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黒髪賢者の恩返し  作者: しんのすけ
第2章 私の学院生活
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第19話



 ……講堂はガヤガヤとしていて、今は上級生が講堂を順次出て行っているところです。

 私たち新一年生は最後に出る段取りらしい。


「シィナちゃん、王様とか賢者様とか凄かったね」

「初めて見たけど、優しそうな王様だったね」


 適当に雑談しながら私たちの出る番を待つ。

 するとまたマイヤーレ寮長が先導してくれて、講堂を後にする。

 男の子も同じように寮長が先導してくれている。


 大広間まで戻って来ると、まだ大広間は上級生で混雑していた。

 まだ待つ事になりそうだと思った瞬間、寮長二人が手をパンパンと叩いた。


「早く自分の教室へ行きなさ〜い」

「ほら、新入生が見れないだろうっ!」

「「「は〜いっ」」」


 すると大広間の上級生は階段を上がって行き、すぐに大広間は無人になった。

 ……何か見ていたのだろうか?

 寮長二人が大広間へ進んでいくので私たちも前へ進む。

 大広間には来る時にはなかった二つの掲示板が立て掛けてあり、何か紙が張ってあった。

 ……あ、これがクラスの割り当て表かな?

 もしかして順位もあるの?止めて……公開処刑は止めて欲しい。


「は〜い、皆さん注目してください、ここに入試試験の結果と教室が割り当てられています、各自ご自分で確認してくだいね〜」

「マイヤーレ寮長が今言った通りだ。教室の場所も載ってあるので、間違えないように確認して、移動するようにっ!」

「「はいっ」」


 あ〜……こういうのテレビで見たことがあるよ、高校の合否発表するやつ。

 喜び合う人たちと落ち込んで去っていくやつだ。

 ううっ……緊張するやつ止めて〜……一応自信はあるけど勘弁して欲しい。

 私とフォルナちゃんの前にいる人たちが確認しているので、背の低い私にはよく見えない。

 ……というかフォルナちゃんとは離ればなれになるのかな。

 そもそも何クラスあるんだろう?

 約150人って言っていたけど、ひとクラス何人くらいなのかな?


 試験結果を見て喜ぶ女の子、隣の男の子は頭を抱えている。

 皆、悲喜こもごもといった感じで試験結果を受け止めていた。

 私の正面にはお隣の部屋のモニカさんが確認していた。

 彼女なら高得点だろう。

 メガネのせいで私の中では優秀なイメージが勝手に出来上がっていた。

 だけど、モニカさんの表情は一瞬曇ったように見えた……試験結果が良くなかったのかな?


「確認した方は教室へ移動ですよ〜」

「落ち込む暇があったら、努力しなさいっ」


 徐々に人が減って行くので、ようやく私とフォルナちゃんが確認できた。

 ん〜、自分の名前はどこだろう?

 ……女の子の最下位の順位は72位だった……ちなみに私ではない。

 ということは男の子は80人くらいいるのかな……


「シ、シィナちゃんってやっぱり凄いんだね、ほら見てっ」

「ん?……」


 フォルナちゃんの居た方が高順位の人たちが見やすい。

 私は最下位から見ていたけど、何が凄いんだろう?

 もしかして一位とかだったしてね、ヘヘっ……それはないか。

 今度は一位から見てみると…………満点だった。

 私の名前が隣に書いてあった。

 ん?一位……700点……シィナ・リンドブルグ……1−1教室。

 ほぅ…………え?


「シィナちゃんと同じ教室で良かったよ、改めて宜しくねっ」


 二位……630点……モニカ・シードル……1−1教室。

 十三位……585点……フォルナ・レーゼンヒルク……1−1教室。

 ……どうやら成績順でクラス分けがされているようです。

 フォルナちゃんと同じ教室で良かったよ。

 教室の場所も理解した。


「シィナちゃん行こうっ、こっちだよっ」

「う、うん」


 フォルナちゃんと一緒に1−1の教室へ向かうけど……あれ?満点って私だけ?凄く簡単な問題だったよ?

 数学は算数レベルだったし……歴史も暗記というか簡単な文章問題ばっかりだったし……そのお陰で各テストは5分くらいで全部解いて暇で暇で仕方なかったけど。

 ……おかしい。


 教室は2階にあるので階段を登って行くけど、満点が私だけという事実が理解できない。

 元々の私の頭は中の中……平均的な成績だった筈。

 と、なると……この世界の教育レベルが低いのかな……ん〜……やっぱり理解できない、というか納得できない。

 ……満点のことは一旦置いておき、とりあえず教室へ行こう。


 この黒髪の事といい、あんまり目立ちたくないよ……

 教室へ入るとやはりこちらを見てくるクラスメイトたち。

 イジメとかないよね……

 先生もいるからいきなりはないと思うけど。


「好きな席に座ってお待ちくださいね」

「「はい」」


 優しそうで、綺麗な女性の先生が担任のようだ。

 窓際の一番前が空いているのでフォルナちゃんと一緒にそこへ座る。

 教室は試験を受けた教室と同じ感じで、一見シンプルに見えるけど一つ一つの物の造りが高級そうに見える。

 教卓に飾ってある花瓶も高そうだし、座っている椅子も品のいい装飾がされている。

 ……数分後、全員が揃ったようで教室の男女比は半々くらいに見える。


「これで全員が揃ったようですね。私はエレアーレ・シュラーゼンと申します、皆様の教室の担任を拝命いたしました。学院の事で何か分からない事がありましたら何でも聞いて下さい」


 丁寧な挨拶をしてくれたエレアーレ先生は……先生というより貴族令嬢感が凄かった。

 ……模範にしてもいいくらいの理想的な淑女って感じだね。

 先生から普段の仕草とか観察してみよう……シュアレ姉様は素敵だけど淑女感は薄いので、あまり参考にならない。

 ごめんなさい姉様……お母様よりも上品なんだよ。

 個人的にエレアーレ先生が理想的に見える。


 そのあとは今後の予定を聞かされていく。

 今日はホームルーム的な感じで終わるらしい。

 授業は明日からのようね。


「では、最後に簡単な自己紹介をして頂きましょうか。……窓際の貴女からお願い致しますね」


 うっ……私から?しまった窓際のトラップが発動してしまった。

 ……しょうがない、大人しくウケ狙いはやめておこう。


「……はい、この場に立って自己紹介すれば良いでしょうか?」

「ええ、お願いしますね」


 私は教室の中央を向いてから貴族令嬢らしく挨拶をする。


「皆様、お初にお目に掛かります……リンドブルグ領領主が次女、シィナ・リンドブルグと申します、宜しくお願いします……」


 少し間があったけど、拍手が起こる。

 よし、自己紹介は無難が一番だね、私は礼をしてからゆっくり座った。

 次のフォルナちゃんも私と同じ様に丁寧で無難な挨拶をして拍手が起こる。

 クラスメイトの名前と家名は覚えなくてはいけないので、頑張って記憶する。

 これは姉様からのアドバイスだ、顔と名前を覚えるのは貴族としてもいいことらしい。


 次々と自己紹介がされていく……モニカさんも終了して、何事なく終わる筈だったけど、一人見たことのある男の子が立ち上がった。

 この間の喫茶店で幸せそうな顔をしていた彼だ。

 一緒のクラスだったらしい。


「テオドルド・ミュルグニク・リュデルと申します。あの……宜しくお願いしますっ」


 ……長い名前で大変だね。

 どこかで聞いたことある名前だけど……おっと、次の人も覚えなきゃ。


「我はドノヴァン・エンドニクス・ヒルデルートという。リュデル王国の隣の国から、リュデル王国の事を学ぶ為の留学だ……宜しく願うぞ」


 また長い名前だね、ん?ヒルデルートってお隣の王国の名前だよね?

 これで最後の人だけど、覚えるのが大変だよ。


「え〜、皆様にお知らせがあります。今年は王族の方が二名この学院に入学されました。一人はリュデル王国第二王子のテオドルド殿下、そして隣国ヒルデルート王国から留学にいらっしゃいました第三王子ドノヴァン殿下の両名です。リュデル王国の貴族らしく、失礼のないように、礼を尽くしてくださいませ」

「いや、エレアーレ女史、我もテオドルド殿もそれは望んでいない。皆、気兼ねなく話し掛けてきてくれて構わん」

「……そうだね、ドノヴァン殿の言うように、僕にも普通に話し掛けてくれると嬉しいよ」

「それにこの学院では身分を振りかざす行為は禁止されているのであろう?我もそのような行為はする気はない。普通でよい……」

「……両殿下のご意向は理解致しました。皆様方、王族の方と接するいい機会です、これも学院での学びの一環です。両殿下も皆様が慣れるまでお付き合いくださいませ」

「ああ、それで構わん」

「僕もそれでいいよ」


 ……私は今の先生と両殿下の一連の話しをポカーンとなって聞いていた。

 第二王子の他にも隣国の第三王子が居るなんて聞いてないよ?

 フォルナちゃんもそれ以外の生徒も驚いていた。

 男の子も驚いているから寮でも秘密にしていたのかな……

 心臓に悪いよ……サプライズはもうお腹いっぱいです。

 っていうかあの男の子って第二王子だったの!?

 私この間無視しちゃったけど…………まぁ……いいか。

 どこの誰だろうと近寄ってくる男は敵です。

 気を引き締めておこう。


 自己紹介もとりあえず終わったので、今日はもう寮に帰っていいらしい。

 もうすぐお昼だしね……安心したらお腹空いてきた。


「フォルナちゃん、寮に帰ろうか」

「う、うん、行こうっ」


 教室の皆は両殿下に群がっていた。

 あの挨拶の後だから、話し掛けた方がいいのだろうけど、普通にしていいんだよね?……あくまで普通のクラスメイトなら別にいいよね?

 ……個人的に興味ないし。

 貴族としては失格かもしれないけどね。


 私とフォルナちゃんは心安らかに寮に帰った。



 ……帰った寮はまだ誰も帰っては来ていなかった。

 姉様たち上級生は休み明けだから友達と話なんかもあるのだろう。

 でもお腹空いたから、私は自室でレーアを誘って食堂へ来た。

 すぐにフォルナちゃんとユエラさんも来たようで、誰も居ない食堂でまったりと注文をした。

 いつもと違ってメイドさんたちの数も多い。

 これからたくさんの女子生徒たちがやってくるからね……


「まさかあの人が第二王子様だとは思わなかったよね〜」

「ええ、驚きました……私、王子様とお話しちゃっていましたね。ご挨拶した方が良かったのでしょうか?」

「いいのいいの……言っていたでしょ?普通に接してくれたら嬉しいって。普通わざわざ並んで挨拶なんてしないでしょ?」

「……そうですが、接してもいませんね」

「……同じ教室だからそのうち接すればいいんじゃない?」

「それでよろしいのでしょうか?」

「私はお腹空いたからそっちの方が重要かな〜」

「ふふっ、シィナちゃんらしいねっ」


 フォルナちゃんとお話している方が気楽でいい。

 わざわざ変な存在には近付きたくないよ。

 雑談をしていたら食堂は徐々に混んでくる……上級生たちも今日は午前中で終わりみたい。

 姉様とティータ先輩はまだかな?

 最初の注文だからか、すぐに注文したお肉料理が運ばれてきた。

 今日は煮込み料理か……柔らかく煮込まれたお肉……美味しそう。


「冷める前に食べちゃおうか」

「そうですね、頂きましょう」 


 私たちが食べ終える頃にはもう食堂は女子生徒で溢れかえっていた。

 寮に住んでいない子も昼食はここの食堂を使うので、凄い数。

 メイドさんたちも忙しそうにしている。


「この中で姉様を見つけるのは大変そうだし、部屋に戻りますね」

「そうですね、私も家族にお手紙を書きたいです」

「お手紙か……私も書いてみます」


 レーアとユエラさんと合流してからお互いの部屋に戻る。

 気を使ったから少し疲れたけど、お手紙を書きたくて仕方ない。

 お手紙セットは持ってきていて、机にしまったので早速書き始める。


「そういえばシィナお嬢様、試験結果はどうでしたか?」

「それをお父様とお母様に報告する為にお手紙を書きますね……満点でした」

「満点?……全教科ですか?」

「ええ、レーアの教え方が良かったお陰かしらね〜」

「……シィナお嬢様といると驚く事ばかりです、それはご家族もお喜びになるでしょうね」


 お祖父様とか喜んでくれるかな?

 ……まだ一人満点には納得できないけど……

 私はお手紙をサラサラと書いていく、お手紙なんて初めて書くよ。

 

「……あ、それからね?第二王子のテオドルド殿下と一緒の教室になったんだ〜、これも書いておこう……あとね、ヒルデルート王国の第三王子が留学してきて、同じ教室なんだよ」

「まぁ、王族が二人なんて凄いですね、さすが王都の学院です」


 挨拶もしてないけどね……これは黙っておこう。

 お手紙には試験結果の事と教室……フォルナちゃんとお友達になった事。

 王子二人の事はちょろっと書いておいたし……

 ああ、調味料の事も書いておこう、王子より大事。

 喫茶店の事も書いて、レーアと一緒に楽しくやっている事も報告しよう。


 小一時間掛けて手紙を書き終わると、姉様が部屋にやってきて満点を褒められた。

 どうやら掲示板で結果を見た姉様は友達に自慢しまくったらしく……私の名前は学院の一部に知れ渡ったらしい。

 あんまり目立ちたくないのに……少し姉様を恨んでしまった……

 順位って維持したほうがいいのかな……まぁ、勉強が始まってから判断しよう。

 フォルナちゃんとは一緒の教室で嬉しいけど、変な存在が二人もいるから近寄りたくないし……

 一応姉様にも王子様二人の対応を相談したら……


「王子だろうと口説いてきたら威嚇なさい」


 その一言を言って私を抱きしめてきた。 

 姉様の愛も深いです。


 夕食は部屋でお弁当にして貰った。

 あの人数を見たら落ち着いて食べられない気がしたので、部屋でレーアと一緒の方が気楽でいい。



 翌日の早朝……今日も朝のランニングをする。

 もう日課となっているので、自然に早起きになってしまう。

 朝食を美味しく食べるコツでもあるのよ。

 

「レーア、また少し走ってくるからね〜」

「はい、転ばないようにお気を付け下さいね」


 まだ静かな寮の階段を駆け下りていく。

 毎朝マイヤーレ寮長と出会ってしまうので、一階の階段は静かに降りるのがポイントなの。


「シィナさん、おはようございます。転ばないようにして下さいね〜」

「はい、マイヤーレ寮長、お気使いくださってありがとうございます、では行ってきますっ」


 このやり取りも慣れてきた。

 今のところマイヤーレ寮長からは信頼されているようだ。

 それにしても他のメイドさんにも言われた事がある……皆転ばないようにって言うんだよ……そんなに子供っぽく見えるのかな。


 いつもの様に寮の周りを何周かして、一汗かくのが気持ちいい。

 今日も校庭爆走男は必死で走っていた。


 部屋に戻って朝のお風呂をしてから制服に着替えて食堂へ向かう。

 フォルナちゃんとは談話室で待ち合わせをしているので、二人揃ってから食堂へ入っていく。

 この生活にも少しずつ慣れてきた。

 いつもの時間の同じ場所で、朝食をおかわりするくらい食べて少しでも成長するのが目標です。


 

 今日は授業初日。

 魔法の授業もあると聞いたので楽しみ。

 フォルナちゃんと一緒に1−1の教室へ向かい階段を登ると、何人かの男の上級生がこっちを見て立ち止まっていた。

 何?人の顔をジロジロと……黒髪が珍しいのだろうか?

 私は無視して教室のある廊下へ歩き出す。


「……シィナちゃんの事見てる人多いね」

「この黒髪が珍しいんでしょ……たぶん」

「やっぱりシィナちゃんって魔力が多いの?」

「お母様には多いと言われたけど……同級生とかと比較したことないからよくわかんないかな?あ、水ならいくらでも出せるから喉が乾いたら言ってねっ」

「ふふっ、分かりました」


 教室へ入り、昨日と同じ席に座る。

 何人か近くの席に居たので、普通に挨拶はしたけど……まだ王子様二人は来ていないようだね。

 居たら挨拶でもしようかと思ったけど、まぁいいか。

 窓の外を見ながら授業が開始されるのを待とう。

 ……今日もいい天気だね……温かくて寝ちゃいそうだよ。


 しばらくすると、徐々に教室の席が埋まっていき、担任のエレアーレ先生がやって来た。

 ようやく授業開始かな……


「皆様、おはようございます。では昨日お伝えした通りに午前中は基礎授業を行います。午後からは魔法の勉強を予定しています……では皆様の机の引き出しに教本があるので、そこから勉強しましょう」


 引き出しを開けると、子供の頃に見た教本が入っていた。

 この本は良かった、眠気がすぐに襲ってくるので私のお気に入りだった。

 …………ん?……この本で勉強するの?

 これは8歳児が読む物じゃないの?

 一応中身を確認する。

 国語、算数、歴史、地理などが書かれている総合学習ができる本。

 中身は実家の物と変わらない。

 ……え?もう12歳だよ?今年13歳になるんだよ?

 フォルナちゃんは本を真剣に見ている。

 …………少し確認する……気になった事があったのだ。

 この間の試験って……この本に書かれている範囲のものだ。

 適当に開いたページには間違いなく試験で出たような事が書かれていた。

 表紙には1の文字…………ん?この1って数字って……一年生の1って意味だろうか?

 私はヒルク兄様の使っていた教書6までは勉強済みだ。

 ……あれ?私……やらかした?

 血の気が引くような感じ…………実家ではひたすら1から6までを勉強したけど、ただの順番だと思っていた。

 8歳児の私は文字を覚えるのに必死で、文字を覚えるのに一年は掛かったけど、覚えてからはずっと6巻セットの勉強をしてきたのだ。

 そして疑問の答えが導き出された。

 私の一人満点の答えだ。

 ああああっ……私の楽しい学院の授業が……ただの復習になってしまった。

 うっ……吐きそう……


「シィナちゃん、大丈夫?」

「…………う、うん」


 私は……どうしたらいいでしょうか……誰か教えてください。

 ……残念ながらその答えはこの1の教科書には載っていなかった。



 ……ようやく……ようやく午前中の授業が終わり、飴を舐めながら寮へ昼食を食べに来たけど……食欲は全くない。

 どうしたらこのやる気のない状態を治せるだろうか。

 ……姉様に相談しようか……これから毎日眠気と戦う6年間はさすがに嫌だ。


「シィナちゃん、本当に大丈夫?真っ青だよっ」

「…………あのね、フォルナちゃんならどうする?実家で6年生までの全部教本を勉強した状態で……学院の授業でまた勉強するの……」

「え?意味が分かんないよ?」

「うん、私も意味がわかんないんだ……へへっ」

「ちょ、ちょっと待ってて、シュアレ先輩連れてくるからっ」


 フォルナちゃんは本当にいい子だね……あ〜どうしよう……

 残されたのは魔法の勉強しか楽しみがない……

 

「シィナちゃん、連れてきたよっ」

「……どうしたのシィナ……顔が真っ青よ?具合悪いの?」

「シュアレ姉様……どうしましょう……」


 私はなるべくシュアレ姉様とフォルナちゃんに伝わるように説明した。

 徐々に理解したのか、シュアレ姉様もフォルナちゃんも驚いていたけど。


「……つ、つまり、ヒルク兄様の教本を全部勉強済みって事?……シィナ」

「はぃ……てっきり6冊の教本は基礎学習だと思ってまして……その後を学院で勉強すると思っていました……」

「……なんでそんな事になるのでしょうか……意味が分かりません……」

「…………フォルナちゃんには記憶の事は言ってある?」

「いえ、まだ……」

「はぁ〜……詳しい事は省くけどフォルナちゃん、この子は8歳の頃に記憶を失った事があるのよ……」

「え?記憶?」

「詳しい事は妹から聞いて……それでたぶんシィナは頑張ったんだよね?必死になって勉強してたもんね……」

「はい……文字も6冊の勉強も頑張りました……」

「……分かった、少し先生たちに相談してみるから、とりあえず今日は乗り切ってね……フォルナちゃん、知らせてくれてありがとう」


 シュアレ姉様はどこかに行ってしまった。


「シィナちゃん、後でいいから詳しく聞かせて?心配だよ……」

「うん……分かった……はぁ……午後からは魔法の勉強だからとりあえず大丈夫だよ……お昼は甘い物だけでもいいや、フォルナちゃんは普通に食べてね……」

「は、はぁ……じゃあメイドさんを呼ぶね?」


 フォルナちゃんは私の分をデザートだけ注文してくれて、ちゃんと自分は普通に食べてくれた。

 終始私を気遣ってくれて嬉しかった……今度何かお礼をしなきゃね……


 甘い物を食べて少し元気が出てきたよ……でもやる気はそんなに変わっていない……魔法の授業は楽しいといいな……



 昼食を終えて、教室で先生が来るのを待つ。

 少し冷静になれたので、私は思い出した。

 大事なのは基礎勉強じゃないって事……大事なのは魔法。

 目的を忘れるな……自分に何度もいい聞かせてきた事だよ。

 大事なのは魔法の勉強。

 だから学院の勉強は大して重要じゃない、大事なのは……魔法。


 エレアーレ先生が教室に来ると、もう一人男の先生も教室に入ってきた。


「皆様全員居ますね?午後の魔法の勉強をする前に、こちらのジッド先生にもお手伝いしてもらいます」

「ジッドと申します、エレアーレ先生がおっしゃったように、皆様の魔法の勉強を観ますので、宜しくお願いします」


 何となく頭の良い感じに見える先生だ。

 まぁ先生だから頭はいいのだろうけど……


「皆様は魔力制御をしたことはありますか?したことのある人は挙手……手を挙げて下さい」


 私もフォルナちゃんも手を挙げる。

 というか全員が手を挙げているようだ。


「……全員が魔力制御をしたことがありますね、もう手を下ろしてくださってもいいですよ」

「では、実際に魔力制御をしてください、男子は私が確認しますので、女子はエレアーレ先生が確認しますから」


 なるほど、あのジッドという先生はこの為に来たのか。

 魔力制御は直接肌に触れないと基本的は分からないからね。

 私も知らない男の人には触れてほしくないから、エレアーレ先生で良かったよ。


 エレアーレ先生とジッド先生が次々と生徒の首筋に触れて確認していく。

 私の番が来たので、普通に魔力制御をしていく。


「…………大丈夫そうですね、もう結構ですよシィナさん」


 私もフォルナちゃんも合格を貰えたので、一安心する。

 教室の皆も普通に出来ているようで、先生方の確認作業はすぐに終わった。


「皆様の魔力制御お見事です。よく練習したのですね、これからも魔力を上手に扱う為に練習していきましょう」

「ここで伝達事項を伝えます、10日後に1年生全員で王都の外の森へ向かいます」


 ……いきなりなんだろう?森へ向かうの?何をするんだろう。  

 私と同じ疑問を持った子がいたようで、質問がされた。


「先生、何を目的に森へ行くのでしょうか?」

「杖の材料となる精霊樹を採取する為に森へ行くのです」


 杖の材料……精霊樹なんて初めて聞いたよ。

 買うんじゃないんだね……そういえば姉様が前に楽しみにしてとか言っていた気がした。


「詳しい話はまた後日説明しますね、今日は実際に魔法を使ってみましょう。皆様を魔法を練習する修練場へ案内します。ついてきてください」

「さあ、移動するのでエレアーレ先生について行きますよ」


 修練場なんてあるんだ、それも初耳。

 廊下へ出てエレアーレ先生についていこう。

 ワクワクして、やる気も少し出てきたよ。


 階段を降りて講堂の方へ向かう。

 廊下の正面には他のクラスも移動してる……どうやら合同で練習するようだ。

 講堂の大扉には入らずに横に逸れて行くと、こっちの正面に部屋があるようで他のクラスの生徒が中へ入っていく。

 エレアーレ先生率いる1−1も修練場へ入る。


 中はまるで弓道場のような造りになっていて、今私たちが立っている場所は綺麗な木造建築だけど、修練場の敷地の半分以上は野外と言っていい……地面には土もある。

 奥にはまさに弓道で使うような丸が描かれた的も立て掛けてある。

 ここなら火や土、風、水など色々放っても問題はないように見える。

 そして相変わらず学院の施設は大きい……今は三つのクラスだけだけど、1年生全員が使っても問題がない程に大きい。


「シィナちゃん、修練場って広くて大きいね〜」

「ここなら全力を出しても大丈夫かな?」


 感想を言い合っていると、三つのクラスの先生方が正面に集まって、私たちが静まるのを待っているように見えた。

 ここは空気を読んで静かにしていよう……一部の男の子たちがまだはしゃいでいる……ちょっと男子〜。

 徐々に静かになっていくので、修練場の空気は張り詰めていくようだ。

 もうさっきの男の子たちも黙って静観している。


「……はい、これより魔法の練習を始めますが、いくつか注意事項もあります。ここからは魔法を担当してくださる先生たちの言う事をよく聞いてくださいね」

「「「はいっ」」」


 エレアーレ先生ともう一人の先生が横に移動して、さっきのジッド先生ともう一人の先生が一歩前へ出る。


「私はジッドと申します、魔法を教える専門の教師です宜しくお願いします」

「私はファフダンと申します、ジッド先生と同じ様に魔法の教師です。これから魔法を勉強していきますが、注意する事、絶対にやっては駄目な事などを最初に説明しますので、心して聞くようにっ」


 ジッド先生とファフダン先生はとても当たり前の事を注意してくれた。

 人に向って魔法を放ってはいけない。

 お遊び感覚で魔法を使ってはいけない。

 周囲に迷惑をかける魔法は使用しない。

 ……当たり前の事を延々と語ってくれた。

 でもお遊び感覚でよく使っていたけど……今後は注意しよう。

 魔力が尽きる前に止める事を最後に注意されて、やっと魔法が使えると思ったら、ジッド先生とファフダン先生の魔法の実演が開始するらしい。


 他人の魔法はあんまり見たことないからね。

 どんな感じかな……ワクワクしてきた。 

 

 

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