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黒髪賢者の恩返し  作者: しんのすけ
第1章 新しい家族
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第2話



 そよ風の吹く中、庭の花園で私と庭師のモルトさんが黙ってレーアの話を待っていた。

 私……いや、シィナちゃんの経緯だ。

 どういった事情で黒髪に変わったのか……ひいては私がこの世界に来てしまった事に繋がるかもしれない。


「最初からお話ししますね……7日前……旦那様とヒルク様、私とシィナお嬢様の4人で隣町へ視察に行った時の事でございます」

「そういえばそんな事を言っていたな……」

「視察に私も同行したのですか?」

「ええ、シィナお嬢様が隣町の式典にご参加することになっていたのです」

「式典?ああ、隣町が出来て100周年だったか?」 

「ええ、その記念式典に参加する事がシィナお嬢様の初めての御公務だったのです」

「その式典で何があったのですか?」

「式典は無事に何事もなく終わり、教会の聖女様にもお会いして挨拶もしたのですよ」


 聖女様ってなに?また知らない人が出てきた……

 まぁ響き的にはいい人だよね?


「確か80歳を越えた聖女様だよな?」

「はい、長年教会で人々を癒やし続けた立派な聖女様です……それで全ての予定が終わり、帰っている最中でした…………突然空に雲が掛かり、辺りが真っ暗になったのです……」

「それで?」


 ……いよいよ何か起こるのね?


「私もシィナお嬢様も馬車の中にいたのですが、急な天気の変わりようにただ驚いていたのですが、旦那様とヒルク様が警戒の為馬を降りて、馬車の様子も確認していたのですが……シィナお嬢様が馬車から降りた途端…………光に打たれた……のです」

「光に打たれたぁ?」

「……それは雷に打たれたということですか?」

「いえ、雷ではありませんでした…………一筋の光が雲間から降り注いだと思ったら……シィナお嬢様が光に……打たれたとしか表現出来ません」


 光に打たれるなんて……初めて聞いたかも……なんなの?その現象は。


「雨も降っていなく、雷の音も聞こえませんでした……圧倒的な光に打たれたのです」

「……理解できないが……それで、シィナお嬢様はどうなったんだ?」

「光が無くなり……空は暗いままでした……シィナお嬢様はその場に倒れていて、即座に旦那様が駆け寄ったのですが…………こ、呼吸をしていないと旦那様が叫び…………す、すいません私も気が動転してしまって……」


 怖かったのだろう……レーアは涙を流し、体は震えていた。

 私はただ苦しかったことは朧げに覚えている……


「ゆっくりでいいよ……レーア、思い出させちゃってゴメンね……」

「すみません……あまりに突然の事で…………ええと……確か旦那様がお嬢様を抱き抱えて言ったのです、聖女様に癒して貰おうと……そこまで離れてはいなかったので、街に引き返したのです」

「……聖女様に挨拶していなかったら思い付きもしなかったかもしれんな……」

「ヒルク様が旦那様の代わりお嬢様を抱き抱えて馬に乗り、馬車では遅いと判断したのか2人は馬で街に引き返したのです」

「…………旦那様は冷静な判断が出来たようじゃ……旦那様よりヒルク様の方が体は軽い……少しでも早く教会に行くにはヒルク様が抱き抱えた方が効率的じゃな」


 ……なるほど……馬を気遣った判断が出来たってっことだよね?


「そこからは私は詳しくはないのです……馬車の御者と私もなるべく早く引き返したのですが、教会に着いた時にはシィナお嬢様は息を吹き返していたのです……旦那様が言うには、聖女様の……あっ…………すみません……これは……言えません」

「んっ?何故言えない?肝心な部分じゃろ?」

「レーア、どうしたの?」

「これは旦那様に口止めさせていることなので……私の口からは絶対に……言えません…………」

「それは私がお父様に直接聞いてもダメなの?」 

「…………恐らく旦那様は言わないと思います……」


 ……私はうっすらと何が起こったか覚えている……

 そうか……私は本当にお父様から愛させているみたいだ。


「旦那様が口止めしているのではしょうがない…………それで黒髪になったのは……」

「私が教会に到着した時にはもう黒く染まっていたのです……それ以上詳しい事は……分かりません」

「……そうか…………分からない事だらけではあるが……ワシはシィナお嬢様が生きているだけで満足じゃ……」

「はい、私も同感です、お嬢様が生きているだけで…………嬉しゅうございます」


 またレーアは涙をポロポロとこぼしてしまう……レーアにも愛されている。

 シィナちゃんは幸せ者だね……

 (………………)

 そう?シィナちゃんだから皆に愛されているんだよ。


「レーア、もう泣かないで……私は大丈夫だから」

「はぃぃぃ゙ぃ゙ぃぃっ!おじょうさま゙ぁぁぁ!」

「ハッハッハッ!いい泣き顔じゃっ!レーアは本当にシィナお嬢様が好きなんじゃな」

「あ゙たり゙ま゙えですっ!ううっ!!」


 それからしばらく私とモルトさんはレーアをなだめていた。

 何を言っても泣いてしまうので苦労したよ。

 心配してくれてありがとうね……ちゃんとシィナちゃんにも伝わっているよ。



「それじゃあワシは仕事に戻ります、シィナお嬢様はごゆっくりしてくださいね」


 モルトさんはそう言って花園を去って行った。

 レーアはだいぶ回復したようだ。


「レーアもう大丈夫?」

「は、はい……お嬢様の前で取り乱してしまい、申し訳ございません……」

「私を思って泣いたのだから謝らないで……」

「…………シィナお嬢様は記憶がなくてもお優しいのですね……」

「…………私は教会で起きた事をうっすら覚えています……その……聖女様は亡くなったのでしょう?」

「…………覚えているのでは、隠しようがありませんね……聖女様の特別な癒やしをして貰ったらしいのです……私はそれ以上は存じません」

「特別な癒やし?」

「聖女様はもう残りの寿命が短かったと聞き及んでいます……旦那様が言うには最後の力を振り絞った癒やし……らしいのです」

「そう……では、聖女様は私の命の恩人という訳ですね……」

「人生を人々の為に使い切った聖女様には頭が上がりません、シィナお嬢様がこの事を知れば自分を責めるのではないかと……」


 ……聖女様の行為はなんて崇高なのかしら……自分にそんな事が出来るのだろうか…………これでは聖女様の命のバトンタッチじゃない……

 お父様の考えは正しい。

 正直にいうと、重い…………重すぎる。

 長年人々に尽くしてきたなら、人生の最後はもっと……穏やかにいれたのでは……私のせいで聖女様の最後を……


 私は何故この世界に来てしまったのだろう……シィナちゃんの体に乗り移って……シィナちゃんの代わりに聖女様の命を奪ってしまった。

 まるで疫病神じゃない……元の体でそのまま……死ねば……よかった。

 なんなの私って……これじゃ……お父さんとお母さんに合わせる顔がないよ。

 情けない…………自分に愛想が尽きる……

 今の私には泣くことしか出来ない。

 このまま………………この世から……


「シィナお嬢様っ!!」


 急に顔が暖かくなる。

 レーアに抱き締められた……みたい……レーアの匂いがする。


「シィナお嬢様は聖女様の命を奪ったのではありませんっ!聖女様から生きる事を託されたのですっ、その証拠もありますっ」

「……証拠?」

「旦那様とヒルク様から聞きました、聖女様は最後にこう言ったのです…………私の最後の力……未来に繋がる為に……この可愛らしい子に使えて……私は嬉しく思います…………そう聖女様は最後に仰ったそうです」

「未来に……繋がる為……」

「聖女様は最後まで笑顔だったと旦那様は仰いました、ですからシィナお嬢様…………シィナお嬢様もこれからは笑顔でいなければなりません、シィナお嬢様の命は聖女様から繋がった未来です、心から笑顔でいなければ聖女様は悲しむでしょう…………ですからシィナお嬢様は幸せにならなければいけないのです」

「わ……たしは……その資格があるので……しょうか……」


 頬を伝う熱い涙が止まらない……笑顔でいなければならないのに。

 

「勿論ありますっ!いえっ!資格なんていりませんっ!シィナお嬢様は絶対に笑顔でいるのですっ!」


 私はその強引な言葉で驚いてしまう……レーアの想いは……凄いな。

 ……涙は自然と止まっていた。

  

「レーアは少し……ふふっ、いえ、結構強引ですねっ」 

「そうです、女は多少強引なくらいでいいのですっ!」


 心につっかえていたモノがなくなった気がした。

 泣いたせいか……とても心が軽くなったよ……


「……ありがとうレーア」

「ふふっ、シィナお嬢様はそうやっていつも微笑んでいてくださいませ」


 不意に目が眩しくなって目を閉じてしまう。


「な、なに?ホタル?」

「まぁ、シィナお嬢様っ先程話していた精霊さんですよ」


 私の周りに小さい光がフワフワと……綺麗。

 凄い……まるで遊んでいるみたい。


「これが精霊さん?とっても綺麗」 

『……愛し子だ』

「えっ?レーア何か言った?」

「い、いえ……私は何も…………精霊さん?」 

『愛し子見つけた』『愛し子遊ぼうっ』『愛し子遊ぼうっ』

「ええっ!精霊さんって話せるんだ、可愛いっ」

「……言葉を……精霊さんが話をしているなんて……」


 3つの光が私を中心にクルクルと周って……踊っているみたい。

 これがファンタジーっ!可愛いので私も椅子を降りて精霊さんたちと一緒に回ってみる。


『愛し子好き』『愛し子こっち』

「精霊さん、私の名前はシィナよ……いとしごってなぁに?」

『シィナ……シィナは愛し子』『愛し子は女神に愛されし子供』

「私は女神様に愛されているの?」

『そうっシィナは愛し子』『シィナは女神に愛されてる』


 女神様もいるんだ……さすがファンタジー……凄すぎる。

 いつの間にか3つの光より多くなっている……5つの光が舞っているよ。

 どうして女神様に愛されてるかは分からないけど、精霊さんはとても暖かい……なんていうか、この子たちはいい存在な気がする。

 邪気がない、無垢な存在……


『今日はもう帰るね』『また遊ぼう』『シィナまたね』

「そう、また来てね精霊さんたち」


 精霊さんたちは風に乗って花畑の間をスイスイと飛んで、何処かへ行ってしまった。

 数分一緒にいただけだったけど、楽しかった。

 なんか子供の頃に戻ったみたいで……


「シィナお嬢様……」

「レーア、どうしたの?」

「精霊さんが話をするなんて私は初めて見ました」

「え?そうなの?」

「は、はい……一応この事は旦那様に報告した方がいいと思いますが……」

「私は精霊さんと話せて嬉しかったっ」

「シィナお嬢様可愛いですっ」


 素直に感想をいうとレーアは私にメロメロになるのだ。

 だんだん分かってきた……8歳児の威力……


「お父様には聖女様の話も聞いてみたいので、精霊さんの事は私からも報告しますね」

「そうですね、親子の会話も大事ですしね……そろそろ昼食の時間ですので、お屋敷に帰りましょう」

「はいっ!」

「シィナお嬢様は元気な方が可愛いですっ」



 庭を散歩しただけで色々な体験が出来たので私は楽しかった。

 昼食はなんとパスタが出てきたので驚いた、味付けはあっさりした塩だったけど、葉野菜がたっぷり入っていてとても満足したのだった。


 8歳児の体は睡眠を求めてきたので、昼寝をする。

 ポカポカした昼下がりはどうしても眠気が出てくる。

 しっかりと昼寝をしてから、午後からはレーアにこの世界を教えてもらう……

 最初に教えて欲しかったのは貴族の事だ。

 へんきょうはくという言葉が分からなかったが、へんきょうとは、辺境の事で納得した。

 現代日本で辺境なんて言葉は使わないからしょうがないのだ。

 せめて田舎と言ってくれたらよかったのに。

 ……まぁ、田舎伯じゃなんかカッコ悪いからいいけど……

 そして伯爵だと思っていたが、どうやら違うらしい。

 辺境伯とういう爵位らしい。

 そして位はかなり高い、公爵並と教えて貰ったけどそもそも公爵がどれくらいか分からないので私は一旦貴族の勉強を保留してもらった。

 一度に覚えられないよ……子爵と男爵と聞いてなんで子爵の方が位が高いのよ……男爵の方が強そうなのに。

 とにかく貴族の勉強は今日は終了。

 とりあえずリンドブルグ家は偉い……うん、これでいい。


 私は小学生までは普通に勉強していたけど、中学生で病気になってからはほとんど病院暮らしだった、高校にも入学すらしていない。

 つまり小学生くらいの知識しかないのだ。

 中学生の頃は一応毎日教科書で勉強はしていたけど…………治ると信じていたあの頃……結局18歳でこの世界に来てしまった。

 なので勉強出来るのは嬉しい…………8歳児からやり直そう。


 聖女様の為にも時間を無駄にしてはいけないのだ。 

 今の私はやる気はある、なので貴族の勉強の次は魔法の勉強だ。

 そうっ!魔法っ!なんていい言葉なのかしら…… 

 魔法の初歩である生活魔法。

 これもレーアから学ぶ。


「レーア先生宜しくお願いします」

「私が先生なんて恥ずかしいですよ、お嬢様」

「教員資格もあるのでしょう?ならレーアは立派な先生ですっ」

「分かりました、でも先程言ったように私に教えられる魔法は生活魔法だけですからね」

「はいっ!先生、質問がありますっ!」


 私はしっかり手を上げて質問する。


「……どうぞ、シィナお嬢様……」

「そもそも生活魔法とはなんでしょう?普通の魔法との違いはあるのですか?」

「そこからですね…………ええと、では火の魔法で説明致しますね」

「はいっ」

「午前中に魔物のお話をしたのを覚えていますか?」

「はいっ」

「では目の前にスライムが居たとします、火の攻撃魔法が使えれば簡単にスライムをやっつけられます……ですが、焚き火に火をつける時に攻撃魔法を使ってしまうと……どうなるでしょう?」

「……どうなるのですか?」

「せっかく集めた枝や木片が全て吹き飛びます……つまり攻撃魔法では威力が高くて、焚き火には向かないのです…………ここまでは理解できていますか?」

「はいっ」

「ではシィナお嬢様に質問です、攻撃魔法では威力が高い……ではどうすれば宜しいでしょうか?」

「威力を下げる……でしょうか?」

「正解です、さすがお嬢様」

「それで、威力を下げたら火がつきますか?」

「……威力を下げた魔法なら火がつきます、それが生活魔法です」

「おお〜、レーア先生教えるの上手です理解しました」


 なるほど、私でも理解できた。

 威力を下げた魔法が生活魔法……覚えた。


「部屋を明るくする時のあの綺麗な石はなんですか?」

「あの石は魔石といいます、魔力を含んだ……石ですね」

「私でも魔石に触れれば明るくなるのですか?」

「シィナお嬢様でも明るくすることが出来ますよ…………そうですね、まずは魔石に魔力を流すことから始めてみましょうか」

「……記憶がなくなる前は出来たのですか?」

「いえ、これから教える予定でしたので、お嬢様はこれから学んでいくのですよ」


 シィナちゃんもまだこれからだったのね……

 一緒に魔法のお勉強をしましょう、シィナちゃん。

 (………………)

 うん、一緒に頑張ろうっ!


「まず初めに覚える事があります、それは魔力を操る力……魔力制御と言います」

「操る力……魔力制御……」


 それっぽい言葉が出てきたよっ!ワクワクする。

 子供の頃テレビで見た魔法少女になれるかなっ!私の密やかな野望…………そう、魔法のステッキを持って悪の組織と戦うの………………悪の組織は……まぁ置いといて、魔法といったら魔法少女でしょっ!うわ〜テンション上がるっ!

 

「お嬢様、シィナお嬢様、聞いていますか?」

「あぅ……すみません聞いていませんでした……」

「……でしょうね……お空を泳いでいましたから……」


 そうっ!お空を泳ぐ、いえ飛びたいっ!……って……ダメダメっ!集中っ!


「……魔力制御は基本中の基本です、これが出来ないと魔法は使えませんから大事な事ですよ、いいですか?」

「はいっ!」

「……では魔力の流れを感じましょう」

「魔力の流れとはどうすれば感じられますか?」

「ではお嬢様に質問です、魔力とはどこに流れているでしょう?」

「……どこに?……体の中?……それとも空気に含まれているのでしょうか?……分かりません先生っ」

「ふふっ、答えは私たちに流れている血に含まれているのです」

「血……ですか?」

「はい、私は医学に詳しくないのですが、血は体中に巡っているのです。頭から足の指先まで」


 まぁ、それくらいはさすがに分かる。

 動脈とか静脈とか……そんなに詳しくないけど……血液検査もよくやっていたのでなんとなく分かる。

 教科書に載っていた人体の構造とかは大体理解している……つもり。

 お父さんにも図書館から医療の本も借りてきてもらっていたので、何となく見ていたのだ…………睡眠導入剤には最高だった。

 この世界の医学はどうなっているのだろう?

 病院暮らしが長かったからか、何となく気になる。


「血に含まれる魔力を感じる為にはどうすればいいでしょう?」

「……脈を測る?」

「えっ?……お嬢様、脈なんて言葉どこで覚えたのですか?」

「あ?えっ?……ええっと?……ど、どこでしょうね?オホホホっ」


 いけない……でも脈って難しい?…………8歳児は言わないか……

 ごまかすしかできないよっ!……私は8歳っ!8歳児っ!


「んん〜、ご兄妹でしょうか…………ええと、答えはこれですっ」

「わわっ!レーア?」


 レーアは私をギュウッと抱き締める。

 誰かに抱き締められると安心する…………ん?……これが答え?


「私は今、魔力を体中に巡らせています……分かりますか?」

「ええっ?これで分かるのですか?」

「目を閉じて……私の魔力を感じて下さい……」


 私は言われた通り、目を閉じて抱き締めているレーアの鼓動を感じてみる…………自分の心臓の動く感覚はすぐに分かる、ドクドクと私の心臓はちゃんと動いている。

 その鼓動とは別の……レーアの鼓動もちゃんと分かる。

 でも魔力は分からない……


「魔力は流れています、血が体を巡るように……流れています」


 流れ……鼓動とは違う……血の流れ。

 …………あ、もしかしてこの感覚が魔力なの?

 一度意識したら段々とハッキリしてくる、これが魔力の流れ……

 なんていうか、ねっとりとしている感じ……


「このねっとりとした感じですか?」

「……さすがです、シィナお嬢様それが魔力の流れです…………今度は自分の中にある魔力を動かしてみましょう、ゆっくりでいいですから」


 凄い……こんな感覚は初めて感じる。

 もしかしてこの世界と元の世界では人体を構造しているモノが違うのかもしれない。

 私もレーアのようにこのねっとりとした魔力を……自分の中の魔力を動かしてみる……人間は血の流れは決まっている……心臓の鼓動……ポンプで血液が流れていく感じ……このねっとりとした塊を動かしてみる。

 全身に血が巡るように……ねっとりとした魔力を巡らせる。


「もう出来ている?……お嬢様は覚えが早いです…………そうですそれが魔力が流れている状態です、一旦止めてみましょう」

「止めるにはどうすれば……」

「魔力に向けた意識を別のモノに変えましょう、目を開けて私を見てください」


 目を開けてレーアの目を見つめる……すると魔力は元に戻る。

 一箇所に……心臓の奥に集まる感じだ。


「お嬢様、おめでとうございます、最初が一番難しいのですよ」

「これでいいの?」

「ええ、後は魔力の流れをまた巡らせる練習をしていけば、お嬢様ならすぐに慣れますよ」

「ふぅ〜……少し疲れました」

「集中しますからね……お茶にしましょう、甘味が美味しく感じますよ」

「そうなの?」


 頭を使うと甘い物が欲しくなる感じ……なのかな?

 ……でも、私でも魔力は感じられた……嬉しい。

 他の世界から来たから少し不安だったけど、よく考えればこの体はシィナちゃんの体だ。

 シィナちゃんなら出来て当然だろう。


 レーアと一緒にお茶をしに行く。

 階段を降りて大広間に行くと、丁度玄関扉が開いた。


「シィナっ!ただいまっ!」

「シィナ、今帰りましたよ」

「お母様とシュアレ姉様、お帰りなさいっ」

「シィナお嬢様は今から休憩なさいますが、奥様とシュアレお嬢様もご一緒にいかがですか?」

「私もお茶をお願いレーアっ」

「そうですね、一緒にお茶にしましょう」


 ん?2人はどこに行っていたんだっけ?


「シィナの黒髪に合う生地が沢山ありましたよ」 

「そうそう、ちゃんと落ち着いた感じの生地も仕入れてきましたよ」 


 あ……服か……忘れていたよ……今のピンクのフリフリは可愛すぎます。


「生地から仕立てるのですか?」

「そうよ、当たり前じゃない」

「この家には街の職人並にいい腕の侍従が揃っていますからね」 


 服を仕立てるんだ……凄いな……既製品の服しか着たことないよ。

 っていうかこのピンクのフリフリも仕立てたの?こんな細かくて……ええっ?全部手作業!?この服も?


「シィナ、こっちよ」

「ん?あれ……食堂じゃないの?」 

「食堂は食事を食べる所よ、お茶をするなら別の部屋があるわよ」


 ううっ……これだからお金持ちの家は…………私はお母様と手を繋いでシュアレ姉様の後をついて行く。

 とある扉を開いてシュアレ姉様は一室に入って……ここがお茶をする専用の部屋?中を覗くとなんというか……華やかです。


「ここがリンドブルグ家の茶会室よ……シィナもよくここでお茶を飲んでいたのよ……」

「そうなんだ……」

「ほらシィナ、こっちへ来てっ」


 シュアレ姉様が呼んでいるので側に行ってみる。


「ふふっ、やっぱりこの黒髪によく似合うわっ、お母様もそう思うでしょう?」

「それは私が選んだ飾りでしょうっ……まったく……」

「それはなぁに?シュアレ姉様」

「これは髪をまとめる為の髪飾りよ、黒髪に似合う品は片っ端から買っておいたわっ」

「片っ端……」


 お金持ちって凄い事するな……少し引いてしまった……


「私の妹は世界一可愛いのだからもっともっと可愛くしなくちゃねっ」

「ね、姉様……」

「もう私の側から居なくなってはダメよ……いいわね?」


 シュアレ姉様は私の頬を撫でる……なんて優しい顔をするのだろう……

 まだ私はこの人のことをあまり知らない……だけど、妹想いの優しい姉なのだろう。

 シィナちゃんはいい家族を持っているんだね……


「シュアレ、私にもシィナを貸してね……」

「は〜いっ」

「シィナ、今日は何をしていたの?母に全部教えて頂戴っ」

「えっと……今日は……」


 私はお母様に色々と報告していく。

 飛竜を遠くに見た事、モルトさんに合った事、花園に行った事、貴族の勉強に魔力を感じた事……2人は私の話を黙って聞いてくれた。

 レーアの淹れてくれたお茶を飲みながら一つ一つの話を丁寧にしていく。


「そう……初日で魔力を動かせたなんて凄いわ、よく頑張ったわねシィナ」

「さすが私の妹ですっ」

「あと、これはお父様にも報告するのですが、花園で精霊さんに話しかけられました」

「「…………えっ?」」

「愛し子と呼ばれて……どうやら私は女神様に愛されているみたいです」


 自分で言葉にすると結構恥ずかしい。

 でも事実だし、報告しておかないと……


「ちょっと待ってシィナ、精霊に……話しかけられたの?」

「愛し子って言った?……お母様これって……」


 なんか2人の様子が変わったけど、どうしたの?


「レーアっ!シィナの言ったことは本当っ?」

「はい、私もその場にいましたので……精霊さんが話したのは初めて見ましたが……」

「シィナに愛し子って言ったの?精霊が?本当に間違いない?」

「は、はい、奥様……」

「お母様……シィナがあの愛し子なのですか?」

「…………今晩家族会議をします、シィナとレーアも参加なさい」

「……お母様、精霊さんと話しちゃダメだった?」


 何か……不穏な感じになってきたけど……まずかったの?


「……ダメじゃないわ、ただ……少し大変なことになるかもしれないわね」

「お、お母様、少しどころの騒ぎでは…………ああ、シィナ心配しないで、悪いことじゃないからね」

「……シュアレ、学院の教本を持ってきなさい」

「はいっ!」


 シュアレ姉様は小走りに茶会室を出て行ってしまった。

 学院?シュアレ姉様と2番目の兄様……ダリル兄様が今通っている学院のことだろうけど……今は確か春休み的な感じらしい。

 だからしばらくするとシュアレ姉様とダリル兄様は学院へ行ってしまう。


「お母様、学院って王都の学院のことですよね?」

「ええそうよ、シィナも12歳になったら学院で勉強するのですよ」

「王都ってここからどれくらい離れているのですか?」

「馬車で7日くらいよ」

「大変なことって……なんですか?」

「……今から説明するからシュアレを待っていてね……」


 お母様はお茶を飲んで軽く溜息を吐いた……

 レーアもこの事態を理解していないようだ。

 何を説明してくれるのかな?

 部屋の外で走る音がすると、扉が開かれた。

 

「お待たせしましたっ」


 シュアレ姉様がハァハァと軽く息をきらして戻ってくる。

 手には一冊の本を持っていた。

 

 お母様は大変なことになるって言っていたけど……

 私はのんびり暮らしたいな……

   

 

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