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黒髪賢者の恩返し  作者: しんのすけ
第3章 旅路
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第33話



 ……いつもの朝のランニングをしていると、早朝からたくさんの馬車や荷馬車が寮へやって来る。

 新一年生たちの入寮が始まっているのだ。

 もう姉様たち卒業生は部屋を空け、何も残っていない状態です。

 最後に見た姉様の部屋は少しだけお香の香りが残っていた……あの部屋も誰か知らない下級生が使用するのだろう。


 季節は春。

 もうじき入学式と始業式が始まります。

 私は2年生に進級して、シュアレ姉様が教師となるこの学院で気持ちを新たにして貴族令嬢の勉強をしていく。

 そのシュアレ姉様は、一部の学院の先生方が暮らしている建物に引っ越しをしていった。

 学院のすぐ側にあるので、そのうち遊びに行ってみよう。

 ココナさんもそこへ移動したので、引き続きシュアレ姉様と一緒にいるらしい……学院の先生はみんなお貴族様だからね。

 姉様の引っ越し作業が終わると、エントさんとマルムさんはヒルク兄様の婚約者であるイレーヌお姉さんを護衛しながらリンドブルグ領へ旅立った。

 はぁ〜……ヒルク兄様が新婚さんかぁ……いいね〜。

 イレーヌお姉さんは美人さんだから、ヒルク兄様と並んだら美男美女だね。

 今までの人生で家族が増えるなんて経験がないから、夏休みに帰るのが楽しみだよ〜っ。

 (………………)

 ああ、そうだね、チャッピーも家族だから初めてじゃないね。

 シィナちゃんもチャッピーが好きみたいだから嬉しいよ。



 新入生の入寮も落ち着いて、新一年生の入学試験もあったようで、もう間もなく始業式です。

 今日は新一年生の為の歓迎会も女子寮で行われる。

 今年の最上級生たちが魔法を使ったりして簡単なパーティーを楽しめるのだ。

 去年は姉様もいて楽しかったからよく覚えている。

 ……しかし、新一年生のご令嬢たちは発育が宜しいようで……私より背の低い子ってもしかして居ない?

 いや、私も一応成長しているのだ……去年より1センチも背が伸びていたのよ?フォルナちゃんはもっと伸びていて、私と並ぶと姉妹くらいの差がある。

 …………なぜだろう。


 翌日は入学式と始業式。

 いつもは退屈な学院の行事だけど、今日は講堂の壇上にはシュアレ姉様の姿もあった。

 久しぶりに姿を見られたので凄くホッとした。

 この世界には教育実習生とかの制度はないようで、教員免許をいつの間にか取得していた姉様は、この学院で最年少の先生です。

 制服から先生っぽい服装になって少し雰囲気も変わったように見える。

 ……あ……手を振っている……中身は変わっていないようだね……まぁ当然か。

 でも髪を上げているので、大人っぽくなっている……あの姉様が立派に見えるよ……


「シィナちゃん、シュアレ先輩綺麗だね」

「うん。でもフォルナちゃん、もう先輩じゃなくて先生だよ」

「あ、そうでした。変な感じですね」


 まったくその通りです。


 始業式も終わり、2年生の教室でホームルームを終えてあとは解散。

 担任の先生は引き続きエレアーレ先生です。

 ちなみにシュアレ先生は新一年生の副担任的な事をするらしい。

 いきなり担任とかにはしないようだね。

 この教室で言うと、ジッド先生のような立場らしい。

 魔法も教えるそうで、優しい姉様なら大丈夫だろう。


 いつものように通行人AとBに威嚇をしてから教室を出る。


「……シィナちゃんは徹底してるね」

「ん?何が?」

「……ううん、なんでもない」


 今年は一年間平和になりそうだよ。

 ……でも今日は少し暑いかも……春の陽気じゃないね。



 2年生になり、授業の内容は……あまり変わっていない。

 引き続き基礎勉強は免除されているし、魔法の授業は杖を使った授業になった……一度エレアーレ先生とジッド先生に私の杖の魔法を見てもらったら、やはり免除されてしまった。

 つまり私が参加するのは淑女教育くらいで、1年生と変わりなかったの。

 ……私の図書室通いは当分続くようです。

 でも、古い言葉を徐々に覚えてきたところなので、今が最高に面白い……文句は言わないよ。

 

 休日には姉様の部屋に遊びに行って回復薬を注いだり、フォルナちゃんと本屋さんに行ったり、喫茶店で甘味を食べたり……私の2年生のスタートはとても順調だった。

 季節は春の半ばなのだけど、今年は暑くなりそう……もう初夏のような日差しでそこそこ暑い。


 そんな少し暑い日……私は気分転換に修練場で杖を使わずに魔法の練習をしに来てみた。

 今日は1年生と上級生がいたけど、私はその中間で魔力制御を開始する。

 ……シュアレ姉様はいないみたい、そのうち授業をしているところを見てみたいものだね。


「あ、あのっ!」

「はい?」


 1年生だろう……幼さの残る男の子だ。

 ……私より背が高いけど、それはもう慣れっこです。


「貴女の名前を教えてくださいっ!一目惚れしましたっ!僕はっ」

「おいっ!俺が先に目を付けたんだっ!」

「私とお付き合いしてくださいっ!黒髪の女神っ!」


 うっ!いきなりなにっ!?

 こ、告白されちゃったっ!?こんな事初めてだよっ!

 3人の男の子たちはお互いを押し合っている……


「ええと、ごめんなさいっ!無理ですっ!」

「「「…………え……」」」


 恥ずかしいっ!もういいやっ!

 私は修練場を走って出ていった。

 だって年下はナイのだっ!

 私はもっと大人の魅力を持った男性が好みですっ!たぶんっ!

 あ〜っ!びっくりしたぁ……図書室に戻ろう…………でも初めて男の子に告白されちゃった……まだドキドキしてるよ。

 あれがもっと……あと10年くらい年を……いやせめて5年くらいは……

 ……しかし……これは序章に過ぎなかった。


 翌日……朝食を済ませ、職員室へ行って今日の予定をエレアーレ先生に報告に行く……のだが、校舎の大広間で……


「居たっ!……黒髪の君っ!次の休みにお出掛けしませんかっ!?」

「お、俺とお茶をっ……お茶をしませんかっ!」


 うっ!?朝からなにっ!?

 また1年生だろうけど……なんなのよっ!?


「ごめんなさいっ!年下に興味がありませんっ!」

「「…………」」


 私は一緒にいたフォルナちゃんを置いて、職員室へダッシュした。

 あ〜っ!もう朝からっ!やっぱり恥ずかしいよ……

 ……気を取り直して職員室へ入っていく。


「はぁ〜」

「シィナさん、朝からため息をついてどうなさいましたか?」

「あ、エレアーレ先生……いえ、そのぉ個人的な事でして……」

「あらあら、もしかして1年生から言い寄られているのではないですか?」

「えっ?どうしてわかるのですか?」

「最近シィナさんの問い合わせが多いんですの……1年生の男性からね。黒髪の生徒は誰ですかって……」

「はぁ……」 

「あ、勝手に教えてはいませんよ。そういった事は他の教師も気を遣っていますので」


 ……ああ、だから誰も私の名前を知らないんだね。

 でも……なんで1年生からばかり……同級生に見えるのかな?


「あ、シィナじゃない」

「姉様……いえシュアレ先生、おはようございます」

「おはよう、モテモテらしいわね。お母様が言った通りになってきたわね」

「うっ……」


 以前お母様は言っていた……この黒髪は魔力を多く持つ証だと。

 貴族男性は魔力を多く持つ貴族令嬢と結婚したがる……その逆もしかり……


「で、でも何故か1年生ばかり迫ってくるのです」

「それはまだ知らないのでしょう、寮に入ったばかりですからね」

「ジッド先生、おはようございます……何がです?」

「おはようございます。1年生たちがテオドルド殿下とドノヴァン殿下がシィナさんにご執心になっている事をです」

「……は?」

「貴族の男であれば、意中のご令嬢を誰よりも早く自分の婚約相手にしたいと競争になりますっ!しかし王族が妃候補に狙っているとなると身を引くのが貴族男性ですから、まだシィナさんの事を知らないのでしょうね」


 ……ということは、両殿下がいなかったら私は色んな学年の生徒からも言い寄られていたってこと?

 つまり両殿下のお陰で今まで平和だったのかしら?

 それは感謝すべき事なのだろうか?

 ん〜……王族2人というプレッシャー、もしくは貴族男性多数……

 どっちもどっちな気がする。


「シィナ、嫌なら威嚇しちゃっていいからね」

「は〜いっ!」


 さすが姉様です。

 こういう時は力でねじ伏せる……私は考える事を止めた。

 そうね、今は両殿下を威嚇してるのだから、もう男は全員威嚇していこう。

 どうせ私の好みはいないだろうし。


 こうして私は近付いてくる男どもを威嚇する毎日がしばらく続くことになった……1年生は元気だね……私の事は忘れて他の恋を探してください。

 正直チヤホヤされるのは悪い気はしない……

 でもこの体はシィナちゃんの物なの。

 私が勝手に婚約者なんて作れないの……だからごめんなさいね。


 

 ……今日も朝に職員室へ向かう……けど、突然後ろから声をかけられた。

 はぁ……また1年生だろう……魔力制御をしていく。

 

「……君がシィナ・リンドブルグですか?」

「…………あれ?……ごめんなさい、先生でしたか」

「……で、どうなのです?」


 あれ?私威嚇したよね?っていうかこんな先生見たことない。


「あ、はい……私はシィナ・リンドブルグと申します」

「私は本日から臨時教師を務めるアルベルト・メイエット……と申す者だ。君の魔法を観ることになっている」

「え?そうなのですか?初耳です」

「学院長とジッドという教師に聞いてみるといい……職員室はどこかな?私はこの学院に来るのは初めてでね」

「そうなのですか?あ、丁度そこに案内図がありますよ」

「……案内図?……あれか。…………ほう、これはわかりやすいな……」


 案内図はもう学院中に設置されている。

 今年の1年生はこれがあるだけで楽になるだろう……

 それよりも……この先生は他国のお貴族様なのかな?リュデル王国の貴族なら、この学院で学ぶ事が絶対に必要なことだからね。

 まぁ、初対面でいきなりそんなことを聞くのは失礼かもね。

 ……濃い髪……しかも凄いイケメン……歳はヒルク兄様くらいかな?

 だけど少し愛想がないね……不合格。

 私の理想は高いのです。


「君も職員室に来なさい、話は聞いている。どうせ授業を免除されているのだろう?」

「はい、今から向かうところでした。あちらです」


 私は職員室室へ案内していく……けど、なんか視線を感じる。

 だいたいの人は私の黒髪を見るからね……仕方ないか。

 職員室にアルベルト先生と一緒に中へ入っていく。


「あらシィナ、おはようっ」

「シュアレ先生、おはようございます。学院長先生は居ますか?」

「いるけど、誰?」

「臨時教師のアルベルト先生です」

「……アルベルト・メイエットと申します。宜しく……」

「ふぅん……シュアレ・リンドブルグと申します、そこのシィナの姉よ。学院長の部屋はこちらです、どうぞ」


 姉様が私に代わってアルベルト先生を案内して行った。

 私はエレアーレ先生に今日の予定を伝えよう……



 いつものように図書室で勉強していると、司書のゲルド先生にお茶に誘われた。

 図書室には司書室があるのでたまに誘われるのだ。

 ゲルド先生とはこの1年で、すっかり仲良くなって本の話題しかしないけど、おすすめの本を教えて貰ったりするのでいい気分転換になる。

 興味のないジャンルでも、ゲルド先生のおすすめ本は外れたことがないので、安心して読めるし面白い。

 早速今日のおすすめ本を借りていこう。

 貸出の手続きをしていると、図書室にアルベルト先生が入ってきた。


「あら?貴方は?」

「臨時教師をすることになりましたアルベルトと申します」

「ゲルド先生、私に魔法を教えてくれる先生らしいです」

「まぁ、シィナさん良かったですねぇ」

「シィナさん、午後から修練場へ来てください」

「はい、わかりましたっ」


 アルベルト先生はそう言うと颯爽と図書室を出て行ってしまった。

 よし、午後からは魔法の練習だ……あの先生と一緒なら1年生が寄ってくることもないだろう。



 昼食を終え、私は少しワクワクして早めに修練場へ向かった。

 お母様並に髪が濃かったし、学院の用意してくれた先生だろう。

 学院ではまともに魔法を教えて貰った事はなかったので、楽しみ〜。


 修練場へ入ると、アルベルト先生が一人で的を見てたたずんでいた。

 ……孤高のイケメンって感じで、目の保養になるね。

 ……黙って見ていても仕方ないので、ゆっくり近付いていく。


「お待たせしましたか?アルベルト先生」

「……いえ、大丈夫です……この学院はいい所ですね」

「そうですね、修練場もこんなに立派ですし」

「……では、初めにシィナさんの魔力制御を見せて頂けますか?」

「はい、いいですけど……」

「両手を握ります。構いませんか?」

「はい。構いません」


 誰も居ない修練場の中央付近でアルベルト先生は膝をついて私の両手を握った。

 ……冷たい手だね。

 手の冷たい人は心が温かい……なんて事を聞いたことがあるけど、実際にどうかは私は知らない。

 だけど、この先生からは嫌な感じもしない。

 今日も少し暑いので心地良いくらい。

 早速魔力制御を開始する……私の限界まで徐々に循環させていく……以前よりも早く循環できるようになってきた。

 体がどこかに飛ばされそうになるのは変わっていないけど、もう私の魔力制御は最高速だ。


「……これが今の私の最高速です」

「理解しました……もう止めて結構」


 アルベルト先生は手を離してから立ち上がる。

 ……汗?

 アルベルト先生の額に汗が垂れていた……暑いのかな?


「…………では、花火という魔法を見せて頂けますか?」

「花火……ですか?」

「ええ、とても綺麗な魔法と伺っています」


 ジッド先生かな?……まぁいいけど。

 この間フォルナちゃんに花火の魔法を見せた時は他に誰も居なかったしね。

 

「いいですが、この魔法は昼間より、夜に使うととても綺麗なのです」

「……今で構いませんので、お願いします」

「は〜いっ」


 ん?いつの間にか入口付近に生徒が集まっていた。

 どうせならみんなにも見せてあげよう。


「アルベルト先生、他の生徒さんが来たので、もっと奥へ行きましょうか」

「……そうですね、奥へ行きましょう」


 奥へ行くと、他の生徒も少し近付いてくるけど、そこそこ離れていているので迷惑にはならないだろう。

 さっきまでの修練場とは違い、今は生徒でガヤガヤとしている。

 私は少し集中して……打ち上げ花火をイメージする。

 打ち上げるけど、この間と同じ大きさ、同じ音量で大丈夫だろう。


「いきますっ」

「……どうぞ」


 3つの魔法を同時に使い、いつのものように打ち上げ花火は成功した。

 近所迷惑にはならない程度の音量なので、他の授業にも影響はないだろう。


「……素晴らしい。今のは火と光と風……同時に3つもの魔法を使ったのですね ……」


 アルベルト先生は感動して、他の生徒は驚いていた。

 もう少しサービスしておこう……私は打ち上げ花火を連発していく。

 んふ〜っ、やっぱり花火は連発するのが綺麗なのです。

 昼間なのでそれなりだけど、光魔法を調整してもっとはっきりした色にすると十分綺麗だしね。


「シィナさん、その魔法は美しいですが、どういう時に使うのでしょうか?」

「ん?どういう時?……実家のあるリンドブルグ領ではお祭りの時に使うとみんな喜んでくれます」

「……喜ぶ……それ以外は……」

「いえ、特にありませんが?」

「……そうですか、わかりました……ではジッド先生が言っていた風魔法をお願いします」

「は〜いっ」


 たぶん扇風機魔法だよね?……杖は怖いから止めておこう。

 普通に的を……破壊しないくらいでいいか。

 ……的の中央を削れたので、これくらいでいいでしょう。


「…………その風魔法は私でも使えますか?」

「説明しましょうか?ジッド先生では無理でしたけど……」

「是非……」


 ……私が教えているけど、大丈夫だよね?あくまで私が生徒なんですけど。

 一応扇風機魔法のイメージをわかりやすくは伝えたと思うけど……羽とか角度とか。


「…………ふむ……こう……か」


 アルベルト先生は腕を的に向けると、風が巻き込むように集まっていく。

 おおっ!ジッド先生では無理だったけど、この先生はいけそうだ。

 へぇ……扇風機魔法ってこんな感じなんだね……後ろから見ていると結構迫力がある。

 アルベルト先生の放った扇風機魔法は、私が削った的に当たって、的を吹き飛ばしていた。

 私はパチパチと拍手をして、普通に凄いと思った。


「アルベルト先生凄いですっ初めてであそこまでできるなんて思っていませんでした」

「……いや、失敗だ。君の魔法は的の中心を綺麗に削っていた……私の魔法は的を吹き飛ばしただけ……練習が必要だ」

「あ〜、先程説明した羽の角度と、もっと一点に集中する感じですね」

「……なるほど……君は説明が上手な。この魔法はどういう時に思い付いたのだ?参考までに聞かせて欲しい」


 ん?なんだっけ?扇風機魔法は…………あ、違う……元々は換気扇だった。


「甘味を作っていたのですが、部屋に籠もった匂いを窓の外に飛ばしたくて」

「はっ?……匂いを……飛ばす為?」

「そうです、普通の生活魔法では部屋の物が風で散らかってしまうとも思って……それでこの魔法を思い付きました」  

「……普通の風では範囲が広いからこの魔法で狭めたのか……凄い発想だ」 


 ……この魔法で空を飛べるけど……アレは誰にも言ってないし……秘密にしておこう。


「…………ふむ……シィナさんの魔法はある程度理解した。賢者エトワルド様に弟子入りする気はないか?私はエトワルド様の側付きをしているのだ」 

「えっ?そうなんですか?」

「ああ、学院長から君を一度見て欲しいと言われたので確認に来たのだ……どうだろう?」

「えっと……弟子入りは卒業してからと思っていたのですが……学院の貴族令嬢の教育もありますから」

「なるほど……では、城に遊びに来る感覚でいいので、気が向いたらエトワルド様にお会いしてみないか?とても優しいお方なのでいつでも歓迎するよ」

「賢者様はお城に住んでいるのですか?」

「ええ……いつも城で研究ばかりしている…………是非来て欲しい」


 意外とアルベルト先生は押しが強い……いつでもいいという言葉を繰り返すので、私も一応オーケーしてしまった。

 お城なんて行ったこともないから不安でしかない。

 ……この後はこれからの授業を説明してもらった。

 私はまだ初級魔法くらいしか知らないので、中級、上級となんでも教えてくれるそうです。

 普通の2年生はまだ初級魔法しか教えないらしいので、私的にはありがたい。

 これで学院に来る意味もあるというものだね……とりあえず、お城行きは置いておこう。



 こうして私の学院での勉強は少し楽しくなった。

 イケメンがマンツーマンで魔法を教えてくれるので、私はどんどん新魔法を覚えていく……攻撃するような魔法や、防御する魔法。

 基本的に魔力制御ができていれば簡単に覚えられたので、アルベルト先生も私に教えるのは楽しいらしい。

 たまにジッド先生も加わったりして、魔法授業を楽しんでいった。

 そしていつの間にか1年生男子からのお誘いも無くなっていたので、夏前には充実した学院生活になっていった。

 1年生が大人しくなった原因はわからないけど、平和が一番……なんだけど、今年は気温がおかしい……暑すぎるので、もう学院では夏服に衣替えしていった。


 まるで日本の真夏並になったので、私はまだ耐えられる……ドライミストもあるし。

 しかしフォルナちゃんがダウンしてしまったの。

 その頃には学院生徒も何人か熱中症のようになり、数日休校になってしまった。

 私はフォルナちゃんの看病をする為に、部屋に行ってドライミストを使っていく。


「涼しい……です……」

「ユエラさん、フォルナちゃんにこまめに水分補給をさせてください」

「はいっ」

「あと、塩も舐めさせてくださいね」

「塩ですか?」

「ええ、塩分補給も大事なんです」

「シィナちゃん……ありがとうございます……」

「これくらいならいつでも……だから早く良くなってね……」


 ……少し風魔法も使っているので、多少は違うだろう。

 …………まさか誰かの看病をあの私がするとは思っていなかった……

 少しだけ……お母さんの気持ちがわかった気がした……良くなって欲しい。

 早く回復して一緒に…………回復?……回復薬を出せば良くなるかな?

 緊急って程でもないけど……少しくらいなら大丈夫……だよね。

 フォルナちゃんだし、問題ないよね……


「ユエラさん、吸い飲みってありますか?」

「今出してきましたっ、お水を入れてきますね」

「いえ、そのまま貸してください。私が出しますから」

「ありがとうございます、シィナお嬢様」


 私は吸い飲みの中に水を入れてユエラさんに手渡す。


「これをフォルナちゃんへ飲ませてください」

「はいっ…………フォルナお嬢様、少し起きましょうね」

「…………ん……はい」

「……塩も忘れずに舐めてね」


 ……伝えたほうがいいのだろうか……フォルナちゃんに回復薬の事を……

 いや、一応効果があったらにしよう。

 病気に効くかどうかはわからないからね。

 …………実験台にしてごめんなさいっ!きっと良くなるからねっ!


 私の出した水を飲んだフォルナちゃんはまだ具合が悪いようで、ぐったりしてベットで寝ている……

 それにしても暑い……窓は全開にしているけど外からは熱気が入ってくる。

 せめて風魔法で換気するしかない。

 こういう時に氷が欲しい……水枕とか気持ちいいし、ただ氷を舐めているだけでも気持ちいいのに……

 …………魔法はイメージなんだから氷くらいできないの?

 一度も試したことはないけど、魔力制御をして氷をイメージしてみる。

 冷凍庫のキンキンに冷えた四角い氷……去年のかき氷を作った時のタライの氷…………ああ……かき氷が食べたい。

 いでよっ!こおりっ!!

 ……両手に集まった魔力がパキパキと何か音がしていき、白いモヤが出てくる。

 …………あれ?なんだろうこれ?

 両手の先に光る粒が現れて、どんどん大きくなる……


「…………あ、氷だ」


 氷は落下して床に落ちた……私はしゃがんで四角い氷を掴んでみる。

 ……うん、冷凍庫で作ったような四角い普通の氷。

 床に落ちたので舐めはしないけど……冷たくて気持ちいい。

 コレをたくさん作ればフォルナちゃんがもっと体調が良くなるっ!


「ユエラさんっ、お皿貸してくださいっ」

「はい?お皿ですか?」

「あとコップもくださいっ!」

「少々お待ち下さい」


 魔力制御を高速にしてまた氷をイメージする。


「シィナお嬢様、このくらいのお皿でいいですか?」 

「もっと大きなお皿がいいですっ!」

「は、はいっ…………これはどうでしょう?」

「テーブルに置いてくださいっ!」 


 ユエラさんがテーブルに大皿を置いてくれたので、そこへ氷を作り出していく。

 ……やはりこの魔法を使うとパキパキと、冷気が発生していく。

 さっきよりも魔力を高速循環させているので氷が素早くできてくる。


「はぁっ!?」


 大皿にはコトコトと氷が生成され、大皿いっぱいに氷が盛られていく。

 よしっ!とりあえずこれでいい。

 一度自分で氷を舐めてみる…………うん、普通の氷です。

 ああっ!冷たくて美味しいよっ!


「ユエラさん、とりあえずこの氷をフォルナちゃんに舐めさせてください。あ、心配ならユエラさんも舐めてみてくださいっ。冷たくて美味しいです」

「シ、シィナお嬢様……氷を作る魔法は存在しません……えっ?なんですかこれは?」

「……わかりませんけど、できましたっ!さあっ、フォルナちゃんへっ!」

「は、はいっ!」


 ユエラさんは大皿を持ってベットへ向かった。

 フォルナちゃん気に入ってくれるかな?


「フォルナお嬢様、お口をあ〜んしてください……」

「…………ん〜……あ〜…………っ……つめふぁい……」

「氷ですよ、ゆっくり舐めてください……」

「ん〜……きもひいぃぃ」


 フォルナちゃん気持ちよさそう……舐めているだけで気分転換になるし、水分補給もできるから丁度いいだろう。

 私はお医者様ではないので、熱中症の細かな対応はわからないけど、クーラーも扇風機もないこの世界なら、こうやるしか方法がない……まずは少しでも体温を下げた方がいいよね?

 コップに水を注いで、もう一度氷を3つ程作ってみる。

 ……元々私の水は冷たくて美味しいけど、やっぱり氷があると最高だよ。


「ユエラさんも、体調を崩さないようにしてくださいね」

「はい……ありがとうございます」

「はい、このお水はユエラさんが飲んでください」

「……頂きます。まさかこの部屋で氷入りのお水が飲めるとは思いませんでした…………冷たくて美味しいです」

「そうだ、厚めのタオルはありますか?」

「……このくらいですか?」

「少し待っていてくださいっ」


 今度は厚めの氷……北極の氷をイメージして、氷を生成していく……

 10センチくらいの厚みのある氷の板が完成した。

 これならすぐにはとけないだろう。


「この氷をタオルで巻いて頭や足を冷やしてみてください、たぶん気持ちいいですよ」

「……シィナお嬢様は凄いですね。ありがたく使わせて貰います」

「部屋にいるので、また氷が必要になったら遠慮せずに来てください」 

「はいっ」


 私はフォルナちゃんの部屋を出て自室へ戻る。

 ……なんか氷できちゃったけど……これは氷魔法って事でいいんだよね?

 ……えっと、火、水、風、土、光、闇、無属性……と、氷……

 火魔法があるんだから、氷魔法くらい追加しても問題ないよね?

 

 …………あ、かき氷作ろうっ!

 

 

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