第38話
……色々とぶっ放してしまった結果、賢者様は考え込んでしまった。
相談する事は無属性魔法を発表するかしないか問題。
それを相談する前に自室に籠もってしまったのだ。
アルベルト先生が言うには、こうなるとしばらく籠もったきりになるとの事なので、私は厨房へ向かう事にした。
アルベルト先生に連れられてお城の1階の奥へ向かう……
途中には衛兵さんの詰め所的な場所や、大勢が食事をする場所もあった。
とにかく広大なので、アルベルト先生とはぐれでもしたら絶対に迷子になるだろう。
しばらく歩くと、いい香りがしてくる。
これはお肉の焼く匂い……いいね。
厨房へ到着したけど、エイドジクスさんはどこだろう?
凄い数の料理人さんが働いている。
ひたすら野菜の皮を切って仕込みをする人や洗い物をずっとしている人。
色んな人がそれぞれ集中して仕事をしている。
「君、副料理長はどこに居るかわかるか?」
「副料理長ですか?ここは使用人たちの食事を作る厨房でして、副料理長は隣の厨房ですよ」
「そうか、ありがとう」
どうやらここではないらしい。
……え?厨房って2つあるの?凄いね。
厨房を出て、隣の厨房を目指す……
「すまないな、私も城の全てを把握している訳ではないので」
「学院の案内板とかあればいいのですけどね」
「……ふむ、確かに……城の者に提案してみるか」
お城にこそ案内板が必要だと思うけど……セキュリティ的には難しいのかもしれない。
でも簡易的な物ならアリだと思うけど……まぁ、そこを考えるのは私じゃない……提案だけするのはいいでしょう。
隣の厨房へ向かうと、明らかにさっきの厨房とは違っていた。
人は隣と負けずに多いけど、身なりは違う……なんていうか優雅だった。
作業台も高級そうな物で溢れ、棚のお皿も高そうだ。
……ここは王族や貴族向けの食事を作っている厨房なのだろう。
あ……エイドジクスさんも何か作業している。
うっ!?こっちに気付いたっ!?
「シィナ様っ!ようこそっ!お越し下さり誠にありがとうございますっ!」
「この者がエイドジクスで間違いないか?」
「は、はい」
「おお、貴方は賢者様のお弟子様っ!シィナ様はもう用事は済んだのですか?」
「少し時間が空いたので来てみましたけど……」
「どうかシィナ様の食の知識を我々に授けて頂けませんでしょうかっ?」
「おい、エイドジクス、一体何を騒いでいるっ!?」
「料理長、ご紹介致しますっ!子猫の奇跡亭の料理の考案者であらせられるシィナ・リンドブルグ様でございますっ!」
「あの料理の考案者っ!?って貴族様じゃないかっ!大変失礼致しました。私は王宮料理長をしておりますトマスランと申しますっ」
「……シィナさんは料理もするのですか?」
「おお、アルベルト様もいらしたのですね。……エイドジクス、こちらのお嬢様が本当に考案者なのか?」
「はいっ!勿論ですっ!」
王宮料理長はまともそうだね。
トマスランさん……お腹が出ているけど、おヒゲが素敵なポッチャリさんだ……見た目はなんか可愛いおじさん……なんか癒やされる。
「あ……レシピを持ってきましたから、できそうなものがあれば……レーア」
「はい、お嬢様……」
「えっ!?レシピを頂けるのですかっ!?」
「はい、私の手書きです。……あと、一部の料理は専用の道具が必要なので、それは王都の鍛冶屋さんで注文してください」
「専用の道具……ですか?」
「レーア、泡立て器を見せてあげて」
背負い袋から箱に入れた泡立て器をレーアが見せる。
「これは……こんな道具は見たことがありません」
「ふむ……私の国でも見たことがないな……」
しばらく説明していくけど、実際に作ってみた方がいいということで、スフレオムレツを作る事になった。
といっても、作るのはレシピを見た料理長と副料理長の二人だ。
一応シンプルな物なので、料理経験者なら楽勝だろう。
「あ、アルベルト先生はどうされます?私はしばらくここに居ますが」
「私も見学させてもらいます……シィナさんは多才なようで、見ていて面白いですから」
「そ、そうですか?」
「ああっ!このレシピは宝の山ですっ!シィナ様っ!本当にいいのですかっ!?」
「ど、どうぞ〜」
「シィナ様っ!試食してみては貰えませんかっ!スフレオムレツですっ」
「は〜いっ」
さすがお城で働く料理長……腕は間違いない。
レシピ通りに作られたスフレオムレツは完璧だった。
「ん〜っ……料理長完璧ですっ」
「私もいいかな?」
「どうぞアルベルト様っ」
「……これは……ただのオムレツだと思っていたが……こんなに違う物なのか」
「アルベルト様は子猫の奇跡亭へは行った事がありませんか?」
「ああ、名前を耳にした事はあるが…………少し美味い料理程度と思っていた」
「一度行ってみることをおすすめ致します。市場の近くですので……全て絶品料理ばかりで……」
「そうか…………シィナさん、私と食事でもどうかな?勿論レーアさんもご一緒に」
「構いませんが、少し並ぶと思います。大丈夫ですか?」
「ええ、では次の休みにでも……詳しい事はまた後で」
「は〜いっ」
途中でエイドジクスさんは泡立て器を持って鍛冶師の所へダッシュした。
どうやらお城に鍛冶場があるようで、そこの職人さんに同じ物を頼みに行った。
私のレシピが次々と試作されていく……
どうやらいきなり王様と王妃様などの王族に食べて貰うとのこと……厨房は大忙しで指示出しがされていく。
一度作った物は更に完成度が増していき……スープは出汁を使った物に変わっていき、喫茶店と同じようなメニューに切り替わっていく。
王様に食べさせると考えたら少し胃が痛くなった……本当に出すつもりなのだ。
王様の不況を買って打首にならないかと変な心配をしてしまう。
一応大体の料理は試食させて貰ったから大丈夫だと思うけど……
「料理長っ!陛下の確認を取って参りましたっ!」
「おお、ご苦労さんっ!で?どうだ?」
「はい、本日は特に予定もないようで、是非シィナ様との会食をお望みです」
「…………はっ!?」
「アルベルト様もご一緒にと仰っていました」
「ふむ、私は構わない」
「えっ!?いや、私は……」
「シィナ様、陛下はとても心がお優しいお方です。大丈夫ですよっ」
「ううっ…………れ〜あぁぁぁ」
「ここは断れません。シィナお嬢様頑張ってくださいっ!」
なんでっ!?私はただレシピを教えただけじゃないっ!!
どうして王様と食事になるのっ!?
……一瞬、瞬間移動魔法で逃げようかと思ってしまったけど……レーアを残しては逃げられない。
まだ他の人や生物と瞬間移動した事がないので、いきなりレーアを実験体にはできない。
うう……胃が痛いっ……断る事はできないのだ。
でもまだ時間はある……どうにかならないのっ!?
「…………服っ!制服姿では失礼になるかと思いますっ!」
「いえ、第二王子のテオドルド様や隣国の第三王子はよく制服姿で会食していますが……」
「うっ…………わかりました……」
「料理長である私が一緒に料理の説明もしますので、どうかご安心くださいませ」
「シィナさん、私もおりますので、大丈夫ですよ」
結局断ることはできずに、王族の昼食へ参加する事になった……なってしまった。
レーアは厨房で待機しているとのこと。
さすがに見知らぬメイドさんは立ち入りができないらしい。
料理長とアルベルト先生に連行される私……気分は捕獲された宇宙人なのである…………私小さいし。
王族への挨拶なんて知らないしまだ習っていない……頑張るしかないの。
「では私は給仕の手伝いをしていますので、後ほど説明に向かいます。アルベルト様、シィナ様をお願い致します……顔色が良くないですから」
「ええ、お任せください。さあシィナさん、深呼吸をしてください」
「……はぃ……」
言われた通り深呼吸をしていく……こういう時はハチカちゃんのペンダントで心を落ち着けるしかない。
ハチカちゃん……どうか私を支えてください。
ああ、フォルナちゃんも一緒に居るなんて……心強いよっ。
見える……私の肩に優しく触れる2人の姿が。
(………………)
シィナちゃんもありがとうっ!3人に支えられているなんて私はいい友達を持った……これは魔法少女の最後の戦いのシーンだ。
みんなの勇気と希望を私に預けてくれる……よしっ!私頑張るっ!
「落ち着きましたか?」
「はいっ!みんなの為に頑張りますっ」
「みんな?…………では入りますよ」
アルベルト先生は入室の許可を貰ってか部屋に入って行く。
私は後について行く。
静かに背筋を伸ばして……貴族令嬢を演じるだけだ。
「アルベルト殿、よく来てくれた…………そちらが噂のご令嬢かな?」
「はい、エドワルド陛下……シィナさんご挨拶を……」
ん?エドワルド陛下?……賢者様はエトワルド様……今気づいたけど、名前似ているね?
「……エドワルド陛下、お初にお目に掛かります……シィナ・リンドブルグと申します。」
「ああ、よく来てくれた。……ここは家族の食事の場だ、そんなに気を使わなくてもよい。私も難しい言葉は使わないしな……」
「そうですわよ、シィナちゃんっ!さあっ!私の隣へ来てっ!」
「なんだセシリアはシィナ嬢と知り合っていたのか?」
「ええ、先程お友達になったばかりですっ!お母様、言った通り可愛いでしょう?」
「落ち着きなさいセシリア……シィナさん、初めまして。セシリアの母親のジョアンナ・ミュルグニク・リュデルと申します。宜しくね」
「よ、宜しくお願い致しますっ……ジョアンナ様っ」
「まぁ……本当に可愛らしい……それに黒髪が綺麗ですね」
一応この場には3人だけなので挨拶はなんとかなった。
第一王子とかも居るようだけど、もうお腹いっぱいです。
私はセシリア様の隣に座らされ、軽い雑談をしていく……
「そうだ、ヘンリー殿は息災かな?」
「はい、お祖父様はいつも元気ですっ」
「そうか、それはなりよりだ。リンドブルグ家には苦労をかけている……南の魔物は危険だからな」
「お祖父様は順調に進んでいると仰っていました。海へ向けて頑張っております」
「海への道が整備されたらこの国に取っても有益な事が多い……無理はしないようにと伝えて欲しい」
「はい、陛下のお言葉を必ず伝えますっ」
「……シィナちゃんテオと同い年よね?しっかりしてるわね」
テオ?……テオドルド殿下の事か……あれとは関わりたくない。
「……シィナさんは学年最優秀者を獲得しておりますので、とても優秀です」
「確かアルベルト殿が教師をしていると聞いたことがあるが……」
「ええ、私はシィナさんへ魔法を教えております」
「まぁ、黒髪を持つシィナさんは優秀なのでしょう?」
「はい。……先程エトワルド様ともお会いして、シィナさんの優秀さを見て驚いておりました……次代の賢者は底が見えない程優秀です」
「ほう、シィナ嬢は次代の賢者か。それは頼もしい」
そんなに持ち上げないでくださいっ!アルベルト先生っ!
別に私は賢者になりたくはないのですっ。
「皆様、お食事の準備が整いましてございます。実は本日の食事はシィナ様の考案された料理をご用意致しました」
「ん?トマスランそれは本当か?」
「はい陛下、シィナ様は料理の天才です。城下町のとある喫茶店が出す料理なのですが、そこの料理がどれも絶品でして……」
「それって、子猫の奇跡亭っ!?」
「あら、聞いたことがありますね。とても美味しい甘味を出すとか……」
恥ずかしいっ!お母様っ!なんでそんな名前を付けたのですかっ!
今更文句を言ってもどうしようもないけど……でも王族の話題にされているのですっ!お母様ぁ!!
食事が運ばれて来る……喫茶店より盛り付けがキレイで高級感がある。
お皿も豪華で細かいデザインが施されている。
これ一枚でいくらするのだろう……割らないようにしなくちゃ。
カトラリーセットも凄く高そう……こんなスプーン見たことないよ。
こういうちょっとした物が全部高級品だよ。
恐ろしい……100均のスプーンとは雲泥の差がある……
でもお皿の中身は馴染のある料理だね。
料理長が一品毎に説明している。
「お、美味しいですわっ!こんな料理初めて食べますっ」
「うむ……味が濃厚で……この肉料理は柔らかいな……とても食べやすい」
「そちらはハンバーグという肉料理です。子猫の奇跡亭でも人気のある料理です」
「これは……シィナさんは本当に料理の天才ですね」
「ううっ!テオがいつも言っている事が本当でしたっ!こんなに美味しいなんて思っていませんでしたわっ」
喜んでくれたのなら良し……打首にはならずに済んだね。
それにしてもさすがお城の厨房だ……欲しい調味料がほとんどあった。
味噌の海藻はさすがになかったけど、私の知らない調味料も発見できた。
料理長も副料理長も腕はいいし、最高の環境だね。
「これらの料理以外にもたくさんのレシピをシィナ様から受け取りました。シィナ様は料理人の魂である秘伝のレシピを我らに授けてくれました。感謝致しますシィナ様っ」
「ほう、それは素晴らしい。シィナ嬢へ何か褒美を取らせないとな」
「別に私は褒美は要りません……」
「……次代の賢者は慎ましいな。ふむ……ジョアンナよどうすれば良い?」
「女の子であれば、宝石や衣装……装飾品……なんでもいいですね」
「私は本当に何も要りません。今の生活に満足しております……」
「シィナさん、こういう時は何か受け取るのも礼儀ですよ。何か欲しい物はありませんか?もしくはこうして欲しいと希望を出すのもいいですし」
本当に何も要らないのだけれど、どうしよう?
お金はお小遣いすら使い切れないし、欲しい物は……ない。
じゃあ先生が言う希望。
希望……願い……将来望むこと……それならある。
「では……お手数ですが、4年後にもう一度私に褒美の話をしてくれますか?」
「構わないが、何故4年後なのだ?」
「4年もあれば欲しい物が出来ている筈です。今は何もありませんので……」
「お父様、4年で女は変わりますわ。私はシィナちゃんの気持ちがよくわかりますっ!」
「そうか、では4年後にもう一度褒美の話をしよう……4年後ということは学院の最上級生の頃かな?」
今は学院の2年生だし、4年後なら大丈夫だろう。
これならもし、権力絡みでどうしようもない時の最終手段にもできる。
王様に褒美代わりでなんとかしてもらうのだ。
貴族は一部に変な人もいるし、私が困るとしたらたぶん権力関係だろう。
もし困って居なくても、それは将来の自分に任せよう。
選択肢はあった方がいいからね。
昼食が終わる頃には、私は王族にかなり気に入られてしまった。
王妃様と王女様にお茶に誘われた……当然拒否権はない。
賢者様の様子をみないといけないと言って、アルベルト先生は一旦離脱した。
私も一旦厨房へ戻り、レーアと合流して安心させてから厨房で休憩しよう。
「美味しい昼食だったけど、疲れたよ……」
「お疲れ様でした。王族の皆様はどうでしたか?」
「王妃様と王女様にお茶に誘われました……今度はレーアも一緒に行こうね」
「……かしこまりました」
「シィナ様、ジョアンナ様とセシリア様とお茶をするらしいですが、甘味はいかが致しましょう?」
「リカンケーキでも……ああシフォンケーキもいいですね……」
「レシピがあればできます……エイドジクスっ!」
「はっ!用意しますっ!」
頑張るね……私は少し休憩していよう。
昼食が終わったばかりだというのに厨房は大忙しだ。
今夜の夕食のメニューをどうするか私のレシピを見て料理長は考え込んでいる。
エイドジクスさんは甘味作りをしている。
しばらく泡立て器は貸しておいてもいいだろう。
「あの、シィナお嬢様でございましょうか?」
「はい、そうですが……」
「アルベルト様から客室に案内するよう言われております」
お城のメイドさんだろう……どうやら客室を手配してくれたらしい。
……少し眠いしそこで休ませてもらおう。
レーアと一緒にメイドさんに案内して貰う……階段を上がったり廊下を進んでまた階段を上がり、右へ左へ進んでいく……もうわからない。
結構上ったので5階か6階くらいかな?……どこだろうここは……
「こちらの客間をお使いください。使用人の部屋もございますので、お使いくださいませ」
「ありがとうございます、あ……王妃様と王女様とお茶をする予定ですが、また案内を頼みたいです。お城は初めて来たのでどこがどこやら……まったくわかりません」
「かしこまりました。では確認して参りますので、中でお休み下さい」
客室へ入ると……中は超豪華だった。
まるでお姫様のお部屋みたいだ。
「うわぁ……レーア凄いよ……」
「これは見事なお部屋ですね」
ベットは大きいし、調度品も豪華絢爛……金色が眩しいくらい光を放っている。
それから大きな窓……テラスもあるので行ってみる。
風が少し吹いた……髪がなびく。
「わぁ〜っ!レーアっ!眺めが凄いよっ!」
さっきから凄いとしか言っていないけど、絶景なの。
王都が一望できる……丁度方角はリンドブルグ方面が見るテラスなので、あそこが市場だろう。
学院も見える……私の行動範囲が一望できるので、更にテンションが上がるよ。
まるで高級ホテルに来たような気分だね。
ここなら一息つけるし、お茶の時間まで休憩していよう。
レーアも気を張っていたのか、多少疲れの色が見える。
部屋にあったコップに水と氷を出して2人でまったりと過ごした。
「シィナお嬢様、そろそろお時間ですので、少し整えましょう」
「ん……そうね」
お昼寝していたけど、レーアに髪を整えてもらう。
これから王族とのお茶だ……失礼がないようにしないと。
制服もシワがないかチェックして……よし、いつでもいいよっ!
私の準備が整うのと同時に部屋の扉がノックされる。
レーアが対応して扉が開くと、先程案内してくれたメイドさんが王妃様のお茶の場所まで案内してくれるようだ。
階段を今度は降りて行くと、とある一室に入っていく……この感じは、学院の貴賓室によく似ている。
派閥の話し合いに使った時のような部屋で、高級感もあり落ち着けるような仕様のお部屋だね。
「シィナちゃん、こちらへどうぞっ!」
「堅苦しい挨拶は不要ですので、ゆっくりしてください」
「は、はい。ジョアンナ様、セシリア様」
レーアは私の後方で待機してくれた。
一人きりよりレーアが居てくれるだけで心強い……ありがとうレーア。
「どうです?客間はくつろげましたか?」
「はい、お昼寝していましたっ」
「そう、それは良かったです」
王妃様はとても優しい……でも気を付けよう。
第二王子のお母さんだからね……
「ジョアンナ様、甘味をお持ちしましたっ」
聞き覚えのある声は、エイドジクスさんだ。
あの自信に満ちた顔を見ると、どうやら甘味は美味しくできたようだね。
「本日はシィナ様のレシピから、子猫の奇跡亭でも人気のある甘味を作ってみました」
「まぁ、噂の甘味ねっ!それは楽しみですわっ!」
「私は何度も子猫の奇跡亭へ通い続け、なんとか城で再現できないか試しておましたが、シィナ様のお陰で本物を作れる事ができましたっ……心より感謝致しますっ!」
この人は見ているだけでもなんか疲れる……気にしないでおこう。
お茶は他のメイドさんが淹れてくれて、いい香りがしてくる。
ティーカップもシンプルだけど高級そうだね……
「本日の茶葉は西の農園で取れました朝摘みの葉を使っております。甘味の邪魔にならないような味の茶葉をご用意致しました……」
「まぁ、お茶に合わせる甘味ではなく、甘味にお茶を合わせたのですね」
副料理長と王妃様が何か小難しい事を話している……茶葉まではよくわかないよ。
「どうぞシィナさん、いい茶葉ですわ」
「はい、セシリア様」
朝摘みの茶葉…………おお……さっぱりしていてコレは美味しいっ。
なるほど……これなら甘味の甘さをリセットしてくれるね。
「この甘味は美味ですね……香りもいいし、いくらでも食べられそうです」
「……本当にコレをシィナちゃんが考えたのですかっ?美味しいですわ〜っ」
「もうしばらくすれば、新しい甘味が王都で流行る予定です」
「新しい甘味っ!?シィナ様っ!それはどういう……」
「その名は……サルのショートケーキ。私の最高傑作ですっ」
「「「最高傑作!」」」
「サルとはあの甘くて酸味のある果物ですか?」
「はい、ですが、専用の道具を作らないとできない甘味ですので、まだ王都では食べる事はできません……来年くらいには喫茶店に並ぶと思います」
「この甘味よりも凄いものがあるなんて……素晴らしいですわっ!」
甘味トークは順調だよ……ショートケーキの宣伝にもなるしね。
リカンケーキとシフォンケーキ……食べたい分だけ切り分けてくれたので良かった……お茶のせいで甘味が進む進む。
恐ろしいお茶だよ……
「そういえばシィナちゃん、テオはどうなっているの?同じ教室なんでしょ?」
「うぐっ!?」
「……あら?テオドルドがどうかしたの?母は聞いていませんよ?」
「……テオは今、学院のとある令嬢を巡ってドノヴァン君と競争しているようですよ?お母様」
「まぁ、それは初耳ですっ!そのご令嬢とはどんな方なのかしら?」
「テオとドノヴァン君が言うには、なかなか相手にされずに苦労しているとか……私が言うのもなんですが、普通の貴族令嬢であれば王族のテオやドノヴァン君であれば……食い付かない方がおかしいんだけどね」
ごめんなさい……普通じゃなくて。
「シィナさん、そのご令嬢の事はご存知?」
「え、ええ……一応は……」
「お母様、そのご令嬢にも何か理由があるかもしれません。あまり深く詮索しない方がいいかもしれません……」
「……でもあの気の弱いテオドルドがドノヴァン殿と競い合いなんて……よほどそのご令嬢は魅力的なのでしょう?もしかしたら婚約となれば……」
王妃様も息子の事となると母親の顔になるね……うう……ダメダメっ!
……情に流されてはいけない。
「……シィナちゃんはどうなの?そんなに可愛いんだし、誰かとお付き合いとか……」
「私にはやる事があるので、今は誰ともお付き合いする気はありません……それに私はまだ背が低いですので……」
「それは勿体ないですよ。女であれば……リンドブルグ領にとっていい条件の男子がいればもっと積極的に動かないと……」
「そうですね。貴族令嬢とはそういうものですね……ですが、あと数年は魔法の実験をする予定です」
「……そういえば賢者様に会いに来たのですよね?」
「はい……その賢者様は部屋に籠もってしまいましたけど……」
「ふふっ!あのお方は籠もると長いですのっ。一体何をしたの?次代の賢者様?」
やっぱり長いのか……おじいちゃん早く出てきて。
あまりぶちゃけるのもアレなので、無属性魔法の事は黙っておこう。
氷魔法くらいなら大丈夫かな……
というかこれ以上第二王子の事を詮索されたくない。
魔法よりそっちの方が追求されたくないよっ。
……よし、ここは魔法で気を引こう。
「ジョアンナ様、セシリア様、綺麗な魔法をご覧くださいっ」
小さな打ち上げ花火を乱発していく。
音は小さいけどあるよ。
「まぁっ!なんて綺麗な魔法かしらっ!」
「こんな魔法は見たことありませんねっ……お花かしら?」
「はい、花火と言います。リンドブルグ領のお祭りではもっと大きい花火を使うと領民が喜んでくれるのです」
「まぁ……お祭りで…………シィナちゃん、王都の精霊祭でやってくれない?」
「セシリア、それは良い考えですわねっ!シィナさん、どうでしょう?」
「精霊祭……冬のお祭りですよね?まぁ構いませんけど……」
またあの渋い喫茶店に行きたいな。
近いし……そのうち行こう。
「冬……あ、これは賢者様に見せた氷魔法です」
空いたティーカップに氷を出して見せる。
カランカランと音がして氷がティーカップいっぱいになる。
「……セシリア、魔法って氷の属性ってありましたか?」
「いえ、お母様……氷の属性はありません……」
一つつまみ上げて口の中で転がす。
「冷たくて美味しいのですっ」
「次代の賢者……なるほど」
「ふぅん……シュアレちゃんの妹は凄いわね…………テオじゃ無理かな?」
とりあえずお茶会はなんとかなった。
冬の精霊祭に打ち上げ花火を頼まれたけど、まだ時間はあるし大丈夫だろう。
今日帰れるのかな?……賢者様次第か。




