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黒髪賢者の恩返し  作者: しんのすけ
第2章 私の学院生活
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第27話



 ……魔物や魔獣と呼ばれる生き物は、人やお馬さんを問答無用で襲ってくるこの世界の害虫……私はそう認識している。

 正確には虫じゃないから、人間からみたら害悪な生き物……だろうか。

 生き物の生命を、人間の勝手で奪うのは勿論嫌いな行為です。

 だけど私はただの人間で聖者でもなければ聖女でもない。

 そんな崇高で気高い存在じゃないの。

 私は家族や友達その知り合いや、お馬さんをたちなどを守る為なら害する存在を躊躇なく攻撃できる。

 その手段である魔法も使える……ゴキちゃんに殺虫剤をかけるのと同じ。

 魔物は全力で魔法を使いなさいとお母様からも教育されている。

 だけど……お父様とお祖父様から注意されている事に少し納得がいかない。


「いいかい、シィナの魔法はとても凄い。だけどアレはやり過ぎだよ?」

「そうじゃな、あのような魔法は使ってはいかんぞ」

「……ですがお母様は全力で魔法を使いなさいと言っていました」

「森を消し飛ばすような魔法は使うなと言っているんじゃ」

「別に森を消し飛ばしたくて使ったのではありません、あくまで魔物をやっつけるのに使ったのです」

「……あの魔物はここら一帯の主なんだ。確かにあの魔物を倒してくれたのは嬉しいけど、少しやり過ぎたんだよ?わかるかい?」 

「わかっています、でも杖では今まで試すこともできなかったのです。私の本気の魔法はさっきのが初めてです」

「……昨日の魔法は本気じゃなかったのか?」

「昨日の魔法は本気ではありません、杖のお試し実験でした」

「昨日?何があったのじゃ?」

「お父様が木に向って魔法を使ってもいいと……」

「まさかあんなに……木が吹き飛ぶとは思っていなかったんだよ」

「私も杖の威力を知りませんでした……」


 3人でため息をついてから、改めて私が消し飛ばした森を見てみる。

 今はあの黒い物体を兵士さんたちが群がって確認している。 

 

「お父様、ヌシってなんです?」

「魔物にも強いヤツがいて、縄張りを持っている……」

「この数ヶ月間はあの主を倒す為に苦労しておったのじゃよ」

「ふぅん……」

「……まぁ、シィナなら大丈夫じゃろ……」

「……杖は魔物以外には使っては駄目だからな……」

「勿論です、その為にお試ししたのですっ」

「シィナ、お試しで使った魔法で普通は主を倒せないんだよ?」 

「……はいヒルク兄様わかっております……でも自分の限界を知るのは良いことですよね?」

「シィナ、こういう時は黙ってお父様の言うことを聞いていた方が賢いよ……」

「はいっ!ダリル兄様っ」


 怒られた訳じゃなく、あくまで注意されただけ……数分で私は開放されたから良かったけど……お母様がいたらまた家族会議になっていただろう……


「お腹が空きました、朝食にしましょうっ」

「「「はぁ……」」」

「アーッハッハ!さすがワシの孫じゃっ!シィナ行くぞっ!」

「はいっ!お祖父様っ!」


 お祖父様は話のわかる男だねっ。

 お父様たちはまだため息ついていたけど、ごめんなさい……これが私です。

 ほとんどの兵士さんたちはあのヌシのところへ行ってしまったようなので、ゆっくりお祖父様と朝食を食べれた。


「あ、お祖父様の部屋に昔の言葉で書かれた本はありますか?」

「……ああ、確か何冊かあるな」

「それを貸してもらっても良いでしょうか?」

「構わんが……もしかしてそれを聞きにここまで来たのか?」

「はい、それに砦も見たかったし、お祖父様や兄様たちにも会いたかったのです」

「そうか、シュアレはいたずらした罰で砦に来たことがあるが、シィナは自ら砦に興味が出るとはあっぱれじゃっ!帰ったら小遣いをやろう」

「ありがとうございますっ!」


 シュアレ姉様はいったい何をしてここまで来たのだろう……

 でも本も借りれるし、良かったよ。

 そして今度はお祖父様が一緒に帰ってくれるらしい。

 お父様と兄様たちはここにまだ残るらしいのだ。


「シィナが主を倒してくれたので、この先の道を作り始められるからのぅ。若い者に任せてジジイは撤退じゃ」


 そんな事をお祖父様は言っていた。

 ……仕事を増やしてしまってすみませんお父様……

 道を作るということは……まあ土木工事的な感じなのだろう。

 石畳を敷く為に道をなだらかにしたり、木を伐採したり……

 ショベルカーも何も無いこの世界の工事はとてつもなく大変そう。

 通りで兵士さんたちのガタイがいいんだね。

 みんなムキムキマッチョな訳だよ……


 こうして私の砦見学ツアーは終了した。

 帰り道でお祖父様に切り株を見られてまた驚いていたけど。

 平和に何事もなく帰ってこれたので良かった。


 しかし……お祖父様からお母様に今回の騒動が知られてしまう事になる。

 お祖父様から借りた本を読んで喜んでいる私はまだ気付いていない……

 私の部屋にやってくる閻魔様の足音に…………



 ……もうすぐ鎮魂祭が始まる。

 祭り当日はハチカちゃんたちも一緒に行く予定。

 ……なんだかんだあったけど、お祖父様からお小遣いも貰えたのでお祭りは楽しみ。

 私は古い言葉を勉強するくらいしか楽しみがなかったので、久しぶりに羽を伸ばせる。

 んん〜……祭りといったらりんご飴に花火とかがあっちでは定番だけど、そういったモノは……一応食べ物はあるか……以前食べたなんとかっていう辛い食べ物やドーナツっぽい丸焼きとか……

 ああ……浴衣もないから少し淋しいのかもしれない。

 でも浴衣は……無理。

 着たこともないし、帯とかなんの知識もない。

 じゃあ再現可能な事は花火くらいか……魔法ならできそうだし。

 暇な人間はこうやって時間を浪費していく……

 祭り当日まで私は花火を再現できないか夜な夜な魔法を練習していく。

 線香花火は再現できた。

 花が咲いたように火花を再現してく……やはり一番のポイントは最後にポトッと火の玉を落とすのが肝心です。

 この儚い線香花火は以外に高難易度の魔法なの……その分いい勉強になる。

 生活魔法程度の魔力操作なので、イメージも大事だし、細かな操作で神経を使う……

 まだレーアにしか見せていないけど、レーアは気に入ってくれた。


 そして花火はやはり打ち上げ花火を再現できてこそ意味があると思うの。

 音は今の私では再現できないけど、魔法を3つ操ればできそうだ。

 火魔法、風魔法、光魔法の3種類。

 線香花火で火魔法の細かい操作はできるようになったので、風魔法で火魔法を打ち上げれば夜空に大輪の花を咲かせることはできる。

 ただ、火魔法だけだと物足りないのだ。

 光魔法を追加してやると一気に華やいだものになる……筈。

 これまで光魔法は目眩ましくらいしか思い付かなかったけど、少し練習したら色を操れる事に気が付いた。

 真っ白の光以外にも赤、青、黄、緑とイメージ次第で色が変えられた。

 この光を火魔法のように操ればできる筈。

 試しに線香花火程度の大きさの打ち上げ花火を再現してみる。

 3種類なので、少し難しい。

 でもしばらく練習したらできるようにはなった。

 小さい打ち上げ花火は成功した。

 音もしないので誰にも気付かれずに練習は可能です。

 ただこれを本物サイズで練習することができない。

 絶対バレるからだ。

 どうしたらバレずに練習できるだろう。

 もう閻魔様には怒られたくはないので、お母様に直接相談してみる。


「光魔法の練習なら昼間すればいいんじゃないの?」


 その通りだった。

 昼間ならいくら練習しても誰にも迷惑は掛けないので、練習し放題だ。

 花火は夜と決めつけていたので、気付けなかった。

 さすが閻魔……お母様だ。

 決めつけは良くない。


 もう鎮魂祭まで時間もないので、張り切って練習をする。

 ただ大きくすればいいものでもなく、線香花火のように儚げな感じを再現するのが難しい。

 火薬と違って魔力をうっすら消すのがなかなか難易度が高い。

 逆にしだれ柳のようなずっと残るタイプの方が簡単に覚えられた。

 昼間だったので、うっすら色の着いた光魔法を何発も打ち上げて練習していく。

 その頃には砦からお父様や兄様たちも帰って来てくれたので、久しぶりに家族全員が揃ったので嬉しかった。


 ある程度打ち上げ花火が上手くできたので、夕食の席で家族に相談する。

 勝手に相談もなく当日に魔法を使ったらまた怒られると思ったからだ。

 ホウレンソウは大事なのです。


「ということで、私は鎮魂祭当日にこの魔法を使いたいのですが、いいでしょうか?」


 夕食の時に小さい打ち上げ花火を使って家族に見せる。


「いいんじゃないのか?」

「そうね、綺麗だし」

「どうやったの?凄く綺麗っ」

「鎮魂祭が楽しみだよ」

「シィナは魔法を変わった事に使うんだね」

「ワシもキレイで好きじゃぞっ」


 家族の反応は良かったので、大丈夫だろう。

 よし、報告連絡相談も完璧っ!

 どうせなら舞の終わり頃にやってみよう。

 教会の舞は毎年8歳の女の子が舞うものだ、今年はもっと楽しくなるねっ。



 そしてお祭り当日がやってきた。

 毎年家族揃っての鎮魂祭は楽しくてしょうがない。

 馬車で全員が大広場へ向かい、屋台で色々な物を買って食べたり飲んだり……ハチカちゃんのところはまた出店をやっていて、リカンケーキやミュートパイが午前中に完売していた。

 家族で少し高級な食事処で外食して、午後からはハチカちゃんと合流。


「シィナ様、あっちでリンちゃんたちが待っていますので、行きましょうっ」


 リンちゃんたちにも久しぶりに合うので楽しみだよ。

 大広間を移動して行くと、お馴染みの三人組がテーブルを囲んでいた。


「久しぶりっ!パッセちゃん、セルカちゃん、リンちゃんっ」

「「「シィナ様っ」」」

「お久しぶりですっ」

「シィナ様、お元気そうで良かったです」

「シィナ様……やっぱり可愛いっ」


 うっ……ハチカちゃんと同じくらい成長したね……身長も……お胸も……

 テーブルには色々な食べ物や飲み物がもう用意してあった。


「シィナ様、これを飲んでくださいっ、ついさっき買ったばかりです」

「え?いいの?お金払うよ」

「いいんです、これは私達からの気持ちですので」

「さあさあ、お座りくださいっ」

「う、うん」


 今はレーアはついてきていない。

 気を利かせてくれたのだろう……夜には合流するけどね。

 

「じゃあ遠慮なく頂きますっ……ん〜、あま〜いっ」

「シィナ様っ王都の事とか聞かせてくださいっ」

「そうそう、それが聞きたくてね〜」 

「私も皆の学園生活を聞きたかったんだよ……あ、忘れないようにコレは王都のお土産だよ」

「「「ありがとうございますっ」」」


 しばらく……というか昼過ぎから夕方までの間、お互いの学校生活を報告して色々と話していった。

 本物の王子様に憧れる三人組は見ていて面白かった。

 ハチカちゃんも多少は王子様に反応していたけど、私は興味ないと言ったら笑っていた。

 お子様王子には興味ないのです……


「今夜の舞の時は楽しみにしていてね、私の魔法で皆を驚かせるから」

「魔法?」

「どんな魔法なんですか?」

「お貴族様の魔法は滅多に見れません」

「こんな感じの魔法だよ〜」


 線香花火をやってみる。

 もう薄暗くなってきたので、結構綺麗にできた。


「……綺麗……だけど最後が少し悲しいね」

「うんっ……こんな魔法見たことない」 

「魔法ってこんな事ができたんですね……」

「他の魔法を使うのですか?シィナ様」

「うん、空を見ていてねっ、たぶん成功するから」


 もうすぐ教会の舞が始まる……人が流れていくので、私たちも揃って移動する。

 毎年の鎮魂祭は参加しているけど、いつも手前では見ていない。

 私の家族は最後尾くらいで見ているので、ハチカちゃんたちとは途中で別れた。

 お祖父様の背が高くて大きいので良く目立つ。

 いつものように私はお祖父様の肩に座る。

 ある意味特等席で誰よりも舞台がよく見えるのだ。

 神父様の物語はあまり良く聞こえないけどね……それが欠点でもある。

 しばらくすると舞台に舞の衣装を着た子が8人出てきた。

 今年も舞が始まる。

 たぶん私もまだ舞を覚えている……少し懐かしく感じるよ。

 もう半分くらいは舞が終わったので、私はそろそろ準備する。


「お祖父様、降ろしてください」

「ん?ああ……どこに行く?」

「あの魔法を使いますっ」

「……ああ…………今からか?」

「はいっ」


 教会から離れて、大広間までも戻っていく。

 たぶんそろそろ舞も終わりだろう。

 私は誰も居ない大広間で魔力を制御していく。

 さあっ!いくよっ!


 最初は特大の打ち上げ花火を風魔法で思い切り上空へ放つ。

 火と光の魔法は物凄いスピードで夜空に打ち上がっていく。

 数秒後に一気に魔力を制御して夜空に満開の花が咲き誇った。

 色とりどりの光が火と一緒に弾けた。

 よし成功だっ!凄く綺麗にできたよっ!

 教会や建物が夜でもよく見えるくらいの光が街を照らす。

 音がないのが残念だけど、そのうちできるようにしたいね。

 続いては中玉くらいの打ち上げ花火を乱発する。

 ここが一番難しい。

 放った魔法をそれぞれコントロールするからね。

 でもそれくらいは練習済みなので、赤、青、黄、緑、白とパターンをランダムに変えていく。

 花火職人さんになった気分だよ……やっぱり花火はキレイだね。

 もう街の人もこの魔法に気が付いて、夜空の花を驚いて見上げていた。

 しだれ柳を発射すると、本物のよりも長い間光を残してからゆっくりと消えた。

 今夜は月が雲に隠れているので、花火がよく映える。

 最後にまた特大花火を打ち上げて、終了。


 たぶんハチカちゃんたちだろう、小さな拍手の音が聞こえ始め、だんだん拍手は大きくなっていく。

 私は無言でスカートを摘み上げて礼をした。

 そうしたら更に大きな拍手が一斉に聞こえてきた……皆満足してくれたようで嬉しい。

 ハチカちゃんたちが走って私のところへ来てくれた。

 凄く綺麗だったと何度も言ってくれた……成功したね。

 レーアにも喜んで貰えたようだ。

 また来年も打ち上げてみよう。


 馬車で帰る道中に姉様から教えて欲しいと言われたけど、他の家族の反応がおかしい。

 屋敷の中へ入った途端……


「シィナ、あの魔法はどういうことかしら?」

「え?昨日相談しましたよね?この魔法を使ってもいいと」


 私はミニ打ち上げ花火を使ってみた。


「許可したのはその大きさですよ?……さっきのアレは聞いていませんっ」

「……ごめんなさいっ!!大きさを言い忘れていましたっ!」

「シィナっ!!」

 

 閻魔様が再度ご降臨なされたので、私にはもうどうすることもできなかった。

 私の夏休みは外出禁止を言い渡されてしまった。

 ……儚い夏だったよ。


 後日……関係各所へお父様やお母様が説明をしに奔走してくれた。

 だけど好評だったらしく、来年もやってほしいと言われたようで、お母様はやむをえず私の外出禁止を解いてくれた……

 キレイなモノは皆好きなのだ……これで来年も花火が見れるね。

 せっかくだし、音を大きくする魔法も勉強しよう。

 目標があるのはいいことだしね。



 夏休みの後半はひたすら古い文字とハチカちゃんとの遊びに集中した。

 ドライミストで涼みながら街で遊んだり、近くの川で川遊びをしたり、休校中の学園に忍び込んだり……子供らしい遊びをしていった。

 パッセちゃんたちともお茶をしたり、民芸品のお店でフォルナちゃんへのお土産を買ったりもした。

 以外にお高い物も売っていたので、フォルナちゃんへいいお土産も買えたので満足。

 街では私の花火が話題になっていたりしたので、少し恥ずかしかったけど来年は音も出す予定だからね。

 それまで楽しみにしてほしい。


「ハチカちゃん、次は秋休みだからすぐに帰ってくるからね」

「はいっ、でも秋休みは短いですよね」

「でも秋は美味しい物がたくさんありますからね〜」

「たくさん体を動かさないといけませんね」


 夏の雰囲気もなくなりつつあるので、ようやく過ごしやすくなってきた。

 明日はもう王都に向かう予定だ。

 今年の夏も充実していて面白かった。

 また会おうね、ハチカちゃん。



 王都に向かうけど、秋服や冬服を少し持っていくくらいなので、そこまでお馬さんに負担は掛けてはいない。

 私とシュアレ姉様はまた4日で王都に到着した……お馬さんありがとう。

 護衛のエントさんとマルムさんの二人と学院で別れて、また寮生活が始まる。


 まだ残暑が続いている状態だけどだいぶ過ごしやすい。

 授業も夜会のダンスや貴族教育なども始まるので、ようやく暇な状態とはおさらばだから楽しみだよ。 

 部屋でレーアと服を整理して、一緒に掃除して……

 冷蔵庫の中身がないので、明日は市場に行こうかな。

 それからまたお父様とお母様にこの秋の分のお金も貰えたのだが、今度は1

 200万円近くのお金を貰えた……こんなにいらないとは言ったけど、一応意味はあったようだ。

 夜会用のドレスを何着か仕立てて貰ったりもするらしいので、すぐに使ってしまうらしい。

 そんな高級ドレスなんて別に欲しくはないけど、貴族令嬢の嗜み……らしい。

 自分がいらないと思う物に大金を使うのはなんか嫌だけど、こればっかりはしょうがない……また仕立て屋さんに行こうとシュアレ姉様にも言われたので、ドレスを注文しにも行こう。


 フォルナちゃんとはすぐに再会できた。

 私より早く寮に着いていたみたいで、お土産を渡したらフォルナちゃんからもレーゼンヒルク産の温かそうなひざ掛け用のブランケットみたいな物やモフモフスリッパなどこれから寒くなる時に使えそうな物を頂いた。

 さすが雪国のレーゼンヒルク産らしいお土産だ。

 私の選んだ物は風鈴のような物とリカンの果実水。

 風鈴っぽい工芸品は夏向けなのでまだ楽しめるし、一応ガラスの商品はこの世界ではそこそこ高級品。

 リカンの実はリンドブルグ産なのでフォルナちゃんの好物でもある。

 喜んでくれたので安心したよ……

 市場へ買い物とドレスの注文……フォルナちゃんも一緒にドレスを注文した。

 フォルナちゃんもお母さんに仕立てて貰うように言われていたようで、貴族令嬢の習わし……のようなものらしい。

 


 こうして無事にフォルナちゃんとの再会も済ませて、学院生活は始まっていった。

 今日は始業式とホームルームで終了したけど、明日からは早速夜会のマナー講座が男女別で開催されるようだ。

 いきなり初日に王子様二人から長い挨拶もされたので、男女別なら丁度いい。

 夜会のマナー講座の他にも、貴族令嬢としての教育も開始されていく……

 結構男女が別になる事が多い、隣の1−2の教室と合同で女の子だけ集まったりもする。

 そうなると自然と休み時間の会話の内容が偏るのが女の子だ。

 おしゃれ関係と気になる男の子……特に王子様二人の話題が多くなる。

 甘味の話題で盛り上がっているのは私とフォルナちゃんくらい。

 ……フォルナちゃんもそういう女の子っぽい話題のほうがいいのかな?


「シィナさん、少しお伺いしたいのですが……宜しいでしょうか?」

「ん?あ、はい、なんでしょう?」


 隣のクラスのご令嬢が突然話し掛けてきた。

 少しおっとりした感じの子だ。

 

「子猫の奇跡亭の料理はシィナさんが考えたものなのでしょうかっ?」

「……どこで聞きましたか?」

「以前行った時に、厨房の方からシィナ様の新しい料理と……聞こえた事がありまして……少しお父様に調べて貰ったらリンドブルグの領主様が経営していると聞きまして……」

「……あの料理長ね」


 他のご令嬢たちは近くにいなかったので、普通に教えてあげた。

 基本レシピを渡して改良してもらったり……など。

 

「凄いですっ!私はあの喫茶店が大好きでして、どのお食事も甘味も美味しくて……それを考えたのはシィナさんなのでしょう?シィナさんは学業だけでなく天才だと思いますっ」

「あ、ありがとうございます」

「あっ……私はミルエル・フォースロードと申します。申し遅れてすみませんっシィナさんは私にとって女神様なのですっ」


 ……一応私もフォルナちゃんも挨拶はしたけど、少しこのミルエルさんは情熱的なご令嬢だった。

 ずっと私を褒め称えてくるのだ。

 いったいどうしたの?


「あ、あのっ!次の授業はお隣に座っても宜しいでしょうかっ」

「え、ええ、構いませんが……席は自由ですし……」


 窓際から1人分ズレてあげると、私の隣に座ってきた。

 この子も可愛いね……フォルナちゃんと挟まれる形になった。

 美少女に挟まれるのは別に問題はない、もしろ嬉しいくらい…………私っておじさんっぽいのかもしれない。

 まぁ、友達が増えるのは良いこと……だよね。

 長い学院生活が華やかになるのは良いことだ。

 ……でもこの子……ずっと私を見つめてくるけど大丈夫だろうか。


「シィナさんの黒髪……艶々していて綺麗です」

「ありがとうございます、ミルエルさんの髪も瞳も青い宝石のようにキレイですよ」

「……ああっ、そんな事言われたことがありませんっ。シィナさんは褒め上手ですわっ」

「ミルエルさん、シィナちゃん、先生来たよっ」


 ……さすがに授業中は静かだったけど……なんか少しおかしい気もする。

 だけど……これは始まりに過ぎなかった。

 ミルエルさんがきっかけで、友達になって欲しいと色んなクラスから女の子たちが会いに来てしまったのだ。

 男の子は何故かいないけど……

 私の人生の中でこんなにモテたことはなかった。

 ほとんどのご令嬢は、私の魔法を使うところが素敵だった……勉強が免除されるらい頭がいいことが素敵……など、とにかく私を褒めてくるのだ。

 この日の昼食は怖くなったのでレーアとお弁当を部屋で食べた。

 幸い午後からは魔法の授業なので、免除されている私は部屋に籠もった。


 でも……残酷なことに現実は続いていく。

 私が廊下を歩くだけで同級生の女の子たちが集まってくるの。

 よくある女の子のグループとは違い、どこに行っても囲まれる……

 そして気付く……これが派閥といわれる物だと……

 姉様に相談したらそう言われたので間違いなかった。


 厄介なのは、派閥があるということは……敵対派閥もあるということです。

 私を持ち上げる女の子の一派と、私を良く思わない派閥の一派がいつの間にか出来上がっていったのだ。

 恐ろしい……

 私は何もしていない…………悪目立ちはしていたけど、派閥なんて作る気はサラサラなかったのに……

 どうしてこうなったのか……訳がわからない。

 貴族の面倒な部分が現れてきたようです。

 幸い直接的被害はまだ遭っていないからいいけど、今後どうなるかわからない。


 不安な学院生活が数日続いたところで、私の忍耐もそろそろ限界が来てしまった。

 初めてのズル休みをしてしまった……体調不良と言っておけばいつでも休めるのが学院です。

 こんな環境ではまともに勉強もできない。

 精神衛生上宜しくないの。

 姉様は言っていた、我慢できなくなったらもう一度相談しなさい……と。

 その時の姉様の笑顔は含みを持っていたので良く覚えていた。

 もう姉様を頼るしか方法はない。


 ココナさんには悪いけど、姉様の部屋に押し入って姉様の帰りを待っていた。

 お助けくださいませ、シュアレ姉様っ!


 

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