閑話 フォルナ・レーゼンヒルク
冬休み……私はお兄様とレーゼンヒルクに帰ってきた。
秋はシィナちゃんのところで過ごしたから凄く久しぶりに感じる。
久しぶりに会う家族はとても温かい。
やっぱり実家は落ち着きますね。
……そうだっ!シィナちゃんから頂いた料理のレシピを料理長に見せなければっ!
泡立て器もあのドワーフさんに作って貰ったので、早速何か……甘味がいいかなぁ…………スフレオムレツも美味だったし、色々と作って貰いたい。
お兄様もハンバーグがここで食べられると知ったらとても喜んでいたし。
本当にシィナちゃんには感謝だよ。
何かお礼を考えないと。
お昼前に料理長に見せたら、目を丸くして驚いていた。
「こんな方法と組み合わせは私では考えつきません」……そう言っていたしね。
やっぱりシィナちゃんは天才だよ。
さすが賢者様といったところだね……そうだ、シィナちゃんのお屋敷に持っていく物もお母様に相談しないと。
色々と用意するのも大変だけど、時間はまだあるし春までには準備しよう。
……お昼は普通の料理だったけど、夕食には待望のハンバーグや甘味も出てきたので、とても美味しかった。
この味がこれからずっと味わえるなんて幸せすぎる。
家族もシィナちゃんの料理を食べて驚いていた……お兄様はハンバーグをおかわりしていたので、お気に召したようです。
でも……リンドブルグ領で食べた物とは少し違う。
あのレシピを更に改良していったのだろうか?
これは料理長次第ですね……決してうちの料理長の腕が悪い訳ではない、まだ作ったばかりですからね。
魔法の練習と同じで、料理も練度が必要だとシィナちゃんも言っていたので、今後に期待しておきましょう。
レーゼンヒルク領にはちょっとした冬のお祭りもある。
たくさん雪が降るので、雪かきをしながら雪の像を作るお祭りだ。
私の住む街では近隣の町村から見物客も来るけど、どちらかというと一緒に雪像を作る為に来る。
屋台もたくさん出るので、なかなか楽しいのです。
大きな動物や王都のお城を再現した物などがあってとても綺麗です。
中には私を雪で作る子供もいて、とても嬉しく思います。
シィナちゃんみたいに花火の魔法を使えればもっと盛り上がるのでしょうけど、あれは高等技術の塊なので今の私では再現できないのが残念ですね。
でもシィナちゃんに教わったせいか魔力制御もだいぶ強くなってきたので、花火を出すのが私の夢です。
リンドブルグ領の収穫祭の花火は……言葉にならない程綺麗でした。
夜空に色々な花が咲くなんて、まるで夢のような光景でした。
お兄様もアレが見れないなんてお可哀そうに……お父様が変な縁談を持ってくるからですわっ。
ヒルデルートの貴族なんて……お兄様にはシィナちゃんがいるというのに。
まったくお父様は……
お兄様……お兄様といえばシィナちゃんのお兄様は素敵な殿方でした。
……ダリル様……とてもお優しく、飛竜が出た時も私の身を案じてくれた頼りがいのある男性。
…………いいなぁ……エドニスお兄様よりも年上で、大人の魅力があって……
ああいう男性が私の理想かもしれません。
……まぁ、その……理想は理想であって私なんかを相手にはしてくれませんよね……でもダリル様と添い遂げられたらと思うと顔が熱くなってしまいます。
物語の本では得られない事です……なんていうか……考えるだけでも恥ずかしいです。
でも、でもでも……万が一私が……リンドブルグ領に嫁ぐ事になると……お兄様は……
「フォルナお嬢様、ぬいぐるみを何個かお持ちしましたが、どこに置きましょう?」
「……その大きな動物はベットへ置いてください。後は机に……」
「かしこまりました…………お顔が赤いですが、お風邪でも?」
「ちょっと考え事をしていただけですっ」
「……そうですか?もしかして……ダリ」
「ユエラっ!お茶が飲みたいですっ!!」
「ふふっ、かしこまりました」
ふぅ〜……なんでユエラはお見通しなのっ!?
まったくもうっ!
ベットに置かれた大きなクマさんのぬいぐるみを抱きしめる。
これがダリル様だったらいいのにな…………ハッ!私ったらなんてはしたない事をっ!
でも……この可愛いクマさんのお名前はダリル君にしてもいいかな……
あああっ!!私のおバカっ!んんん〜っ!!こういう時は読書でもして落ち着かないとっ!
騎士物語…………これは絶対にダリル様を彷彿とさせる内容だし……こっちの本は……愛をささやく物語もダメっ!花の妖精も太陽の騎士もダメっ!なんで恋愛物の本しかないのですかっ!?
ううっ!私は恋をしてしまったのでしょうか……
ダリル様の顔が……頭から離れませんっ!
……読書は諦めて魔法の練習でもしましょう。
魔力制御なら落ち着かないとできませんからね。
ふぅ……
少し落ち着いた……このまま窓から風魔法を使おう。
生活魔法程度の風がお空に溶けていった……
そういえばシィナちゃんは風魔法で飛竜を撃ち落としていました……
あんな大きな飛竜が落下した時は驚きました。
っていうかお空を飛んでいたのも風魔法らしいのです。
足で魔法を使う?もう意味がわかりません。
人って飛べるのですね……初めて知ったのです。
私のお友達……シィナちゃんという凄いお友達……私は何が返せるだろう?
見返りを求める子じゃないけど、何かお返しができたらいいな。
ぬいぐるみのチャッピーの頭を撫でる……シィナちゃんのお手製のぬいぐるみはすごく可愛い。
そうだ……針の練習にもなるし、私もぬいぐるみを作ってみよう。
ユエラに聞けばコツも教えてくれるだろう。
「お嬢様、お茶をお持ちしました」
「ありがとうユエラ、ぬいぐるみを作りたいのだけど私にも教えてくれる?」
「はい、お任せください……何をお作りに?」
「シィナちゃんが喜んでくれそうな物を作りたいです」
「お嬢様が作った物であればシィナお嬢様はなんでも喜ぶと思いますよ」
何がいいかな?シィナちゃんは可愛い物が好きだし……どうしよう?
そうだ、もうすぐ雪祭だし雪像を見て決めよう。
可愛い動物とかも作るからそれを参考にして決めても遅くないかな。
街のお友達とも会いたいし、この冬はやることが多くて大変です。
今年の雪はなかなか多く、私も運動がてら雪かきを手伝う。
雪祭は雪が多い程盛り上がるので明日は楽しくなるだろう。
エドニスお兄様は最近体を鍛えているようで、少し大きくなった気がします。
道の雪を凄い勢いで雪かきしています。
それ以上鍛えてはリンドブルグの護衛さんのようになってしまいます。
……もしかしてシィナちゃんの為に鍛えているのかしら?
私と同じで少し気が弱いお兄様は、以前に比べてとても男らしくなってきた……恐らくシィナちゃんの影響でしょう。
自分を鍛えて自信を付けたい……お兄様は本気でシィナちゃんに告白をするのでしょう。
今のところテオドルド殿下とドノヴァン殿下はシィナちゃんから警戒されている……王族に嫁ぐ予定はシィナちゃんにはない筈。
あの凄い宝石も返却したと言っていたし……
私の見立てではシィナちゃんと一番仲がいい男性はお兄様だ。
ずっと一緒にいるからそれは保証します。
でも…………なぜでしょう?お兄様がシィナちゃんと婚約する想像ができません。
シィナちゃんは年上の男性が好みだと以前聞いたこともあるけど……どちらかというともっと……ダリル様のようなもっと年上の方が似合う気がする。
……いけない……お兄様を応援すると決めたのです。
妹の私が応援しないでどうしますかっ。
でもシィナちゃんはたまに凄く大人びて見える事がある。
背の低い……可愛いシィナちゃんは……すごく稀にそう見える時がある。
まるで別人のような大人の女性が顔を出す……学院で出会ってもうすぐ3年になるけど、そんな時があります。
それはとても儚げで……私は少し不安にもなる。
もしかしたらそういう雰囲気が殿下やお兄様を魅了しているのでしょうか。
不思議な女の子……シィナちゃんを言葉で表現するとそうなる。
他の貴族令嬢とは何かが決定的に違う。
でもその何かがわからないのです。
礼儀作法も踊りも授業ではとても素晴らしい。
裁縫や刺繍は苦手だったけど、最近は努力していて上手になってきた。
同じ貴族令嬢として採点すると、シィナちゃんは満点です。
いつも明るくて楽しいシィナちゃんは、ふとした瞬間消えていなくなるような儚さがある。
私には以前シュアレ先生からお願いされていた事がある。
「絶対に精霊の塔にシィナを近付けないで」……そうお願いされた。
あれは先生としてではなく、姉としての言葉だった。
シュアレ先生はシィナちゃんを見守る為に先生になったと言っていた。
普通ではない……過保護なんてものじゃないのです。
あの精霊の塔には……きっと何かがある気がする。
それはシィナちゃんにとって悪い事なのかはわかりません。
でもシュアレ先生は優秀な貴族令嬢……綺麗で身分もいい、そんなシュアレ先生が誰とも婚約もしないで妹の心配ばかりをしている……それは違和感しかない。
リンドブルグの家族だけが知っている何か……私には秘密にしている何かがシィナちゃんにはある。
秋休みではシィナちゃんのお母様にも同じように精霊の塔の件を頼まれた。
ここまでくると怖くなってしまう。
飛竜を討伐するようなシィナちゃんなら何が相手でも大丈夫だと思うけど……でもシィナちゃんが対処できないような事なら私は全力でシィナちゃんを助けよう。
賢者となるシィナちゃんを助けるなんて身の程知らずかもしれないけど、お兄様も私もなんとかしてみせますっ!
お兄様は雪かきをしていって、何処か遠くまで行ってしまった。
私も領民の為に頑張ろうっ!
早くシィナちゃんに会いたいです。




