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黒髪賢者の恩返し  作者: しんのすけ
第2章 私の学院生活
26/70

第23話



 ……昨日は一日中雨が降っていたけど今日は朝方に雨が止み、雲間からは日がさしてきた。

 雨のせいで昨日は屋上には行けなかったから図書室にずっといたけど、今日は学院がお休み。

 窓を開けるともう春の陽気ではなく、初夏のような空気を感じる。

 もうすぐ学院に来て3ヶ月になる。

 すっかり学院生活にも慣れて、今日は王都の服の仕立て屋さんにフォルナちゃんと一緒に行く予定になっている。

 雨が止んでよかったよ……

 夏物の服を仕立てて貰っていたので、取りに行くついでに軽く遊ぶ予定だったしね。

 王都はそこまで暑くはないけど、実家で着ていたような肌の露出が多い服は着てはいけないらしい……貴族令嬢の面倒な風習。


 学院の正門からいつものようにフォルナちゃんやレーアとユエラさんの4人で乗り合い馬車で市場方面へ向かう。

 仕立て屋さんは市場に面していて、王都でも指折りの仕立て屋さんなので、他の貴族令嬢も仕立てて貰っているらしい。

 姉様推薦のお店なので、一月前にフォルナちゃんと夏服を注文していたの。


 雨上がりの王都はしっとりとしていて雨の跡が残っている。

 ところどころに水溜りができているので、いつもと様子が違って見える。

 こういうのも味があっていいよね……夏といえば台風のイメージもあるけど、リンドブルグ領ではあまり激しい台風は体験していない。

 王都ではどうなのだろう?体感温度も少し違うので、多少雨が多いのだろうか……

 天気予報もないので分からないけど、今年は少し雨が多い気がした。


 

 そんな答えの出ない事を考えていたら、市場に到着していた。

 市場は来る度に並ぶ商品が違うので、飽きることがない。

 季節物の果物や服の生地なんかも売っているので、レーアが前に生地を買っていたのを思い出した。

 たまに縫い物をしているので、何か作っているのだろうけど教えてはくれない。

 たぶん私の衣類だろう……楽しみにしておこう。


 早速仕立て屋さんに入っていくと店員さんが対応してくれて、以前預かっていた仕立ての番号の書かれた札をレーアとユエラさんが渡していた。

 私は七分袖のワンピースを夏の生地で何着か仕立てて貰っていた。

 長袖か七分袖ならいいらしい。

 貴族令嬢は半袖はアウトらしいの……意味がよくわからないけど、アウトなの。

 フォルナちゃんは私が来ているようなブラウスとスカートを何着か仕立てて貰ったらしい。

 背丈が同じくらいなら服を交換したりもできるのけど、私はまだ…………そんなに成長していない……

 というかフォルナちゃん以外とも……誰とも交換できない……おかしい。

 最近は姉様の友達にもお人形扱いされてきたので、ちょっとしたマスコットのような存在になってきている…………気がする。

 ……解せん。


 服を背負い袋に詰めて貰って、今日の目的は早々に片付いた。

 さて今日はどうしようか?

 仲良くなった教室の友達とも市場で合流してお買い物をしたりして遊んだ事はある。

 遊びと言っても王都の観光に付き合って貰ったり、食事をしたくらいだけどね。


「フォルナちゃん、今日はどうする?」

「え〜と……また本を見に行ってもいいですか?」

「いいよ〜、予定もないから暇だしね」


 本屋さんに行くことになった。

 最近私は本を読むことしかしていない……学院で目立たないようにするには図書室で勉強しているのが一番と判断した為です。

 目立たない為もあるけど、他にも図書室通いの理由はあった。

 ……昼間はいいけど、放課後の屋上は…………恋人同志の逢瀬の場所だった……シュアレ姉様に聞いた時は顎が外れるくらい驚いた。

 私のお気に入りの場所は……半分なくなった気がしたのだ。

 お父様とお母様もあの屋上で逢瀬……軽いデートをしていたとか……

 なので少し傷心した私は図書室に通うことが多くなった。

 ちなみにまだ無属性魔法はコツコツと調べている……


 

 以前に来た豪華な本屋さんに入っていく。

 以前のようにイケオジの店主さんが丁寧に挨拶してくれた。

 フォルナちゃんはまた物語のある本棚を見て嬉しそうにしている。

 私は魔法関係の本棚を見て何かないか探してみる……

 …………そういえば忘れていたけど、魔法道具専門店に行っていない。

 店主のお爺さんは絶対に来て欲しいとか言っていたよね……

 明日にでも行ってみようか……ここの魔法関係の本は……あんまりピンとこないのよね。

 

 フォルナちゃんはまた一冊本を購入したみたい。

 またメルヘンチックな本だろうか?

 お店を出て何を買ったか聞いてみると……


「妖精騎士物語の外伝ですっ」

 

 そうか……外伝も出ていたのね……

 予想を裏切らない女だね、フォルナちゃんは。


 このあとは少し市場巡りをして、飴を補充する為に買いに行ったり、季節の果物を少し買ったり、果実水を飲んだりしていつものように市場を堪能していく。

 昼食もいつも通りフォルナちゃんのリクエスト通りに喫茶店に移動した。

 列に並んでいると、いつもとは違う事が起こった。


「アレ?フォルナじゃないか…………あ……」

「お兄様っ」

「お兄様?」


 突然フォルナちゃんに話し掛けてきた男がいたので、一瞬焦って威嚇しそうになったけど、そうか彼はフォルナちゃんのお兄様か……そういえば前に寮にお兄様がいるとか言っていたね。


「お兄様も子猫の奇跡亭ですか?」

「うん、今日はもうお腹ペコペコで……えっと確かシィナさん……ですよね?」

「あ、はい、シィナ・リンドブルグと申します」

「僕はフォルナの兄でエドニス・レーゼンヒルクと申します、妹がいつもお世話になっているようで……」

「いえいえ、いつもフォルナちゃんには良くして頂いております」


 きゅうっとお腹が鳴る音がしてフォルナちゃんお兄様はお腹を抱えては、恥ずかしそうにしていた……お腹空いてるのか……ん〜たまにはいいか。


「レーア、今日は裏口に行きましょう」

「かしこまりました、先に行って伝えて参ります」

「シィナちゃん?」

「フォルナちゃんとお兄さんもついて来てください」

「え?でも僕は……」

「いいからこっちですよ」


 列を離れてレーアの後を追うように喫茶店の裏口へ向かう。

 いつもフォルナちゃんとは普通に並んでいたけど、普段のお礼も込めてお腹いっぱい食べて貰おう。

 ゆっくり裏口に向かうと、レーアがもう扉の前で立っていた。


「シィナお嬢様、料理長へ伝えておきました。二階でお待ち下さいと言って張り切っておりました」

「そうですか、久しぶりですからね」

「シィナちゃん……ここは……」

「喫茶店の裏口です、さあどうぞ入ってください、お兄さんもユエラさんも遠慮しないでくださいね」

「「はぁ」」


 扉をレーアが開けてくれたので二階へ上がっていく。

 階段も大部屋も綺麗に掃除されている。

 ちゃんとしているね、感心感心……


「ここは……」

「ここは従業員の休憩する場所です、たまに使わせて貰っているのです」

「え?どうしてですか?」

「お兄様にはお伝えしていませんでしたけど、子猫の奇跡亭はリンドブルグの領主様が経営するお店なのですよ」

「そうだったのですか?知りませんでした……」

「あまり口外しないでくれると助かります……ああ、どうぞお掛けください」


 席に着いてもらい、レーアが果実水を持って来てくれたのでユエラさんもお手伝いしてくれた。


「私は料理長にお任せしますが、食べたい物があれば言ってくださいね」

「では、私もお任せいたします、お兄様はどうなさいますか?ハンバーグにしますか?」

「う、うん、ハンバーグが好物だし、お願いします」

「ユエラさんも食べたいものがあれば言ってくださいね、レーア頼みます」

「かしこまりました、ユエラさんこちらへ……」

「はいっ」


 レーアとユエラさんは下に降りていった。

 ふぅ……果実水がさっぱりしていて美味しい。


「あ、あの、シィナさんの魔法、修練場で見たことがあるのですが、とても凄かったです……」

「……そ、そうですか?私なんてまだまだです」


 いつの間にか見られていたらしい……少し恥ずかしい。

 最近は大人しくしていたので、杖を作った時とかかな?


「お兄様、フォルナちゃんは魔法だけではないのですよっ。優しいし、しっかりしているし、頭もいいし、可愛いし……それに、美味しい甘味も作れるのですよっ」

「そ、そうなんだね……シィナさん、妹に良くしてくれてありがとうございます」

「私はフォルナちゃんに本当に感謝しているのです、少しでもフォルナちゃんの手助けができるならなんでもしますよっ、ふふっ」

「………………」

「お兄様?どうかなさいました?」

「い、いや、なんでもない、なんでもないよ?」


 さっきからいい匂いがして……お腹空いてきたよ。

 お任せにしたけど何が出てくるかな……


 しばらく3人で……というか兄妹の会話を聞いていたけど……いいよね〜

 実家でヒルク兄様やダリル兄様と話したくなってきたよ。

 目の前のフォルナちゃんのお兄さんは私より2つ学年が違うらしい。

 3年生か……ん〜、まだ私の好みより年下だね……おしい。

 階段を誰かが登ってくる音がする……すると男性の声がしたのでたぶん料理長だろう。

 入室してもらうと、料理長のモーガンズさんが料理を片手に持っていた。 


「ああ、シィナお嬢様、ご来店頂きまして光栄でございますっ!……おや、お友達ですかな?」

「はい、突然来てしまってすいませんでした料理長。友達の……」

「フォルナ・レーゼンヒルクと申します」

「フォ、フォルナの兄のエドニス・レーゼンヒルクと申しますっ」

「おおっ、レーゼンヒルク辺境伯のご兄妹ですか、歓迎致します……子猫の奇跡亭料理長をしておりますモーガンズと申します。只今料理をお持ちしますので、お楽しみくださいませ」


 私の前に一皿置いた料理長はニコッとして、ナイフとフォークを並べてくれた。


「お先にシィナお嬢様、お試し頂けますか?」

「……これはっ!」


 香ばしい醤油の香り……いや、ちょっと違う……これは……

 ミニハンバーグを半分に切って一口食べてみる。

 ああ……このタレは……


「照り焼きハンバーグ……美味しい」

「おおっ、もう名前があったのですかっ!?てりやき……いい響きです」

「あのしょうゆ……いえ、ゾイからこのタレを作ったのですか?凄いですモーガンズさんっ」

「試行錯誤し、ようやくここまでこれました……あの調味料を見出したシィナお嬢様のご慧眼……恐れ入ります」

「いえいえ…………あ、この照り焼きハンバーグには少しマヨネーズを合わせると、とてもいい味になりますよっ!ああ、パンと生の葉野菜はありますか?」

「っ!?ありますっ少々お待ち下さいっ!」


 料理長はマヨネーズやパンと生の葉野菜を何種類か一瞬で持ってきてくれた。

 あっちの照り焼きとは少し風味が違うけど、これは十分照り焼きです。


「ど、どうぞシィナお嬢様っ」

「ありがとう。パンをナイフで半分にして…………この葉野菜の中で一番みずみずしいのはどれでしょう?」

「……みずみずしい……こちらですね。……一体どうされるのですか?」


 パンにマヨネーズを少し塗って……葉野菜を敷いて…………残った照り焼きハンバーグを乗せて……パンで挟めば完成だ。


「これは照り焼きバーガー……このまま手で持って食べる料理です……うん、美味しいっ」

「……ああ……新作料理が誕生した瞬間ですねっ!?」

「ええ、照り焼きハンバーグは美味しいですが、少し味が濃いですからこうやってみずみずしい葉野菜と共に食べれば、とても美味しいのですよ」

「理解しましたっ!今からそのてりやきばーがーを作って参りますっ!」

「フォルナちゃんとお兄さんもそれでいいですか?」

「「は、はい……」」

「かしこまりましたっ、もう少々お待ち下さいっ!」


 テンションマックスの料理長は「おおおっ!」と声を上げながら厨房へ戻って行った。

 照り焼きを開発するとは……さすが料理長だね……


「シィナさんって……凄いな」

「はいお兄様、シィナちゃんは凄いのですっ」

「………………」


 しばらく待っていると、照り焼きの香りもしてきて……これは堪らないね……

 レーアとユエラさんが色々と料理を運んできてくれた。

 そしてモーガンズ料理長がさっきの通りに照り焼きハンバーグをパンに挟んで持ってきてくれた。

 タレがパンにも染み込んで……美味しそうです。


「料理長、このレシピをリンドブルグのお母様に送っておいて下さい」

「かしこまりました。少し試食しましたが、シィナお嬢様の言う通りでございました。濃いタレがマヨネーズのコクと酸味で堪りませんなぁ」

「これなら他のお客様にも満足して貰えるでしょう……あ、ナイフとフォークで食べても大丈夫ですからね」

「ええ、早速店の品目に追加しておきましょう、ではお楽しみくださいませ」


 元気な人だね……料理長は意気揚々として頼もしかった。

 ちゃんとレーアとユエラさんの分も作ってくれたので、改めて食事をする。


「このてりやきばーがーというのは手で掴んで食べるのですか?」

「さっきも言ったけどナイフとフォークで食べてもいいよ、私はこのままかぶりつくのが好きです…………ん〜っ美味しいっ」

「シィナお嬢様、お口が……」


 レーアが口元をハンカチで拭ってくれた……もう少しお上品に食べよう。

 でももう遅かった……フォルナちゃんもお兄さんももう照り焼きバーガーの虜になっていた。


「シィナちゃんっ、これ美味しいですっ!」

「ああっ、僕の好きなハンバーグが更に美味しくなるなんてっ!信じられないっ!」

「…………あ、チーズを乗せるとまた更に美味しくなりますよ」

「チーズっ!?シィナちゃんっ!それは是非食べてみたいですっ」

「ああっ……なんて事だっ……シィナさん君は天才だねっ」


 レーアもユエラさんも照り焼きのタレには満足してくれたようで、全員口を拭きながら食べていた。

 結構大きいので、ナイフとフォークの方が楽かもしれない……

 でもかぶりつくのは……最高だよねっ!



 店を出る時に、料理長にチーズを乗せて蕩けさせることを提案したら、厨房は盛り上がっていた。

 想像しただけで美味しいからね。

 また喫茶店には一つのメニューが追加された。

 人気が出たらいいけどね。

 ……こうして休日初日は満足できた。

 食は大事だからね、コーラとフライドポテトも欲しいところだけど……

 でもこれでジュリエッタさんにレシピは渡っただろうから、あっちでも楽しめるね……よしよし。



 ……翌日、休日二日目は姉様と一緒に例の魔法道具店に行くことになった。

 なんでも学院から歩いて行けるとのことなので、朝食はゆっくり食べてまったりする。


「じゃあ、そのてりやきばーがーっていうのを頼めばいいのね?」

「はい、絶品ですっ。シュアレ姉様も気に入ると思います」

「なになに?なんの話?」

「妹がまた美味しい料理を提案したらしいのよ」


 ティータ先輩が抱きついてきたけど、もう慣れっこだよ……


「後で行ってみる?って、シィナちゃん可愛い服ね〜、よく似合ってるわよっ」

「ありがとうございますティータ先輩……」

「あっ、シィナちゃんが居るっ!ちょっとティータさんズルいですわよっ」


 もう色んな先輩が抱きついてくるけど……もう動揺はしない。

 至って普通に過ごすのです。


「フォルナちゃんはいいの?」

「昨日好きな本を購入していたので、今日はお楽しみでしょうからね。……あ、フォルナちゃんのお兄さんにも好評でしたよ照り焼きバーガーは」

「へぇ〜、男の子と一緒に食事したんだ〜」

「なになにっ!?シィナちゃんは変な男には気をつけないと駄目だよっ!」

「先輩方大丈夫です。男は敵ですのでっ」

「「シィナちゃん可愛いっ!」」


 やっぱりマスコット的な存在になってる気がする……



 ゆっくりした朝食を終えて、そのまま姉様と寮を出ていく。

 今日もいい天気……麦わら帽子が欲しいな……


「その夏服は市場の仕立て屋で頼んだのよね?よく似合ってるわよ、すごく可愛い」

「姉様おすすめのお店ですので、いい仕事をしてくれました。涼しくていいですっ」


 今日も平和です……

 やっぱり姉様と一緒にいるととても落ち着く。

 しばらく歩いて守衛さんに外出を伝えてから学院の敷地を出ると……

 うっ……馬鹿王子こと第三王子と第二王子が乗り合い馬車を待っていた。


「あ……シィナさん……」

「むっ……」


 王族なら乗り合い馬車なんか使わなくても……不用心じゃないの?

 でも話し掛けてはこない……?どうしたんだろう?


「シィナ知り合い?」

「一応同じ教室の王子様たちです」


 姉様が小声で私に聞いてくる。

 関わり合いになりたくないので無視しよう。

 

「無視して行きましょう、どっちですか?」

「……あっちよ、行きましょう」


 市場とは反対方向なので、無視して歩いていく。

 変な感じだったね……いつものようにズカズカと来なかった。

 

 しばらく歩いたのでもう王子様二人の姿は見えなくなった。

 ふぅ〜……もう安全だね。


「ねぇシィナよかったの?挨拶もしないで……一応王族よ?」

「普通に接してくれと言われているので、他の貴族男性たちと同じ様に接しているだけです」

「ふぅん、それでいいんだ。でも王子様二人共シィナを見て顔が赤くなっていたわよ?」

「今日は少し暑いですからね、体調には気をつけましょう」

「……たぶんそういう事じゃないと思うけどなぁ……あ、あそこが魔法道具のお店よ」


 道の反対側に大きな看板で魔法道具専門店と書かれていたお店が見えてくる。

 そういえばこっちの方へは来たことがなかったね。

 確かに学院からすぐの場所にある。

 専門店か……どんな物があるんだろう? 

 馬車も来ていないので、道を横断していく。

 

 普通に営業中のようなので、私は扉を開いて中へ入る。

 おお〜……色んな物で溢れている……凄いお店だ。

 小瓶に入った何かの液体……色とりどりの魔石に、使い道のわからないアクセサリーのような物……


「見たことない物がいっぱいです、姉様っ」

「変わった物がたくさんのあるのよ、これは魔力を回復してくれる魔法薬よ」


 さっきの小瓶は魔法薬か……美味しくはなさそうだね。

 そんなに大きくはない店内だけど、不思議グッツで溢れている。

 奥にはカウンターがあって、お婆さんが座っていた。

 ……あ、あれだ、あっちの世界の駄菓子屋さんに似ている感じ……昔ながらの駄菓子屋さんのワクワクした雰囲気があるの。

 近所にあって、子供の頃はよくお母さんに駄菓子を買って貰ったのを思い出した。


「あ……本もありますね……」

「学院の本より、新しい本があったりするわ……ってなに?図書室に行ってるのにまだ本が見たいの?」 

「無属性魔法が使いたいのです」

「なるほどねぇ……私はもう諦めたわ。お母様が特殊すぎるのよ」


 ん〜……何かないかな……でも普通の魔法関係っぽいかな……

 賢者様のあの小難しい本が一番面白かったな。


「あら、シュアレお嬢様じゃないかい?いらっしゃいませ〜」

「こんにちわ、ハーブルさん。今日は妹を連れてきましたよ」

「あの黒髪の可愛らしいのが妹さんですか?あらあら随分年の離れた妹さんね〜……9歳くらいかしら?」


 ……12歳で……5歳離れてるだけです……


「いえ……妹は学院生ですよ。今年で13になります」 

「……これはとんだ失礼を……申し訳ありませんね〜……ごめんなさいね妹さん。私はハーブルと申します〜」 

「いえ、よく言われますので……シィナ・リンドブルグと申します。以後宜しくお願いします、ハーブルさん」


 勘違いしたけど、気の良いおばあちゃんなので許します……


「……シィナ……シィナさん?あら?なんだったかしら?聞いた事があるような……」

「以前、妹がご主人を魔物から助けた事がありまして、この店に来てほしいと言われたのですが」

「あ〜っ!はいはい、夫から聞いていますよ。なんでも好きな物を差し上げるように言われています。何か欲しい物はありますか?なんでもいいですよ〜」

「だって……どうする?何か欲しい物はある?」


 と言われても……なにがなんだか分からない。


「少し店内の物を見せて下さい、何もわからないので……」

「ええ、どうぞ好きに見てくださいませ〜」 


 一応プレートに商品名は書かれているのでなんとなくはわかる。

 ん〜……何かあるかな?魔石を貰っても使い道がわからないし……こっちは……なんだろう?


「妹はとても優秀で基礎勉強とか免除されてるんですよ」

「まぁ、それは凄いですね〜、学院生で免除なんて聞いたことありませんよ」

「魔力も凄くてね……」 


 姉様とおばあちゃんが楽しそうに話をしている……でも私の事はいいんだよ……

 魔力回復の薬も別にいらないし……魔物避けの道具なんてのもあるんだね。

 あとは魔石が原動力の商品が多い……懐中電灯とかもあった。

 これは貴族というより魔力の少ない平民向けかな?

 商品が多すぎてなにがなんだか……魔物の牙とかも売っているね……何に使うのだろう。


「……あら、無属性魔法の本ならとっておきの本がありますよ」


 んあっ!?なんですとっ!?

 カウンターにすぐに戻って詳細を聞きたいっ!


「とっておきとはなんですかっ!?」

「うふふ、本当に無属性魔法に興味がお有りなんですね〜、少し待っていてください取ってきますから……」


 おばあちゃんは奥へ行ってしまった。

 なんだろう?とっておきなんて素敵な言葉……急にワクワクしてきた。

 というか……売り物じゃないの?奥に置いてあるなんて……

 すぐにおばあちゃんは戻ってきた……手には一冊の本を持っている。


「その本がとっておきですかっ?」 

「ええ、昔の賢者様の本なのですが、ずっと売れなくてね〜」 

「少し見せてくださいっ」

「構いませんけど、この本は差し上げてもいいのですよ?夫を助けてくれたお礼です」

「え、でも賢者様の本なら高価なのでは?」

「売れ残った本ですし、この本も誰かに読んで貰った方が嬉しいと思いますよ〜。あと、この本は私からのお礼です。夫は店の好きな物を差し上げると言ったので、何か探してくださいね〜」


 ……結局、杖のお手入れ道具セットを発見したので実用的だと思い、その道具セットに決めたの。

 本も貰ってしまった。

 いくらするのかも分からない、本当にいいのかな……

 姉様は定期的に買っている魔物の素材から作られているお香を買っていた。

 姉様の部屋に入った時に嗅いだ匂いはこのお香のようだった。

 なんでもリラックス効果があるとか……確かに姉様の部屋の匂いはなんとなく好きだった。

 ……来年は姉様に代わりに私がこのお香を買いに来よう。

 ちなみにこの魔法道具のお店の店主さんはまたどこかへ買付に行っていたようで会えなかった。

 まぁ、そのうち会えるだろう……また魔物に襲われないでね……



 寮に戻った姉様は、ティータ先輩と一緒に照り焼きバーガーを食べに出掛けて行った。

 私のお昼はお弁当にして貰って、部屋で早速賢者様の本を読み始めていく……


 さて……貴方は誰に向けた本なんですか〜?


 

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