第34話
「はぁ〜……まったくシィナはまたとんでもない事を……どうするのよこれ?」
「どうしましょうね?……んん〜っ!冷たくて美味しいですっ」
「はぁ〜……夏場の氷……なんて贅沢なのでしょう」
「確かに贅沢ね……ああっ……最高っ」
私はかき氷シロップをこの暑い中急ぎ作って、今は姉様を誘ってレーアと3人でかき氷祭りを開催している。
「レーア、そっちの甘酸っぱいシロップも美味しいですよ」
「はい、次はそちらにしてみます」
「……シィナがいると退屈しないで済むわ……一応お母様には私から報告するからね」
「お願いします……他の先生方には知らせない方がいいですか?」
「……それは……お母様の判断を聞いてからでもいいわ」
「氷魔法なんて発見した偉業……どうなるかわかりませんね」
「んん〜っ!冷たくてあま〜いっ!……最高ですっ」
「「はぁ……」」
よし、このシロップを持ってフォルナちゃんとユエラさんにもこの感動を味わって貰おう……
氷……氷があれば甘味の幅も増やせるね……まぁ、それはおいおいでいいとして、この夏はとても楽に過ごせるよ。
……どうして氷魔法が発見されていなかったかは謎です……誰も試さなかったのだろうか?私も思い込みで氷魔法は無いと決め付けていたけど……
一度アルベルト先生に聞いてみてもいいかもしれない。
少し回復したフォルナちゃんも驚いていたけど、一緒にかき氷を楽しんでくれた。
この日が特に暑かったけど、次の日からは暑さも落ち着いていき、暦通り初夏の気温に戻ってくれた。
フォルナちゃんも翌日には体調も戻り、学院の授業も再開された。
氷魔法で作ったかき氷にも回復効果があるのかは、要検証だね……
もしもかき氷に回復効果があれば…………いくらかき氷を食べてもお腹が痛くなったりしないのだろうか?
それはとても魅力的である……
学院も落ち着きを取り戻してしばらく経った頃……学院2年生のイベントが始まるようです。
去年は杖を作りに森へ行ったけど、今年は野営の訓練をするみたい。
こういうイベントは年一で何かしらあるようで、今年は王都の近くの川辺へ行らしい……私はいつだったか馬車で野営をしたこともある……
今更野営の訓練といっても、2泊くらいならたぶん平気である。
しかし、王都に屋敷を持つお貴族様たちはあまり王都の外に行かないらしく、野営もした事がないとか。
王国が有事の際は貴族は駆り出される存在なので、訓練も必要……
最初はピクニック感覚と思っていたけど、どうやらサバイバル訓練のようです。
さすがに私もそんなワイルドな事はしたことない。
川で魚を釣ったり、近場の森で食料を探したりもするらしい。
2年生は5クラスあるので、各教室でまとまっての二泊三日のキャンプサバイバル。
まだ夏前なので、比較的過ごしやすい季節だからいいけど……この前のような灼熱地獄でなくてよかった。
私たち2年生は馬車で数時間の川辺で降ろされた。
先生方は数人残ってくれるけど、基本的に先生に頼るのは緊急時のみ。
事前のホームルームで話し合った通り、野営をした事のある生徒が中心になって、テント設営班や食料調達班に分かれての作業です。
……ちなみにこういう時のデリケートな問題がトイレ問題だけど、学院は簡易トイレを設営してくれたようで、そこは感謝します。
大自然の中ではさすがに抵抗がある……特に女の子は……
そこは貴族の通う学校なので、手加減してくれたみたいで安心だよ。
2−1の教室では、何人かの男の子たちが野営経験者がいたので、基本的にそのリーダーの指示に従うように決まった……
それからホームルームでは、私の威嚇を禁止することも決定された……
誰に……とは追求されなかったけど、このキャンプ中は両殿下も自重すると言っていた……どこまで信用していいかはわからないので、私は素直に従ったフリをする…………変な事をしたら遠慮せずに使うつもりだよ。
もう2−1の教室では日常茶飯事に私は威嚇をしているので、ちょっとした名物になっているようです……まぁ、今更なのでどうでもいい。
とにかくみんなで協力して、このキャンプサバイバルを生き抜かないといけないの。
正直あまり自信はない。
ただ魔法は使い放題なので、火起こしや飲水には苦労しないで済みそうだね。
馬車は走り去っていく……運動着姿の2年生150人を置いて……
……こういうのは楽しんだ者が勝ちと聞くし、なるべく自然を満喫して楽しんで行こう。
私とフォルナちゃんは一緒にテント設営からだ。
女子と男子は当然違うので、2つ大きなテントを張る必要がある。
別にそこは男女別で設営しなくてもいいので、男の子の指示でテントを設営する。
「シィナさん、ここを支えてください。フォルナさんもこっちを……」
普通のクラスメイトA君の指示の下、数人の男女でテントが張られていく……ここは順調に進んでいく。
各教室で少し間隔があるので、今のところみんな真剣にやっている。
あっちの世界の小学生くらいなら、ケンカや騒ぎになるかもしれないけど、ここは礼儀正しい貴族の集まりなので、そんな事にはならないで済みそう。
そう、これはあくまで訓練……真剣にやらないといけないの。
数十分掛けて、やっと2つのテントが設営された。
何故か私は支える事しかしていないけど、大きなテントはちゃんと張られたので安心した。
……うん、このA君は優秀だ。
「さすが男の子ですね、指示の出し方も上手でした」
「そ、そう?昔兄様と野営をした事があったので、その経験が役に立ちました」
「いいですね〜、兄弟で野営は楽しかったでしょう?」
「そ、そうなんですよ、兄様はとても優しくて……」
「はいっ!無駄口は止めて食料調達に行きますよっ」
「「はいっ」」
モニカさんに注意されたけど気を取りして森で採取だ。
この教室の女子のまとめ役は、私の隣の部屋のモニカさん。
……ここで少し今のモニカさんとの関係を説明しよう。
モニカさんは良くも悪くもクラス委員長的な存在です。
勉強をするのが大好きで、真面目な人……悪く言うと堅物かな……
私はクラスで少しだけ……すこ〜しだけ浮いている存在なので、モニカさんには良く思われていない……たぶん。
しかも私の成績が免除されるくらいなので、少し目の敵にされている感じなんだよね。
私的にはお隣さんなので仲良くしたいけど、今のところモニカさんにその気はないみたい。
私は両殿下に威嚇する問題児だけど、成績は最優秀者。
それをモニカさんはどう思っているかはわからない……あまり近寄らず、離れすぎずの微妙な関係になっている……なので、こういうイベントでは素直に指示を聞いておこう……別に嫌いではないけど、シュアレ姉様とは正反対の性格なので、怒らせないようにしないと。
触らぬ神に祟りなし……なのである。
フォルナちゃんや他のクラスメイトで森の恵みを探していく。
ここはそこまで深い森ではないので、魔物もそんなに出ない……と先生には言われしね。
つまり……出る時は出るということ。
もし出くわしても、そこまで強力な魔物ではない……と思う。
食料を探しながら、魔物の気配にも注意しなくてはならないのです。
「お〜いっ!ここに美味しそうな実が成っているぞ〜っ」
クラスメイトのB君が何か発見したみたい。
散らばっていたみんなはB君の元に駆け付ける。
……おっ?市場で見たことのある果物だ。
食べた事はないけど、売っているくらいだから大丈夫だろう。
しかし……高いところに成っている。
「どうやって採ろうか?」
「風魔法を使ってみようか……シィナさんできる?」
「ん?私?いいけど……ちょっと離れていてね」
真下だと距離感がわからないので、少し離れてから風の刃で木と果実を切り離し、更に別の風魔法で果実を浮かせてから手元に寄せる。
「さすがシィナさんだね。綺麗に採れたよ」
私にクラスメイトが集まって来る。
おお……魔法なら役に立てるよ。
まだ何個も実っているので、大きい物を中心に何個も採取していく……
一人の背負い袋はもう名前の知らない果実でいっぱいになった。
「これくらいならできるけど、みんなも今まで魔法の訓練してきたんだし、自分でやってみて。できなかったら言ってくれれば私も手伝うよ」
「「は〜いっ」」
よしよし、順調順調っ。
この後も山菜や食べられそうなキノコなどを採取していく。
「そのキノコは確か食べられない筈よ」
「えっ?そうなのっ!助かったよ、モニカさん」
モニカさんもその知識を活かして活躍しているようだ。
こういうサバイバルでは、採りすると森にとって良くないと何かの本で読んだことがあるので、程々にしていく。
食べられないくらい採ってもしょうがないからね。
なんだかんだで、みんなは採取を楽しくできたようで、テントまで戻る事にした。
フォルナちゃんも色々と採取したようで、ニコニコしていた。
こういうアウトドアは初めてだったけど、結構楽しめたよ。
「……うわっ!スライムだっ!」
前方で男の子がスライムに出くわしたみたいです。
しかし素早くB君が対処してくれたようで、事なきを得たようだ。
……うん、B君も優秀で何よりです。
「冷静に対処できたのは素晴らしいですねっ」
「っ!ありがとうございます。シィナさんに褒められると嬉しいですね」
「魔物が突然出てきたら普通は焦りますからね。いい反応でした……普段の訓練が役に立つのは成長した証ですね」
「成長……そうですね、学院での学びは無駄じゃないですね。これからも……」
「はいっ!他の魔物が出る前に戻りますよっ」
「「はいっ」」
またモニカさんに注意されてしまった……おしゃべりは帰ってからしよう。
森で気を抜いたらいけない。
無事に森から帰ってきたら、先生に毒がないか確かめて貰う。
しかしモニカさんの知識が役に立ったようで、全て食べられる物だった。
素晴しいと褒められたくらいだ。
もうすぐお昼なので、採れた物を使ってスープ何かを作っていく。
これは私や他の女子の仕事なのだけど……あまり自信がないようなので、私が中心に味付けや調理を進めていく。
塩や調味料などは先生から配られているので、適当にキノコたっぷりのスープや、簡単な炒め物なども作っていく。
クラス全員分なので、なかなか凄い量になっていく。
途中で川で捕れたお魚も他の班が持ってきてくれたので、内蔵などの処理をしてもらってから焼いたり、スープに追加したりしていく。
食べた事のある川魚なので、味付けも大体わかる。
塩焼きが最適なので、そこは別の人に任せた……スープは結構美味しくできたので、これなら上々だろう。
「シィナさんがこんなに料理が上手だとは思いませんでした」
「……モニカさんの知識があったから、いい食材が採れたのですよ。モニカさんのお陰です」
「…………そうですか……それなら勉強した甲斐がありますね……えっと……少しあちらを見てきます」
……あれ?少し照れた?……モニカさんって……ええとなんて言うんだっけ?
ああいう恥ずかしがり屋さん……つんでれ?だっけ?
ちょっと可愛かった。
「…………できましたっ」
「「「おお〜っ!」」」
「スープが欲しい人は並んでくださ〜いっ」
……なんか給食当番みたいで、面白かった。
無言だった両殿下にもちゃんとスープをよそっていく。
食器は最低限しか数がないので、普段の貴族の食事とはかけ離れているけど、みんな楽しそうに食べていく。
体を動かして、食料を取って……これはいい経験だね。
ちゃんと果実のデザートもあるので、結構満足な昼食になった。
最初に見つけた果物は洋梨みたいに少しねっとりとしていて甘かった。
午後からはまた夕食の食材を取ったり、夜に向けて焚き火用の木切れを拾って来たり……みんなは精力的動いていく。
今のところこのキャンプサバイバルは順調。
いつも飲んでいるお茶は無いけど、果物から果実水は作れたのでなかなか贅沢なサバイバルになっている。
やはり魔法が使えるというのは便利なのだ。
順調に夕食の分の食材も集まっていく……お魚も豊富で、森の恵みも十分。
少し川に行って風景を楽しむ余裕もある。
光で眩しい川はとても澄んでいて、ずっと眺めていられる……
初夏の森もとても涼しい……マナスイオン?的なものでも出ているのかは知らないけど、とても心地いい……そしてやはり魔物は少ないようです。
スライムがたまに出てくるくらいで、子供でもやっつけられる魔物なので、そこまで脅威ではない……それに夜は火を焚けば寄って来ないらしい。
「シィナさん、また魚がこんなに釣れましたっ」
「シィナさん、こっちも美味しそうな果物がありましたよっ」
「みんな凄いですね、私も頑張って調理しますねっ」
私に報告にくるのは何故だろう?
普段話さない男の子が多い……それにしても両殿下が大人しいので若干不気味だよ。
私は採取ではなく、食事の準備や皿洗いなどを頑張ることにした。
水は出し放題だし、少し水圧を上げてやればすぐに綺麗になる。
生ゴミは土魔法で埋めてやれば土に還るだろう…………たぶん。
採取よりもこっちの方が性に合ってる……決して虫が嫌という訳ではない……
…………正直に白状すると、見たことのない虫が多いので怖いの。
なんなら魔物より怖いまである。
元々虫は苦手なので……焚き火近くだと虫も来ないので安心なのよね。
「……シィナ嬢……あ、あの……」
「…………どうされました?テオドルド殿下」
「いや、特に用はないのです。……その、何か手伝う事はありませんか?」
「いえ、特にありません。ここは大丈夫です……」
「そうですか、じゃ、じゃあまた……」
「はい……」
…………大人しく釣りへ戻ったようだ。
久しぶりに喋った気がする。
あの踊りの時のように積極的じゃなく、以前のような気弱そうな殿下だった。
……どういうつもりかわからないけど、アイツはもう警戒対象なので、気を緩める事はしない。
もう彼はリーチなのだ。
もう一度私をお妃に誘うような行動をしたらきっぱりと断る。
王族には興味がないしね。
夕食の準備も整っていく頃には徐々に薄暗くなってくる。
みんなはもうテント周辺に集まって、疲れたのだろう……焚き火を囲んで座り込んでいる。
「は〜い、まずは男の子から頭と手を洗いましょうっ!」
「「「えっ!?」」」
「お風呂は無理ですが、これで洗ってください。気持ちいいですよっ」
私は火魔法と水魔法を使い、大量のお湯の水球を出していく。
先生に確認したら、川で水浴びするくらいしかできないと言われたので、これで我慢してもらおう。
「温かい……シィナさんありがとうっ!」
「これは助かるよ」
「女の子たちは後でね〜、作戦もあるから大丈夫っ!」
「「「はいっ!」」」
男の子たちは頭や顔を洗っていく……石鹸はないけど、これで我慢して欲しい。
気持ち良かったようで、生き返るとか最高とか言っていた。
まぁ、男はこれくらいでいいよね……
「これ以上は川で水浴びでもしてください……女の子が居ない時にでもね」
私は女の子を集めて、土魔法で壁を作り出していく……5メートルくらいあれば大丈夫だろう。
四方を囲い、覗かれないようにしていく。
「シィナさん、これは凄いですねっ」
「これなら覗かれないでしょ?」
私は服を脱いで肌着状態になっていく……
「シ、シィナちゃん……どうするの?」
「ん?これで体を洗うんです。あ、服も肌着も洗ってください、後で乾かしますから」
もう一度お湯を大量に出していく。
肌着事、全身を洗っていく……
「恥ずかしがらずに洗ってください。気持ちいいですよ〜、まだまだお湯は出せるので、」
「う、うん…………あ、温かい……」
フォルナちゃんも同じ様に肌着事洗っていくと、他の女の子たちも一斉に洗っていった。
汗臭いのはやっぱり嫌だよね……
……服も手洗いしていく。
私は最後に温風を出していき、服も体も乾かしていった。
「さっぱりしたわ……ありがとうシィナさん」
「服も乾くなんて凄い魔法ですっ」
「いいえ〜。あ……足は川で洗ってね」
「「「は〜いっ」」」
全員準備ができたので、土魔法の壁を土埃が立たないようにゆっくり解除していく。
ああ……気持ち良かった。
少し男の子たちはこっちを伺っていたけど、気まずいのか視線を外していた……こいう時は異性を感じるね……でもお腹が空いたので、夕食の時間だ。
「夕食にしますっ!全員準備開始っ!」
「「「お、おーっ!」」」
昼食よりは上手にできたので、みんなは良く食べた。
ほぼ私の手料理なので、みんなのお母さんになった気分だ……一番ちっこいのは私だけど、これは母性だろうか?いまいちよくわからない。
パンはないけどお魚はたくさん焼いたので、結構お腹いっぱいになった。
こうしてキャンプサバイバルの1日目は終わりを迎えた。
テントでは寝にくいかと思ったけど疲れていたのか、ぐっすりと寝られた。
ちなみに見張りは男の子が交代制でやってくれるようで、そこは感謝する。
これはホームルームで決まった事……男の子たちが提案してきたのだ。
男としての矜持らしい。
サバイバル訓練2日目。
私は誰よりも早く起きた。
もうおばあちゃんのように早起きする癖がついている。
テントのみんなは何事もなく寝ている……みんな可愛い寝顔じゃのぉ〜。
軽く髪を整えてから、みんなを起こさないようにしてテントを出る。
川のせせらぎの音……鳥さんの鳴く声……森と川の匂い……空気が美味しい……
癒やされる……のだけど、見張りをしていた馬鹿王子は焚き火の側でお船を漕いでいた。
……火は消えていないので、見張り自体はできていたようだけど、この静けさなら居眠りするのもわかる。
焚き火の音って凄く落ち着くから安心できるんだよね。
たぶんこの状況なら私も居眠りするだろう。
この景色は素晴らしい……王都の中では味わえない良さがある。
……起きたら面倒そうな相手なので、起こさないように昨日仕込んでおいた朝食用の食材を鍋に入れてスープを作っていく。
昨日の夕食は暗かったので少し洗い物も残っていたから、今のうちにさっさと洗ってしまおう。
ん〜……気持ちいい朝っ……少し走ってもいいかもしれない。
川には大きな鳥さんが水を飲んでいる……大きな……大きな…………なんだアレは?
大きなテント並に大きい……ニワトリを大きくしたような…………あ……アレってもしかして魔物っ!?
うっ!?こっち見たっ!!つ、杖っ!
「キョゥウっ!!」
「うぁあああっ!?こっちくるなぁーっ!!」
大きなニワトリさんは物凄いスピードでこっちへ二本脚で駆けてきたっ!!
素早く魔力制御をしながら私は後ろへ下がる。
「な、な、なんだっ!?」
「はぁーっ!!」
私は扇風機魔法をニワトリさんへ放っていく。
……ブヒョっと変な音がしたと思ったら……ニワトリさんの頭は……無くなっていた……
「うっ!?」
ち、血が思った以上に噴き出してっ…………あっ……これ貧血みたいになって…………私はそこで意識を失った……
……ゆっくり瞼を開くと……ここはテント……かな?
…………えっと……あ〜……大丈夫、覚えている……
まだ血の気が引いているのか、少し寒い……ごめんなさいニワトリさん。
殺
殺めるつもりはなかった……でも突進してきたアナタも悪いのよ。
あ〜……スプラッターは苦手なのです。
……次からは昨日のような土魔法で壁を作った方がいいかもしれない。
…………起きるか。
「シィナちゃんっ!大丈夫っ?」
「うん……ちょっと血を見て驚いただけだよ……フォルナちゃん」
「……良かったっ!」
フォルナちゃんから抱きしめられた……心配かけちゃったね。
テントから出ると、そんなに時間は経っていなかったようで、まださっきのニワトリさんが少し先に横たわっている。
私はその場で両手を合わせて御冥福を祈る……ごめんなさい……
「シ、シィナ嬢っ!無事かっ!」
「うっ……はい、お陰様で無事です」
「我を守ってくれたこと……誠に感謝するっ!そしてすまなかった、我は……」
いえ、別に貴方を守ったつもりはない……ただの自己防衛とか正当防衛とかいうやつです。
「ますます惚れたぞ……この礼は必ずしよう」
「え?いや結構です」
「その謙虚なところもシィナ嬢の美徳だな……ではアイツを捌いてやるので待っていろっ」
「え?だからけっこ……う…………行っちゃった……」
あ〜……なんでこうなるのかなぁ……もう馬鹿王子はお腹いっぱいなんだけど。
「……シィナちゃん、あのドノヴァン殿下が気絶したシィナちゃんをここまで運んでくれたんだよ?」
「え?そうなの?……うぇ……」
……なんかあの馬鹿王子、あの大きい鳥を自前の剣で捌きだした……王子様アレを捌いたことがあるの?
「フォルナちゃん、あの鳥って魔物?」
「野生のホロロ鳥だと思うけど、あんなに大きなホロロ鳥は初めてみたよ」
……あ、その名前聞いたことある。
あれだ、美味しい卵を産む鳥さんの名前だ…………ええっ、アレが卵を産むの?まぁ見た目はニワトリっぽいけど……
徐々に羽は無くなっていき、鳥肌が見え出してくる……
もうあの王子様はホロロ鳥を鶏肉にするお肉屋さんと化している……一心不乱に捌いているのだ。
他の教室の生徒も何事かと第三王子を見に来ている。
途中から他の男の子たちもお肉屋さんの手伝いをしていって、もう完全に鶏肉となっていった。
内蔵の処理は見たくなかったので、私は背を向けて朝食作りの続きをしていった。
もう参加している男の子たちは血まみれで……あまり見たくなかった。
自分が生き物を殺めておいて、思う事ではなかったけど……それはそれ、これはこれなのである。
しばらくして、朝食ができた頃にどうやら終わったようです。
凄かった……たった数十分でアレを解体したの。
あの王子様は意外とこういう作業は得意なようだね……王族なんて何もできなと思っていたけど、これには脱帽したよ。
「シィナ嬢っ!できたぞっ!あのホロロ鳥を調理してはくれないかっ!?」
「ううっ!まずは川で全身洗ってくださいっ!」
「おっと、これは失礼したっ!」
……この後も凄かった、大きな鶏肉がメニューに追加されたので、塩味の焼き鳥パーティーが開催されていった。
大き過ぎたので、もっと大味かと思っていたけど、このニワトリはホロロ鳥……名前通りホロホロと崩れるくらい身が柔らかかった。
全教室が集まって2年生全員でこの鳥を食べ尽くしていった。
しかも鳥ガラも手に入ったので、ガラスープも作ってみたところ、お店並みの出汁で最高に美味しいスープも堪能した。
あのニワトリさんは私たちの生きる糧になりました……
ちなみに服ごと全身を洗い終えた馬鹿王子には、熱風で全身を乾かしておいた。
捌いてくれたご褒美だ……目茶苦茶喜んでいたけど、私はこの馬鹿王子様のことは苦手なので、適当にあしらっておいた。
昼食でたっぷりお腹が満たされたので、昨日の食材も余っていたし、今日は大して採取はせずに、のんびりと過ごしていった。
川で遊ぶ男の子たち……女の子たちも川辺で遊んでいた。
私は暇だったので、各教室の女の子たちへ温水サービスをしていった。
やはり体を満足に洗えないと気持ち悪いからね……女の子にはサービスするよ。
男の子は川で洗ってください……
夕食は余った食材を使って軽く済ませた。
明日の朝食は果物だけでもいいだろう。
無駄に採って腐らせるのは嫌だしね。
こうして今年の2年生のイベントはなんだかんだで楽しめた。
予定外の焼き鳥パーティーもあったけど、片付けもしっかりしてから学院へ帰っていった……
アウトドアも魔法があればなんとかなるようです。
季節はもうすぐ夏本番になっていく……




