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黒髪賢者の恩返し  作者: しんのすけ
第2章 私の学院生活
33/70

第30話



 秋休みでリンドブルグの屋敷に着いた翌朝……いつものランニングをする。

 秋の朝は少しだけ肌寒いけど、走っていると自然と体が温まるので丁度いい。

 スポーツの秋っ!いいよね〜っ……この世界にスポーツってあるのかな?

 剣技とかはスポーツじゃないよね?球技も見たことがない。

 学院には研究会という部活的な物もあるけど、スポーツっぽいモノはなかったと思う。

 何か再現しようとしても知識もないし、道具もない……

 ……うん、無理だ。

 芸術の秋っ!これは……紙とか絵の具はあるけどそんなに絵は得意ではないかな?嗜む程度かな……下手ではないと思います。

 前に毛糸の刺繍でモコモコ(鳥)を再現したけど、先生たちからは雲と呼ばれていたしね……

 ……無理だ。

 私は趣味がない。

 今のところ朝ランニングするくらいだけど、これは日課であって趣味とは言えない。

 ……となると、食欲の秋しか選択肢はない。

 お母さんと料理はしていたよ?でもお母さんの隣で補助くらい……実際には料理をほとんどやったことはない。

 レシピはある程度覚えていたけど、たぶん料理よりも食べる事の方が好きだと思う…………趣味は食べる事……あまり褒められるような趣味ではない気がする。

 ああ、読書の秋を忘れていたよ……そうだよっ!読書っ!

 ……趣味は読書です。

 頭の良さそうな趣味があったじゃないっ!

 でも読書はいつもしているし、暇を潰せるような別な趣味が欲しい……


 朝走りながら趣味について考えていたけど、読書と食べる事以外は趣味がない事がわかった。

 ……これでいいのか私は。

 女の子なんだからもっと可愛い趣味とか…………お化粧って趣味?

 でもレーアが完璧にやってくれるし……

 ん〜……駄目だ、もう切り上げて朝食を食べよう。

 ジュリエッタさんの朝食〜っ!

 食べる事が趣味でいいや。


 趣味以前に……私の精神年齢は低いかもしれない。



「シィナおはよう。少しいいかしら?」

「お母様、おはようございますっ!昨日の子ですか?」

「ええ、来なさい」


 ランニング姿だったけど、お母様についていく。

 猫リスさんは大丈夫かな?


 お母様の部屋に入り、昨日の木箱を覗き込む。


「ピッ……ピピッ」

「お母様、この子元気になってますっ!可愛い〜っ」

「……はぁ〜……シィナ、良く聞いてね……」

「はい?」

「まだ調べる必要があるの……このピッコは元気になったけど、一度砦に行って欲しいの」

「はぁ?いいですけど……」

「次は砦にいる負傷者に水をあげて欲しいの……」

「怪我人がいたのですか……私の水は回復効果があるのでしょうか?」

「それを確認したいの……いいこと?回復魔法は教会関係者しか扱えない魔法なの……前に言った事は覚えている?」

「はい、覚えていますが……」


 私の水魔法に回復効果があると……もしかしてまずいの? 


「回復効果のある水は実際にあるの……魔力を回復させる物とか毒を軽減してくれる物とかね……魔法道具のお店で見なかった?」

「ああ、ありました。小瓶に入っていましたね」 

「アレは教会が作り出した物で、製造方が秘匿されている物なの……もし、怪我を癒やす効果がある水をシィナが作り出せるなんて知られたら、聖女様の扱いをされるかもしれないのよ」

「……私が聖女様……ですか?……私には似合いませんよ」


 聖女様に助けられた私は感謝している……けど、助けてくれた聖女様のお墓参りとかはさせて貰えていない……

 以前から思っていたけど、教会ってなんか……貴族との距離がある感じなのかな?

 あつれき?的な感じでもあるのかな?


「……お母様、教会ってよくないところなのですか?」

「いいえ、それは誤解ですよ。ただ、現状教会関係者はなんでも隠蔽する……ええと、隠す癖があるの……わかる?」

「はい、問題があった場合、表には出さずに……裏でこっそり処理をする……感じですか?」

「……シィナは頭がいいわね、その通りです……貴族を嫌ってはいない……とは思うのですが、よくわからないのが現状ですね」

「……何を考えているかわからない……ですか?」

「ええ、聖女様は立派にやっているのですが、あまり表にも出てこないので、会話もできないのです」

「ですが私を助けてくれた聖女様はとても優しい笑顔でした」

「そうね、聖女様を疑いたくないわよね……」


 なるほど……なんとなくはお母様の言いたいこともわかる気がする。

 隠蔽体質の組織か……何があるのかは知らないけど、そう聞いたらなんだか怪しく感じてしまう。

 でも嫌な感じはしなかったけどな……鎮魂祭の時のおばあちゃんシスターとか若いシスターとかは普通に見えたけどね。


「……とりあえず教会は怪しいから、知られたら良くない……ということですよね?」

「ええ、シィナを教会に取られでもしたら……」

「お母様……」


 お母様の悲しませる訳にはいかない……もうお母さんのような泣き顔は見たくないっ。 

 

「……教会を潰してしまうかもしれないわ」

「お、お母様っ!?落ち着いてくだいっ!」


 お母様ご乱心っ!?おおっ……おっかないですっ!


「…………ふふっ、冗談よ?」

「……冗談には見えませんでしたっ、今後は気を付けますので人が亡くなるようなことはしないでくださいっ」

「勿論よ……でも今日にでも砦に行って欲しいの……砦の兵士たちなら教会に漏らすようなことはしない筈ですから」

「わかりましたっ!」

「でもシィナが水を出した事はなるべく秘密にしたいの……小瓶を何個か用意するからそれに入れてね」

「……小瓶に入れるなら私は行かなくてもいいのでは?」

「効果時間がある物もあるのよ、ここで水を出しても、砦に着く頃には効果が無くなる可能性もあるの……」


 賞味期限的な感じかな?

 確かに今までは水を出したらすぐ使っていたしね……

 これも要検証って感じかな。


「今年は魔物が多く出て、負傷者がたくさんいるの……できれば早く治してあげたくて」

「理解しましたっ!朝食を食べたら行ってきますっ!」

「デールには言ってあるから、宜しくね」

「……お母様、ちなみにこのピッコはどこの子ですか?」


 少し手を近付けるとスリスリしてくる……猫みたいで可愛い。

 人に懐いているから誰かのペットかな?


「誰かが飼っている訳ではないと思うわよ。庭で仕事をしていたモルトが弱っているこの子を見つけてきたの……周辺の家に聞いて貰ったけど、どこの家でも飼っていないそうよ」

「ですがこんなに人に懐いています」

「元々ピッコは人を警戒しないの、昔は私の実家でも飼っていたしね」

「そうなのですか……」


 ……可愛い……私の指に両手を置いて背伸びをしている……手乗りサイズの猫リスさん。

 リスのようなフワフワ尻尾を振っている……ううっ……可愛いよ〜っ!

 でもペットなんて飼ったことないし……

 

「……ここで保護しましょうか?シィナに懐いているみたいだし」

「……いいのですか?」

「ええ、私もピッコは好きだしね、砦に行って貰うご褒美よっ」

「お母様大好きですっ!」

「あらあら……甘えん坊さんね…………私もシィナが大好きよ……」


 ……こうして我が家にピッコが家族の一員になりました。

 しかも私に名前を決める決定権も頂きました。

 砦に向かう道中……ずっと名前を考えている……

 あのピッコは生後1年くらいで男の子らしい。

 猫でリスで男の子……なんて名前にしよう……

 今日はヒルク兄様とダリル兄様が一緒に来てくれている。

 街を守る砦に行くので、護衛は少数で大丈夫だしね……

 目の前に座っているレーアは空の小瓶が詰まっている木箱を抱えている……

 もうすぐ着くだろう……

 ん〜…………名前……名前って……難しいね。

 男の子だしカッコいい名前がいいのかな……それとも男の子は無視して可愛い名前にしようか……

 あっちの猫とリスのキャラクターの名前でもいいよね……ああ、でもせっかくならちゃんと自分で考えたい……鳴き声はピッピッピッ……ピッコが一番しっくりくる名前だね……でもそれは駄目だし……猫にネコって名前を付けるようなものかな?

 色は薄い茶色で縞模様が少しある。

 ん〜…………この数年の間で一番悩んでいるかもしれない。


 結局砦に着いてしまったので、予定通りに小瓶に水を注いでいく。

 私の存在は秘密にしておきたいので、馬車からは出ない。

 小瓶と言っても牛乳瓶くらいの大きさなので、30本程水を注いでいくとレーアでも重いようなので、ヒルク兄様が運んで行った。

 砦の中から同じ空き瓶をダリル兄様が持ってきてくれたので、また追加で30本程水を注いでいった。

 ……どのくらい負傷者が居るのかわからないけど、100人以上は居るようです。

 合計で30本を4セット注いだよ。

 ……もし本当に私の魔法に回復効果があるのなら、兵士の皆さんにはよくなって貰いたい……怪我の程度は知らないけど、あのお馬さんの脚が治ったように、少しでもよくなって欲しい。


 今回の結果はヒルク兄様が観察するようで、ヒルク兄様はこの砦に残るようです。

 昼食はジュリエッタさんに作って貰ったお弁当があるので、静かに馬車の中でレーアと食べた。

 砦の帰り道はダリル兄様と数人の護衛で帰る。

 なんとなくこの秋の空気が寂しかった……



「…………お前は今日からチャッピーですっ」

「ピッ?」


 お母様の部屋で私はこの小動物に向って宣言する。

 若干犬さんっぽい名前だけど、もうこれ以外は考えられなかった。


「あら、可愛い名前ね。良かったわねチャッピー」

「ピッ?」


 シマピーと悩んだけど、茶色くピッっと鳴くのでチャッピーに軍配が上がった…………誰にも文句は言わせない……私の命名センスではこれが限界なのだ。


「チャッピー、あなたは今日からチャッピーよっ」

「キュウッ!」


 ……チャッキュウにする?前提を崩しちゃダメだよ?


「ピッ?」

 


 屋敷へはお茶をする時間の前に着いたので、チャッピーの命名式を終えた私は、レーアと一緒にハチカちゃんのお食事処へ行ってみる。

 ずっと馬車に揺られていたので、体を動かしたかったので丁度いい。

 お昼も過ぎているので空いているだろう。


「こんにちは〜っ」

「……シィナ様っ!おかえりなさいっ」

「ただいま〜ハチカちゃんっ」


 普通にお食事処の扉を開けると、ハチカちゃんが暇そうに編み物をしていた。

 他にお客さんは居なかったので、ハチカちゃんのお父さんに三人分のリカンケーキとお茶を頼んだ。


「シィナ様、文通は楽しいですね」

「うん、ハチカちゃんの学園の様子もわかるから面白いよ」

「そういえば夜会はどうなったのですか?キレイな衣装で踊ったのですよね?」

「ん?……特に……まぁ、踊りは先生に褒められたよ?」

「お貴族様の男性と踊ったのですよね?素敵ですね〜」

「北のレーゼンヒルクのお友だちのお兄さんに踊って貰いました」

「じゃあ、同じ辺境伯様なんですね」

「お〜っ、ハチカちゃん勉強してるね、そうそう、北を守る辺境伯様だよ」


 リカンケーキを食べながら会話とお茶を楽しむ……

 ああ、これが至福のひとときだよっ。

 お互いの近況を話し合ったり、レーアにつっこまれたりしながら楽しく過ごす。

 

 ……秋は収穫祭もある。

 収穫物が採れた事を女神様に感謝するお祭り。

 もう間もなく街はお祭りムードになっていくの。

 学院から帰るとお祭りがあるので、まるでお祭りに帰ってきているようで面白い。

 また花火でも打ち上げてもいいね。

 もう私の花火は……ほぼ完璧です。

 オリビア学院長に声を大きくする魔法を聞いたら、ジッド先生が教えてくれたの。

 勿論、習得済である……風魔法を使い、魔力で声を増幅させる魔法だ。

 ……声とは音。

 当たり前の事だけど、音とは空気の振動で聞こえるものです。

 それくらいは私でもわかる。

 つまり風魔法で空気を振動させて魔力で増幅して大きくなる……イメージ。

 あまり科学は得意じゃないけど、イメージを持って魔法を使えば大体成功するのが魔法……私の頭でもなんとかなる便利な物です。

 お父さんはスピーカーとかアンプ?とか好きだったので、オーディオルームで教えて貰った記憶がある。

 ただ、大きな音はなかなか試す場所がない……学院というか王都では気軽に使えない。

 花火の時はどれくらい大きな音と振動になるかもわからない。

 お腹に響くくらいの大きな音はできるかはまだわかっていないけど、そこそこ大きな音はマスターしてある。

 それに花火と一緒に組み合わせればいいだけなので、調整はいくらでも可能。

 杖も使わないので、変な事にはならないだろう。


「収穫祭はまた花火打ち上げようか?」

「あのキレイな魔法なら見てみたいですっ」


 ハチカちゃんの頼みならやるしかないでしょうっ!

 お任せくださいハチカちゃんっ!

 お土産も渡してからお客さんが来る夕方前には屋敷に帰った。

 私はお父様にまたホウレンソウをしに行った。


「わかったから、その目は止めなさいっ」


 花火の使用許可は無事にゲットできたので一安心だ。

 お優しいお父様……大好きですよ。


 

 チャッピーが居ると退屈にならずに済む。

 お母様の部屋から私の部屋に連れて行っても、問題はなかった。

 猫のようによく寝るので、大人しいものです。

 ペットを飼う上で最初に教えることはトイレ問題だけど、お母様がしつけていたのかちゃんとレーアが設置してくれた箱の中で用を足していた……賢い子です。

 さすがに学院には連れていけないけど、屋敷にいる間は一緒に過ごそう。

 ああ……可愛い……モフモフだよぉ……

 勉強をしているとふとももに乗ってくるので、撫でながらの勉強は最高です。



 砦で水を注いで数日経つけど、まだヒルク兄様は戻ってこない。

 今日は収穫祭の前夜祭。

 秋休みの私は基本的に暇なので今日もハチカちゃんたちと街へ行って前夜祭を楽しむ。

 屋台では季節毎に商品が違うので、屋台巡りだけでも楽しい。


 パッセちゃんたちと果実水を買ってお菓子をつまんでお話をしているだけでも楽しい。

 大広間の席で5人で雑談していると、同い年くらいの男の子たちが3人で近付いてきた。


「やあ、リン。なにやってるの〜?」

「……別にお話していただけだけど?」

「貴方たち邪魔よ、どっか行って」

「セルカは相変わらず口が悪いよね」

「ハチカちゃんこんにちはっ」

「こんにちは……」


 学園の生徒さん……同級生かな?

 ほうほうほう……見た目は悪くないね、至って普通の中学生くらいの男の子たちだ。

 お貴族様とは違う普通の街の子供たちって感じだね。

 ここは成り行きを黙って見ていよう。


「……リン?誰だ?この子」

「……可愛い……」

「誰かの妹?紹介してっ!」

「「「…………」」」

「貴方たち……悪いことは言わないから早くここから立ち去りなさいっ」

「セ、セルカっ!誰だよっ教えてくれっ!」

「パッセでもいいからっ」

「……うるさいっどっか行ってっ」


 黙っていよう……


「黒い髪……もしかして……」

「早くどっかに行けっ!バカっ!」


 3人組の男の子たちはしょぼくれてどこかへ消えていった。

 あ〜あ……かわいそうに。


「すみませんシィナ様、学園のバカ共が失礼を……」

「いえ、気にしてないから大丈夫だよ、セルカちゃん」

「男の子が多くて……女の子は私たちだけなので……」

「そうみたいだね?じゃあモテモテじゃない?」

「あいつらは勘弁して欲しいのですよ……子供っぽいし」

「「「ね〜」」」

 

 ……ああ……皆女の子だね。

 男と女では精神年齢が違うとかもよく言うしね……


「で、でも上級生とかに素敵な殿方とかは……」

「……まぁ、何人かカッコいい先輩はいますけどね……」

「私は特に……」

「セルカちゃんこの間告白されてなかった〜?」

「リンちゃんっ!黙っていてっ!」

「へぇ〜あのセルカちゃんがね〜」

「シィナ様っ!なんでもありませんからっ!」

「ふふっ、いつもこんな感じなんですよ」

「うん、こんな感じです」


 ……ああ、これが恋バナ。

 みんな背も高くなって成長してるからね……自然とこういう話しになるよね〜……妹と言われたのはスルーしておこう。


「あんなヤツらよりも、王子様との話が聞きたいですっ!」

「アハハっみんなと同じだよ、同級生には興味ないよ〜」

「……ハチカちゃんの言った通りだね……シィナ様ならお妃様にピッタリなのに……」

「王族には近寄らないことにしていますので、残念だったね」

「じゃあ、素敵な先輩とかは……」

「特に……居ないかな?……」

「「「勿体ない」」」


 しばらく恋バナを続けていくけど……この年頃の女の子たちの理想はみんな高いのだ……頑張れ男の子。

 少し日も暮れて肌寒くなってきたので、明日も遊ぼうと約束して今日は解散となった。

 ハチカちゃんとも別れて一人で屋敷に帰っていく。

 大広間ではこれから大人たちの時間なので、まだまだ騒がしい……

 ……ん?誰だろう?お馬さんで誰か駆けてきた。


「シィナーっ」

「ヒルク兄様っ!」

「今帰るところかな?」

「はい、前夜祭の帰りです」


 ヒルク兄様は一度お馬さんから降りて……私をお馬さんの鞍に乗せてくれた。

 久しぶりの乗馬である。


「お馬さんの上は高いですねっ」

「さあ、一緒に帰ろう」

「はいっ」


 兄様がお馬さんと一緒にゆっくり歩いていく。

 ああ……このシュチュエーション……いいかもぉ。

 イケメンとお馬さん……いい。


「……砦の兵士さんたちはどうなりましたか?」

「ああ、お母様にも報告するけど、シィナの水を飲んだ者は、体の傷が1日や2日で回復していったよ。重症を負っていた兵士も何人かいたけど、3日でかなり良くなった……」

「では、回復効果があるのですね……」

「ああ、教会で作られた回復薬よりも効果が高そうだ……いいかいシィナ、お母様からも注意されると思うけど、気軽に傷を癒やしてはいけないよ」

「……教会に目を付けられる……からですか?」

「私も教会は信じたい気持ちはあるのだけれど、シィナに何かあったらと思うと、そっちの方が怖いよ……シィナの魔法はとても素晴らしい、それは誇っていい事だよ」

「はいっ」 


 そうか……回復効果があるのか……やっぱり私は少し変なのかもしれない。

 何が原因かは定かではないけど、この黒髪になった事とかも変だしね。

 兄様の言うように気軽には怪我を癒やす事は避けよう……


「それから、砦の兵士には他言しないように言ってある。彼らなら大丈夫だと思うよ……回復薬を作ってくれた小さな聖女様にありがとうと伝えて欲しいと言っていた……たぶんシィナの事がバレていたね、ハハハッ」

「……言いたい事は色々とありますが、怪我が回復して良かったです」


 まぁ、結果が良ければそれでいい。

 教会の事はよくわからないけど、怪我を治すなんて事はあまりないだろう。

 水魔法の回復効果の事は心の片隅にでも置いておこう。



 屋敷に到着したので、お馬さんから降ろして貰う。

 先にお父様とお母様にヒルク兄様が到着した事を伝えて貰った。

 ……案の定夕食は家族会議が開かれる。

 悪いことはしていないけど、議題は私が中心なのでやっぱり居心地が悪い。 

 お母様はヒルク兄様が言ったような事を私に注意してくれた。

 これは家族が情報を共有する為の会議でもある。

 来年の春には姉様が卒業してしまう為、より一層注意する必用もあるのだ。


「……これで注意する事は皆わかったわね?」


 家族はお母様の言葉を聞いてうなずいていた。

 家族が私を想ってくれるのがありがたい……とても心強いよ。


「あと、これはシュアレに朗報があります……」

「はい?なんですかお母様?」

「シィナの出すお水を調べていてわかったのですが……お肌が綺麗になります」

「「「はっ?」」」

「偶然手のひらに水がこぼれたのですが、少し肌荒れだった場所に艶が戻ったのです。それで試しに顔をにも付けてみたら……少しお肌が若返りました」

「お母様っ!?本当ですかっ!」

「本当です、一日で小じわが……消えました」

「お母様、屋敷で使う分はいいですよね?」

「お友だちには秘密ですよ……」


 お母様と姉様はうなずき合って私を見てくる。

 無言で私もうなずいておく……お肌のケアに私の魔法を……なんか少し拍子抜しました。

 あれ程注意していたのはなんだったのか……

 男性陣は黙って聞いている……こういう事に口を挟むと怒られるからだ……よくわかってるね。


 でも少し納得もいった……私が出す水はお馬さんは必ず飲むのだ。

 回復する水とわかっているみたいによく飲んでいた……

 エントさんもお馬さんが喜んでいると言っていたのも納得。

 つまりこれから私はお母様とシュアレ姉様に水を定期的に出す必要が出てきたのである。

 別に嫌ではないけど、家族が喜んでくれるならいくらでも出しましょう。

 お肌のケアはとても重要な案件だしね。

 化粧水感覚で使うのだろうか……化粧水はお肌の水分補給とか潤いを出すとか……確かそんなやつだ。

 どうしてそんな水魔法になっているかはわからないけど……お母様の機嫌が良くなるならなんでも構わないよ……


「……抜け毛防止とかには使えないかな?」

「お父様……」


 お父様みたいなイケオジがツルンとしてはいけない。

 うん、それは阻止したい。


「お母様、お父様、屋敷中の空き瓶を持ってきてくださいっ」

「「誰かっ!」」


 家族会議は何故かお肌と頭皮対策の場に変わっていった。

 食堂のテーブルには何十本という空き瓶が運ばれてきたので、私は水魔法を制御していき、大量の水こと回復薬を瓶に注いでいった。

 飲んで良し、塗って良しの回復薬です。

 秘匿がどうの言っていたのは数十分前だったけど、もう関係ない。

 お母様とシュアレ姉様は喜び、お父様や兄様たちもこっそり数本持って行ったようだ。

 収穫祭前夜に何をしているのかわからなかったけど、喜んでもらえるならそれでいい……

 

 お祖父様は普通に水を飲んでいた。


「シィナの出す水は美味いのぉ……」

「お祖父様、疲れた時は言ってくださいね、もしかしたらこのお水で長生きするかもしれませんからね」

「ハッハッハッ!そうか、ワシはまだまだ生きられるかっ!シィナの子供を抱くまでは死ねんなぁ」

「もっともっと長生きしてくださいっ!」

「んっ!わかったっ!この水を飲んで、もっと長生きじゃなっ!」

 

 元気の塊のお祖父様には必要がないかもしれないけど、効果があるなら健康でいて欲しい。

 ……今日も我が家は幸せです。


 

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