいっ、私がシィナです」
「お初にお目にかかります。森の番人が族長、エルンストと申します。以後お見知り置き下さい」
「エルフさんとお話するのは初めてです。宜しくお願いします」
「……エルフとはまた古い言葉をお知りで。流石賢者様といったところですかな」
……エルフって古い言葉なんだ。
でもファンタジーの種族とお話できたので満足です。
体は細くて、綺麗なおじさんって感じだ……品もあるし、長い耳がピクッと動く……本物だ。
お父様とも知り合いみたいで、私との挨拶の後はお父様と何か喋っていた。
「シィナ、エルンスト殿は何歳に見えるかな?」
「えっ?ええと……50歳くらいでしょうか?」
「おやおや、私はそんなに若くありませんよ?賢者様。……おそらく500歳か600歳です」
「はいっ!?」
ご、ごひゃく!?……え?マジですか?
…………そ、そうか……エルフさんって長命の種族ってこと?
「エルンスト殿は、このリュデル王国ができる以前から生きているのだぞ」
「はぇ〜。凄いですっ」
「ふふっ。何年も寝ているだけの老いぼれですよ」
ファンタジー過ぎる。
体の構造は一体どうなっているのだろう?
……ふと、こっちを伺う視線を感じた。
他のエルフさんたちのようだけど、広間の一角に集まっている……誰とも会話をしていなかった。
……そうか、普通のエルフさんはあんな感じか。
族長のエルンストさんだけ人付き合いがいいようだ。
とりあえず挨拶も一区切りついたので、一旦控室の方へ向かう。
まだ時間はある筈なので飲み物でも貰おう。
レーアが淹れてくれるお茶を飲みながらクッキーもつまむ。
……あ、このクッキーは私のレシピのやつだ。
お城のメイドさん曰く、もうお城の食べ物は私のレシピが浸透しているらしく、どれも美味しいと好評のようだ。
食べ物が美味しいとやる気がでるよね。
それはこの世界でもあっちの世界でも共通の事のようだった。
「失礼しますわっ!」
「んおっ!?」
突然扉から誰か入ってきたのでクッキーが……喉につかえてしまう。
「……誰かと思えば貴女…………いきなり部屋に入るは駄目でしょ」
「あら〜シュアレさんじゃない、お久しぶりですねっ」
「ル、ルルエラ先輩……」
「ああっ!偶然入った部屋に居るのは、シィナちゃんじゃないっ!相変わらず可愛いわねっ!」
突然の来訪者はルルエラ先輩だった。
偶然ではなく、確実に私に会いに来たようだ……確かルルエラ先輩は公爵令嬢だったのでお城は庭のようなものなのだろう。
私を抱きしめながら頬ずりしてくる。
確かに久しぶりだけどね。
「まさかシィナちゃんが賢者様になるなんて思ってもみなかったわっ……大丈夫?緊張していない?これから就任式でしょ?私は心配で……」
「だ、大丈夫です。ルルエラ先輩の顔を見れたので安心しました……」
「そうっ?安心してね、私も叔父様の側に居るからねっ」
叔父様?……ああ、王様の事か。
それにしてもルルエラ先輩は相変わらずだね。
リンドブルグ家の控室にノックもせずに突入してくるとは……相変わらずというか悪化しているというか…………
お父様やお母様もルルエラ先輩には驚いていたけど、すぐに礼儀正しい挨拶をしたルルエラ先輩を見て安堵していた。
少し苦手な先輩だったけど、やっぱり再会すると嬉しいものなんだね。
恐らく最後の化粧直しをしてから、私は家族と離れて別の控室へ案内されていく。
そこには賢者様が居てくれて段取りの再確認をしていった。
失敗できない一発勝負なので、真剣に頭でシミュレーションを繰り返す。
「大丈夫そうかの?」
「はい、大丈夫だと思います」
「そうか…………そういえばヒルデルート王国の件は聞いておるか?」
「魔物がたくさん出て、大変だとか……でも、しばらくは大丈夫なのですよね?」
「昔の記録ではそうなっとるし、実際今は大人しくしておると報告もあるからの……原因が分かれば対応も出来る筈じゃからな。ワシの居ない間に何かあれば無理をしない程度に頑張れ、シィナ・リンドブルグよ……まぁ、何も起こらんと思うがの」
知識の豊富なエトワルド様が調査に行くのだから大丈夫だろう。
この世界に無知な私が調査に行ったところで意味はないと思う。
一度くらいなら他国に行ってみたいと思うけど、ここは適材適所というやつだね。
賢者様からこの国を頼まれたので、言葉通り無理はしない程度に頑張ろう。
さて、準備はできた。
髪も服もお化粧も段取りも……たぶん完璧です。
控室を出ると、さっきまでの賑わいは無く……お城中が静まり返っている。
全員が会場へ行っている証だ。
今回は貴族や他種族の族長たちだけ参加となるけど、メイドのレーアは特別に参加させて貰う……家族だからね。
「シィナさん、準備は整いましたか?」
「……アルベルト先生、何をしているのですか?」
部屋を出たところにアルベルト先生が壁にもたれ掛かっていたので驚いていしまった。
「就任式の会場まで案内しますよ」
「あ、はい。宜しくお願いします」
そういえば会場がどこかも知らなかった。
二人でゆっくり階段を上って行く……
まるでパーティー会場へのエスコートのようで少し気恥ずかしい。
…………しっかりしろ私っ!
もうすぐ失敗できないイベントが待っているのだ。
気合……気合を入れよう。
「んふーっ!」
「………………」
私は気合を入れてみた。
…………気合ってなんだろう?
何故かゲシュタルト崩壊のようになってしまったので一旦止めよう。
アルベルト先生が白い目で私を見ていたのはここだけの話です。
今は貴族令嬢なのでもっとお淑やかで優雅にしないとね。
階段を登り切ると、大きな扉が見えてくる。
左右には騎士の格好の人が何人か居る……ああ、きっとこの扉の先が会場だろう。
「ここの中が賢者就任式の広間です。問題はありませんか?」
「エトワルド様に段取り等は教えて貰いましたので、大丈夫です」
「そうですか、そろそろ時間ですが……いいですか?」
「はいっ!」
自信はないけど、やるしかないのだ。
私はハチカちゃんのペンダントをギュッと握る。
大丈夫……ハチカちゃんが見守ってくれるから。
ハチカちゃんだけじゃない、中には家族やフォルナちゃん……レーゼンヒルク家も見守ってくれている筈。
……うん、大丈夫。
「ではいきますよ。…………シィナ・リンドブルグ様っ!ご到着っ!」
アルベルト先生の大きくて通りのいい声が響き渡る。
すると騎士の人が扉をゆっくり開けてくれる。
「さあ、進んでください」
「はいっ」
広間はとても大きくて高い……学院の図書室や講堂以上の大きさだ。
左右には何百人という数の人が整列し、こちらを伺うように見ている。
小学校の全校集会と似ているけど、来ているのは大人が多い。
その全員がこちらを見てくるのだ…………怖い。
最初の一歩がなかなか出ない。
床には赤い絨毯が引かれていて、その先には微かに王様の姿が見える。
体感で1キロ先にいるようだ……あそこまで歩けるだろうか。
一瞬頭が真っ白になってしまう。
けど……
(………………)
……うん、そうだね。
忘れていた……シィナちゃんという心強い味方が私にはいるのだ。
心呼吸をしてから私は一歩踏み出す。
足の感覚はあまりないけど、大丈夫……ちゃんと歩けている。
一歩一歩絨毯を踏み締めて私は胸を張って貴族らしく歩き出した。
周りの人の目が怖いけど、遠くの王様だけ見れば大丈夫。
(………………)
う、うん……そうだね、みんな私を見て……応援していると考えよう。
ハチカちゃんやフォルナちゃんがたくさんいると考えて…………それは狂気じみている。
でもそれくらいに考えていた方が気が楽になる。
左はハチカちゃん集団、右はフォルナちゃんの集団……二人とも多くなったねぇ。
そんなヘンテコ妄想をしながら私は徐々に王様に近付いていく。
さすがに1キロはないので、あっという間に王様の表情がわかるくらいの距離になっていった。
少し冷静になったけど……お貴族さま多すぎだね。
……あ、学院の先生たちも居た……知合いが居るだけで気が休まるね。
お父様とかはどこに居るのだろう。
ゆっくり歩きながら家族を探す余裕も出てきた。
それにしても天井が高い……海外の大聖堂みたいだ。
左右のお貴族さまの列が終わると……居たっ!
開けた場所に家族が一列に並んでこっちを見て微笑んでいる。
隣にはレーゼンヒルク家も居た。
フォルナちゃんとエドニス先輩も心配そうに私を見ていた……なのでみんなに向かって私は微笑む。
心配しないで……大丈夫だからね。
よし、不安は消えた。
家族のあとはルルエラ先輩が見える……たぶん公爵家や王家のお貴族さまたちの列だろう。
ルルエラ先輩は両手を組んで嬉しそうに私を見ていた。
そしてやっと段取り通りの立ち位置がやってきた。
私の目線の先には王様がいる……左右には王妃様や第二王子……ヒルデルートの第三王子も居る。
……見たことのない人が居た……背の高い男性はたぶん第一王子だろう。
おお、イケメンです……この世界、美男子多くない?
目の保養になるくらいの王子様だ…………おっと、見とれていないで教えて貰った台詞だ。
「シィナ・リンドブルグ、王の召喚に応じ、只今参りましたっ」
よしっ、つかえる事なく言えたっ!
このあとは段取り通りの台詞だけど、王様や偉い人が喋っていく。
私の功績は氷魔法の発見、無属性魔法の解明、飛竜討伐、お城だけでなくリュデル王国中の食の改善……というか提案かな?意外と多い。
「……以上の功績をもって、我がリュデル王国の賢者に任命する」
「賢者の任、拝命致しますっ」
よしよし、間違えることなくできているね。
このあとは……
「それから……」
ん?段取りには無かった言葉が王様から出てきた。
ちょっと〜、台本通りお願いしますよ〜王さまぁ……アドリブは勘弁してくださいよ〜。
で……なに?
「我が息子……第二王子であるテオドルドと婚約でもしないか?」
「……う?」
「父様っ!?」
一瞬の間があったあとはお貴族たち全員がどよめいていく。
なにもこのタイミングで言い出さなくてもいいじゃない……
第二王子も寝耳に水といった感じで驚いていた。
「年も同じで丁度いいとは思わないか?」
いや、そんな簡単に話を持っていかないで欲しいです。
そう思った瞬間別の声が二つ上がった。
「「その話ちょっと待ったっ!!」」
声の主は第三王子と……アルベルト先生だ。
二人は王様に近寄って行く。
「シィナ・リンドブルグを妃に据えるのは我の予定ですぞっ!」
「シィナさんはエストニアの王族に迎えたいと思います」
「なにっ!?エストニアの……王族だと!?」
「ええ、我がエストニアの国こそシィナさんの才覚が存分に振るえると思います」
二人の王子が王様の前でいがみ合っている。
なんだこれ?どうなってしまうのですか?
私は当事者だけど第三者の視点でポカーンとしていた。
「そ、その話っ!私も混ぜて頂けますかっ!!」
「今度は誰っ!?」
後ろから大きな声が上がる…………後ろ?
振り向くとそこには……エドニス先輩?が立っていた。
肩が震えていたけど、競歩のように素早く歩いてきた。
私を通り越していったエドニス先輩は二人の王子さまに近づいていく。
「私はレーゼンヒルク領領主が息子、エドニス・レーゼンヒルク!シィナ・リンドブルグさんはレーゼンヒルク家に貰い受けようと思います!!」
「な、なんだとっ!?」
「おやおや、恋敵が多いようですね」
えっ!?どういうことっ!?
ちょ、ちょっと待って?エドニス先輩って…………フォルナちゃんのお兄さんで……私とは仲良しのお友達で……ダンスが上手で……ハンバーグが好きな人……という認識だったけど…………えっ!?そういう事なの?
小さかったけどフォルナちゃんの声がした……お兄様頑張って……と。
あれ?こんなの段取りには絶対に無かったことだよね?
って……どうすのっ!?この空気っ!収拾がつくのだろうか。
いつの間にか第二王子も参加して4人であーだこーだと話し合ってしまっている。
「シィナさんはリュデル王国の賢者で他国に行くことができない筈だっ」
「法はそうなっていますが、他国に嫁いでもいい筈です。女性初の賢者ですよ?」
「賢者エトワルド様は近々ヒルデルート王国へ調査に向かうのですよっ!?」
「シィナさんの意思が重要ではないでしょうかっ!」
ううっ……就任式の緊張とは別の問題が起こりましたっ!
どうしよう……
王様もこんな事になるとは思ってもみなかっただろう。
私と同じようにポカーンとしている。
「静まりなさいっ!」
この状況を見かねて立ち上がったのは王妃様だ。
会場中に大きな声が響き渡った。
私も王様もビクッとしてしまったけど……お陰で4人も大人しくなった……さすが王妃様だ。
「シィナさんを巡った殿方の争いは嫌いではありませんが、今は式典の途中ですっ!場をわきまえなさいっ!それからアナタも不容易な事を言うものではありませんよ!」
「う、うむ……すまない」
男性陣が王妃様に一喝されてうなだれていく……おお……収まったよ。
女はこういう時、強いのだ。
第一王子が4人をなだめているようだった。
……私を巡って争わないで…………そんな台詞が一瞬頭をよぎったけど、正直恥ずかしいだけである。
「父様、この者らは私が……今は式典の続きをしてください」
「あ、ああ……うぉっほんっ!…………で、ではシィナ・リンドブルグよ、リュデル王国の為、国民一人一人の為にその知識と魔力を注ぐ事を期待しておる」
「はいっ!王の期待に応えてみせますっ!」
「ここに新たな賢者が誕生したっ!その名はシィナ・リンドブルグっ!黒髪の賢者の二つ名を与えるっ!」
王様は無理やり感があったけど、段取り通りに締めの言葉を言ってくれた。
私は振り返りお貴族たちの方を向く。
パチパチと拍手をするのはお祖父様だけだったけど、徐々に拍手の数は増えていき、すぐに大きな音になっていく。
……あの茶番?がなければ良かったのだけれどね。
一応お貴族さまたちには認められたという事だろう。
段取りではここで就任式は一旦終わりの筈だった。
そう……終わりの筈だったのだ。
会場入口から何十人かがこちらへ歩いて来ている。
……身なりからすると教会関係者だ……でもあの立派な格好は見たことがなかった。
他のお貴族たちも教会の人に気付いていくと、拍手は鳴り止んでいく。
私の家族を通り過ぎ、30人前後の教会の人が私の目の前にやって来た。
これは異常事態と言っていい…………だって全員が私に向かってひざをついて……頭を下げてきたのだ。
一番偉そうな感じの服を着ていた白髪のおじいちゃん……なんなのだろう?
お父様とお祖父様を見ると怪訝そうな顔になっていた。
会場は静まり返り、この事態を静観している。
「教皇様、いきなりの来訪は一体どういう事ですかな?」
えっ?教皇?教皇って……たぶん一番位の高い人だよね?
王様は私の側に来て、そう言った。
「新たな賢者であるシィナ・リンドブルグ様、申し上げたい事があります」
「は、はぁ……」
「それはなんですかな?」
「……失礼ながら王よ、知らない方がいい事もあります。賢者シィナ様だけに伝えたい事があります」
「ほう……それは、長年教会が秘匿している事ですかな?」
お母様が言っていた教会が隠す何か……それを私だけに伝えたいようだ。
王様にも隠す事……知らない方がいい?一体何を隠しているのだろう。
「………………」
教皇様と呼ばれたおじいちゃんは何も答えない。
王様が目の前に居るのに答えないなんて逆に凄いね。
今日のこの日に来たくらいだから相当の覚悟を持っているようだね……少し汗をかいて震えていた。
「……わかった、では別室を用意しよう。黒髪の賢者よ、教皇様の話を聞いて欲しい…………大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
正直に言って興味はある。
どんな爆弾発言が飛び出すのか……
王様は騎士の人に部屋を用意するようにと言って、騎士の人が教会の人たちを引き連れて行った。
……まったくハプニングだらけじゃない。
「…………ん?黒髪の賢者よ、その首飾りは……」
「はい?コレ……ですか?これはリンドブルグ領の大事な人からの贈り物です」
「はっ!?」
「ん?変ですか?」
ハチカちゃんのネックレスを王様が驚いて見ていた……え?なに?綺麗で別に変じゃないよね?
「……そうか……そういう事であったか。もう想い人が居たとはな…………おおいっ!テオドルド……いや、シィナ・リンドブルグを想う全員、聞くが良い。シィナ・リンドブルグは故郷に想い人が居るようだぞっ!」
「「「「はっ!?」」」」
「はっ!?」
王様が何を勘違いしたのかいきなりそんな事を言い出した。
ちょっと待って、想い人って誰っ!?一体何のことですかっ!?
私だけじゃなく第二王子など4人も驚いていた。
でも一番声が大きかったのはお祖父様やお父様たち家族だった。
また王様が放った言葉で会場中がざわめく。
もう就任式は終わっている筈なのにお貴族さまたちは誰も帰ろうとしていない……略奪愛などの言葉まで聞こえてくる始末だ。
厳かな雰囲気だった会場は一変する。
私の元に駆け寄る家族……お父様とお祖父様からは問い詰められる。
でも身に覚えがないので答えようがないのだ。
シュアレ姉様だけはやれやれといった感じで何か言っていたけど……周りがうるさいので聞こえない。
ハチカちゃんのペンダントは私の心の支えだけど、このペンダントが原因?
ううっ!誰か助けてくださいっ!
第二王子なんかは膝をついて涙を流し、第三王子は放心している……アルベルト先生は笑顔のままだったけど青くなっていた。
賢者様はこの状況を見て笑い、フォルナちゃんがお兄さんを慰めていた。
王様は王妃様に叱られ続けている……
なんか……大惨事という言葉が当てはまってしまう事態になってしまった。
……全部王様のせいだ。
私はこっそり王様を威嚇しておいた。
ざわつく会場を後にして、私は騎士に連れられていく。
向かう先は教会関係者が待つ部屋だ。
散々な目にあった。
シュアレ姉様が言うにはあのペンダントは一般的に恋人同士が身につけたりする物らしい。
通りでみんな勘違いする筈だ。
正直面倒になったのでハチカちゃんの事は伏せて、勘違いさせておくことにした。
うん……色々と面倒になったのだ。
まだ学院3年生で14歳のシィナちゃんなら別の穏やかな出会いもあるだろう。
王族とか面倒そうな事は将来考えていけばいいし、お母様の言うように自由にしてもいいよね?
そんな愚痴を考えながら騎士の後ろをついて行く。
別の階だったけど、部屋は近かったので早速中に入った。
「お待たせ致しました……」
中はちょっとした会議室のよう作りになっていた。
たぶん話し合いとかをする部屋だろう。
さっきの教皇様が代表っぽいので、教皇様と対談する感じのようだ。
「まず、謝罪致します。シィナ様にとって大事な就任式にお邪魔してしまい、申し訳ありません」
「い、いえ、頭を上げてください」
「寛大な心に感謝致します」
……教皇様といっても、貴族ではないので態度は低い。
小説なんかの物語では、教皇様といったら悪の権化だったりするけど……この人からはそんな気配は微塵も感じない。
絶対にいい人だと断言できる。
よく見ると他の人たちもいい人そうで……たぶん神父様たちだ。
「確実にシィナ様に会えると思い、本日伺いましたが……式は大丈夫でしたか?」
「え、ええ。予定外の事がありましたが……ちゃんと賢者を就任しましたので大丈夫です…………ええっと、それでお話とは?」
早速本題を聞かせて貰いましょう。
「……今からお話する内容は、他言無用でお願いしたいのです。構いませんか?」
「は、はい」
王様にも話せない事ならペラペラと喋る訳にはいかないし、私の口は堅い方だと思う。
教皇様は穏やかそうな人だけど、少し……寂しそうな表情をしている。
そしてそのまま寂しそうな顔付きで話し出していった……
この世界の人には衝撃の事実を私は聞かされていく事になる……




