第39話
……今日はどうやら帰れないらしい。
既にアルベルト先生が学院に連絡を入れたらしく、お茶会を終えた私はレーアと一緒にまた賢者様の研究室に居た。
アルベルト先生が氷魔法の事を聞きたいらしく、テンション高めでソワソワとしている。
いや……別に他の魔法と変わらないのだけれど。
「……という訳で特に他の属性魔法と使い方は変わりませんが」
「氷を頭に思い浮かべて……たったそれだけですかっ?」
「はい、逆にこれまで発見されていなかったのが不思議です」
「一つお伺いしますっ、どういった時に発見したのですか?」
「ええと……暑くて氷があれば涼めると思い……」
「ふむ……なるほど……」
もしかしたら他にも属性魔法があるかもしれないね……自然現象って他に何かあるかな?
……でも特に思い付かない。
まぁ、これ以上発見してもまた賢者様が引き籠もってしまうかもしれないので、今は考えるのをやめておこう。
「では少しやってみます」
「はいっ!頑張ってくださいっ」
先生は両手を出して魔力制御をしている……少し難しい表情をしているね。
すると私の時のように冷気が発生していき、パキパキっと音もしてくる。
さすが先生……いや、賢者様のお弟子さんだ。
私の氷魔法をイメージしたのか、四角い氷がコトリとテーブルに転がった。
「……できましたが、どうやら私は適正があまりないようですね」
「適正?」
「ええ……授業で習いませんでしたか?人はそれぞれ得意な魔法や苦手な魔法があるのですよ」
「あ、私は闇魔法が苦手です」
「……闇以外は得意ですか?」
「そうですね、闇以外は特に苦手ではありませんね?」
「なるほど……闇以外は全属性得意と……いやはや、恐れ入りました」
「……ちなみに先生は苦手な魔法は?」
「水、土、光……それと氷です」
「……賢者様の苦手な魔法は?」
「ええと、火、風、光……です」
……そうか、普通はそんな感じなのか。
あまり言いふらさない方が無難かもしれない。
「あの……すみません、アルベルト様」
「うん?何か御用ですか?」
一人のメイドさんがいつの間に研究室にいた……どうやらレーアが入れたようだ。
「いえ、そちらのシィナお嬢様をジョアンナ様が連れて来るようにと」
「……そうですか。シィナさん、恐らく賢者様は今夜か明日の朝までは出て来ないと思いますので、ここは私に任せて下さい」
「は、はい……」
王妃様からの呼び出しとは……なんですか?
まだ怖いよ……打首だけはご勘弁くださいっ!
レーアと一緒にメイドさんについていくけど……さっきのお茶の時は普通だったよね?失礼な事は……たぶんなかった筈。
「ジョアンナ様、シィナお嬢様をお連れしました。入室しても宜しいでしょうか?」
とある一室へ入って行く……どうやら部屋の中に王妃様が居るようです。
フカフカの絨毯を進むと、どこか見覚えのあるような部屋だった。
「シィナさん、今日は城に泊まるのですよね?」
「は、はい、そうなってますね」
「じゃあ、制服は脱いでお着替えしましょう」
「……は?」
「そちらのメイドはシィナさんの側仕えですよね?こっちにいらっしゃい」
「はい、かしこまりました」
レーアが王妃様の方へ行ってしまった…………え?着替えるの?
別にこのままでもいいですよっ!?
「シィナお嬢様、さあこちらで制服をお着替えしましょう」
「ええ〜っ!?ちょ、ちょっとなんでっ!?」
私は否応なく剥かれていった……メイドさんたちは凄腕メイドさんで、即座に下着姿にされていく。
髪も何かいい匂いの液体を付けられて、凄い髪型にされていく。
こんなに結ったことないよっ!?
ううっ!?お化粧もされていくっ!
「まぁまぁっ!可愛いと思っていたけど、更に可愛くなったわねっ!」
……これはアレだっ!たまにお母様がノリでやるお人形遊びだっ!
お人形は私で、お母様の気分転換にされているのだ。
「さすがゾーイさんの娘さんねっ!」
「うっ!母をご存知でっ!?」
「ええ、歳は違ったけど、ゾーイさんは有名でしたからね。衣装もセシリアの物が合いそうですよ」
「ジョアンナ様、これらでしたらシィナお嬢様が着られそうです」
ううっ!?可愛いドレスばかりっ!レーアの裏切り者ーっ!
「あらあら、どれが似合いますかね……迷うわ〜」
「シィナお嬢様は黒髪でございます、こちらはいかがでしょう?」
「貴女はさすがにわかっているわね……そうね、髪が黒いとコレが一番似合いそうですね」
こうなるとお母様は止まらない……ただ従うだけなのだ。
この王妃様もたぶんそうなのだろう、目がマジモードになっている。
そのドレスはおいくらでしょうか?凄くお高そうで、まさにお姫様みたいですっ!
あああっ!誰か助けて〜っ!!
…………時刻はもうすぐ夕食時……もう外は薄暗い。
しかし、お城の中はきらびやかで華やいでいる。
昼食の時の場所ではなく、ちょっとしたパーティー会場のような場所で食べるらしい。
なんて言ったけ……晩餐会?
他のお客さんとかはないようだけど、何人か知らない人もいる。
隣には私と手を繋いでいるセシリア様……そして少し離れた場所には……何故か第二王子と隣国の馬鹿王子が私を見て固まっている。
貴方たちは寮暮らしの筈でしょっ!?なんで居るのよっ!!
「あら、テオとドノヴァン君、どう?シィナちゃん可愛いでしょ?」
「「………………」」
「テオ……女性はとりあえず褒めなさい。だから意中の女性に振り向いて貰えないのよ?ね〜シィナちゃん?」
「セシリア様、あまり殿下をからかってはいけませんよ?昼食のように美味しい料理が待っています。行きましょうっ」
「ふふっ、そうね。行きましょうか」
退散退散っ!近寄って来ないでねっ!
王妃様にバレる訳にはいかないのっ!
「おおっ!シィナ嬢、とても可憐になられたな。これだから女性は恐ろしい……」
「お父様、私の子供の頃の衣装ですのよ。シィナちゃんにピッタリですわっ」
「そうか、道理で見覚えがあった衣装だ。よく似合っている」
王様が普通に私を褒めてくれる……嬉しいけどやっぱり萎縮してしまう。
「それにしても、夕食もとても美味いっ。これらもシィナ嬢の料理であろう?素晴らしいな」
「お口に合ったのでしたら光栄です。ですがこの料理を作ったのはお城の料理人ですので、褒めるのでしたら彼らを褒めてあげてください」
「ふむ、そうだな。料理人褒めておこう…………シィナ嬢はとても良い人格者であるな……よし、皆っ!聞けっ」
……会場が王様の声で静まり返る……何っ!?怒られる事はしてないよ!?
「私はシィナ嬢が気に入ったっ!報告では氷の魔法を発見したと聞いた。しかしそれだけではないっ!城の料理をここまで美味くしてくれた立役者であり、その功績を振りかざすような事もしない人格者でもある。略式ではあるが、賢者の称号を与えるものとするっ」
会場には王族を含めて給仕をしている使用人もいたけど、全員が拍手をしてくれる。
皆笑顔で私を見ている……どうやら私は正式に賢者になってしまったようだ。
「シィナちゃんおめでとうっ!いえ、黒髪の賢者様、おめでとうございますっ」
「シィナさんなら誰も文句はでないでしょう、おめでとうっ」
「で、ですが……」
「よいか?小さき賢者よ……賢者とはこの国をより良くする事が義務である。その魔法を使い、民を喜ばせ、導く事が義務である。しかしシィナ嬢はまだ学院の生徒……貴族令嬢としての立場もある、故に学院の卒業までは今まで通り過ごすとよい」
「……ええと、卒業後は?」
「自由だ。実家のリンドブルグ領で暮らすのもいいし、王都に住んでも良い。しかし制限はある……他国に嫁ぐのは許さん。リュデル王国の賢者として生きて欲しい」
自由……他国に嫁ぐのはダメ…………おっ?これなら第三王子もあきらめないといけないのではっ?
それに条件は特に問題もないっぽい。
リンドブルグ領に帰れないとか言われたら最悪だったけど、そんな事はないようだ。
チラリと殿下たちを見ると、第二王子が第三王子に何か声をかけていた。
……あちゃ〜……もしかして泣いてる?慰めているのだろうか……
男の友情的な感じだろう。
結局両殿下は私には話しかけてこなかった……
お城の夕食は新賢者の誕生で盛り上がっていった。
正式な賢者就任式は来年行うようで、王様からも精霊祭で花火を打ち上げて欲しいと正式に頼まれた。
アルベルト先生も笑顔で喜んでいて、レーアは泣いて喜んでいた。
見た事のないおじさんたちは、お城で働く重役さんたちだった。
簡単にいうと王様の右腕的なおじさんが何人かいて挨拶されたよ。
……急展開に戸惑ってしまったけど、賢者になると国からお金……お給金も出るらしい。
自由に暮らしていいとの事なので、条件は悪くない。
というか、断れないので受けるしかないの……
詳しい話は明日するとの事なので、今日は客間で一泊する。
替えの下着もそんなに持って来なかったので、一泊くらいは大丈夫。
……いいのかな?もうよくわからない。
明日話を聞いてから判断しよう……もう疲れた……
……いつもと違うベットの感触で目覚める。
ああ……よく寝れたので頭はスッキリ……朝食の前に走りたいけど、運動する服は持ってきていない。
ストレッチとラジオ無しラジオ体操で我慢しよう。
脳内で音楽を流しながら体操していく……本気でやると意外といい運動になるのよね。
はぁ〜…………あ〜。
賢者かぁ……賢い者と書いて賢者だよね?…………私は賢くない。
少しあっちの世界の知識を持っているだけだし……
(………………)
シィナちゃんは前向きだね……賢者やっていけるかな?
(………………)
ふふっ、私とおんなじだね。
とりあえず朝の準備だねっ!よしっ!今日も頑張るっ!
今日は制服でいいでしょう。
他にも何着かドレスは借りてきたけど、朝からは勘弁して貰いたい。
朝食は客室で私一人で食べることになった。
王様や王妃様は朝から予定があるらしい。
セシリア様も王族のお仕事があるとかで朝食は別に食べるとか……
王族は大変だね……まぁ、あまり関わり合いになりたくないし、元々私は賢者様に用事があるのだ……今日は大丈夫だよね?
朝食はスフレオムレツが出てきた。
もう私のレシピは大体できるのだろう……さすがお城の料理人さんだ。
食後は賢者様の研究室へ行ってみる。
さて、どんな感じでしょう?
扉をノックすると、すぐに扉が開いてアルベルト先生が中にいた。
「アルベルト先生、おはようございます」
「おはようございます、シィナさん。エトワルド様ならもう大丈夫そうです……シィナさんに話があると言っています」
引き篭もりは終わったようだ。
私ならお腹が空いて絶対に出てくるね……それはどうでもいい。
お話はなんでしょう?
「おおっ、来たか若き賢者よ」
「おはようございます賢者様……」
古き賢者って言ったら怒られるかな?……言わないけど。
「氷魔法や無属性魔法の解明までされたのであれば賢者としての資格は十分あるじゃろうて……それで……聞きたい事がある」
「なんでしょう?」
「お主は……精霊女王と関わりがあるかの?」
「……精霊女王?それは初めて聞きました」
精霊さんに女王様が居るの?間違いなく初耳だよ。
そういえば最近精霊さんは見ていない……あ……そういえばこの賢者様は精霊さんの研究をしているんだった。
話ができるなんて言ったらどうなるかわからないから、しばらく様子を見よう……
「……そうか。……ワシの考えでは精霊女王と…………いや、それは有り得んか……」
「ええっと、賢者様っ!私はお聞きしたい事があるのです。無属性魔法の解明は発表すべきでしょうかっ?」
精霊関係に話がいかないように、まずはこっちの要件を聞いてもらう。
お母様が言ったように、どうなるかわからないのだ。
「ワシもわからん。発表はしない方が賢明じゃなっ」
「…………は、はぁ」
賢者様の答えはシンプルだった。
そうか、発表しない方がいいのか……
「それ以前にどうすれば無属性魔法は発動するのじゃ?ワシも無意識でなんとかくなく使える無属性魔法はあるが……」
「……願いです。願いを込めて魔力制御すれば発動します」
「ほうっ!?それは面白いっ!どれ、試してみるかのう」
……しばらく私は賢者様とアルベルト先生の無属性魔法をみることになってしまった。
速く歩けるようになれば賢者様のようなおじいちゃんは楽になるだろう。
無属性魔法は体を強化するものが多いしね……
さすが賢者とお弟子さんといった感じで、脚の強化魔法はもう完璧だ。
何気に時間が経っていたので、一旦休憩する事になった。
レーアがお茶を淹れてくれて、3人でまったりしていた。
「そういえば、エトワルド様の名前と王様の名前は似ていますが、何かご関係があるのですか?」
「ん?なんじゃ、最近の若いのはそんな事も知らんのか?これから賢者を名乗るのじゃから、それくらいは常識じゃぞ?」
「シィナさん、エト、もしくはエドという言葉には優秀、勇敢といった古い言葉があるのですよ」
「……ああっ!?確かにそうですね。勉強していたのでわかります」
「貴族男性に多く使われているのですよ。他にも知り合いでいませんか?」
……ええと……エト……エド…………エドニス先輩……フォルナちゃんのお兄さんもエドが頭に来るね。
なるほど、言われてみたらそうだった。
古い言葉は何気なく使われているようだね。
「あの本が読めるのであれば、王都にある石碑も読めるのではないか?」
「石碑?……乗り合い馬車の石碑ですか?」
「知り合いに古語を研究している者がいたのじゃが、今は引退もしておるしの……奴が言うには、あの石碑はとても大事な事が書かれておる!……とかいないとか」
「どっちですか……」
へぇ……でもなんか面白そうかも。
賢者様は結構ラフな感じ……というか色々と適当な人だけど、面白くて私は好きだ。
それから前から気になっていたのだけど……この際だから聞いてみるか。
「……アルベルト先生は私が賢者になっても良かったのでしょうか?」
「と、いいますと?」
「アルベルト先生は賢者様のお弟子さんですよね?……つまり賢者を目指して研鑽しているのではないですか?」
「ああ、確かに私は賢者を目指していますが、私は他国の人間です。いずれ国に帰りますから、この国で賢者になるつもりはありませんよ」
「アルベルトはもう賢者の器を持っておる。魔法の腕もワシと遜色ないのでな」
「いえ、私はまだまだです。先生の側でもっと学びたいです」
少し引け目を感じていたけど、アルベルト先生は特に気にしてはいないようだ。
そうか、自国で賢者になる……ここには留学しに来ている感じなんだね。
それから賢者様とお城のお偉いさん数人とのお話し合いが、会議室のような部屋で開かれた。
賢者の役割の説明や、来年の就任式などの段取りなどを話し合った。
来年の春にお城で就任式と披露式が執り行われるようです。
それから、王都の緊急事態には必ず駆けつける事が最優先とも言われた。
隣国とは現状仲がいいらしいので、そこまで心配しなくていいとも言われた……一番心配なのは魔物の氾濫が起こる可能性があるということ。
これは賢者様の警告だった。
精霊さんの様子がおかしいらしい。
最近の異常気象も何か関係しているかも……と、賢者様は考えているようだった。
精霊さんは確か季節を運んでくれる存在だった筈……あながち間違いじゃないかもしれない。
季節……気温がおかしくなるなんて確かに恐ろしい事だね。
今年の夏は確かにおかしかった……秋に入ってからでもいまだに少し気温が高いからね。
どういう理屈か知らないけど、精霊さんの様子がおかしいと魔物がおかしくなる……らしい。
賢者様が断言していたので、間違い無いようだ。
これはリンドブルグ領領主であるお父様にも伝えてあるらしい。
この国で一番魔物が多いのがあの広大な密林だからだ。
……最悪なシナリオは砦が魔物に壊され、密林の魔物が街を襲う事。
そうなったらと考えるだけでも恐ろしい。
家族や領民が居なくなるなんて考えたくもない。
…………10日ほど前にハチカちゃんから文通の返事も来ていたので、今は大丈夫だろう。
賢者様は言っていた、もし今年のように異常気象が毎年続いたらどうなるかわからない……と。
気温とは別に精霊さんが関わる何かがあるのかもしれない……
王都よりも実家の方が危険かも。
……私は全力で守るよ……私の愛する人や街を。
その手段もあるのだ。
……こうして私は学院へ戻ってきた。
聞きたい事は一応聞けた……何故か賢者認定までされてしまったけど。
オリビア学院長と担任のエレアーレ先生にはある程度の報告はしておいた。
来年賢者認定される事……驚いてはいなかった。
「シィナさんは貴族令嬢としての勉強が残っているくらいで、他は教えられる事がありませんからね」
そう言って、2人はおめでとうと私を祝ってくれた。
まだ学院は授業中だったので、私は寮の自室へ戻る。
レーアが窓を開けてくれて、風が入ってくる……少し頭を整理しよう。
来年の春に私は賢者認定される。
秋休みで王都に戻ってきたら、冬の精霊際で打ち上げ花火をする。
まぁ、それらは城の人が段取りをしてくれるから私は何も考えなくていい。
問題は精霊さん関係だ。
何がどうして暴走?しているのか……
最後に話したのはいつだったか……王都では合っていない。
リンドブルグ領の実家では何回か喋っている。
……ああ、杖の採取の時にはシィナちゃんが話してくれたよね?
(………………)
そう、その時は別に普通だったね……精霊樹にいた精霊さんはまともに見えた。
せめて暴走の原因がわかればなんとかなるかもしれないのに……
賢者様に精霊さんと喋れる事を相談した方がいいのかな。
少し私も精霊さん関係を独自に調べてみようか……
精霊といえば、精霊の塔の扉もあるけど……あそこには何があるのかな?
お母様と姉様には絶対に近づくなって言われているし、どうしようか?
……一旦保留かな。
精霊さんを調べてからでもいいだろう。
そういえば精霊研究室なんてのもあったし、放課後に行ってみよう。
他は……現状私の問題は……ないかな?
少し可哀想だったけど、第三王子は私にもう手が出せないだろうし……第二王子の警戒をする必要はあるか。
よし……たぶん大丈夫。
たまにクッキーでも作って放課後までまったしていよう。
「レーア、クッキー作ろうっ」
「はい、一緒に作りましょうっ」
「……あ、泡立て器忘れてきた」
アレがなくてもクッキーなら作れるか……まぁ、いいや。
シンプルなプレーンクッキーを作って、レーアとお城の感想や賢者になる事を雑談でもする感じに話していった。
放課後になったタイミングで、私は精霊研究室へ足を運んだ。
他にも色々な生徒が研究棟を歩いている。
ドラマで見たような部活動って感じで楽しそうだね。
すぐに目当ての研究室があったので、扉をノックする。
「どうぞ〜、開いてますよ〜っ」
「失礼しますっ」
女の人の声がしたので、私は部屋に入っていく。
研究室は結構綺麗に整理されている……賢者様の部屋と比べると雲泥の差があるよ。
「……あら?シィナちゃんじゃないっ。どうしたの?」
「あ、ニーナ先輩ご機嫌よう。先輩は精霊研究室に入っていたのですね」
普通に女子寮で仲のいい先輩だ……ニーナ・テニドクト先輩……確か4年生だったかな。
ふふっ……私の記憶力は日々向上しているのよ?
貴族令嬢として名前を覚えるのは大事だからね……確か……子爵令嬢か男爵令嬢だ…………そこは覚えていない。
「お茶を淹れるけど、シィナちゃんも飲む?」
「あ、頂きますっ」
「クッキーもあるけど食べる?」
「頂きますっ!」
「は〜い、ちょっと待っていてね」
優しい先輩で、よく頭を撫でてくる先輩なのでつい甘えてしまう。
お茶を淹れてくれる間は少し部屋を見てみる……少し古い校舎……でも部屋は明るくて雰囲気がある感じだね。
姉様も前にここに調べに来ていた……他の生徒さんは居ないのかな?
本棚は一つだけあって、古そうな本や紙束も置いてある。
他にも大きな地図が壁に貼ってあり、何かの点が無数に書き込まれている。
点というか印かな?
「それは精霊の分布図よ」
「この印が精霊さんを見た場所ですか?」
「ええ、そうよ……はい、お茶とクッキー」
「ありがとうございますっ」
分布図か……リンドブルグ領のところにも点が書き込まれている。
この精霊研究室の歴史を感じる古い地図。
席を勧められたので、とりあえずお茶を頂こう。
「それで、シィナちゃんどうしたのかな?……もしかして精霊研究室に興味があるの?」
「ええと……精霊さんの事を調べてみようかと思いまして」
「よかったらこの研究室に入らない?一人で寂しいのよ」
「他の方は居ないのですか?」
「先輩がいたんだけど、卒業しちゃった……だから今は私一人」
「そうですか……」
どれくらい時間が掛かるかわからないし、入ってもいいかな……
図書室みたいに居場所が増えるのはいいしね。
「では私も精霊研究室へ入会します」
「ありがとうっ!シィナちゃんが入ってくれるなんて嬉しいわっ」
ニーナ先輩は喜んではしゃいでいる…………ニーナ先輩はお胸が大きい。
揺れているね……アレくらいとは言わないけど……少し分けて欲しい…………
はぁ……いいなぁ。
「じゃあ、この紙に名前を書いてね。あとコレはこの研究室の鍵ね」
「はいっ」
精霊研究室への入部届けのようなものに名前を書いてから鍵を受け取った。
部活なんて初めて……長い学院生活には丁度いいかもしれない。
「そうだ……ニーナ先輩は精霊女王の事はご存知でしょうか?」
「本で読んだ知識くらいね。その本ならそこの本棚にあるわよ」
「読んでもいいでしょうかっ」
「勿論どうぞ〜。ここの本や資料はなんでも読み放題ですよ」
「ありがとうございますっ」
結局部活でも本を読むんだね……でもそっちの方が性に合ってるからいいけど。
早速何冊か見繕って、精霊さんの本を適当に読んでみる。
普通の文字の本は読みやすくていいね……こっちはおとぎ話っぽい本で、こっちは物語系の本……物語関係は読まなくていいかな。
「どうして精霊に興味があるの?」
「えっとぉ……き、綺麗だからかな?先輩はどうして研究室に?」
「私は子供の頃に一緒に遊んだ記憶があるの。凄く綺麗だったから……ふふっ、シィナちゃんと同じ理由かな?」
賢者様の話……精霊さんの暴走はまだよくわかっていないから、ニーナ先輩にはまだ黙っていよう。
こうして私は精霊研究室の一員になった。
今度は私が甘味を持って研究室に持っていこう。
この日は夕方まで本を読んで過ごした……
「シィナちゃん、お城に行っていたの?」
「うん、賢者様に会いにね。……あ、王様とか王妃様とお話しちゃった」
「凄いですっ!私なら緊張しちゃうよ〜」
「下手な事言って打首にならないか緊張したよ〜」
「……う、打首?」
早速フォルナちゃんにお城の報告をしていく。
夕食後の談話室でまったりお茶を飲みながら……
「フォルナちゃん、私来年賢者になるんだって」
「ゲッホッ!ケッホッ!……んんっ!は、はいっ!?」
あのもの静かなフォルナちゃんがお茶を吹き出してしまった。
「次の精霊祭で打ち上げ花火をやって欲しいって言われたよ〜」
「ちょ、ちょっと待ってっ!シィナちゃん賢者様に会いに行ったんだよねっ!?」
「うん。色々と魔法を使ったらこうなっちゃった……えへへ」
「はぁ〜……えっ?本当に?」
「フォルナちゃんに嘘は言わないよ〜。ねっ?レーア」
「はい、陛下がシィナお嬢様をベタ褒めしておりました。王妃様も王女様にも気に入られておりましたね」
「……ああ……お兄様が不憫です……」
ん?お兄さんがなんだって?
「あ、エドニス先輩のエドって言葉って、勇敢とかって意味らしいね」
「はい、お父様がそんな事を言っていましたね」
「話は変わるけど、秋休みはリンドブルグ領に遊びに来ない?」
「はい?秋休みですか?」
「うん。秋休みは短いから、もしよかったらレーゼンヒルクに帰るよりのんびりできるかなって思って」
「是非っ!あ、あの。お兄様も一緒にいいでしょうかっ!?」
「勿論いいよ。着替えがあれば後は大丈夫だからね〜」
フォルナちゃんが秋休みにリンドブルグ領に来ることになったよ。
やった。
ずっとフォルナちゃんと遊べるよ。
……すぐにフォルナちゃんはお兄さんに話しに向っていった。
お兄さんが大好きだね。
私もお父様とお母様に連絡しておかないと……秋休みは楽しんでいこうっ!




