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黒髪賢者の恩返し  作者: しんのすけ
第2章 私の学院生活
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第28話



「ねぇざまぁ〜っ!おたすげくださいっ!」

「うわっ!?ビックリしたっ!……シィナ」 


 姉様が授業から帰って来てくれたので、私は姉様に飛びついて懇願する。

 もう派閥は嫌なのだ。


「よしよし、まったくシィナはまだまだ子供ね」

「子供でもいいですっ!派閥はキライですっ、どうすればいいですかっ!?」

「落ち着きなさい……ココナお茶をお願い。クッキーもね」

「かしこまりました」

「レーアはフォルナちゃんを呼んできてくれるかしら」

「かしこまりました」


 フォルナちゃん?あまり迷惑は掛けたくないけど……

 もう姉様の事を信じるしかない。


「シィナはもう限界かしら?」

「落ち着いて過ごせませんっ」

「少し私の話をするわよ……」

「はいっ」


 おお……姉様は頼もしいですっ!何か妙案でもあるのですよね?  


「実は私も派閥問題に巻き込まれた事があるのよ……2年生の時にね」

「はぁ……姉様も……」

「その時に先輩から教えて貰えたの……派閥を解散させることをね」

「そ、それを教えてくださいっ」

「落ち着きなさい、とっても簡単だから……でもフォルナちゃんを待ちましょう」


 簡単ならすぐ教えてくださいっ……とは言えなかった。

 姉様を信じて待ちますっ!


 フォルナちゃんはすぐに駆けつけてくれた。

 姉様の部屋に入ってきて、私の隣に座ってくれた……


「シィナちゃん、体調は大丈夫?」

「大丈夫……今日はズル休みだったし……」

「……そう……良かった、風邪でも引いたかと思ったよ」


 フォルナちゃんは凄くいい子ですっ!


「ごめんねフォルナちゃん、妹が迷惑掛けちゃて……」

「いえ、全然迷惑ではありませんっ!」

「ありがとう、フォルナちゃん……で、あっちの旗頭は誰?」

「旗頭?」

「そう、相手の派閥……シィナの派閥を良く思わない派閥には必ず旗頭となる人物がいるわ。それをフォルナちゃんに調べて貰っていたの」

「フォルナちゃんそんな事していたの!?」

「はい、以前シュアレ先輩から頼まれていまして……」


 姉様……一手先を読む女……凄いです。


「1−3の教室のエルエラン・ミズフォード……子爵令嬢です」


 フォルナちゃんは探偵さんが真犯人を言い当てるように静かに強くつぶやいた。


「…………だれ?」

「私も直接は見たことがありません、でも間違いないです」

「よし、そのエルエランさんとお茶をしなさい」

「「え〜っ!?」」



 ……姉様に相談した翌日、エルエランという会ったこともないご令嬢にお茶会の招待状をフォルナちゃんが出してくれて、今日はそのお茶会をする予定。

 学院の本校舎には貴賓室という重要な話をする時に使われる部屋があり、生徒なら予約すれば誰でも使える部屋がある。

 簡単にいうと談話室の豪華版の個室らしい。

 私はフォルナちゃんと予定時間前にその貴賓室へ向かった。

 お茶会を開いたのは一応私だ、先に行く必要がある。

 参加人数には制限を掛けて、お友だち一人なら連れてきてもいいようにさせてもらった。

 職員室を通り過ぎ、学園長室の隣にある貴賓室に入っていくと、メイドさんが待機してくれていた。

 食堂で勉強しているメイドさんではなく、学院が雇っている正規のメイドさんらしい……姉様の情報通りです。


「シィナお嬢様とフォルナお嬢様ですね、本日対応させて頂きますデイジーと申します……お見知り置きくださいませ」


 ……屋敷にいるメイド長のように所作に品がある。

 おばさまなメイドさんだ。

 私とフォルナちゃんも丁寧に挨拶してから席に案内してもらった。


「失礼ながら本日はお相手との和睦を目的とするお茶会でしょうか?この貴賓室を使うご令嬢方はそういった目的が多いのですが……」

「はい、その通りです」

「かしこまりました、では心が安らぐ効果のあるお茶をお出しします。宜しいでしょうか……」

「はい、お任せします」


 この部屋はそういった感じで使う人が多いようだね……

 ちゃんとお茶にもこだわってくれるようです。


「ごめんねフォルナちゃん、付き合って貰って……」

「いえ、私も気になりますから」

「今度のお休みは子猫の奇跡亭で好きな物をいっぱい食べていいからね」

「ふふっ、いっぱいは食べれませんよ、シィナちゃんは私を太らせたいの?」

「フォルナちゃんは細いから大丈夫だよ〜」


 フォルナちゃんお陰でリラックスもできた……あとは待つだけ。


 そして時間通りにエルエランさんとそのお友だちが貴賓室へやってきて、デイジーさんが対応してくれた。

 私もフォルナちゃんも立ち上がり、お互い初対面なので普通に挨拶をしていく。


「……本日はこのお茶会に招いて頂き……ありがとうございます」

「いえ、急なお茶会になってしまい申し訳ありません、どうぞお掛けください」


 ……ん〜……普通のご令嬢っぽい。

 あまり私を恨んでいるような感じじゃないかな?

 まだ挨拶だけだけどね……


 すぐにデイジーさんがお茶淹れてくれる……いい香り。


「本日のお茶は、山脈の山間で採れた香り高い茶葉をお使いしております……何かありましたらそちらの鐘でお呼びくださいませ……」

「ありがとうございます」


 デイジーさんは奥へ下がって行った……メイド歴が違うね……


「私はこのような香りのいいお茶は初めてです……いい香りですね」

「ええ、山脈の山間で採れたと言っていましたね、珍しい茶葉なのでしょうね……」


 4人でお茶を一口飲んで……感想を言い合う。

 今の処……いい感じ。

 さて……本題に移りますか……


「エルエランさんとこうやってお茶をできるとは思っていませんでした」

「ええ、私もシィナさんとお茶をするとは……思ってもみませんでしたね」

「さっそく本題ですが……エルエランさんと私はお友だちになる事はできますか?」

「…………えっ!?」

「私はエルエランさんとお友だちになりたいのです」

「そ、それは……」

「エルエランさんが私の友だちになってくれないと困るのです」

「……何故……でしょうか?」

「派閥を解散させたいのです」

「えっ!?で、ですが……」

「言いたいことはハッキリとおっしゃってください」

「……シィナさんは……いえ、シィナさんの派閥は……」


 さあ、派閥で争うような原因を教えてくださいっ!

 姉様が言ってくれた提案は、相手のトップとお友だちになれば、全て収まるというものだった。

 それで派閥が解散するのか疑問だったけど、姉様はこうも言ってくれた。

 

 「所詮1年生の派閥なんて、幼いご令嬢たちのただの集まり」

 

 大した力もないので、派閥なんてとても言えない程度の集まり……

 言葉は悪いけど、確かにその通りではある。

 なので、争いの根本を味方にしてしまえばそこで終了……だそうです。


 そもそも私の何が気に入らないのかがわからないと何もできないので、直接聞きだす必要があるの。

 それにこういう問題は早く片付けないとこじれるらしいので、即刻エルエランさんと話し合うようにとアドバイスを貰っていたのだ。

 さあ、理由を聞かせてくださいっ!


「私の派閥が……なんでしょう?是非聞かせて下さいっ」

「テ、テオドルド殿下とドノヴァン殿下の事ですわっ!」

「…………はっ?」

「教室が同じだと有利なシィナさんが恨めしいのですっ!」

「……有利?何が有利なのです?」

「将来の妃候補に決まっているではないですかっ」

「誰の?」

「ですからテオドルド殿下とドノヴァン殿下ですっ」

「…………フォルナちゃん、私の派閥ってなんなの?」

「……えっと……シィナちゃんの側に居れば……両殿下が近寄って来るので……お近付きになりたい令嬢が集まっていると聞きました」

「えっ?そうなの?」


 そんな馬鹿な……私の気苦労はなんだったの?


「エルエランさん、私が両殿下を嫌っているのは知っていますか?」

「はいっ!?」

「私は同年代の男の子って幼く見えて……もっと年上が好みですの」

「「「…………」」」

「なのでテオドルド殿下とドノヴァン殿下は全く興味がないのです。特にドノヴァン殿下は……態度も大きくて、ありえません、正直邪魔なのです。……あ、ここだけの話にしてくださいね」

「えっと、エルエランさん、シィナちゃんはいつもこんな感じで、教室でも素っ気ない態度なんですよ」

「エルエランさんがあの王子様とくっついてくれるなら私は全力で応援します。……お友だちになりませんか?」

「は、はいっ!お友だちになりたいですっ!」

「エ、エルちゃんっ!?」

「おっ、私もエルちゃんと呼んでいいですか?」

「は、はいっ!シィナさん……いえシィナちゃんっ」


 ふふふっ……チョロすぎます……

 これでお友だちも増えて……派閥もそのうち無くなります……ふふふっ……


「…………あの、そもそもどうして両殿下は私に近寄ってくるのでしょう?」

「「「えっ!?」」」

「シィナさ……シィナちゃんを妃にしようとしているのでは……」

「は?……こんな背の低い女の子……私はまだ見た目10歳くらいですよっ?両殿下って幼女がお好きなのかしら?」

「え?でも……シィナちゃんは可愛いよ?」

「「はい、可愛いです……」」

「ありがとう、皆……でも本当に私を妃になんてするでしょうか?……これは両殿下に直接お聞きした方がいいですね。そしてハッキリ言ってやりますっ!」

「えっ!?それは……」

「シィナちゃん、落ち着いて、冷静になろう?」

「そうですわ、お茶を飲んで落ち着きましょう。クッキーもありますからっ」

「ですが私は散々あの馬鹿王子に……失礼……第三王子にはうんざりしているのですっ!……美味しいお茶ですねっ!」

「シィナちゃんハッキリ言うと、国の問題が起こるかもしれないんだよ?」

「そ、そうですわ、ヒルデルート王国との仲が悪くなる可能性も……」

「女にフラレて親に泣きつくような王子様なら尚更興味がありませんっ!」

「「「た、確かに……」」」


 ……一応私はこの場の3人に説得されて落ち着いたけど、結局王子様たちがいなければこんな派閥問題が起きることはなかった。

 それから数日が経つと、エルエランさんの派閥は解散して、私が国際問題を起こさないようにする為の別の派閥が作られた。

 派閥というか、部活みたいな感じだけど。

 私の派閥はエルエランさんが新しく立ち上げた部活……王子様たちを取り囲み、私と王子様たちがなるべく接触しないようにする部……に吸収合併されていった。

 女の子たちは国際問題が起きないようにするという大義名分を得て、堂々と王子様たちに近づけるし、私は平穏な生活に戻れる。

 誰もが望む形で解決していったの。

 まだ授業中に不意に近付かれたりすることがあるけど、たまにならまだ許せる……そこまで私は短気ではない…………短気ではないよ?

 でもミルエルさんだけは私の側を離れようとはしなかった。

 合同の授業があると必ず私の隣に来るようになっていった。

 少し様子のおかしい子だけど、悪い子ではないので……まぁ別にいいけどね。

 とりあえず平和に解決できたので良かったよ……エルちゃん頑張ってお妃さんになってね。


 派閥問題も区切りが着いたので、私の平和は守られた。

 授業は貴族の作法や踊りの基本……女の子は淑女教育などを学院で学んでいく。

 一応なんとかついていけては……いる。

 私の教室は午後から魔法の授業が多くあるので、午後から私は図書室で自習をするのが最近のパターン。


 

 もう夏は終わり、すっかり秋めいてきた。

 秋は食欲の秋……お芋、かぼちゃ、栗……形は違うけど良く似た食べ物が多く採れる時期です。

 中でもやっぱりお芋と栗のスィーツ……甘味はとても美味しい。

 以前ジュリエッタさんとモンブランもどきやスイートポテトを作ったので、王都の喫茶店でも堪能できる。

 フォルナちゃんを誘って秋の甘味をたくさん楽しんだ。

 

 ……秋を堪能していったけど、一つ問題も出てきた。

 学院での淑女教育の一環で苦手なモノが出てきたのだ。

 それは刺繍……よくわからないけど、刺繍を覚える必要が出てきたのである。

 これまでの人生で針を使ったことは……小学校の時だけ。

 私は手先が器用とはいえないようで、刺繍は苦手と言ってもいいくらいなの。

 針の穴に糸を通すのもやっとな私はレーアに泣きつくけど、こればっかりはレーアでも姉様でも魔法でもどうしようもない。


「……レーア、せめて針の穴が大きな物が欲しいです……」

「ですが私の持っている針は……穴の大きさは変わりません。どこかに買いに行きましょうか」

「そうですね……誰かにお店を聞いてきます……」

「シィナお嬢様……元気を出してくださまし」

「心配かけてゴメンねレーア……」


 今日は休日だし、課題の提出は秋休み前……まだ一月くらいは余裕がある。

 レーアに代わりにやってもらおう……などとは考えた事は決してない……決してないのよ?

 刺繍の先生はプロ中のプロ……私のお粗末な針をレーアが再現できる筈もない。

 刺繍の先生にもそこは念を押された……針の跡は指紋と同じ、もし不正が発覚したら秋休みは無し……と言われたの。

 なので刺繍の課題は自分でやるしかないのです。

 私以外にも苦手なご令嬢は多いようで、秋休みの為にも皆必死に頑張っている。

 姉様も刺繍は苦手だったけど、ちゃんと頑張って今では普通に刺繍ができるようになっている。

 なので私も頑張るしかない……レーアと二人で針を求めに市場付近にやってきた。

 ティータ先輩から聞いたお店に入っていく。

 生地や糸が売っているお店。

 結構お客さんも入っている……お母様くらいの御婦人が何人かいた。

 針……針……針……あった。

 色々な大きさの針が売っているので、なるべく穴の大きな物を選んでいく。


「……レーア、この針で刺繍はできる?」

「たぶんできますが……この針は毛糸用の針ですよ」 

「ん〜……これくらいの穴の大きさがいいですね……」


 隣の棚には毛糸が売られている。

 これから寒くなるから毛糸もよく売れているのだろう。

 …………毛糸?


「……毛糸の刺繍ではダメでしょうか?」

「お嬢様、刺繍は毛糸では……できません?……たぶん……」

「え?毛糸の刺繍は可愛いよ?モコッとして……」

「はぁ?毛糸での刺繍は見たことがありません」


 ……この世界では毛糸の刺繍は普及していないのだろうか?

 立体的で可愛いけど……

 小学生の時に教科書だったか何かの本で見た記憶がある。

 

「……毛糸で刺繍をしましょう」

「宜しいのでしょうか?」

「糸で刺繍をすれば問題ないでしょう、毛糸も糸です」

「……構いませんが、確認はした方がいいですよ?」

「そ、そうですね。ですが針と毛糸を何種類か買っていきましょう」


 太めの毛糸で数種類の色を購入したよ。

 毛糸なら……刺繍がとても早く終わるはず……それに可愛い。

 市場の屋台で軽く食べてから寮へ帰って早速試す。

 モコッとしているから、モコモコを布に描いてみよう。

 モコモコは鳥の名前……以前羽毛製品を作った時のモコモコです。

 つまり雲のように描けばこれはモコモコ。

 レーアも興味深く見ていた。

 白の毛糸を使って、普通に刺繍をしていくと毛糸なので糸が太い。

 太いと細かくしなくてもいいのだ。

 ポイントは裏側で糸を交差させるように固定していく事かな。

 お試しのサイズなので、数十分で完成した。

 うん、モコッとしていて可愛い。


「どう?これなら簡単で可愛いでしょ?」

「はい、まさか毛糸で刺繍をするとは……さすがシィナお嬢様です」

「可愛いよねっ」

「可愛いですが、先生に確認をした方がいいですよ、秋休みの為にも……」 

「は〜い、ちょっと職員室に行って見せてきます」

「…………毛糸……」

 

 学院の校舎は普通に開いているので、私服姿のままで行ってみる。

 これが通らなかったら……諦めるしかない。

 職員室に入るとほとんどの先生が自分の机で何か作業していた……先生のお休みってどうなっているのだろう?

 若干闇を感じたけど、目当ての刺繍の先生もいたので突撃してみる。


「先生、少々宜しいでしょうか?」

「あら、シィナさんね。どうしましたか?」

「コレを見てください」

「…………コレは……毛糸ですか?」

「はい、課題はこんな感じでもいいでしょうか?」


 先生は表面を触ったり、裏を見たりしてうなずいていた。


「シィナさん、これは画期的な刺繍ですねっ!」

「はい、とても可愛いです。毛糸なので、立体的になるのがいいです」

「ええ、この厚みは……毛糸でないと表現できないでしょう。……いいでしょう、特別にこの毛糸の刺繍でも許可いたしますっ」

「ありがとうございますっ」

「こんな刺繍は今まで見たことがありません、よく閃きましたねっ!」


 刺繍の先生は品のいいおばさまだけど、かなり興奮しているようで……

 お陰でまた他の先生たちがこっちに来てしまった。


「案内図といいこの刺繍といい……やはりシィナさんは天才だと思いますっ!さすが時期賢者様っ!」

「ジッド先生、天才は止めてください……」

「まあ、可愛い刺繍……これは流行るのではなくて?」

「ええ、公表すれば間違いなく流行りますっ!」


 女性の先生たちが中心に私の刺繍を褒めてくれた。

 でも、もういいかな……帰りたい。

 ちなみに案内図は順調に制作が進んでいる。

 職人さんに説明したらすぐに理解してくれたの。


「では課題がありますので、失礼しますね……」


 もうずっと騒いでいるので、モコモコの刺繍は職員室へ置いてきた。

 よし……今までのは破棄しても構わない……

 もっと立体的な毛糸を活かしたデザインにしよう。

 毛糸を活かすなら動物さんとかでもいいかな……よし、帰ってレーアと相談しよう。


 お休み中の静かな校舎を歩いて寮へ帰る。

 不安な課題もなんとかなりそうなので一安心。

 フォルナちゃんは普通に刺繍が得意なようなので私よりも断然女の子っぽい。

 私が男ならフォルナちゃんをお嫁さんにしたいくらいだよ。

 あとでフォルナちゃんにも毛糸の刺繍を見せてみよう。

 部屋に帰って来ると、レーアが何か作業していた。


「お嬢様、毛糸の刺繍をしてみましたっ、どうでしょうっ?」

「あ〜っ!レーア凄く可愛いよっ!凄いですっ」


 レーアはもう毛糸刺繍の良さを理解したようで、この短時間でお花の刺繍をしていたのだ……お花も可愛いよね。

 こうしてレーアと一緒に楽しみながら、淑女教育の課題を秋休み前に余裕で終わらせる事ができた。

 この毛糸の刺繍が王都で流行るかはまだわからない……先生たちは流行るとは言っていたけど。

 可愛いんだけど、細かな刺繍とは別物だからね……


 そんなエピソードをハチカちゃんへの手紙に書いた。

 最後にモコモコの絵を小さく描いてから封をした……よし、これで出そう。



 ……ドレスが仕立て上がり、部屋で試着してみる。

 何度もドレスは着ているけど、未だに慣れない……こんなお姫様が着るような物は私には不釣り合い……なんだけど、シィナちゃんには良く似合う。

 可愛いよシィナちゃんは……

 でもこんな可愛いとまた王子様が寄ってくるの可能性が高い。

 本当に私を好きになっているのかも疑わしいので、是非エルちゃんには頑張って欲しいところです。

 秋の終わりにはこれまで勉強していた夜会の踊りを採点してもらうイベントもある。

 何人かの男の子と踊らなくてはいけないの。

 運動は日頃からしているので、踊りはそこそこ覚えられた。

 そこまで難しくはないので鎮魂祭の時の舞のように踊るだけよ。

 舞と違ってパートナーがいるのでそこは要注意……こればっかりはやってみないとわからない。

 王子様たち以外となら誰でもいいよ……

 こういう時は気軽な男友達とかいてもいいとは思うけど、なかなかそんな存在とは出会えない。


 ……でもこのイベントは1年生から3年生まで参加することになっている。

 フォルナちゃんのお兄さんは確か3年生だった筈。

 あとはティータ先輩の弟さんが2年生にいるくらい?……まだ会ったこともないけど……

 それくらいしか知り合いの男の子はいない。

 ティータ先輩に話してみようかな……弟さんを少しばかりお借りしたいと。

 よし、ティータ先輩へ相談しよう。


 相談したら、ティータ先輩は嬉しそうにしていて、また結婚しないかと勧められたけど、姉様からまた威嚇されていた……ティータ先輩は懲りないね。


「じゃ、じゃあ、一度弟のトールとお茶でもしてみましょう、それくらいならいいよね?シュアレちゃ〜ん?」

「……お茶くらいならいいけどね……ちゃんと説明するのよ?王子様と踊りたくないから仕方なく踊るって……」

「トールは優しくて頭も悪くないわ。シィナちゃんもきっと……」

「はいはい、トール君がどういう感じかは関係ないの……わかった?」

「う〜っ!シュアレちゃんっ」

「ね、姉様、一応こちらからお願いするのですから、上から目線は……」

「これはトール君の為に言ってるの……シィナを王子様の魔の手から守る騎士の役目なんだから、しっかり役目を果たして貰わないと」

「でしたらついでにフォルナちゃんとも踊ってもらえると助かります……」

「ふぇ!?私もですか?」

「フォルナちゃんも踊る相手まだ決めてないでしょ?」

「そ、そうですけど……あ、私の事は置いておいて、エドニスお兄様とも踊りませんか?」

「フォルナちゃんのお兄さんか……いいんじゃないですか?一応知り合いです

し。お兄さんが迷惑じゃなければ」


 エドニス先輩は照り焼きバーガーにどハマリしたらしく、休日には必ず喫茶店で食べているらしい……それくらいしか知らないけどね。

 

「迷惑じゃありませんから大丈夫ですよ、シィナちゃん」

「……フォルナちゃん、そのお兄様がシィナと踊りたいのかしら?」

「…………シュアレ先輩、なんのことでしょう?」

「フォルナちゃん上手よ、ちゃんと感情がわからないからね」

「ふふっ、シュアレ先輩は面白いですね、シィナちゃん」

「…………え?あ、はい?……姉様は面白いです……ん?」

「まったく……シィナは警戒心が無さ過ぎるのよ……」


 ん?どうしたの?よくわからない。

 とりあえずティータ先輩の弟さん……トール先輩とお茶をする事になったのは確かだ。

 後日、放課後にトール先輩、ティータ先輩、フォルナちゃんの3人と一緒に校舎にある談話室でお茶をする事になった。

 貴賓室を使う程ではなかったので気軽に談話室がいい……となった。

 寮にある談話室と似たような感じで各階に一室はあるようだ。

 ただメイドさんとかは居ないので、自分たちでお茶を淹れるしかない。


「トール遅いわね、何をしているのかしら?」

「お茶の準備ができるので、丁度いいです」

「フォルナちゃんは手際がいいね〜っ」

「多少は美味しく淹れられますが、本職の侍従さんには敵いませんね」


 放課後なので他には誰もいないから話をするには丁度いい……

 窓から見える王都は、もう秋の雰囲気が強くなっているけど残念ながらここからは紅葉は見られない。

 秋休みに帰る時は見れるかな?


「ティータ姉様お待たせしましたっ!すいません遅れてしまって」

「何をしていたの?遅かったけど……」

「授業が長引いてしまいまして……あ、その黒髪……ティータ姉様が言っていたシィナさんですね?はじめまして、トールと申します」


 思ったよりしっかりしてそうな感じの少年が現れた。

 私とフォルナちゃんは普通に挨拶して、早速本題を話した。


「僕で宜しければいくらでも引き受けますよ。ですがテオドルド殿下とドノヴァン殿下からの誘いを断るのですか?変わったお嬢様ですね、さすがシュアレ先輩の妹さんですっ」

「これで踊りの相手も大丈夫だし、当日は頑張ってねシィナちゃん、フォルナちゃん」

「「はい」」

「ところでティータ姉様、シュアレ先輩は……」

「今日は先生が何か用事あるとかで居ないけど……」

「そうですか、じゃあ僕は帰って勉強するのでこれで失礼しますね。ああ、シィナさんシュアレ先輩によろしくお伝え下さい、ではまたお会いしましょう」


 トール先輩は談話室を出ていった。

 ……少し変わった感じの弟さんだった。


「……どう?シィナちゃん?うちのトールは……」

「私に興味がないのが気に入りましたっ!」

「…………そ、そう…………ダメか……」


 トール先輩ならなんか友達にもなれそうな気もする。

 これで踊りの試験も平和になんとかなるかもしれない。


 

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