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黒髪賢者の恩返し  作者: しんのすけ
第2章 私の学院生活
20/70

第17話



「シィナ〜ただいまぁ〜。はい、これお土産っ」

「姉様おかえりなさい。ありがとうございます……なんですかこれ?」


 フォルナちゃんの部屋から戻った後は、夕方まで勉強していた。

 シュアレ姉様が部屋に来てくれてお土産貰ったけど……何かの液体が瓶に入っている……なんだろう?


「そろそろシィナもお化粧とか興味出てこない?」

「お、お化粧っ!」


 ……お化粧ってしたことない。

 小学生の頃はお母さんの口紅を使って怒られた事はあるけど……ずっと病室にいたからお化粧なんてしたことない。

 ああ、でもこの間の誕生日にお母様がうす〜く顔に何かしてくれた気がする。

 ……お化粧って大事だよね。

 シュアレ姉様もいつの頃からかキレイになっていった。

 アレはお化粧だ……でも私には全くお化粧の知識がない。

 乾燥防止のリップくらいしか使ったことないよ。

 ……お化粧初心者は勉強するしかないね。

 

「コレはお化粧に使うのですか?」

「そうよ、お肌をキレイにしてくれるの」

「どうやって使うのですか?」

「ふふっ、興味はあるみたいね。後で教えてあげるね、もうすぐ夕食でしょ」

「あ、お友達が出来ましたっ夕食はその子と一緒でもいいですか?」

「いいわよ。良かったじゃない、どんな子?」

「レーゼンヒルクのご令嬢で優しい子です」

「ふぅん。レーゼンヒルクの……その子にお兄さんいない?」

「はい、お兄様がいると言っていました」

「学年が私よりも下だから喋ったことはないけど…………ま、アイツなら大丈夫かな」


 なんだろう?一瞬考えたよね?

 

「何がです?」

「ん?中にはいるのよ、友達になった振りをして自分の兄妹を強引に紹介してくる令嬢が」

「フォルナちゃんには私が声を掛けたから大丈夫です」

「そう、フォルナちゃんっていうのね。その子のお兄さんって少し気弱なのよ、シィナを口説いたりするような男じゃないから、安心したの」

「……あ〜…………なるほど」


 そういうご令嬢もいるんだ……頑張って見極めよう。 

 …………私って口説かれるの?

 いや〜、まだ見た目小学生だからそれはないって…………でも用心はするよ。


「お嬢様方、そろそろ夕食時ですよ」

「そうね、そのフォルナちゃんって子を誘うんでしょ?」

「はい、姉様は談話室で待っていてください」

「ええ、楽しみにしているわね」



 姉様と別れて、レーアと一緒にまたフォルナちゃんの部屋へ向かう。

 ……私のお隣さんって本当にいるよね?

 さっきは扉をノックしても反応がなかったし。

 夕食後なら必ず居る筈だし、またクッキーを持って挨拶しに行こう。


 すると階段の向こうからフォルナちゃんとユエラさんがこっちに向って歩いて来ていた。

 お互いに気が付いて私もフォルナちゃんも笑顔になる。


「フォルナちゃんこんばんわ、丁度迎えに行くところでした」

「こんばんわシィナちゃん、今度は私から迎えに行こうと思っていたんですけどね」


 ほぼ同じタイミングで部屋を出たっぽい。

 階段を降りて行きながらシュアレ姉様の事を話しておいた。


「シィナちゃんのお姉様……緊張します」

「優しい姉様だから大丈夫だよ〜」


 年上だし緊張するよね、気持ちは分かるよ。

 たぶんフォルナちゃんもお兄様をそのうち紹介してくるだろうしね。

 あまり男の子に耐性のない私もたぶん緊張するだろう。

 まぁ、ヒルク兄様とダリル兄様で多少はイケメン耐性も付いてるし、大丈夫な筈です…………たぶん。


 談話室へ入ると、まだシュアレ姉様は来ていなかった。

 他にも何人か上級生のご令嬢たちとメイドさんが居たので、軽く会釈をして空いている所へ行く。


「少しここで待ちましょうか、すぐに来る筈ですので」

「は、はいっ」


 まだ緊張しているようだし、少し解してあげようか。

 

「夕食はどうしようかな……フォルナちゃんはどうする?」

「……そう……ですね、まだ魚を食べていないので魚料理にしようかと思います」

「同じお魚料理とかお肉料理でも毎回違う物が出てくるみたいなので、気分で変えても良さそうです」

「あ、そうなんですね。じゃあ肉料理にしようかな」

「お肉好きですか?」

「はい、私はお肉を食べると元気になりますから」


 以外にガッツリ食べるタイプかな。

 …………ハっ!その身長とお胸はお肉で育ったの?

 もしかして私に足りないのはお肉なのっ?


「シィナ、お待たせ〜。貴女がフォルナちゃんかな?」

「は、はいっ!フォルナ・レーゼンヒルクと申しますっ!」


 姉様とフォルナちゃんが挨拶している。

 その様子を他のご令嬢たちも遠目に微笑みながら見ていた。

 特に嫌な感じはしない。

 それよりも、今日はお肉料理を頼もう。


「シィナ?どうしたの?食堂へ行きましょう」

「私もお肉料理にします」

「ずっと考えていたの?シィナちゃん?ふふっ」

「妹はたまに変なことするから気を付けてね、フォルナちゃん」 

「姉様っ私は何も変な事はしませんっ」


 何故か2人が笑い合っていたが、それよりもお肉です。

 そう言われれば私はあんまりお肉を積極的には食べていなかった。

 何のお肉か分からなかったからだ。

 お魚は抵抗ないのに、何故かお肉は抵抗あるのよね。

 単純にお魚が好きなので好みかもしれないけど……ハンバーガーよりフィッシュバーガーの方が好きなくらいだし。

 よし、もう私の口はお肉モードよ。


 談話室を出て、食堂で注文をして待っている間、シュアレ姉様とフォルナちゃんは色々とお話しをしていた。

 シュアレ姉様は面倒見がいいしね。

 フォルナちゃんのことを気に入ってくれたようです。 

 ああ……久しぶりにフィッシュバーガーを食べたい。

 食べたいけどタルタルソースって作ったことないからな……分かんない。

 魚は白身魚が多く出るからフライは作れるけどね……

 ふむ……保留にしておこう。


 今日のお肉料理はローストビーフのような料理だった。

 一口食べると、ソースも美味しい。

 たぶんワインで作られたソースだ、香りもよく美味しい。

 これならいくらでも食べられるので、お肉をおかわりもした。


「シィナ今日はよく食べるわね」

「これも成長の為ですっ」

「成長?」

「ね?たまに変な事するでしょ?」

「ふふっ、そうかもしれません」


 穏やかに夕食は過ぎていき、食後のお茶を飲んで解散した。

 フォルナちゃんは最初に見た時よりも元気になってくれたし、姉様とも仲良くなれたので安心ね。

 1時間後に大浴場へ行く約束をしたので楽しみっ。



 そしてもう一度お隣さんへクッキーを持って挨拶に向かってみる。

 少し不安だけどやはり早めに挨拶はしたい。

 ノックすると、今度は反応があった。


「はい、どちら様でしょうか?」

「あ、隣の者ですが、ご挨拶に来ました」

「……分かりました、少々お待ち頂けますか?お嬢様に知らせて来ますので」

「はいっ」


 メイドさんが対応してくれたので一安心だ。

 ちなみにレーアはお部屋でお風呂へ行く準備をしてくれている。

 すぐに扉が開いて、メイドさんが案内してくれる。

 ここの部屋の主はテーブルで本を飲んでいた。

 

「こんばんは、突然の訪問ご容赦ください……」

「いえ、構いません……まずは挨拶からですね、モニカ・シードルと申します、宜しくお願い致します」

「私はシィナ・リンドブルグと申します、お隣なので今後とも宜しくお願い致します」


 立ち上がったモニカさんは細身の体でメガネがよく似合う……秀才のような印象を受けた。

 たぶん頭がいいんだろうと思った……メガネだし。


「あの、今日焼いたクッキーです、もし宜しければお茶の時にでもどうぞ」

「それはありがたいです、勉強していると甘い物が欲しくなりますから……遠慮なく頂きますね、ありがとうございますシィナさん」

「今日はこんな時間ですので、これでお暇しますね」

「わざわざ挨拶して頂き感謝します」

「いえ、ではまた」


 メイドさんに扉を開けてもらい、部屋を出る。

 悪い人ではなさそう、笑顔が自然だった。

 まぁ、そのうち仲良くなれたらいいな……今日は挨拶出来て良かった。

 心置きなくお風呂が楽しめそう。


 部屋に戻るとレーアの準備も完了していたようで、私の着替えも用意してあった。

 姉様が言うには、手ぶらで行っても大丈夫らしい。

 お風呂は貴族もメイドも関係なく一緒に入れるらしい。

 メイドさんが主の体を洗うから一緒に入るとのこと。

 私は誰かに体を拭いて貰うことに慣れていたので問題はないけどね。


 今度はフォルナちゃんが私の部屋を見て見たいと言ったので、お風呂の前に部屋に来る筈なので、今のうちに寝間着に着替えていよう。

 大浴場へは皆寝間着姿で向かうらしい、レーアも寝間着姿だ。

 レーアがサクッと私を寝間着姿にしてくれた。

 ネックレスを外して……これでよし。

 後は本でも読んで待っていよう。



 扉がノックされたようで、レーアが対応してくれた。

 すぐにフォルナちゃんとユエラさんが部屋へ入ってくる。


「シィナちゃんの部屋って私の所と造りが逆なんですね」

「ええ、階段を境に逆の造りのようです」

「いらしゃい、フォルナちゃん」

「お邪魔します、シィナちゃん」


 フォルナちゃんの寝間着姿可愛い。

 ユエラさんもシンプルな寝間着で綺麗でいいな。


「部屋自体は変わらないから、そんなに変わらないでしょ?」

「まだ入寮したばかりですからね」

「何を読んでいるのですか?」

「歴代の王の名前を見ていました」

「ああ、暗記も大変ですからね」


 まだ時間はあるので適当な雑談をして時間を潰す。

 レーアとユエラさんは隣の部屋で何かしている。


「お隣の令嬢にはさっき挨拶してきたけど、頭の良さそうな感じの子でした」

「私のお隣にもさっき軽く挨拶しました、元気そうな子でしたね」

「これから6年間ずっと一緒だからね、変な人じゃなくて良かったよ」 

「お嬢様方、そろそろシュアレお嬢様の部屋へ行きましょうか」

「「はいっ」」


 私たちは部屋を出て、下の階の姉様の部屋へ向かう。

 フォルナちゃんは初の2階の廊下に少し緊張している。

 私も少し警戒はしている……ルルエラさんが現れませんように。


 姉様の部屋に無事に入れてホッとしたのだけど、私はティータ先輩に抱きしめられた。


「うっ!?」

「シィナちゃんの寝間着姿可愛いよ〜っ、お人形さんみたいっ」

「ティータ……最初に挨拶なさい、目の前に驚いている人が居るでしょ?」

「あははっ、ごめんなさいね〜、ティータ・アンベットと申します、宜しくね〜」

「は、はいっ。私はフォルナ・レーゼンヒルクと申します。宜しくお願いします、ティータ先輩っ」

「抱きつきながら挨拶しないでくださいっ」

「いいじゃない、可愛いし……さあお風呂、お風呂行きましょうっ」

「はいはい、フォルナちゃんごめんね、私の友達なの」

「いえ、私は大丈夫ですが……」


 うう……離してくれない。


「ティータ先輩、手を繋いであげますから離してください……」

「は〜い、おてて繋ぎましょうね〜」

「ほら、行くわよ……まったく」


 ティータ先輩と手を繋いで部屋を出て行く。

 フォルナちゃんが居るのに恥ずかしいよ……


 大浴場から出て来るご令嬢たちに温かい目で見られながら脱衣所へ入っていく……姉妹にでも見えるのだろうか、ティータ先輩はニコニコしている。

 もうさっさとお風呂に入ろう。

 素早く寝間着を脱ぎ、バスタオルを巻いてから一人で大浴場へ入っていく。

 大きい。

 実家の風呂場よりも更に大きくて広い。

 まだ入っている人もたくさん居るけど、そこまで多くはない。

 姉様が言うように、大半のご令嬢は自室のお風呂で済ませる事が多い様で、更にまだ冬休み中でそこまで人は居ないようだ。

 自分で髪を洗っていたけど、結局レーアに全部洗われてしまった。

 大浴場へ温度を確認してから入る。

 大きいお風呂は好き、開放感があっていい。

 ……人がいなかったら泳ぎたい。  


 一緒に来たメンバーも体を洗い終わると私の周りに入ってくる。

 髪が綺麗とかお肌が綺麗などの女の子っぽい会話をしていると、他のご令嬢たちが寄ってきた。

 どうやらシュアレ姉様とティータ先輩目当てのご令嬢たちだ。

 2人とも下級生から人気があるようで、これまでも一緒にいてちょくちょく話しかけられていたからね。

 シュアレ姉様に人気があると素直に嬉しい。

 大浴場はコミュニケーションの場にもなっているようで、お風呂周りで座りながら会話をしているご令嬢が多い。

 私はフォルナちゃんしか知り合いはいないので、二人でお風呂トークを楽しんだ。

 レーアたちメイドさんも仕事の話以外にもしていたようで、笑い声も聞こえてくる。

 部屋のお風呂もいいけど、たまには大浴場を使うのも良さそう。


 しっかり温まったので、部屋に帰ってそのままべットでぐっすり眠れた。



 翌朝も早朝ランニングしてからフォルナちゃんや姉様と食堂で朝食を一緒にとる。

 フォルナちゃんも市場に行ってみたいらしいので、姉様とティータ先輩も一緒に皆で市場で買い物をした。

 追加でジャム用の果物を買ったり、まだ見ていない所を周ったりしながら楽しく過ごしたよ。


 また子猫の奇跡亭にフォルナちゃんとユエラさんを連れて行くことになった。

 今日は私たちの人数も多かったので普通に並んだの。

 意外と回転率がいいらしい。

 入ったお客さんが、注文した料理をすぐに食べ切ってしまうのでどんどん列が進んでいくのよ。

 そして案の定フォルナちゃんとユエラさんはここの味に驚いていた。

 寮ではメレンゲを作るのが大変なので、スフレオムレツなどを食べたりもした。

 ついでに以前買って子猫の奇跡亭で保管してくれている調味料も壺から少し貰っておく。

 料理長のモーガンズさんが対応してくれたので、この調味料を使えば野菜炒めが美味しくなると伝えたらやる気になっていた。

 他にも色々料理はあるけど、私は寮で試そう。 


 

 ……フォルナちゃんという友達が増えたお陰で、寮生活の楽しい日が数日続いて、そしてついに今日は入学試験日だ。

 いつものルーチンで早朝ランニングは欠かしていない。

 試験は制服を着て本校舎で行う。

 何気にまだ制服は着たことなかったので、初めての袖通し。 

 貴族っぽく見える制服なので、着ると少しだけ自分が偉くなったような気もする。

 ただ……あまり似合っていない気もするの。

 姉様の制服姿はビシッと決まっているけど…………私はチンチクリンとまでは言わないけど、少し制服に着られている感がある。 

 中学生の制服を小学生が着ているようで…………まだ自分のサイズだからいいけどね。

 まぁ、こういうのは慣れもあるし、髪型を変えてもいいかもね。


 食堂には私たちのような新入生は制服、上級生のお姉様方はまだ休み中なので私服ね。

 これで誰が新入生なのか一目瞭然で分かる。

 私の隣部屋のモニカさんもすぐに分かった。

 他の制服を着た子たちと一緒に朝食を食べていた。

 私はいつもの席に座って姉様やフォルナちゃんを待つ。

 そんな中で何人か制服を着た上級生もいる……なんで制服を着ているのだろうか?


「あらっ!シィナちゃん、おはようございます制服よく似合っていますよっ」

「ルルエラ先輩……おはようございます、ルルエラ先輩も制服ですがどうしたのですか?」

「私は生徒会に属しておりますので、今日はシィナちゃんたちの受ける試験の補佐をしていますのよ」

「生徒会なんてあるんですね、ご苦労さまです」

「シィナちゃんも頑張ってね、陰ながら応援しておりますわっ」


 ルルエラ先輩はそう言って食堂を出ていった。

 私は本校舎にはまだ行っていないのでよく分からないけど、広そうだし案内係とかかな?

 ルルエラ先輩と入れ替わるようにシュアレ姉様とティータ先輩が私の隣に座った。

 ティータ先輩も制服姿を褒めてくれたけど、シュアレ姉様は髪型を変えるともっと似合うと言ってくれた、さすが姉様だ。

 フォルナちゃんもすぐに来たので、4人で朝食を注文した。


「フォルナちゃんは背が高いので制服がよく似合いますね」

「私はそんなに背は高くないよ……それにシィナちゃんの方が可愛いよ」

「確かにシィナちゃんは可愛いけど、フォルナちゃんもよく似合っていて可愛いわよ〜」

「あ、ありがとうございます、ティータ先輩」

「試験は男の子と一緒だから気を付けなさいね、2人共」

「あ、そうなんですね…………何に気を付けるのですか?シュアレ先輩」

「可愛いと口説かれたりするからね、休み時間とかに。……シィナ分かった?」

「はいっ姉様っ!」

「よしっ!」

「あまり気にしないでねフォルナちゃん、この2人が少しおかしいのよ〜」

「は、はぁ??」


 今日もお肉料理でスタミナを付ける。

 朝食を食べ終わったら本校舎にそのまま移動して試験開始を待つ段取りらしいので、あまり遅く行くのもアレだから、少し早めに朝食を食べてしまおう。

 フォルナちゃんは少し緊張しているのか朝食は残してしまった。

 お茶も飲み終わったので、フォルナちゃんと一緒に食堂を出る。

 最後に姉様とティータ先輩から応援もしてもらい、私とフォルナちゃんは本校舎へ向かう。

 市場で買った飴も持っているし、私は試験頑張るよ。



 本校舎に向かう制服組がちらほらいたので、前の人たちの後をついていく。

 寮の1階には玄関とは別の渡り廊下があり、そこを通ると本校舎に辿り着く構造になっていた。

 女子寮は壁紙が華やかだけど、本校舎は厳格な感じと豪華さがあった。

 さすがお貴族様の通う学院という感じだね。


「凄いですね、本校舎は」

「ええ、さすが王都の学院ですね」


 フォルナちゃんも同じ様に感じていたようだね、似た感性で良かった。

 私の中身はただの一般的な日本人だからね。

 スタスタ歩いていくと、制服を着た上級生が男女で案内役をしていた。

 ここが学院の玄関ホールのようね。

 私たちの正面からは男の子たちの姿も見える。

 男子寮も同じ造りのようだね。

 ……みんな背が高くない?でもヒルク兄様やダリル兄様程は美形じゃないから安心したよ。

 でもまぁ、まだ幼い顔立ちなので将来どうなるか分からない。

 向こうも女子たちを見ている…………まぁ、普通か。

 12,3歳なら思春期真っ盛りだしね、しょうがない。


 上級生のご令嬢から試験を受ける場所を聞かされ、皆で移動していく。

 玄関ホールの奥へ進んでいくと、教室だろう扉がたくさんあって、来た順に教室に入っているようね。


「フォルナちゃん、このまま一緒に試験を受けようね」

「はい、シィナちゃんと一緒の方が安心します」


 来た順なので、どんどん教室が埋まっていく。

 手前の教室はもう満員なんだろう。

 奥の方にも扉があるので、そちらにも制服を着た上級生が何人か控えていた。

 これが生徒会の補佐役の仕事なのだろう。

 ルルエラ先輩もどこかで仕事中なのかな。


「あ、フォルナちゃん、さっきあんまり朝食食べていなかったでしょ?」

「ええ、少し緊張してしまって」

「はい、これあげるね」


 私はフォルナちゃんへ握った手を差し出す。


「なんでしょうか?」

「飴だよ、頭が疲れたら舐めてね。糖分補給だよ」

「……ありがとうございます、シィナちゃんは優しいね」


 飴を何個か渡しておく。

 ちゃんと包装してあるので、制服のポケットにそこそこ入れておいた。

 休み時間にでも舐めよう。

 私たちも試験をする教室へ入る……


「あ、貴女からは隣の教室へ行ってね。」

「「えっ?」」


 先に入ったフォルナちゃんと離ればなれになり、私は隣の教室へ案内されて行く。

 ううっ、いきなり不安になってきたよ。


「一番前の奥から座ってくださいね」

「はい……」


 教室の最前列の奥……窓際の席に私は座った。

 隣の席は男の子だ……話しかけてこないでよ、頼むから。

 私は目をつぶり、姿勢を正す。

 誰も話しかけてこないでオーラを放ち、静かに窓の外に目を向ける。

 あ、蝶々……綺麗なハネ。

 少し落ち着いたので早速飴を舐めよう。

 ポケットから1つ取り出して、包装紙から取り出した飴を舐める。

 ……これはハチミツ味、あま〜いっ。

 フォルナちゃんに先に渡しておいて良かった……

 昼食はフォルナちゃんと食べよう。

 ……よし、完全に動揺は消えたので、試験に集中しよう。

 窓のガラスに反射して見える教室には、いつの間にか制服を着た同級生で満員になっていた。

 ん?反射で見えているけど…………皆こっち見てない?

 ……怖っ!なにっ!?何を見てるの?

 もしかしてこの黒髪を見てるの?

 うっ!恥ずかしいんですけど……自意識過剰じゃなく、間違いなくこっち見てるよね?

 もう……早く試験始まってくないかな〜。

 また動揺しちゃったよ、落ち着け私…………そうだこういう時はハチカちゃんのペンダントを服の上から触って……うん、落ち着く。

 ハチカちゃんたちも入学試験があるって言ってたから、同じ感じに緊張したりしてるかもしれない。

 ハチカちゃん頑張れ、私も頑張るからね。


 数分後、教室に入ってきたのはたぶん先生だろう。

 教室の黒板の前に立って、教室を見渡している。

 50歳くらいの男性で、少し体育教師のような感じのワイルドさを持っている。

 

「……皆おはようっ、これより入学試験を開始する。机の上のペンを使い、この試験用紙に記入するように…………今から配るので、私が開始と言うまで裏返しにしているように」


 教師は私の前に立ち、裏面になっている試験用紙を手渡してくれた。 

 会釈をして受け取り、机の上にそのまま置いた。

 教室には20人か30人くらいは居るので少し時間が掛かるが、待っている間に落ち着けたので、私の頭はもう試験モードに切り替わっていた。


「何か質問があれば今のうちに言いなさい」


 試験用紙を配りながら先生はそう言ったけど、質問は誰の口からも上がらなかった。

 質問……は特にないか。

 配り終えた先生はまた黒板の前に立ち、そして一言試験開始と言った。

 全員が裏の試験用紙を表にする音がする……私も表にしてまずは名前を書いた。

 …………あれ?早速王族関係の試験だけど、選択方式なんだ?

 しかも現国王の名前とか簡単な問題が多い。

 うん、これなら楽勝かも。

 集中してサクサク問題を解いていく。

 全て解き終わってもしっかり再確認もして、再再確認もする。

 名前も大丈夫……もう終わってしまった。

 窓の反射にはまだ試験用紙とにらめっこをしている人が多い。


「時間はまだ30分ある、落ち着いて頑張りなさい、名前を書くのを忘れるなよ」


 先生が黒板の前で全体を見ながら私たちへ声をかけてくれる。

 まだ30分もあるのか……暇潰しに魔力制御でもしていよう。

 窓の外を見ながら私は時間が来るまでひたすら魔力を巡らせていた。



「よし、それまでっ……試験用紙を回収する」


 ……はぁ、暇で疲れた。

 これで4回目の試験が終わったので、この後はお昼休みだ。

 周りの人たちも暇で疲れているのだろう、ぐったりした感じになっている。

 私は飴と魔力制御で暇潰しが出来たからね、でも疲れはしたよ。


 先生は試験用紙を回収し終わると、そのまま教室を出て行った。

 そして先生と入れ替わるように生徒会の人が入ってくる。


「皆、お疲れ様。これから昼食休憩なので、食堂へ移動しますよ。さあ、立ち上がって〜」


 しっかり管理されるらしいので私も立ち上がり、生徒会の人の言う事を聞いて、食堂へ向かう。


「食事の後はまたこの教室へ戻ってきてくださいね〜、午後からは3つの試験で終わりですから、気を抜かないようにしてくださいね〜」


 この教室を覚えておかないと。

 まぁ分かりやすいので、問題はないか。

 朝の時のように、生徒会の人が教室の皆をまとめて中央ロビーまで戻ってきた。

 ここで女の子と男の子はお互いの寮へと別れて戻っていく。

 他の教室たちの子も一斉に出てきたので、結構な数だね。

 学院が始まったら更に2年生から6年生まで集まると思うと凄い数になるよね……フォルナちゃんは見当たらないので、私も素直に食堂へ向かおう。


「シィナちゃん、こっち〜」


 食堂へ着くと、フォルナちゃんとシュアレ姉様、ティータ先輩が私の席を確保していてくれた。

 食堂は広いで席は問題ないけど、どこにいるかが分からなくなるのでそこは大変。


「シィナは試験どうだった?」

「疲れました」

「私はシィナちゃんから貰った飴のお陰で頑張れたよ、ありがとうね」

「まだある?たくさんあるからあげるよ」

「大丈夫、まだ残ってるよ」

「シィナちゃん、私も欲しいな〜」

「貴女はいらないでしょ……」


 食事を頼むけど、お腹いっぱいにしたら居眠りしそうなので半分の量を頼んだ。

 午後からも寝ないように頑張ろう。


  

 ……そして私は耐えきった。

 眠気と暇の戦いに耐えて、全ての入学試験を解き切った。

 後は結果を待つだけだ……とは言ってもクラスが決まるだけなんだけどね。

 3日後にこの学院は始まるので、それではゆっくりしていよう。

 また王都見物に行ってもいいかな…………とりあえず甘い物が食べたいよ。


 

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