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黒髪賢者の恩返し  作者: しんのすけ
第2章 私の学院生活
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第22話



 さっきの授業で枝を魔力で満たしたので、授業の休憩時間の間にエレアーレ先生と職員室へ向かった。

 学院で働く先生はとても多い……担任を務める先生だけでも1年生から6年生まであるので軽く30人はいる。

 他にも踊りを教える先生や魔法を教える先生……礼儀作法の先生や剣技を教えるような先生もいる。

 ……とにかく職員室は多くの先生がいる。

 そしてその全員が私の枝を見て驚いていた。

 そんなガヤガヤとしていた先生方を押し退けて、オリビア学院長が私の側にやってきた。


「……まさかもう育て上げたのですか?エレアーレ先生」

「は、はい……それはもう数分で……」

「数分…………はぁ〜……そうですか、恐れ入りました。まさか賢者様の時間を塗り替える生徒が現れるとは思ってもみませんでしたよ……」

「この小さい体のどこにこんな魔力があるのでしょうね……」

 

 なんの事を言っているのか分からないけど……もう止めて欲しい。

 恥ずかしいです。

 

「ジッド先生、加工をお願いできますか?」

「はいっ勿論ですっ!まさか次代の賢者様の杖を加工できるなんて……光栄の極みですっ!」

「私は賢者になるかは分かりませんよ……」 

「またまたご謙遜を……では私と一緒に加工をしましょうっ!シィナさん、さぁ、行きますよ〜っ!」


 ううっ……やっぱりこのジッド先生は苦手かもしれないっ!

 職員室を出てどこかの教室に案内されていく。


「シィナさんのお母様は私の先輩なのですが、ゾーイ先輩は10日で杖を育て上げた優秀な先輩だったのですよ」

「……ジッド先生は母の後輩だったんですね」

「ええ、憧れの先輩でした。綺麗で、魔法の才能もあって……はぁ〜」

「ええと……賢者様はどのくらいで枝を育て上げたのですか?」 


 お母様の話を聞くのは楽しいけど、なんかジッド先生からは聞きたくない気がした……なんとなくだけど……


「当時の賢者エトワルド様は3日で育て上げたとの逸話が語られていますので、シィナさんはその記録を軽々と飛び越えてしまいましたねっ!まさか数分で育て上げるなんて…………凄すぎますっ!……あ、ここの部屋で加工しましょう」


 ……やり過ぎは控えよう…………まさか加工は何日も掛からないよね?

 部屋は無人で、何か……作業するような部屋だった。

 木の匂いがして、彫刻道具や木槌などがある……


「あの……この枝を切ったり削ったりするのでしょうか?」

「ええ、この部屋で加工しますよっ」

「精霊樹からの贈り物を切ってもいいのでしょうか?」

「大丈夫です。そちらにお座りください、今説明しますから」


 椅子に座って、テーブルに枝を置く。

 なんというか……ありがたい物を切り刻んでは罰が当たるような気がして……

 一応中身は日本人だからね……すべてのものには神様が宿っている……的な感じ。


「これは私の杖ですが、この大きさにするには理由もあります。この枝は中心に魔力が集まっているのです。なので外側を削ってやらないと杖として使い物にならないのです」

「なるほど、理解しました……けど、そもそもこの枝はなんですか?」


 地面から生えている枝ってなんなんだろう?素直に分からない。


「詳しくは分かっておりません。王家が地面を掘ることも禁じているので、調べられないのが現状でして……一番有力な説は、精霊樹の根から生えて来ている……と言われています」

「……確かに精霊樹との繋がりのようなものを感じたかもしれません」


 不思議な木もあるんだね……

 ファンタジー過ぎて私には分からない。


「精霊樹って他にもあるのですか?」

「ええ、各国の王都周辺には精霊樹があるそうですよ。というか精霊樹があるから近くに王都がある……と言われています」

「そうなんですか?」

「ええ、大昔の事でどこにもそのような文献は残っていないのですが、必ず各国の王族が精霊樹を保護しているのです。それくらい精霊樹は神聖視されているのですよ」

「へぇ〜」


 青く光る木なんてやっぱり凄いよね。


「ではやり方を教えますが、道具は刃物も使いますので、怪我をしないようにしてください。ゆっくりでいいですから、丁寧に加工しましょう」

「はい、宜しくお願いしますっ」


 加工は……至って普通だった。

 ノコギリで外側を切ったり、カンナで削ったり……魔法は一切使わない。

 中心を測って、削りすぎないように注意して……

 こっちの作業の方が魔力を注ぐよりずっと疲れるよ。


 

 残念ながらジッド先生は午後からは修練場でお仕事なので、杖作りは明日に持ち越し。

 でも形にはなってきた……明日には完成するかもしれない。

 私は疲れたので、午後からは図書室でまったりと過ごした。


 たまには無属性魔法じゃなくて、普通の魔法の本を読んでみよう。

 案内図を制作しているゲルド先生におすすめを聞いて、普通に読んでいく。

 ……えらく難しい…………難解な本だね……でも理解はできる。

 これがおすすめの本なんだ……でも私は難しい本を読むと眠くなる体質です。

 杖作りの疲れのせいもあって、数分でお船を漕いでしまった。


 でも小一時間居眠りをしたので頭はスッキリしたの。

 また本を読み続けます……


「シィナさんは凄いわね、その本を理解できるなんて……」

「え?」

「さっきからうなずいていたでしょ?」

「…………ええ、まぁ……はい」


 居眠りをしていたとは言えない……頭をコクコクとしてたけど……うなずいていた訳じゃありません、ごめんなさい。


「その本は賢者エトワルド様の書かれた魔法指南書ですよ」

「へぇ〜賢者様の本でしたか……」


 あ〜……それは難しい訳だね……指南書なのに難しいって……


「シィナさん、少しいいかしら?案内図の事なんだけど……」

「ええ、大丈夫ですよ」


 背伸びをしてからゲルド先生が作った案内図を見てみる。

 ……おお、分かりやすい。

 図書室のどこに何があって、どう分類してあるかがよくわかる。

 二階と三階の図も載っているのでこれを見れば誰でも図書室が使いやすくなるだろう。


「……魔物関係の本もあるのですか?」

「ええ、ありますよ」

「案内図の出来はこれで十分でしょう、できれば本校舎とか寮の案内図も欲しいところですね」

「……そうですね、少し学院長に相談してきます。シィナさんはまだ本を読まれていますか?」


 ちょっと魔物関係の本に興味があるので、少し見てみよう。

 怖いもの見たさというやつだ。


「はい、もう少しここに居ますね」


 ゲルド先生は図書室を出て、学院長のところに向かった。

 私はさっきの魔物関係の本を探しに行ってみる。

 すぐに場所はわかったので、その場で適当に選んだ本を少し開いてみる。

 おお……この本は当たりだ。

 魔物の絵も描かれているので分かりやすい。

 ……うわっ!なにこの生き物は……ううっ気持ち悪い……

 あ、このイノシシっぽいのは前にダルク兄様とシュアレ姉様を襲ったヤツだね。

 死んでるところしか見たことがないけど、こんな感じなんだね……

 ……こういう気持ち悪い生き物とかを見たくなるのはなんでだろう?

 あっちの世界でもネットで不気味な深海魚とか見るのが好きだった。

 数ページを見て十分満足したので、本を元の棚に戻す。

 さて、気分転換もできたのでまた賢者様の本でも読んでみよう。


 続きを読んでいくけど、やっぱり難しい……でも2種類の魔法を同時に使う事も書かれていた。

 私もそれは出来るけど、具体的なコツとかも書かれている。

 なんとなくしていたけど、文章にすると確かにこんな感じか……

 そして私は目を見張る……凄い事が書かれていたのだ。

 5本の指それぞれに別の魔法を意識すれば……5種類の魔法を同時放つことも可能……だけど物凄く難しい……そんな一文を見つけたのだ。

 その方法は全く知らなかった。

 最大でも両手を使った2種類までだと思い込んでいたの。

 えっとじゃあ、この論法なら両手で10種類の魔法を同時に放つことも可能ということだろう。

 まぁ、同時に10種類は無理だろうけど、少し練習してみる価値はある。

 指に別々に魔法を……

 ん?じゃあ足の指を入れたら全部で20種類いけるってことだろうか……

 足に魔力を込めた事はない。

 靴や靴下を貫通するのだろうか……

 いや、冬の寒い時に手袋をしたままでも魔法は問題なく使えたから、靴はたぶん大丈夫だろう。

 おおっ……手の指を使った魔法に、足を使った魔法……全然考えつかなかった事がこの賢者様の本で思いついたよっ!

 賢者様はやっぱり凄いっ!

 真面目に弟子入りも考えてもいいかもしれない。

 少し試したくなってきたよ……まだまだ魔法は奥が深いねっ!


 でもこの日はもう夕方近くになっていたので、受付に賢者様の本を置いて私は図書室を出ていった。

 夕食の席では姉様に枝の件で呆れられたけど……もう私の奇行は学園でも話題にされ始めていたようで……少し注意された。

 基礎勉強や基礎魔法の免除に加えて、枝を数分で大きくしたりなど少しやりすぎているらしい。

 私も目立ちたくないので、自重したいけど……

 あ……でも魔力制御で試すくらいはいいよね?

 アレなら誰にも迷惑は掛けないしね。

 指と足の魔力制御を試したくて仕方ないのだ。

 でも……今日は止めておこう……明日は杖の続きもあるし、早めに寝よう。



 翌朝……普通に早起きして、ランニングをしてからお風呂に入って制服を着る。

 毎朝の日課を済ませてからウキウキ気分でフォルナちゃんと食堂へ行く。


「シィナちゃん今日はご機嫌だね、いいことでもあったの?」

「うん、少し新発見があったんだよね〜、さすが賢者様の本だよ」

「賢者様の本?」

「そう、図書室の本で色々と思いついたからね、魔法は奥が深いよ〜」

「シィナちゃんこれ以上魔法が凄くなるの?」 

「まだ全然試してないから、何も変わらないかもしれないよ……そういえば枝に魔力は込めてるの?」

「うん、魔力が回復したらまた注いで……昨日は寝る前にも枝に注いだよ」

「杖が出来るのが楽しみだね」

「私もシィナちゃんに早く追いつきたいから頑張るよっ」 


 いい子だね〜……フォルナちゃんは本当にいい子だよ。

 もう何度も思っている事だけど、何度でもいいよね。

 フォルナちゃんはいい子なんだよ……


 私は枝に魔力を注いだ時の事も教えてあげた、とにかく高速の循環で注いだ事も。

 たぶんフォルナちゃんも高速循環をすぐに覚えるだろう。

 精霊樹の枝は練習に使えるしね。


 朝食を終えて、フォルナちゃんは教室へ……私は職員室へ向かう。

 フォルナちゃんの話だと、馬車の時の子たちとも仲良くやっているらしい。

 少し安心した……一人は寂しいからね。

 エレアーレ先生に会いに行き、ジッド先生と昨日の続きをする事にした。

 だけどオリビア学園長に少し捕まった。

 どうやらゲルド先生の案内図を見てとても感心したようで、案内図を学院全体に作ることにしたらしい。


「そこでシィナさんに助言して欲しいのですが、宜しいでしょうか?」

「…………構いませんが……誰が作るのですか?」

「学院に地図職人を呼んで作らせようと思います」

「はぁ、分かりました。ゲルド先生にも最初はお手伝いして貰ってもいいかもしれません」

「そうですね、あの案内図は画期的ですから。その時が来たらお願いします」


 学院全体となると大変だけど……でも、ああいう物って職人さんならすぐ覚えられると思うし……たぶん大丈夫だろう。

 

 変な依頼をされたけど、予定通り昨日の杖作りの続きをジッド先生とやっていく。 

 今日は形を整えていくところから。

 作業していて思ったけど、杖の先端を星の形やハートの形にしなくて良かった……あまり細かいと面倒になってくるのよね。

 ジッド先生の杖を参考に普通に仕上げよう。

 私は魔法少女にはなれない……


 ザラザラした紙ヤスリのような不思議な物体で磨いていくと、表面がツルツルになっていく。

 もうほとんど出来上がりに近い……


「このザラザラした物はなんですか?」

「……とある魔物の皮膚です……あまり気にしない方がいいですよ」

「うっ…………はい……」


 聞かなければよかったと少し後悔したけど、ほぼ完成。


「もうすぐ磨き終わりますが、完成でしょうか?」

「いえ、最後に杖の底面に自分の印を刻みましょう。この刻印を彫る道具で」


 ……彫刻刀的な道具だ。

 刻印って目印?……どうしよう。


「自分で分かればいいのですか?」

「そうですね、目印みたいなモノです。他の人の杖と間違わないようにする為です」


 ……リンドブルグの家紋はこんな小さな底面に彫れない……目印……目印……目印…………自分が分かればいいんだよね?

 じゃあこうするか。


「指を切らないように気をつけてくださいね……ゆっくりでいいです」

「……はい」


 慎重に……最後に失敗しないように……少し手が震えるけど、集中して……

 …………よし、できた。

 ひらがなで『しぃな』と彫っておいた。

 これなら私以外に読めないし、いいよね…………いいよね?


「できましたぁ」

「少し見せて貰えますか?」


 杖をジッド先生に手渡すと、先生は持ったり触ったりして感触を確かめている……大丈夫かな?


「はい、問題ありませんね、おめでとうございます」

「色々と教えて頂き、ありがとうございました」 

「いえいえ、それが私の仕事ですから……さぁ!修練場で試しましょうか」

「……はい」


 私よりジッド先生の方がソワソワしていて、待ち切れない……そういう風に見える。


「杖を使うのも少しコツがあったりしますが、シィナさんならすぐ理解するでしょう。ご安心ください私がしっかりと杖の扱いを教えますので!」


 修練場へ向かいながらもジッド先生の熱意が伝わってくる。

 本当に魔法が好きな人なんだね、気持ちはわかる気がする。


 修練場では上級生たちが魔法の授業をしていていた。

 ジッド先生と一緒に奥の方へ行くけど……なんか凄い見られてるよ。

 姉様にも注意されたし、なるべく大人しくしたい。


「ではシィナさん、杖を使う魔法を教えます。普段シィナさんは魔法を使う時はどこに集中していますか?」

「えっと、手のひらです」

「そうですね、ですが杖を使う魔法では手のひらに集中するのではなく、杖の先端に意識を集中してください。もうその杖はシィナさんの体の一部と考えましょう」

「はいっ」


 体の一部……ん〜、指が長くなっと考えた方がいいのかな?

 普通に魔力制御をしてみると、いつもと違う感覚になる。

 なんだろう?なにか違和感がある……


「魔力制御も杖がある分違いがありますよね?分かりますか?」

「はい、違和感があります」

「ええ、それが普通です。その杖はシィナさんの魔力で成長した杖ですが、杖が持っている精霊樹の魔力があるので違和感があるのですよ」

「……杖が持っている魔力はどう扱えばいいのですか?」

「そこが杖を扱う時の違いですね。こう考えてください、杖の半分はシィナさんの魔力があります、もう半分は精霊樹の魔力です……」


 杖の半分は私の魔力……もう半分は精霊樹の魔力……うん……なんとなくそんな感じだと思う。


「魔法を放つ時はその精霊樹の魔力を押し出すようにしてみてください」

「……押し出す……でも押し出したら精霊樹の魔力はなくなってしまうのでは?」

「いいえ、その精霊樹の魔力は決してなくなりません。どうしてだと思いますか?」


 押し出してもなくならない?…………なんでだろう?わからない。


「わかりません」

「その杖は常に魔力を補充しているからです」

「どこからでしょう?」

「この世界からです」


 ……世界……突然大きな話になってきた。

 どういうことだろう?世界と言われてもよくわからない。


「……というのが通説です。歴代の賢者様がそう推測されたのです」


 賢者様の説か、なら信憑性が高いかもしれない。

 私は賢者様を信じている。


「前にも言いましたが、精霊樹を詳しく調べる事ができないのが現状でして、例え賢者様でもあの精霊樹には触れることも禁止されているのです」

「王家が禁止されているのでしたね」

「ええ、なので自分の杖を調べるくらいしかできませんからね、精霊樹は未だ謎の多い神聖な木なのです」


 下手に触って精霊樹の力がなくなったりしたら大変だし……まあ王家の判断は正しいのかもしれない。

 ……精霊樹に触らなくてよかった……怖い怖い……


「少し話が逸れましたが、全力で精霊樹の魔力を押し出しても大丈夫ですので、安心してください」

「はいっ」


 ……でも最初は怖いので、一番遅い魔力循環にしよう。

 水球を出すだけなら大丈夫だろう。

 魔力制御を再開して、速度は低速……とりあえず一つ出してみる。

 いつもは手のひらに集中していたけど、杖の魔力を感じて……押し出してみると普通に水球が一つ現れる。


「とりあえず水球は出せました」

「そうですね、簡単な魔法から使うのが正解です、特にシィナさんは魔力が多いので、強い魔法はまだ控えた方がいいでしょう……でも次はもう少し強くしてもいいですよ?前の風魔法とかっ」


 ジッド先生は扇風機魔法が見たいようだ。

 まあ色々とお世話になったから見せてもいいか。

 水球を食べて喉を潤す……あれ?なんか美味しい?……美味しいというか……なんだろう?何か違う。

 ……今は置いておこう……風魔法を使ってみる。

 扇風機のスイッチは弱で……杖を的に向けて押し出す。


「ああっ、その風魔法は凄いですっ!的の中心が削れましたよ」 

「あれ?そんなに強くしてませんけど……」

「それが杖の威力ですっ!どうですかっ?杖を使った感想はっ!?」


 杖を見て魔力を感じてみるけど、確かに精霊樹の魔力はなくなっていない。

 少しの圧力で勢いよく飛び出た感覚……たぶん私の魔力はそんなに使っていない。

 ……少ない魔力で、しかも一点突破をイメージした扇風機魔法は威力も増して、イメージ通りになっている気がする。

 この杖ヤバいかもしれない。


「す、少し怖くなりました……」

「そうですね、魔法は怖いですが、頼もしいものでもあります。シィナさんの感想はとても優秀な感想ですよっ。我々貴族はその怖くて頼もしい魔法を使って平民を守り、国を守る存在ですからね。……特にシィナさんの家はリンドブルグ領、リュデル王国にとってリンドブルグ辺境伯とはとても大事な国の要所でもありますから…………」


 しばらくジッド先生は熱く語り、貴族と魔法と国の事を話してくれた。

 私は軽く聞き流しながら簡単な魔法を試していたけどね。

 とりあえず杖はヤバい代物という事がわかったので、気軽に使えない物だと認識した。

 それこそ魔物相手くらいにしか使えないかもしれない。


 

 昼食の時間が来たので、ジッド先生にはちゃんとお礼を言ってから分かれて食堂に行く。

 フォルナちゃんと仲の良くなった子たちと一緒に昼食を食べた。

 杖が完成した事を話したら素直におめでとうと言ってくれたので、この子たちもいい子だね。

 ちなみに4人いて、全員王都に住む貴族のご令嬢なので、家から通いのご令嬢たちだ。

 なので王都の事は私やフォルナちゃんよりも詳しい。

 自然とお洒落なお店や美味しいお店の話なんかもするので、子猫の奇跡亭の話題も出る。

 なるべくバレたくない……フォルナちゃんはちゃんと察してくれた。

 いい子だね……フォルナちゃん……


 

 午後からはまた図書室に行って、無属性魔法の研究資料を読んでいく。

 解読が必要な資料は一旦断念して、他の資料に手を着ける。

 小一時間程読んでいくけど、要領を得ない感じでいまいちピンとこない。

 賢者様の本が改めて凄いと思い知るくらいだったよ。

 まぁ、本にもなっていない研究資料なので、そこはしょうがないか……


 今日は早々に図書室を出て、思い付いた魔力制御をしてみよう。

 でも……どこでやろうか?

 修練場に行くと目立つし……教室に行くと第三王子がなんか来るし……

 まだ授業中だから寮に戻るのも……レーアの邪魔はしたくないし。

 ……居場所がない。

 どこか一人で落ち着ける場所はないかな?

 別に悪い事をしてはいないから……誰か先生にでも聞いてみよう……

 また図書室に戻ってゲルド先生にでも相談です。


 ゲルド先生はまた案内図を書いていた。

 今度は本校舎の一階だろう。


「あらシィナさん、今日はもういいのですか?」

「はい、今日は……その……ご相談がありまして」

「生徒さんに相談されるなんて光栄ですよ、何を悩んでいいるのですか?」

「学院でこれ以上目立ちたくないので、一人で魔力制御の練習とかできる場所はありませんか?」

「なるほど……杖の件もありますからね、そしてシィナさんなら……ふふっ、男の子に人気がありそうですしね」

「私は男の子に興味はありません」

「はい、理解しました……もう求愛を受けていいるのですか?凄いですね」


 なに?求愛って……ナンパとかの事?


「でしたら、取っておきの場所がありますよ……昼間なら……男の子はあまり来ない場所なので、シィナさんにピッタリな場所が」

「どこでしょうか?」

「少しだけ疲れますが…………」


 

 私は階段を登る。

 二階より上は行った事もないので、少し緊張する。

 でもこの時間は普通の生徒なら授業中なので、階段に人の気配はない。

 三階、四階と登っていく。

 普段からランニングはしているので、これくらいなら余裕で登れるね。

 本校舎は七階建になっているので少し大変。

 私は最上階まで上がって行く……ここが七階……更に階段は続いているので、目的地の場所までもう一息だ。

 あっちの世界の小学校では鍵がかかっていて入れなかった場所……そう、屋上です。


 扉を開けると、爽やかな匂いがした。

 ……その光景に私は驚いた……正面には噴水があり、周りには色とりどりの花が咲き誇っている。

 一瞬学院に居ることを忘れるくらいだった。

 実家の庭に居るような感覚……なんて言うんだろうこういう場所は……空中庭園かな……

 扉を静かに閉めてゆっくり歩いていく。

 こんな屋上に噴水があるとは思っていなかった……たぶん魔石を使った噴水だろう。

 ……さすがお貴族様の通う学院だ……ああ、実家の花園のように屋根付きの椅子とテーブルもある。

 他には誰も居ない……ここは風の音しかしない……はぁ〜……いい場所だね。

 こんないい場所があるなら早く教えて欲しかったよ。

 ベンチも数多くあって最高じゃない……ここなら一人で心安らかに魔力制御の練習ができるよ。


 飴を取り出してハチミツ味を楽しみながら屋根付きの椅子に座る。

 周りにはちゃんと立派な柵もあるので、安全面も大丈夫そうだね。

 一瞬でここが私のお気に入りの場所になった。

 こんな高い場所にも蝶々っているんだね……本当に素敵な場所。

 癒やされる〜……王都に来てからは自然が少なかったからね……

 お茶と甘味があれば完璧だけど、そこまでわがままは言わない。

 よしっ……魔力制御してみよう。


 指5本いきなりは難しいと思うので、人差し指1本だけで集中してみる。

 手のひらに魔力を集めるのは簡単。

 それを人差し指の先端に変えるだけ……これはできる。

 風の魔法をイメージして人差し指から放つようにすればそよ風が発生する。

 1本なら問題なくできるね。

 じゃあ隣の中指にも集中してみるけど、少し難しい。

 人差し指は風魔法、中指には水魔法……イメージを同時にするので、少し大変だ。

 でも水球が発生して、風魔法で少し飛ばされていく。

 少し離れた場所に水球は落ちて床を濡らした。

 一応できるね。

 でも3本目になるとイメージが難しくなっていく。

 魔力制御もするので、なかなか難しい。

 少しイメージを変えて3本共風魔法にしたら、問題なく3本の指からそよ風を発生させる事はできた。

 最初の訓練は風魔法でやっていこう。

 4本、5本と片手の指なら風魔法が使えた。

 じゃあ今度はもう片手にもチャレンジです。

 右の利き手はできたので、今度は左手の人差し指もやってみると、左手も5本の指からそよ風が発生していく。

 おお……一つの魔法なら10本の指から魔法が使える。

 魔力制御も思ったより簡単だった……慣れればもっと楽になりそうだね。


 

 一息ついてから、今度は足の裏に魔力を集中させてみる。

 手のひらみたいに熱く感じるので、魔力制御はできているようだね。

靴は履いたままで試しに水球を出してみると、成功した。

 靴は濡らさずにできた…………ただ、足から出した水球はなんか嫌だ。

 足の指はいまいち感覚がわからないので、足の裏が限界かもしれない。

 風魔法も足から発生させられた…………

 ここであっちの世界の映画を思い出した。

 アイアムワンワンドッグマンという両手両足で空を飛ぶ犬さんのヒーロー映画。

 どちらかというと男の子向けの映画だったけどよく覚えている。

 人間に憧れる犬さんのヒーロー、ドッグマンが空を飛んで悪役のおサルさんをやっつけるお話だ。

 映画では両手両足でジェット機のように凄い勢いで風なんだか炎なんだか知らないけど、何かが噴射して空を飛んでいた。


 立ち上がり、試しに足から扇風機魔法を発生させていくと……少し体が浮き上がりそうになった…………一旦止めたけど、なんか……いけそう。

 両手からも真下に向って扇風機魔法を放つともっと浮き上がった。

 少し転びそうになったので、もう止めよう。

 それにここだとすごい風が発生するのでお花がかわいそうだし。

 ん〜…………学院ではこれ以上は止めよう、たぶん飛べる気がするけど、これ以上目立ちたくないし、危ないからね……

 でも……魔法少女シィナちゃんになれるかもしれない。

 風魔法であの犬さんのヒーローみたいに飛べるかもしれない……浪漫しかなよ。

 この世界ではホウキに乗った魔女さんみたいな魔法は存在しない。

 空は誰も飛べないのです。


 実家で試してもいいかな……でも怒られるよね絶対に……

 保留にしておこう……本当に今は目立ちたくないのよね……

 私はそのまま屋上を後にした。

 もう夕方になるからね……またここには来よう。


 

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