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黒髪賢者の恩返し  作者: しんのすけ
第2章 私の学院生活
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第26話



 ……夏休みで実家に帰省して数日経ったけど……お祖父様と兄様たちはまだ砦に居ます。

 今年は魔物が多く出ているとお父様が言っていた。

 大丈夫だろうか……心配になってくる。


 砦……リンドブルグ領はリュデル王国南方にあり、リンドブルグ領より南には国はない。

 あるのは魔物が徘徊する広大な密林地帯。

 歴代のリンドブルグ領主はこの密林から湧き出てくる魔物を討伐し、密林の先の海辺まで道を開通させるのが昔の王様から課せられている使命とのこと。

 密林の途中までは開拓が進み、そこそこ大きな砦も建造された。

 その砦を拠点として今もお祖父様や兄様たちは開拓を進めている。

 しかし魔物の数が多く、そう簡単には海へは進めない……と私はお祖父様から学んでいた。

 

 海……マグロとかイカとかエビとか……美味しい物がたくさん捕れる筈。

 醤油ことゾイもあるからお刺身が食べたいです。

 川魚も美味しいけど淡白で……やっぱり海鮮丼に漬け丼……ああっ米がないっ!

 でも米がなくても海産物は魅力的だよね。

 砦には一度行ってみたいのだけれど……ここは交渉してみるしかない。

 相手はお父様だ。

 シュアレ姉様も一度は行っているのだから、私も行ってみたい。

 ……というか暇なのです。

 お祖父様の持っているらしい本も読みたい。

 夏休みにどこかに連れて行くのは古今東西この世界も父親の宿命なの。

 よし、お父様に突撃しよう。


「駄目だよ、危険だしね」


 秒で却下された。

 しかし私は諦めない。

 危険じゃないことを示せればいい。


「お父様、私は強いです。魔法で魔物もやっつけました。杖を作る前にです。杖を使う経験もしたいのです。私はリンドブルグ領主のお父様の娘です。リンドブルグ領の女は強いのですよね?私はもっと強くなりたいのですっ!」


 ……ふふっ言ってやりましたっ!これで身長がもう少し高ければ立派に見えたかもしれないけど、今の私は見た目10歳児…………9歳かもしれないけど……言葉はまともな事を言った筈。

 あとはお父様次第……


「……どうしても行きたいのか?」

「シュアレ姉様も昔行ったのですよね?私も砦を見たいですし、リンドブルグ領の現状を知る為にも……」

「うっ……わかったっ!連れて行くから……その目を止めなさいっ」

「ありがとうございますっお父様っ」


 お父様はそこそこチョロい……いやお優しいのです。

 娘の頼みはなんだかんだで叶えてくれる優しいお父様……

 「近付いて上目使いをしなさい」と、シュアレ姉様からのアドバイスは成功した……一種の必殺技と言ってもいい。


「……明日の朝出発する、いいかな?」

「はいっ!」

「まったく、シュアレだな……」

「なんのことでしょう?」

「……早く明日の用意をしなさいっ」

「は〜いっ」


 とりあえず、姉様に報告して……あとはレーアと相談しよう。

 今の私は魔物の怖さよりも知識欲の方が勝っているのだ。


 こうして初の砦観光ツアーが開催される運びとなった。

 ちなみに砦は4つある。

 私の住む街を魔物から守る為の砦が3つと、密林の中にある砦。

 お祖父様のいる場所は恐らく密林のところかな。

 正直密林の砦には行きたくない。

 街を守る砦にお祖父様がいることを願うよ……



 翌朝、早めの朝食を済ませて、レーアと一緒に馬車に乗る。

 お父様は普通にお馬さんに乗って、エントさんが私の護衛に就いてくれた。

 懐にはちゃんと杖も持っているので準備は完璧です。

 お母様とシュアレ姉様に別れを告げて馬車は走り出していく。

 街の南門には行ったこともなかったので、もう周りは初めての景色になっていく。

 ……急に不安になってきた。

 石畳は敷かれているけど、街道とはいえない場所。

 多少は整備されているけど、少し奥は鬱蒼としている森がある。

 魔物が現れる可能性が跳ね上がったのだ。

 こういう時は杖を出して魔力制御をしておくと安心する。

 そして魔物が出たら使う魔法を決めておけばいい。

 ジッド先生と杖を使った時を思い出す……扇風機魔法は的の中心を削っていたので、アレなら使っても大丈夫だろう。

 獣タイプなら扇風機……空を飛んでいるタイプなら台風にしよう。


「この森に入るのは初めてですね」

「レーアは私が絶対に守るから安心してねっ」

「……はい、シィナお嬢様は頼もしいですね。ですが旦那様もエントさんもお強いのですよ」

「そうだね、お父様は頼もしいですっ」

「シィナお嬢様、オレも居ますからねっ!」


 御者兼護衛のエントさんにも会話が聞こえていたようだ。


「エントさんも勿論頼りにしていますっ!」

「はいっ!お任せくださいませっ!」


 しばらく馬車が進んでいくと森が開けてきたようで、学院のように背の高い塀が現れてきた。

 ここが街を守る砦だろう。

 正面には馬車が入れるくらいの大扉も見えてきた。

 兵士さんがお父様を見たせいか、大扉が開いていく。

 おお……王都とは違う雰囲気があって凄いね……馬車はそのまま砦の中へ入っていく。

 そこには何十人と砦の兵士さんがいた。

 訓練をしている集団や、荷物を運んでいる人……商人さんっぽい人も何人かいた。

 ここだけでちょっとした街のようにも見えるくらいだ。

 そして活気がある。

 馬車は更に進んでいき、お城のような建物の中へ入っていった。

 中庭のような吹き抜けになっている場所で馬車が止まった。

 お馬さんがたくさんいて、世話をしている兵士さんもいたよ。


「シィナ、一度この砦を案内しよう。レーアも一緒に来なさい」

「はいっ」


 お父様は屋敷に居る時より凛々しい顔つきになっていた。

 領主としての顔。

 目の前にいるのは父親だけど、領主様だ……優しいお父様とは雰囲気が違う。

 あっちの世界のお父さんも仕事中はこんな感じなのだろうか……

 少し寂しくなったけど、お父様は砦を案内してくれるので、真剣に私も見学していった。

 ……そうだよね、今の私はリンドブルグ領領主の次女だ。

 お父様の娘じゃなく、貴族の令嬢として行動しよう。


「シィナ、ここが街を……いや、リュデル王国を守る砦だ……凄いだろう?」

「はいっ!頑丈そうな壁も凄いですが、たくさんの兵士さんが一生懸命働いています」

「そうだ、ここの多くの兵士は民の為、国の為に働いているんだ……シィナはちゃんとわかっているな」


 見張り台のような建造物もあって、上に何人かいるみたい。

 上がるだけで大変そうだね……


「今年は魔物が多いのですよね?」

「ああ、そのせいで怪我人も多く出ている。幸い死者は出ていないがな……」


 怪我人か……回復魔法が使えればいいんだけど……あの魔法は聖女様が学ぶ魔法らしいので、普通のお貴族様には使えないらしい。

 教会が管理しているらしくて、あまりよくわかっていない。

 というか教会の事がよくわからない。

 鎮魂祭の時に行ったきりで接点もないのが現状かな?

 魔法なんだから誰でも使えると思うんだけど……賢者様の本にも何も載っていなかった。

 今度お母様にでも聞いてみよう……


 しばらく色々と砦の中を見てまわった。

 女性も意外と多くいて、おばちゃんたちが厨房で料理をしていた。

 こうやってお父様とか偉い人が見に来るのはなんていうんだっけ?

 視察……かな?

 でもお父様に対してもここの人たちは気さくに話し掛けてきている。

 怯えられるよりそっちの方が見ていて気楽だからいいけどね。

 お父様は信頼されているのだろう、できれば私もそうありたい。


 そしてお祖父様はここにはいなかった。

 兄様たちもこの先の密林の中の砦にいるとのこと。

 でも少し勇気が出てきた……お父様のように立派な人間になりたいと心から思う……

 私たちは馬車に戻って密林の砦に向かう。

 ……だけど私の小さな勇気は一瞬で砕け散った。

 護衛の数が20人くらいになったからだ。

 つまり……これから更に危険な地帯に向かうということ。

 全員が甲冑を着て、お馬さんも鎧のような物を着けている。

 気軽に砦見学ツアーとか思っていたけど……この護衛の数でビビってしまったのである。

 未開の地に向かうとはこんなに怖いものなんだね……

 はぁ〜……今更引き返したいとも言えず、馬車は大人数に囲まれて進んでいく……私の臆病さは健在だったよ……



 しばらくは特に何事も起こらずに平和に馬車は進んでいく。

 石畳もあるので、スムーズなくらい。

 でも杖を出し、魔力制御もずっとして緊張状態が続いていく……

 何が飛び出て来るかもわからないからね。

 ふと、思い出した……学院の図書室で見た魔物の本……気持ち悪い魔物が描いてあった本だ。

 絵でも気持ち悪かったのに、変な魔物が実際に出てきたらどうしよう……


「魔物だっ!」


 うっ!?馬車が止まり、左手の方の方から声が聞こえた。

 私は杖を構えて馬車の窓から確認してみる。


「大丈夫だっ!倒したぞっ」

「デール様っ進んでくださいっ!」


 ん?一瞬でやっつけたの?何がどうなったのだろう?


「エントさん、何が起こったのですか?」

「えっと、左の地面を見ていてください、今進みますから」


 私とレーアはエントさんの言うように左の地面を見てみる……

 ……ん?なんだろう?アレは?

 潰れたゼリーが地面に散乱してたけど……


「あれはスライムですね、恐らく3体でしょう」

「アレがスライム?」

「お嬢様はスライムも初めて見たんですかっ?」

「はいっ」

「スライムは弱い魔物ですが、数が多い場合もありますので、見かけたら必ず倒すようにしているんですよっ」


 なるほど、でもスライムなら生きてるところが見てみたかったな。

 ファンタジーの定番だしね…………ゼリーが動いてる感じなのかな?


 少し緊張したけど、スライムのお陰でなんか落ち着いた。

 なんならエントさんの隣に座りたいくらいだ。

 レーアが絶対許さないだろうから我儘は言わないようにするけど……


 スライムが出たあとは特に何事もなく順調に進んでいく……

 途中で森が開けた感じになったところで馬車が止まった。

 ここでお昼寝休憩をするようだ。

 よし、お馬さんたちにお水を与えようっ!

 今日はたくさんお馬さんがいるので、20頭近いお馬さんたちへお水を次々与えていく。


「シィナが魔法を使っているところは初めて見たが、ゾーイの言うように本当に魔力が多いんだな、大丈夫か?」

「はい、お父様っ!これくらいでしたらいつでもできますっ」


 お父様の愛馬にもお水をあげるとよく飲んでくれた。

 お馬さんの目は優しいから癒やされるね〜

 私たちお屋敷から来た4人はジュリエッタさんが作ってくれたお弁当を食べた。

 護衛の兵士さんたちはさっきの砦で作ってもらったお弁当を食べていた。

 チラリとお弁当を見てみたけど、普通に美味しそうに見えた。

 見張りを交代して兵士さんたちは休憩している。

 ……今日は雲があるので、そこまで暑くないのが助かった。

 雨が降る感じはない……この状況で雨は嫌だ。

 視界が悪くなるし、蒸し暑くなるし……いいことは少ない……


「シィナ、少し杖を使った魔法を見せて欲しい」

「え?今ですか?」

「ああ、この密林ならどれだけ魔法を放っても誰にも迷惑を掛けなくていいからな」

「ああっ!そうですねっ!」

「火魔法以外なら好きに練習してもいいぞ、まだ時間はあるからな」

「デール様のお嬢様が魔法を使うぞっ!」

「「「おおっ!」」」


 護衛の兵士さんたちが急にテンションが上がった。

 どうしたの?急に…… 


「シィナ、お前の魔法を皆に見せてやれ、貴族の魔法はこの者たちからすれば力の象徴……護衛する価値のある娘だと知らしめるのだ」

「はぁ、構いませんが……」


 もう護衛の兵士さんたちは目を輝かせてこっちを見ている……

 ……少し怖い。

 でも杖で高速以上の魔法を放った事がないのは事実だし。

 学院では目立ちたくなかったし、屋敷でも使えない。

 でもこの大自然の中ならいくらでも打ち放題だ。

 しかも保護者のお父様から怒られることはない。

 完璧な状況です……石畳以外に被害が出ることはないのだ。


「お父様、そこの木は伐採予定がありますかっ?」

「ああ、ゆくゆくは街道のようにしたい。ある程度は伐採する予定だ」

「わかりましたっ!」


 木はあまり傷つけたくはないけど今回はごめんなさい。

 私の練習台になって貰います……


 魔力制御を高速にして更に循環させていく。

 限界の一つ手前をキープして、杖の先端に魔力を集中させていく。

 まずはお試しの扇風機魔法を使ってみよう。

 私の周りの安全確認もしてから、石畳が敷かれている道に一番近い木に杖で照準を合わせる。

 太い木なので外す事はない。


 羽を回転させていくと風が集まってくる……凄い勢いだ。

 私は一気に扇風機魔法を放つっ!

 バンッと大きな音がしたと思ったら太い木が……吹っ飛んだ……

 ……根っこを残して一本の太い木が何処かに飛んでいったのだ。

 凄いね〜……やっぱり杖の魔法は人には向けられないね。


 よしっ!気を取り直して今度は水魔法を試そう。

 これは以前から考えていた水魔法だ。

 ウォーターカッターをイメージして、高圧の水を放つ魔法です。

 自然では発生しないような現象でも魔法ならできると知ったら、なんでも可能だろう。

 だけど学院では危険な気がしたので封印しておいたの。

 さて、成功するかな?

 奥にある2本目の木を目掛けて使ってみる。


 おおっ!!水がっ!凄い勢いで杖の先端から出てきた。

 一旦止めて少し木に近付いてみると、木は細い穴ができて……貫通していた。

 もう一度使い、右から左に水を動かすと、綺麗な断面で木が切れた。

 危ない……切る角度を間違えたらペチャンコになっていた。

 ……木こりさんになれるね。

 いくらでも木が切り放題だよ。


 土魔法は地面が大変になりそうだし、街道予定のここでは止めておこう。

 火魔法は禁止されているから……あとは光と闇だけど……それはいいかな……

 目眩ましくらいしかできないからね。


 私は満足したので振り返り、お父様に近寄る。


「お父様っ!杖の魔法は危ないので人には使いませんねっ」

「……ああ、そうだな。……シィナの魔法はとても…………凄い……な……」

「馬車に乗ってますねっ」


 私は本気の魔法を使えたので少し興奮気味で馬車に戻った。

 兵士さんたちは何故か静まり返っていたけど、気にはならなかった。


「シィナお嬢様、杖って凄いのですね。驚きました」

「凄いけど使い所が……魔物相手くらいなのが難点だよ……」


 休憩が終わったので、切り株の横を馬車は進んでいく……一本は根っこを残して吹き飛ばしちゃったけど、切り株っていうのかな?


 

 私のどうでもいい疑問を残したまま、砦見学ツアーの一行は順調に進み、夕日の差し掛かる頃にようやく密林の中の砦に到着した。

 ここの砦も十分大きい。

 森の一部が切り開かれており、大きな塀で囲まれている。

 そして何かの魔物の死体が点々と転がっていた……ここが最前線といった感じです。

 また大扉が開かれていくので、私はようやく杖を懐にしまった。


 最初の砦と作りは似ていて、夕方だけどまだ多くの人が荷運びなどをしていた。

 またお馬さんがたくさんいる中庭に馬車は止まった。

 とりあえずまたお馬さんに水でも与えようとして立ち上がったら、外で大きな声がした。


「どうしたデールっ?忘れ物かっ?」


 声の正体はお祖父様だった。

 良かった、大丈夫そうだね。

 

「違いますよ父上、娘に頼まれたのです」

「何を?」

「私がお祖父様に用事があったのですっ」

「おおおっ!?シィナっ!?こんな場所で会えるなんて思っていなかったぞっ!」


 私はまたお祖父様に高い高いされる。

 久しぶりに合うといつもこうされるのだ……これも慣例行事だね。

 お祖父様の声はよく通るので、すぐにヒルク兄様とダリル兄様が駆けつけてくれた。


「シィナじゃないかっ、どうしたんだいっ」

「そうか、夏休みに入って兄に会いに来てくれたんだねっ」

「いやっ、ワシに会いに来てくれたんじゃよなっ!シィナっ!」


 お祖父様に抱きしめられながら兄様たちに頭を撫でられていく。

 久しぶりの再会なので凄く嬉しいっ。


「兄様たちにも会いたかったのですが、お祖父様にお願いがあって」

「おおっ!そうかそうかっ!いいぞっ!」 

「お祖父様せめてお願いの内容を聞いてくださいっ」

「シィナ、父上も少し落ち着いてください。兵の皆が驚いていますよ……話は夕食の時でもいいでしょう」

「おお、それもそうかっ!よしっ!シィナにここの案内をしてやろうっ!」

「はぁ……ヒルク、ダルク変わりは無いか?……」

「今回はしぶとくて……なかなか……」

 

 お父様が兄様たちと何か話していたけど、私はお祖父様の肩の上に座って砦巡りです。

 最初の砦と造りは基本同じだけど、ここは密林のど真ん中……しかも日が暮れてきたので暗闇の時間の始まり……

 見晴らしのいいところへ来るけど、周りの真っ暗な森の中からは色んな音がしてくる。

 ……草の擦れるような音……クマさんのように木で爪を研いでるようなガリガリするような音……何かが吠える声。


「お、お祖父様?何かが近くに居ます」

「うむ。色んな魔物がうろうろしとるな」

「お祖父様は怖くはないのですか?」

「ワシも怖いぞ……特に夜は危険な魔物が活発になるからのぉ……」

「もし魔物が現れたら、杖で魔法を使ってもいいですか?」

「おおっ、そういえばもう杖を育てたんじゃったなっ!見せてくれるか?」

「はいっ!……コレが私の杖ですっ」

「……ほう。上手に作れたなっ……まさかこんな短時間で杖を作るとはのぉ。だが安心せい、この砦にいれば魔物はそうそう入ってはこれん。少しばかりうるさいくらいじゃよっ」


 凄く怖いけど、お祖父様の言葉を信じよう。

 今日はここに一泊しなくてはいけないのだ。


「そろそろ夕食じゃし、シィナの学院での話も聞きたいから食堂へ行こうかの」

「はいっ!お祖父様っ!ここは怖いですっ」

「夕食の席で兵の皆に挨拶はできるか?」

「頑張りますっ」

「よしっシィナならできるっ!行くぞっ!」

「お〜っ!」


 お祖父様の肩に乗ったまま砦を移動して、さっきの馬車近くまで戻ってきた。

 ……何か忘れている……しなくてはいけないこと……


「ああっ、お祖父様少しお時間いいですか?」

「ん?なんじゃ?」

「お馬さんにお水を与えたいですっ」

「おおっ!感心な事じゃっ!馬には感謝しないとなっ!」


 お祖父様に肩から下ろしてもらい、ブラシを掛けているエントさんに言っておく。


「ヘンリー様、シィナお嬢様の出す水魔法は馬がとても喜ぶんですよ」

「ほう、喜ぶのか……」


 私は馬小屋にある水桶になみなみと溢れるくらい水を注いでおいた。

 ついでに他の馬小屋の水桶にも注いでおこう。


「……あれ?この子……お祖父様っ」

「なんじゃ?どうした?」

「この子怪我をしていますか?」

「……ああ、先日魔物に脚を噛みつかれての」


 かわいそう……立ち上がれないお馬さんがいた。

 ……でも私には何もすることができない。


「お水をあげるしかできなくてゴメンね……」


 側にあったバケツに水を出して飲める場所に置いておく。

 すぐに水を飲んでくれたけど……怪我をしているお馬さんを見ると悲しくなる。


「本当によく飲むの……シィナ、馬もワシら人間と同じように意思を持っておる。水を飲むかは馬次第なんじゃ、水辺に行って馬に飲ませようとしても馬が飲みたくなかったら飲んでくれない時もある。」

「へぇ〜そうなんですか」

「ああ、こいつはシィナの出した水を美味しそうに飲んでおる……確かに喜んでいるようにも見えるな。……シィナはこいつの為に悲しんでくれた……それだけでも心は伝わるんじゃよ」

「怪我自体は浅そうですので、すぐに良くなりますよ、シィナお嬢様」 

「そうですか、早く良くなって欲しいです……」


 ……全ての水桶に注ぎ終わったら、またお祖父様に担がれて肩に乗せられた。

 少し悲しかったけどこれから夕食だし、気を取り直して挨拶もしなくてはいけない。



 食堂は甲冑を脱いだ兵士さんたちで溢れており、お父様や兄様たち、お祖父様も一緒に食べるようだ。

 どれくらい兵士さんが居るのか知らないけど、軽く200人以上は居るように見える。

 しかも見張りなどは交代制っぽいので他にもまだ人はたくさん居る。

 お祖父様が私の紹介をしてくれて、私も精一杯声を張って挨拶をした。

 ここの兵士さんたちはノリも良く、活気のある夕食を楽しめた。

 でも夕食の途中で眠くなってしまった私は、レーアに連れられてどこかの部屋で体を拭かれてからストンと眠りについてしまった。

 ここの砦に来るまで緊張していたのだろう、お祖父様と話もできないままこの日は幕を降ろしてしまった。



 疲れていてもいつもの時間に目を覚ましてしまう。

 まだ夜明け前……この部屋は女性専用の部屋みたい。

 伸びをしてから起きると、隣のベットで寝ていたレーアも目を覚ましてしまった。

 他にも何人かのおばさんたちも起き出して朝の支度をしていった。


「シィナお嬢様、おはようございます。昨日は良く眠れたみたいで良かったです」

「おはようございます……いびきでもかいていましたか?」

「いえ、スヤスヤと静かなものでした……ここは魔物の声とかで初日は眠れない女性が多いようで」

「なるほど……レーアは眠れた?大丈夫?」

「……私は……駄目でした……でも1時間くらいは寝れましたよ」

「今日は無理しないで馬車では寝ていいからね」


 レーアやおばさんたちと話をしながら着替えも済ませた。

 よし、少し走ろう……


「レーアはまだ休んでいていからね、私は走ってきます」

「いえ、大丈夫です……私も朝食の準備をしています」

「無理はしないでねっ……絶対だよ」

「はい、お嬢様」


 部屋を出て、昨日のお馬さんたちのいる中庭を走ろう……

 馬小屋のお馬さんたちは起きていた。

 お馬さんは睡眠時間が少ないとエントさんが言っていたのを思い出した。

 ついでにまた水を補充してあげてから私はランニングを開始した。

 お馬さんの匂いと、密林の濃い匂いの中のランニングはなかなか刺激的です。


 私が小一時間程走っていたら、ヒルク兄様とダリル兄様がこっちにおいでと手招きしてきた。

 どうしたのか聞いてみると、これから兵士さんたちと朝の訓練で軽く走るようだ。


「シィナがまだ走れるなら一緒に走るかい?」

「はいっ!」

「シィナは学院でも毎朝走るの?」

「はい、それが日課ですっ」

「偉いねシィナは」


 兄様たちに頭を撫でられてから兵士さんたちと塀の内側を軽く走る。

 だけど私の体は小さい……すぐに周回遅れになるけど、兵士さんたちは気にしないで自分の走りでいいと言ってくれた。

 なので構わずに自分のペースでまったりとランニングを楽しんだ。


 このあとは兵士さんたちは剣や槍の訓練があるようで、私はいい汗をかいたので離脱した。

 まだ朝食には時間もあるので、昨日お祖父様と行った見晴らしのいい場所へ行ってみた。

 昨日は日も暮れて暗闇だったけど、朝日も登って今は森の様子がよく見えた。

 これならそんなに怖くない……と思っていたけど……なんだろう?

 砦から少し離れた森の一角が黒い……木の隙間に黒い何かがそこにいた。

 丁度見張りの兵士さんがいたので、聞いてみた。


「あの…………あの黒いモノはなんですか?」

「え?……シィナお嬢様、どこですか?」

「あそこです、木の隙間に何か黒いモノが見えます」

「ん?……黒い…………あっ!アレは魔物ですっ」

「魔物っ!杖で魔法を使ってもいいですか?」

「えっ!?……いいとは思いますが、ヘンリー様に知らせてきますねっ!」

「はい、私が見張っておきますっ」


 兵士さんは慌ててお祖父様を呼びに行ってしまったので、私は杖を構えて魔法を放つ準備をする。

 200……いや、300メートルくらい先だろうか……確実に何かはいる。

 このくらいの距離ならそんなに怖くはないので、冷静に……勝手な事はしない。

 足音が聞こえてきたので、たぶんお祖父様とさっきの兵士さんだろう。


「シィナっ!どこじゃっ!」

「お祖父様、私の杖の先……木の隙間に黒いモノが……います」

「黒い…………アレかっ!」

「お祖父様、魔法を放つ準備はできていますっ」

「……よし……シィナ、一番強い魔法を放ってみよ」

「えっ!?ヘンリー様いいのですかっ!?シィナ様はまだこんなに幼いのですよ?」

「ああ……シィナ、落ち着いて放ってみよ」

「はいっ!お下がりくださいっ」


 昨日の扇風機魔法を準備する。

 昨日は全力ではなかったけど、今は魔力制御を最大速度で循環させていく。

 もう体が吹っ飛びそうな状態だけど、集中して杖の先端に魔力を込めていく。

 ハネを作り、回転させていく……私の後方からは風が巻き起こっていく……


「な、なんじゃっこの風はっ!?シィナっ!?」

「いきますっ!」


 最大威力の魔法は使ったことがないのでどうなるか少し不安だったけど、私は勇気を振り絞って扇風機魔法を使ってみた。

 放った直後にズドンと昨日よりも大きい音がしたと思ったら、狙っていた場所一帯が……消し飛んだ。

 木は何本も吹き飛び、地面はえぐられ……でも黒いモノは飛ばされずにそこにいた。

 お〜、杖の威力はやっぱり危険だね。

 黒い物体は動いてはいない……たぶん……やっつけたと思う。


「お祖父様、どうですかっ?」

「……な、なんて威力じゃ…………これはゾーイ以上じゃぞ……」

「え?お母様より……強いのですか?」

「……ゾーイどころか……賢者様……以上かもしれんっ」 

「賢者様に失礼ですよ、お祖父様。私はまだまだですから……それより、あの黒いモノは……」


 私は言葉を言いかけたけど、砦が騒がしくなりお父様や兄様たちもこの見晴らしのいい場所に騒いで来てしまった。


「何事だっ!?父上っ!今の音はっ!?」

「お父様っ!アレを見てくださいっ」

「森の一部が無くなっていますっ……あの黒いのは……」

「っ!?ま、まさか……アレをシ、シィナがやったのか?」

「「はぁっ!?」」


 兄様たちが変な声を上げていたけど……はい、犯人は私ですが……

 お父様とお祖父様の表情が……強張っている。

 

 ……なんか雲行きが怪しい…………怒られないよね?



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