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黒髪賢者の恩返し  作者: しんのすけ
第2章 私の学院生活
21/70

第18話



 ……入学試験を受けた翌日。

 私はフォルナちゃんと一緒にお出掛けをすることになった。

 当然レーアとユエラさんも一緒についてくる。

 フォルナちゃんも私もまだまだ王都初心者だけど、いつまでも姉様の自由を奪ってはならないと思って、今日は王都に慣れる為でもある。

 一応王都の地図も持ってきているし、たぶん大丈夫だろう。

 2人で話合った結果、本屋さんに行くことになったので、本屋さんの場所は姉様に聞いておいた。

 丁度市場方面に一軒あるようなので、行き来は大丈夫。

 また学院前の石碑で乗り合い馬車が来るのを待っている。


「フォルナちゃん、他に行きたい場所とかはないの?」

「あるにはあるけど……少し遠いかもしれないので」

「どこ?今日は王都に慣れる為に出掛けるんだから、行きたい所があれば付き合うよ?」

「……あそこなんだけど」


 フォルナちゃんは私の後ろを指差した。

 振り向くと、学院の塀しかない。

 ん?何?どこに行きたいって?

 指は変わらす塀を指して…………上?

 

「……お城?」


 ここから見えるのは塀とお城しかない。

 あ〜お城ね?確かに私も間近で見てみたいかも。


「お城って大きくて素敵だから近くで見てみたくて……」

「いいね〜、お城見学もしてみようか。地図地図地図……」


 私はポーチから王都の地図を取り出して広げてみる。

 地図と言っても王都に来た時に貰った観光案内用の地図なので、そんなに大きくはない。

 たぶん市場はここだから、市場から真っすぐ奥に向かえばお城に着く筈だね。

 そんな時、守衛さんが話しかけてきたので少し驚く。


「お嬢様方、どちらへ行きたいのですか?」

「あ、えっと、お城を見てみたくて」

「では、ここの市場に着いたら、道の先にある石碑で待っていれば乗り合い馬車が……ここから、ここへ向うので、その先が城前ですよ」 

「教えて下さり、ありがとうございます」

「いえいえ、王都で分からない事があればいつでも我々に聞いてください」


 守衛さんはそう言って門へ帰って行った。

 親切な人だね、守衛さんたちにでもお土産を買ってこようかな。


「シィナちゃん、突然言い出してごめんなさい」

「私もお城は見たかったから気にしないでいいよ。レーアとユエラさんもそれでいい?」

「ええ、私もお城は見てみたいです」

「私もフォルナお嬢様も来る時にチラッとしか見れなかったので、いい機会です」


 よし、問題はないようだね。

 どうせなら皆が行きたい場所に行くのがいいしね。

 

 ちなみに石碑で待っているのは私たち以外にも何人か学院生が居る。

 まるでバス停で待っている感じなので、少し面白い。

 これから来るのがバスじゃなくて馬車なので、そのギャップがなんとも言えないの。

 ちなみに乗り合い馬車を使わなくても学院が用意してくれる馬車もある。

 台数に限りがあり、申し込みが先着順なので、運が良ければ使えるとのこと。

 でも気軽に乗り合い馬車を使う人も多いようで、私は乗り合い馬車の方も好き。

 知らないおばちゃんたちとの会話も楽しいからね。

 正直貴族らしくないけど、これはこれでいいものよね。


 それから乗り合い馬車が来て、私はまたレーアに持ち上げられる。

 これがなければ最高なんだけど……もっと身長をくださいっ!



 本屋さんで買い物をしたら荷物がかざばるので、先にお城見学へ向う。

 予定通り市場で降りて、道の少し先にある石碑でまた乗り合い馬車が来るのを待つ……電車の乗り換え感覚で馬車を待つのも面白くてなんか好き。

 お馬さんのスピードがゆっくりなので、観光にはもってこいだね。


 またレーアに持ち上げられて王都前に向かう馬車に乗り込む。

 市場の脇を進んでいく……市場の周りにも色んなお店がたくさんある。

 人も多く、いつも活気が凄い。

 そんな都会の雰囲気を感じながら、奥に見えるお城へ徐々に近付いていく。

 お城の周りには大きな塀はなく、大きな池で囲まれていた。

 日本のお城でもこういう感じの所があった気がする。

 どこかの川と繋がっているのか知らないけど、緩やかな流れもあるようです。

 もうお城は遮るものがなく、よく見えるようになってきた。

 次の石碑で乗り合い馬車から降りて、4人でゆっくり見学する。


「これがリュデル王国の王城……圧巻ですね」

「大きくて綺麗で、凄いです」

「お嬢様方もいずれ舞踏会などで来るようになりますよ」

「…………え?そうなの?」

「シィナちゃん知らなかったのですか?」

「初耳ですが……」


 鎮魂祭の舞のように突然知らされるのは勘弁して欲しい。

 舞踏会?それっていつ?ダンスなんて習ってないよ?


「舞踏会って何歳で行くのですか?」

「ふふっ、大丈夫ですよ、学院の卒業前らしいですから」

「シュアレ姉様はまだ行ってないのですね?」

「ええ、そう聞いています」

「学院では舞踏会の踊りも修練すると思いますので、今から気を揉まれなくても大丈夫ですよ」

「なるほど、分かりました」


 うん、それならいい。

 舞のように10日でマスターしないといけないのは胃が痛くなるよ。

 数年掛けるなら問題ないかな。

 私が一安心していると、一台の馬車が王城へ近付いていく。

 豪華な馬車だね……装飾が凝っている。


「あの馬車は王族の紋章がありましたので、もしかしたら学院の第二王子様が乗っているかもしれませんね」

「へぇ……」


 同い年の王子様には興味がない。

 正直どうでもいい……


「そろそろ移動しましょうか?もっと見ますか?」

「そうですね、もう十分楽しめましたから、市場の方へ戻りましょうか」


 市場方面へ向かう石碑は道の反対側にあるので、そこで待とう。


「少し喉も乾いたので、市場で飲み物でも買いましょうか」

「いいですね、市場には果実水も色々とありましたからね」


 少し待つ。

 さっきここの乗り合い馬車が行ったばかりなので、たぶん30分くらい掛かるだろう。

 特に急ぎの用事はないので、お城を見ながら待っていると、学院の制服を着た男の子がメイドさんを引き連れてやってきた。

 たぶん同い年くらい……幼さが残った男の子だ。

 まさか王子様じゃないよね?

 少し警戒する。


「…………すいません、貴女たちは学院の生徒でしょうか?」

「はい、そうですが、貴方もお城の見学に来たのですか?」

「え?……ああ、そうですよ」


 フォルナちゃんが対応してくれた。

 レーアとユエラさんはメイド服なので、そう思われたようだ。

 大丈夫だよね?あんまりしつこいと威嚇するからね。

 魔力制御をしておく。


「…………黒髪」


 私を見て一言つぶやいてからは話し掛けてはこなかった。

 私は無視をして、ただ乗り合い馬車を待つ。

  

「シィナちゃんって男の子が苦手なの?」

「……苦手ではないよ?私のお父様やお祖父様たちから男には気を付けるように言われているだけです」

「あ〜……シィナちゃんって可愛いからね、なんとなく分かるかも……」


 少し小声で話していく。

 なんか見られてる気がするけど無視です。


 数分後、やってきた乗り合い馬車に乗り込む。

 他には誰も乗っていない。

 男の子も乗り込んでくるので、レーアを壁役にして奥に座る。

 正面にはフォルナちゃんが座った。

 自意識過剰になるくらいで丁度いいと姉様が言っていたので、私の身の守りは鉄壁だ。

 特に何事もなく馬車は進んでいって、市場で普通に降りた。

 男の子も市場で降りて、どこかへ行ってしまった。

 まぁ、初対面の相手を口説いたりしないよね、普通は。


「……シィナちゃん、さっきの男の子ずっとシィナちゃんを見てたよ?もしかしたら一目惚れでもしたのかもよ」

「えっ?いやいやそれはないよフォルナちゃん……こんなに背が低いんだよ?それはないって。ふふっ」

「ユエラ、ずっと見てたよね?」

「ええ、レーアさんの隣を覗く感じで……」

「それはこの黒髪が珍しかったからでしょう」

「……そうかもしれません」

「そんなことより、果実水でも飲みましょう」

「そうですね、私も喉が乾いてきました」


 全員で果実水を買い、フードコート的な場所で一休みをする。

 今日の果実水はそんなに甘くないけど爽やかで飲みやすい。

 これ美味しい、なんの果実だろう。

 果実水を買った露天には、特に何も書いていない。

 

「この果実はなんでしょう?爽やかで美味しいです」

「これはレーゼンヒルク領でよく取れるメカンの実の果実水です」

「メカン?へぇ〜、リンドブルグ領ではリカンという果実がよく取れますが、名前が似てますね」

「確か同じ果物だと聞いたことがあります、レーゼンヒルク産のは甘みが少ないですが爽やかとお祖母様が言っていました」

「土地によって違う物が出来るんだね、メカンの果実水私は好きです」

「私もリカンの果実水が昔から好きです」 


 お互いの領地の果実で何となく嬉しく感じる。

 それにしても、メカンの実か。

 甘さはそんなにないけど、何か作れそうだね。

 少し考えておこう。


 まだお昼には早いので、果実水を飲み終わったら目的地である本屋さんに行ってみることにした。

 市場から近くなので普通に歩いていくと立派な建物が見えてくる。 

 たぶんあの建物だ。

 ……この世界の紙は比較的高い。

 貴族なら普通に使っているけど、平民はそう気軽には使わないくらいは高いらしい。

 なので本もお高い。

 一冊日本円で2万円以上とかはするし、物によっては10万円以上する本もあるとか……

 こっち世界のお金だと最低でも2000シュタくらいはするらしい。

 実家の屋敷にはたくさんの本があったので、総額でいくらするかも分からない……ちょっとした資産といってもいい。

 取り扱っている本屋さんも豪華そうで、客層は貴族向けだろう。

 2万円くらいなら平民でも買う人はいるらしいけど…………本一冊2万か……

 たぶんあっち世界の私なら買わない、というか学生ではなかなか手が出ないだろうね。


 少し緊張しながらお店に入っていく。

 そこそこ広く、他にお客さんは何人かいた。

 たぶん学院の生徒だろう、シュアレ姉様くらいの若い人ばかりだ。


「いらっしゃいませお嬢様方、私は店主のジエルと申します。何かお探し物があればいつでもお声がけくださいませ」

「ええ、宜しくお願いします」

「お願いしますっ」


 さすが高級店ぽい対応ね。

 すぐに店主自ら声を掛けてくれた……お父様くらいの年齢のイケオジだ。

 声をかけ終わったら一歩引いて、奥へ下がっていった。 


「そういえば何か欲しい本はあるの?フォルナちゃん」

「はい、好きな物語の新刊が出ている筈なので」

「さっきの店主さんに聞いてみる?」

「いえ、少し店内を見てみましょう」

「分かりました、私も興味はありますから」


 物語か……フォルナちゃんは普通に本が好きなようだね。

 私は睡眠導入剤としての使い方が多いから……別に本を読むことは好きだけどね、自然と眠くなる体質なんだよ……うん。

 でも魔法の勉強が出来る本は眠気よりワクワク感が勝ったので大丈夫だった。

 ここにも魔法指南書ってあるのかな?

 試しに探してみよう、背表紙を見ればわかるしね。


 適当に店内をぶらつく。

 木の匂いとインクの匂い……なんか落ち着く。

 お父様の書斎と同じ匂いだからかな……

 専門書……ここは歴史書……こっちはなんだろう?王国漫遊記……

 色んなジャンルがあるね、学生向けの本も置いてある。

 何冊かは実家の屋敷で見た本もあった。

 フォルナちゃんの方は物語のコーナーのようで、フォルナちゃんは嬉しそうにしていた。


「見つけた?」

「はい、ありました。そこにある妖精騎士物語の新刊です」

「妖精騎士?初めて聞きました」

「花の妖精のお姫様と騎士の恋物語です」


 おおぅ……メルヘン。

 なんかフォルナちゃんらしくて納得してしまった。

 ん〜でも妖精さんも実際にいるっぽいし、この世界ではファンタジーではなく他種族の恋物語なのかな?いまいちそこの線引が難しい。

 何冊か物語は読んだけど、この世界の物語はいまいちピンと来なかった。

 あっちの世界の覚えている話でも執筆したら儲かりそうではある。

 まぁそれは今じゃないのでやる気はないけど。

 ホリーホリーバッターなら書けるかもしれないけど、あっちのファンタジー小説はこっちの世界だと……普通の現代劇になるかもしれないし、難しいところだね。


 フォルナちゃんはユエラさんと一緒に店主さんに話し掛けて、目的の本を購入しているようです。

 物語の隣にはワタシの目当ての本が何種類かあった。

 ……でもお母様の部屋に同じ本があった気がする。

 私はまだ初級の本しか見せてもらってはいなかたので読んではみたいけど、お高い本なら家にあるやつで十分だしね。

 他には私の求めるような本は特別見当たらなかった。

 ……そういえば以前魔法道具屋のお爺さんと知り合ったけど、そこならもっと魔法の本とかも置いてあるのだろうか。

 もう少し学院が落ち着いたらシュアレ姉様と行ってみよう。


「レーアは欲しい本はない?」

「私は本より、お嬢様のお世話をしていた方が好きですね」

「そ、そう?他には何か欲しい物とかないの?」

「甘味はお嬢様の作る物が十分美味しいですし…………すぐには思い付きませんね」 

「また何か一緒に作ろうか?」

「ええ、市場で材料でも買いましょうか」


 レーアに何か甘味でも作ってあげよう。

 ただ、私の記憶にあるレシピってそんなにないんだよね……

 お母さんと小学生の頃に作った物くらいなので、レパートリーは少ない。

 少しアレンジするくらいなら出来るけど。

 ああっ……検索したい。



 本を買って満足そうなフォルナちゃんはニコニコして幸せそう。

 本屋さんを出たけど、お昼はどうしよう?


「昼食はどうする?市場の露天か、喫茶店……子猫の奇跡亭……もしくは入ったことのない食堂か」

「子猫の奇跡亭がいいですっ」

「わ、分かりました……行きましょうか」


 そんなに目を輝かせてくれるなら行くしかないね…… 

 確かに美味しいけど、少し実家が恋しくなるんだよね。


「……ここなら歩いて行けそうですけど、いいですか?」

「はいっ、行きましょうっ」


 フォルナちゃんはテンションが上がっていて張り切っている。

 うん、可愛い。

 元気な女の子って可愛いよね〜。

 (………………)

 そうだね、ハチカちゃんたちも可愛いよね。

 さすがシィナちゃん、分かってるね。


 乗り合い馬車とは違って一直線に向かえるので、たぶん歩いた方が早い。

 お店以外の住宅もある路地を、目的地の方へ歩いていく。

 外国を旅行してる気分になるので楽しい。


 王都はとても清潔だ。

 地面には石畳ばかりで、土のある場所が少ない。

 それもあるけど、ゴミの処分なんかもしっかりしているらしい。

 ゴミの処理場もあるとお父様が言っていた気がする。

 それから豊富な水もある。

 王国は左右に大きな山脈があって、そこから湧き出る水が大きな川になり、

 この王都もその水を活かした造りになっている。

 細かいことは知らないけど、王国の歴史書にはそう書かれていた。

 清潔なのはいい事だよね。


「あ、猫の親子がいるよ……可愛い〜」

「はぁ〜、可愛いですね〜」


 路地で親が毛繕いをして、子猫2匹が周りでじゃれている。

 幸せの光景だね。

 邪魔をしないように距離を取って路地を抜けていくと、目的地に着いた。

 今日も満員御礼って感じだね。

 列はそうでもないので、普通に並んだ。

 でも並んだ途端に後にどんどん人が並んでいく。

 どうやら乗り合い馬車を使った人が一気に来たようね。


「意外とすぐに食べられそうで良かったよ」

「歩いて正解でしたね、猫も見れたし」


 列が進んでいくのと同時に、中から出てくる人も多い。

 その中で見覚えのある人がメイドさんとお店から出てきた。

 市場で降りたあの男の子だ。

 幸せそうな顔でこっちには気付かずに乗り合い馬車の石碑の方へ歩いて行った。


「さっきの男の子もここで食べていたみたいだね」

「幸せそうな顔でしたね。……今日は何を食べようかしら」

「私はパスタを頼もうかな〜」

「ああっパスタもあるんでしたね、迷いますっ」


 フォルナちゃんは注文をする最後まで迷って、結局私と同じ注文をした。

 ミルククリームパスタも濃厚で美味しかった。

 レーアとユエラさんはプリンがお気に入りのようで、6個程お持ち帰り用に注文をしていた。


  

 こうして学院が始まるまで、フォルナちゃんや姉様たちと王都を楽しく堪能していった。

 そしてついに学院の冬休みも明けて、寮通いの全ての学院生が帰寮してきた。

 一学年平均150人前後がいるようで、約900人の学院生活が始まりを告げる。

 

 明日から始まる新年度の前夜。

 女子寮、男子寮共に、食堂で新一年生の歓迎会がもようされる。

 今日は寮通い以外にも、王都に家を持つ貴族令嬢たちも参加しての歓迎会。

 私たち新一年生は座って見ているだけだったけど、簡単な魔法の実演や、上級生からお花の贈り物を貰い、色んな人と会話をして楽しく過ごせた。

 ……私はシュアレ姉様の妹という事で注目を集めてしまったけど。

 シュアレ姉様って本当に人気があるんだね……


 そういえば私のもう片方の隣の部屋ってまだ誰も来ていないけど……

 空き部屋なのかな?



 ……翌日、今日は入学式があり、その後は試験結果の通りにクラスへ移動する流れらしい。

 朝食を終えて、上級生たちはそのまま本校舎へ向って行った。

 新一年生は食堂で待機しているようにとマイヤーレ寮長から事前に言われていたので、フォルナちゃんと一緒にお茶を飲みながらまったりしている。

 いつもの窓際の席はちょとした花壇もあって花が咲いているので目の保養にもなる。

 お茶も飲み終えてしばらく経った頃、マイヤーレ寮長の声が食堂に響いた。


「これより講堂へ向かい、入学式を執り行います。全員私の前に3列になってくださいね〜。体調の悪い人はいませんか?いるならここで申し出てくださいね〜」


 3列になった私たちからは誰も申し出はなかったので、マイヤーレ寮長はそのまま本校舎へ向かい出した。

 本校舎へ入り、入学試験を受けた時のように正面からは男の子たちもやってくる。

 ……先頭にいるのが男子寮の寮長だろう、少し怖そうなおじさんだ。

 男の子も3列になっているようだね。


 家からの通いの子たちも列に並び終えたけど……

 マイヤーレ寮長と男子寮寮長のおじさんが何か話していたけど、ここまでは聞こえない。

 そういえば講堂ってどこにあるのかな?


「皆さ〜ん、ついて来てくださいね〜」

「さあ、行きますよ」


 寮長二人の声がしたけど、私は前の人について行くだけだしね。

 そのまま歩きだして私の隣には男の子たちが大勢いる。

 男子も女子も無言で、歩く音しか聞こえない。

 大広間を抜けて試験を受けた教室を過ぎていくと、奥に大きな扉が見えている……たぶんあの大扉の先が講堂だろう。

 大扉の前で一度止まって、席の座り方を教えてもらった。

 一列9人で座るようにと言われたので、私は二列目だ。

 二人の寮長が、分かりやすく説明してくれたので、大丈夫だろう。


 そして大扉が寮長二人の手で開けられていく。

 先程のように寮長が先頭を歩いていくので、私たちもついて行く。

 講堂の中は静かだけど、大勢の上級生が座っていた。

 小学校の時の全校集会を思い出したけど、それよりも多い。

 少し緊張してしまうけど、どこかにシュアレ姉様がいると思うと少しだけ安心した。

 ハチカちゃんのペンダントを抑えながら、私もゆっくり進んでいく。

 最前列の空いている席が新一年生の座る場所だろう。

 奥の壇上にはこの学院の先生方がずらりと並んでいた。


 男の子は左側、女の子は右側の席へ進んでいく。

 前の人に続いて私も2列目の席に進んで、着席の声がするまで待っている。

 寮長二人が着席と言ったので、新一年生は全員席に座った。

 はぁ〜っという溜め息がちらほら聞こえてくる……うん分かるよ、一息ついた感じがするよね。

 

 二人の寮長は左右に別れて登壇していき、先生方と一緒に壇上に並んだ。

 少しの間があり、壇上の中心にいる人物が一歩前へ出た。

 あの人がここの学院長だろう。

 ……てっきり白いおヒゲを生やしたおじいちゃんかと思ったけど、ニコニコしたおばさんだった……お母様よりも10か20は上のおばさんだ。

 

「これより王立学院第352期目の入学式、始業式を執り行います」


 352……王都の歴史の長さを感じる数字だね。

 それよりも、何か魔法でも使っているのだろうか?マイクのように声が大きく聞こえる。

 こんな魔法もあるんだね、風魔法の応用かな?


「新一年生の皆さんはこれから王国の貴族らしくこの学院で学ばねばなりません。王国に住む全ての民、領民の為に我々魔力を多く持つ貴族は…………」


 学院長の演説はとてもいい事を語っていた。

 魔力を多く持つ貴族は少ない魔力の平民を守り、支え合いながら生きていく……と、以前お父様やお祖父様が言っていたような事を話してくれた。

 王国貴族の矜持……なのだろう。

 他にも学院の歴史や注意事項まで私が眠くなるまでよく演説してくれた。

 ……学院長とか校長先生の話ってなんでこんなに長いの……もう眠いよ。


 そんな時に、目が覚めるようなサプライズが起こった。

 どうやらこの国の王様が来てくれたようだ。

 おお……王族のトップだよ。

 どこかに控室でもあるのだろうか、壇上には王様がいつの間にか立っていた。

 お父様と同じくらいのイケオジだ……ああ、第二王子が入学するからかな?

 もう一人お爺さんもいるけど、誰だろう?

 学院生徒はざわついている。


「新入生の紳士淑女の皆、入学おめでとう。私はエドワルド・ミュルグニク・リュデル……リュデル王国の王を名乗っている者だ」


 ……名前長いね、でもなんか……優しそうな王様だ。

 もっと威厳のあるイメージだったけど、お父様くらいのオジサマだからそんなに怖くない。


「……新入生は頼りになる先輩がたくさんいるこの学院で様々な事を学んで欲しい……上級生は下の学年の者達の標となるよう更に努力をして欲しい、私からは以上だ」


 難しい言葉を喋らずに、至って普通の言葉で分かりやすい。

 うん、この王様はたぶんいい人だ。

 お陰で目が覚めました、ありがとう王様。


「ああ、最後に我が国の賢者から一言あるそうだ。皆、紹介しよう……彼が大賢者エトワルド・ニースだ」


 賢者……確か魔法を極めた人の称号……だったかな?

 以前お母様がそんなことを言っていたけど……あ、確かに髪が凄く濃いね。

 お母様よりももっと濃いよ。

 80歳くらいのおじいちゃん……大賢者っぽいかも。


「ほっほっほっ、陛下、ワシはそんな大層な人物ではありませんぞ?……ウォッホンっ!学院への入学おめでとう……少し聞きたい事があってのぉ」


 あれ?なんか少し軽い感じ……大賢者っぽくないかも。

 普通のおじいちゃんに見えてきた。


「ワシは精霊研究をしておるのじゃが、最近精霊たちの動きが活発なっていておるのじゃ……もし何か知っている者がいたら知らせて欲しいと思ってのぉ」


 …………あ、たぶんこの賢者様が持ち出したんだね。

 何年か前にお祖父様が王城へ精霊さんの研究資料を見に行った事があったけど、王城の図書室にもなかったと言っていたからね。

 たぶんこの賢者様のせいだ。

 ……それにしても精霊さんが活発になるってなんだろう?

 王都に来てからは見てないけど。


「そういう事で、精霊の事で何か知っている者は王城へ来て欲しい」


 ……これはとりあえず姉様に相談した方がいいよね?

 精霊さんと話せる事がバレたら大変そうだし。

 ……ん?……今賢者様と目が合った気がした。

 でも王様も賢者様も奥へ引っ込んでしまったから気のせいだろう。


 また学院長が話を少ししてから入学式と始業式は終了した。

 この後はクラスを確認してから、移動する予定だけど……どこで確認するのかな?


 

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