第15話
買ったね〜……もうレーアとココナさんの背負い袋はほぼほぼパンパン。
味噌と醤油ならぬ……ボボンとゾイ以外はそんなに高くないので、ついつい買い込んでしまった。
でも市場の半分も見ていない。
今日はこれくらいでいいけど、また来たいな。
そろそろお昼だけど、どうするのかな?
「シュアレ姉様、そろそろお昼ですが、今日はどうしましょう」
「屋台で食べ歩くのもいいし、子猫の奇跡亭にも行く予定だから、どっちでもいいわよ」
市場の手前にイートインコーナーみたいにテーブルとベンチのような長い椅子もあったから、そこでもいい。
「ではせっかくなので、屋台を見てみましょうっ」
「じゃあ、こっちから行くわよ」
「レーア、ココナさん大丈夫?重くない?」
「大丈夫ですよ、見た目程ではありませんから」
「ええ、これくらいなら問題ありませんよ」
屋台は市場を囲むようにたくさんあるので、お互い食べたい物があれば買って行く。
シンプルにお肉を焼いた物や、パンを売っている屋台もある。
色々見ていたら、鎮魂祭に食べた丸焼きもあったのでデザート代わりに買った。
色々買い込んで、空いているテーブルに着いて4人で昼食を食べる。
「はぁ、ようやく一息つけるわね」
「どれも美味しそうです」
「シィナお嬢様、シュアレお嬢様、果実水を買ってまいりました、どうぞ」
「ありがとうレーア」
「頂くわ、ありがとう」
「お嬢様方、手をコレで拭いて下さいね」
「「は〜い」」
少し濡れたハンカチをココナさんが渡してくれるので手を拭く。
色々触ったからね。
とにかく賑わっている。
焼き鳥の串焼きを食べながら周りを見る。
子供連れの親子がいたり、若いカップルがいたり、男同士でお酒を飲んでいたり……色んな人がいる。
「ここからでもお城は大きく見えますね」
「ええそうね……あっ、お城と言えば、シィナ気を付けなさいね今年は第2王子が入寮するそうよ」
「第2王子?」
「ええ、この国の王子様よ、シィナと同じ学年になるからね」
「特に興味はありませんよ、近付きもしませんから大丈夫です」
同い年ってことは12歳よね……12歳って中学生くらいにしか見えないからね……別に白馬の王子様とかには……精神年齢は元の18歳とこっちに来てから4年経ったから、18+4で22歳よ?
ヒルク兄様とかダリル兄様くらいの年ならいいけど……12歳は……
「シィナに興味がなくてもあっちから寄ってくるかもしれないからね」
「男は誰であろうと敵ですっ」
「シ、シィナお嬢様、ですが王族には少し手加減をした方がいいですよ?」
「威嚇くらいならいいでしょう?」
「あれ?シィナもう威嚇使えるんだ、さすがね」
威嚇……威嚇とは魔力制御をしながら相手を睨みつけることで発動する魔法の一種……名前通り相手を威嚇して怯えさせることができる。
「お祖父様に習いました」
「ふふっ私もお祖父様から習ったわ」
「王族に威嚇しても宜しいのでしょうか……」
「レーア大丈夫よ、学院の規則では身分を振りかざす行為は禁止されてるからね、私たちより下の身分の貴族たちが何も言い返せないような状況にはなかなかならないわ。例えば、王族相手に男爵の子供が楯突いても大丈夫よ」
「はぁ……」
「身分を振りかざしたヤツは罰則を与えられるからね……まぁ、王族が学院にいる状況は私も経験ないから、どうなるかわからないけどね〜」
「第1王子とは歳が離れていますからね……」
「それより、シィナに私の友達を紹介しても構わないかしら?この第2王子が来るって昨日知らせてくれたのよ」
「はい、では今日買った物で甘味を作るので、それを食べて貰いましょう」
「いいわね、そうしましょうっ。いい子だからシィナともお友達になってくれると思うわ」
姉様の友達なら大丈夫だろう……あの人以外なら……
「ルルエラさんが怖いので私の部屋でもいいですか?」
「ふふっ、いいわよっ」
「今日はこの後どうしますか?目的は果たせましたけど」
「これ以上は持ちきれないし、今日は帰りましょうか……子猫の奇跡亭へ寄ってからね」
「はい、わかりましたっ」
昼食を食べて、丸焼きも食べ終え満足しました。
雑談しながらまた乗り合い馬車が来るのを待つ。
30分に一回は通るらしいので、喫茶店近くまで乗る。
お昼過ぎは人がそんなに乗っていなかった。
王都は全て地面が石畳なので乗り合い馬車は快適だよ。
昼食を食べたせいもあって少しウトウトする。
今日もポカポカ陽気で温かい。
喫茶店に着くと、今日も列が出来ていた。
裏口からまた入っていき、要件を伝える。
新しい料理の開発と言ったら興味深そうにしていた。
ここに届いたらそのうち取りに来よう。
そのまま帰ろうとしたけどお茶を出されてしまったので、乗り合い馬車が来るまで少しお茶を楽しんだの。
なんだかんだで寮の部屋に帰ってきたのは3時頃になったかな。
レーアとココナさんは頑張って3階まで運んでくれた。
姉様は購買部で塩、砂糖、卵を買ってきてくれて、ついでに売っていた乳も買ってきてくれた。
とりあえず魔石冷蔵庫に食材を入れていく。
さて、どうしようか……乳がある。
あの濃厚な乳がある。
……この世界の乳は搾りたての乳だ。
あっちの世界の市販されている牛乳よりもっと濃厚だ。
お腹を壊すこともなく、最高においしい。
ちなみになんの乳かは知らない……謎生物の乳だ。
よし、今日はシンプルにパンケーキにしよう。
泡立て器もあるし、混ぜて焼くだけだし。
ただ、時間が微妙だね。
夕食後の甘味で軽く食べようか。
今日は結構歩いたし、夕食も少し気を付ければ……お弁当でいいかな?
部屋なら調整できるしね。
シュアレ姉様に相談したら、ここでその友達も呼んで一緒に食べることになった。
お弁当の手配もレーアとココナさんに任せよう。
パンケーキは用意しておけばすぐ焼けるから、問題は何をかけるか。
果物も買ったからジャムでも作ろうか……
試食した甘いヤツを……名前なんだっけ……ミカンじゃなくてミアンだ。
これを皮を剥いて鍋に入れる。
ミアンはただ甘い……酸味も欲しいので、レモンのような酸味を持ったヤツも追加しておこう。
これの名前はセンカ。
鍋にセンカとミアンを入れて、砂糖を同量くらいまぶして小一時間放置。
後は煮るだけでいい。
待っている間にパンケーキの生地を混ぜておこう。
材料をボウルに入れて泡立て器で混ぜるだけ。
バターも買っておいたし、油はココナさんの部屋から持ってきてもらったし……よし、ほとんど用意はできた。
姉様は友達の所に行っていない、レーアもココナさんもお弁当を頼みに行ったのか、いつの間にか居なくなっていた。
ジャム作りはまだ時間が掛かるし……少しベランダにでも行ってまったりしよう。
ベランダに出ると風が気持ちいい。
門のところから馬車が一台やって来た。
今日も入寮してくる人が多い……もうすぐ入学試験だしね。
…………あれ?また校庭を全力疾走している人がいる。
たぶん同じ人だ……鍛えているのだろうか?
まぁいいか……私には無関係だしね。
……そういえば王都に旅に出てから今日までランニングしてなかった。
今日はそこそこ歩いたからもういいけど、明日からランニングしようかな。
体を動かすと勉強する時の集中力も上がる気がする。
それに私はまだ諦めていない……もっと身長を伸ばしたいっ。
できればお胸も欲しいっ!シュアレ姉様もだいぶ育っている……シィナちゃんも素質はある筈だよね?
運動、睡眠は大丈夫……食べ物もなんでもよく食べている。
苦い野菜も食べられるし…………そういえば味覚が変わったと思う。
8歳の頃は苦い野菜が凄く苦く感じていた。
この世界のピーマン的なヤツは最悪だった。
子供って味覚が鋭いとか聞いたことはあるけど、本当に鋭く感じる。
でも12歳の今は多少楽に食べられるようになってきた。
成長してるってことだよね?
……味覚だけなのかな?
12歳の体……今年は13歳……中学生の体……未だに違和感を感じる時がある。
中身は22歳で思考は私がしているけど、感情が豊かになった……というかたまに幼い部分が自然と出てくる感じ。
…………もしかして味覚のように幼児退行とかしているの?
今更だけど……そんな気がする。
中学生は幼児ではないから、精神年齢が若くなっている感じもする。
良いことなのか悪い事なのかは分からないけど……
お祖父様に初めて持ち上げられた時もマジ泣きしてしまったし。
……でもこればっかりはしょうがないか……私の中にはシィナちゃんがいる。
もしかしたらそのせいかもしれない。
(………………)
ううん、邪魔なんて思っていないよ、本来私がシィナちゃんの体を使っていることの方がおかしいんだからね。
私頑張るから……シィナちゃん見ていてね。
聖女様に恥じない行為を心掛けるよっ!
とりあえずこの学院で勉強だね……特に魔法の勉強をもっとしたい。
でも魔法だろうがなんだろうが、何をするのも体を使うからね……鍛えておいて損はない。
……考え事をしていたら甘い物が食べたくなってきた。
よし、ジャムでも作ろう。
…………私の精神年齢は……元から低いかもしれない。
ミアンのジャムは鍋で煮込んだので、後は冷ますだけ。
まだ夕食前だし、少し勉強してよう。
勉強は歴史と王族の名前の復習……それから貴族の常識……
こんなの覚えてもしょうがない気もするけど、試験ってそんなものだしね。
勉強していたらレーアが帰ってきた。
少し洗濯をしていみたい。
レーアも学院のルールを勉強している……私も頑張ろう。
「シィナお嬢様、シュアレお嬢様とご友人がいらっしゃったようです、お通ししますね」
「あ、は〜いっ」
勉強に集中していたらそんな時間になっていた。
もう夕方で少しだけ薄暗い。
レーアが魔石灯で部屋を明るくしてくれた。
シュアレ姉様の友人……どんな人かな。
勉強は止めて行ってみる。
「シィナ〜連れて来たけど大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ」
というかシュアレ姉様の後ろでヒョコヒョコこっちを見ている。
ああ……凄く綺麗じゃない?
「紹介するわ、私の友達よ」
「初めまして、ティータ・アンベットと申します、宜しくお願いしますね〜」
「シュアレ姉様の妹でシィナ・リンドブルグと申します、こちらこそ宜しくお願いしますっ」
「……本当に可愛い〜」
私の正面にやってきてしゃがんで目線を合わせてくれる。
おお……美人さんだ。
シュアレ姉様はどちらかというと可愛い系だけど、このティータさんは美人系のお姉さんだ……お胸も大きい……
「えっと、ティータ先輩は美人ですねっ」
「そう?ありがとうっ、シィナちゃんも綺麗で可愛いよ〜」
頭を優しく撫でられる。
なんというか、お母様のような母性を感じる……優しい表情だ。
「シュアレちゃんにこんな可愛い妹がいて羨ましいよ〜」
「ティータにも可愛い弟がいるでしょ?」
「トールも可愛いけど……はぁ〜……黒い髪なんて初めて見たけど綺麗でいいな〜、妹いいな〜」
ずっと私の髪を撫ででいる。
少しおっとりした感じの人だね。
「弟さんは何歳ですか?」
「トールは今13歳、今年で14になるわね〜、シィナちゃんの1つ上ね」
「じゃあトール先輩ですね」
「…………シィナちゃん、弟と結婚しない?結婚したら私の妹に……」
「ちょっとティータ……ぶつわよ」
「うっ!?そ、そんな本気で威嚇しないでぇっ!う、嘘よっ嘘っ!」
おお……姉様の威嚇が炸裂している。
撫でるのを止めたティータ先輩は小さくなって震えている。
「ね、姉様、それくらいで……」
「姉様……って呼ばれたいっ…………ううっ!ゴメンゴメンっ!機嫌なおして〜シュアレちゃんっ!」
「まったく……シィナは私の妹よ。誰にも譲らないわっ」
「…………シィナちゃん、1つ質問してい〜い?」
「はい、なんでしょう?」
「シィナちゃんに寄ってくる男性がいたらどうするの?」
「男は敵ですっ」
「…………う、うん、ありがとうね〜。…………はぁこの姉妹似てる……」
ティータ先輩はため息を吐いていた。
そんなに似てるかな?シュアレ姉様と私って。
「あ、シュアレ姉様、甘味は夕食後でもいいでしょうか?」
「ええ、お任せするわ。ティータもそれでいいでしょ?」
「……本当にあの子猫の奇跡亭の甘味はシィナちゃんが作ったのね……まだ信じられないわ……」
「信じなくてもいいわよ、シィナの甘味も食べなくていいからね〜」
「シュアレちゃん、ゴメンなさいっ!信じますから食べさせて〜っ!」
「と、とりあえずテーブルへどうぞ、ティータ先輩」
「ありがとうっシィナちゃんっ…………妹いいな〜」
シュアレ姉様とは本当に仲が良いみたい。
しばらく雑談していく。
「シィナお嬢様、食堂でお弁当を受け取って参りますが、ティータ様は大丈夫でしょうか?」
「あ、大丈夫よ、ココナとティータの侍従が取りに行ってる筈だから、レーアは普通に取りに行ってね」
「かしこまりました」
「レーア、お願いねっ」
レーアは部屋お弁当を取りに行ってくれた。
まだ学院に来て2日目……今朝は食堂に行ったけど、夕食はまだいってないな……明日は行ってみようか。
「シィナちゃんは入学試験は自信ある?」
「ん〜、歴史と王様の名前とか覚えるのが苦手で復習してました」
「そこは暗記するしかないからね〜、頑張っていい成績を取ってねっ」
「頑張りますっ」
「シィナなら大丈夫よ、落ち着いていれば問題ないわ」
「はいっ、姉様っ」
「…………」
「……やらないからね」
「な、何も言っていませんよっ?ホホホッ」
姉様の愛も少しだけ重い。
嫌ではないけど少しだけ重い。
「そういえば王子様が入寮すると教えてくれたのはティータ先輩ですか?」
「ええ、そうよ」
「私の弟がそう言っていたのよ、たぶん今日か明日には入寮するとか言ってました」
「やっぱり興味ある?」
「興味はないですが、一度くらいは王族ってのを見てみたいですね、丁度勉強しているので」
「シィナちゃんなら普通に求婚されそうですね〜」
「そうよ、気を付けなさいね」
「私に求婚なんてしてきませんよ、まだこんなに背が低いし……」
女性っていうかまだ女児にしか見えないよね……悲しい現実だし。
「お母様の言葉を忘れたの?その髪……そんな濃い黒髪だから絶対目を付けられるからね」
「あ、そうでした……どうしましょう?」
あ〜……忘れてたね……魔力が多い程髪が濃いとかお母様が以前言っていたね……でも……まだ12歳だよ?女児だよ?…………ナイナイナイ。
絶対にないと私は言い切るよ。
「寄ってきたらどうするの?お父様やお祖父様がなんて言っていたの?」
「男は敵ですっ、王子様でも威嚇しますっ」
「そう、それでいいわ、シィナの威嚇ならたぶん逃げていくわよ」
「兄様たちは大声を出して逃げなさいとも言っていました」
「なにかあったら私の所に来るのよ、いいわね?」
「はいっ!姉様っ!」
「…………リンドブルグ家って凄いのね」
こういう事は事前に対応策を考えているといないとでは全然違ってくる、とお祖父様も言っていたからね。
これは大事なことだね。
そんな事を話していたら、レーアとココナさんが全員分のお弁当を持ってきてくれた。
少し重い甘味を作るので、完食はしないようにも言っておいた。
それから皆で夕食を食べる。
一人増えると話も弾むので、楽しい夕食の時間を過ごせた。
ティータ先輩はいい人認定しよう。
ちなみに夕食は魚とお肉がバランス良く入っていて、サラダも美味しかったけど、全体的に残してしまった。
なるべくお残しはしたくないけど、甘味の為ならしょうがないのです。
全員夕食を食べ終えたので、私とレーアで甘味を作る事にした。
ジャムも常温になっていたので味見してみると、予想通りの味になっていた……程よい酸味のある甘いジャムだ。
それからパンケーキを全員分焼いていく。
大き過ぎない程の大きさに調整して焼く。
味見をしても問題ない……美味しい。
この世界にもパンケーキに近い物はあるけど、乳も卵も入っていないので、あまり美味しくないんだよね。
更に今回はなるべく弱火で仕上げてフワフワになるように調整していく。
蓋をして蒸らす感じにすればいいのだ。
後は……お茶用に輪切りにしておこう。
お皿に乗せて完成っ。
瓶詰めにしたミアンジャムも持っていく。
パンケーキはレーアとココナさんが運んでくれた。
「シィナそのビンはジャム?」
「はい、今朝買った果物で作りました」
「まぁ……本当に子猫の奇跡亭と同じようなものですね〜、いい香り……」
「ジャムをこのスプーンでお好みの量をかけて下さい、そこそこ甘いのでかけ過ぎはだめですけどね」
「「は〜いっ」」
ナイフとフォークを使って姉様とティータ先輩が一口食べる。
食べた瞬間にお互いに見合って嬉しそうにしてくれた。
口に合って良かったよ……
パンケーキもあっちのお母さんと一緒に作っていた思い出の品だし。
褒めて貰えるのは嬉しい。
「レーアもココナさんもジャムどうぞ」
「ありがとうございますシィナお嬢様」
「……シィナお嬢様の新作……頂きます」
「そんなに凝ったものではないので、気軽に食べてください」
私も食べようっ…………うん、パンケーキ美味しいっ。
ジャムも少し酸味もあっておいしぃ〜、いい感じだよ。
「これが凝っていないの〜?……シュアレちゃん、貴女の妹少しおかしいわっ」
「まぁまぁ、こんなに美味しい物を寮で食べられるのよ……最高っ」
「あ、コレをお茶に入れてみて下さい」
さっき輪切りにした酸味のあるセンカを姉様に勧める。
「これって市場の果物?」
「はい、お茶の味がスッキリしますよ。」
「へぇ〜」
そういえば、お茶に入れるのは砂糖しか入れたことないよね……
こういうレモンティとかミルクティは見たことないね。
…………喫茶店のメニューになるかな?
お母様案件かもしれない。
「シィナお嬢様、このお茶とても美味しいです」
「ええ、風味が変わって、美味しいっ」
「口の中をサッパリさせてくれますね〜」
センカティーは気に入ってくれたみたい、皆で感想を言い合っている。
甘いのをスッキリさせてくれるので、これでまたパンケーキが進む……
夕食を減らして良かったよ、私はもうお腹いっぱい……
明日はもう少し軽い甘味でも作ろう。
「シィナちゃん、美味しい甘味をありがとうね〜……私の侍従の分まで頂いて。また良かったら誘って下さいね〜」
「はい、また何か作っておきますっ」
「シィナまた明日ね、お休みなさい」
シュアレ姉様とティータ先輩は自室へ帰っていった。
レーアと一緒に片付けもして、私は少し勉強してから眠りについた。
試験まであと3日……
今日は市場も見れたし楽しかった。
……翌朝もそこそこ早く目が覚めてしまったので、レーアに支度して貰ってから一人でランニングをしてみることにした。
運動しやすい服に着替えて、寮を出てみる。
寮の前をマイヤーレ寮長が掃き掃除をしていたので、キビキビと挨拶してから駆け出す。
とりあえず寮の周りを一周してみる。
実家の屋敷も大きいけど、この寮も負けていない……というか大きい。
高級大型ホテルより大きいと思う……そんなところ行ったことないけど。
まぁそうだよね、私の使っている部屋があれだけ大きいのだ……自然と建物は大きい、なので一周するのもなかなか時間が掛かる。
他には誰も走っていないので、朝の新鮮な空気の中を気持ちよく走っていく。
敷地がどうなっているのかも分かる。
寮の裏手には屋敷のように、動物も飼っていた。
たぶん卵を産む鳥さんの小屋だっだり、馬小屋があったりもする。
まだ見たことのない乳を出す動物は見当たらない。
牛とかヤギ的な動物だと思うけど……
他にもまだ行ったことのない本校舎……本校舎の裏手にも何かの建物があった……後で姉様に聞いてみよう。
それからやっぱり精霊の塔と呼ばれる建築物はここの寮からは見えない。
お父様とお祖父様からは一人で近づくなと言われている。
これも姉様に聞いておこう、どこにあるかが分かれば注意できるしね。
あとは何も考えずにただ走った。
4週程寮の周りを周回してランニングを終えた……疲れが心地良い程度が一番だからね。
朝食にはまだ早いけど、メイドさんたちはもう働き始めている。
レーアも朝イチで洗濯すると言っていたので、洗い場に居るんだろう。
部屋の鍵は2つ支給されたので、自分の分は持ってきてあるので自分で扉を開ける。
そういえば、私の部屋の両隣は誰か居るのかな?
今のところ人の気配はしていない。
試験は3日後だからそろそろ入寮してくるとは思うけど。
友達……出来るかな…………少し不安になる。
部屋にはレーアもいないので、一人で着替えてしまおう。
お気に入りのブラウスは何着もあるのでほぼ昨日と同じ格好だ。
今日は学食で朝昼晩と行ってみることに昨日姉様と話した。
あと、夜のお風呂は大浴場にも行ってみることにした。
まだ冬休みで人が少ないうちに行ってみるのがいいからね。
着替えた後は魔力制御の練習……実家でもランニングしてから魔力制御の練習をしていたので、いつものルーティンだ。
速度をゆっくりと巡らせ、高速に切り替え……またゆっくりに戻す。
これだけなら簡単だけど、油断はしない。
私の高速循環魔法は危険なのだ……間違いは起こさない。
そうして魔力制御をしていたらレーアがカゴを持って帰ってきた。
洗濯物を乾かすのはメイドさんの仕事だけど、私が温風で乾かしてしまう。
レーアは助かると言っていたけど、いい魔法の練習になるしね。
私とレーアの洗濯物しかないのですぐに終わるけど。
そろそろ朝食なので、今日は私が姉様を迎えに行ってみる。
レーアと一緒に2階へ行くと、姉様の部屋の前にはティータ先輩もいた。
「おはようございます、ティータ先輩っ」
「おはよう〜シィナちゃ〜んっ……ねぇ、シィナちゃん、私のことも姉様って呼んでくれない?先輩じゃ少し他人行儀な感じするよ?」
「シュアレ姉様が……怒りませんか?…………えっとティータ姉様……」
「ああっいいわね〜、弟よりも可愛いっ!…………妹いいなぁ」
扉が開いたけど……ティータ先輩は気付いていない。
ゴゴゴと漫画のような効果音がなっていることにも……ティータ先輩は気付いていなかった…………ご愁傷さま……
学食へ着くと、またレーアたちメイドさんとは一旦お別れだ。
昨日は窓際の2人席へ座ったけど、今日は3人いるので中央付近のテーブルへ行ってみる。
昨日のセニスさんではなく、別のメイドさんがついてくれる。
今日は野菜中心のヘルシーなやつにしてみる。
葉野菜、根菜、ブロッコリーっぽいやつ……それから豆が大量に出てきた。
卵焼きやスープもあるけど、確かに野菜中心だ。
塩味のドレッシングとオリーブオイル的なものがかかっている。
…………こうなるとやっぱりあの調味料が欲しいね。
昨日市場でお酢も発見したから作ってみよう。
日本人は豆を食べているのが一番いいとかなんとか聞いたことあるけど。
なかなかこの大量の豆を食べるのは大変だ。
そこそこ満腹になるのでさすがにこれ以上は食べられない。
…………お残しするのは嫌だけどこれは無理だった。
ふと、周りから色んな人に見られている気がした。
ヒソヒソと話すような声とかは聞こえてこないけど……やっぱりこの黒髪のせいかな。
周りはお貴族様なだけあってみんな髪の色は濃いめだ。
色とりどりで賑やかに見える……
……もう食べ終えたので出ていこう。
そう思ったら……後ろに誰か居る………うっ、忘れていた……この人は……
「ルルエラさん、妹に何か用?そろそろ出て行くけど?」
「あらシュアレさん、おはようございますっ…………もう行っちゃうの?シィナちゃん?お姉さんとお話しない?」
「こ、これから試験勉強をしますので……また今度……」
「ふふっ、分かりました。今度お話しましょう?約束ね?」
「……は、はぁ」
「シィナ、行くわよ……ルルエラさん、ご機嫌よう」
「ええ、シュアレさんご機嫌よう……シィナちゃん試験頑張ってっ」
「は、はいっ」
シュアレ姉様とティータ先輩とで食堂を出て行く……今の一件もあって、更に視線が注がれた気がした。
何をそんなに見ているの……少し怖い。
レーアたちとも合流して、食堂の近くの部屋に入っていく。
ここは談話室のようで、簡易キッチンもあり、いつでも誰でもお茶が楽しめるみたい。
「ココナ、お茶の用意をお願いね」
レーアとティータ先輩のメイドさんも一緒になってお茶を用意していく。
食後はここでまったり出来そうだ。
そこそこ広いので、テーブル席も多い。
壁際にはソファーもあってくつろげそう……テレビもあれば完璧だったね。
ティータ先輩のメイドさんからは昨日のホットケーキのお礼を言われた。
美味しかったそうでなによりだ。
「ここでお茶をするのはよくあるのですか?」
「ええ、食後に集まってから授業に行く時もあるわ……」
「時間に余裕がある時だけですからね〜、これから授業が始まったら気を付けてね」
お茶を飲みながら寮のルールだったりこういう場所の使い方も教えてくれた、本当に一人だったら何も分からなかったよ。
……シュアレ姉様は一人で頑張ったんだね。
「ルルエラさんって本当にシィナちゃんを気に入ったのですね〜……私も気に入りましたけど」
「少し怖いです……公爵令嬢だし…………あ、さっき約束してしまいました」
「してなかったから大丈夫よ、シィナは、はぁっていってただけだしね」
「姉様それはヘリクツですよ…………いっそのこと甘味でも作ってあげましょうか?」
「調子に乗るだけよ。シィナは大人しく部屋で勉強してなさい」
「は〜いっ」
姉様のいうことは聞いておこう……さて今日はどうしよう?
とりあえず部屋に戻ろうかな。




