第13話
5日目……今日はようやく王都に辿り着ける。
昨日は色々あって疲れたし、早く落ち着きたいよ。
最後の街の宿屋も結構快適で、よく眠れた。
しかも王都は昼前には着けるからようやく旅も終わり。
朝食もしっかり食べて、忘れ物のないように……ハチカちゃんのペンダントはあれからずっと首に下げている。
これを握ると少し落ち着くので、安心出来る。
ハチカちゃんも学園の入学試験はあるって言っていたからね……お互い頑張ろう。
お馬さんとはもうすっかり仲良しなの、水をくれる人の認識がされてるのかどうかは知らないけど、朝私に会うとお馬さんたちが喜んでいるとエントさんが言っていた。
動物は好き。
なんていうか純粋な気がする……私の勝手な思い込みかもしれないけどね。
今日も宜しくね。
馬小屋には水があるけど、一応バケツに水を出すと普通に飲んでいた。
馬車で王都を目指す……凄い城壁……まだ遠いけどその圧倒的な大きさに改めて驚く。
東京ドーム何個分だろう?…………東京ドーム行った事ないから大きさがわからないや。
日本の人たちは東京ドームの大きさが全員理解できてるのだろうか?
よく例えで何個分とか言うけど……まぁどうでもいいか……
朝の街道には馬車が多く行き交う……これなら魔物は出ないよね?
車内では王都のレクチャーが始まった。
シュアレ姉様は私に学院外の事も教えてくれる。
ココナさんはレーアに荷物の扱い方や、寮のことなどを話していた。
話が弾むと時間が早く感じて、いつの間にかもう王都前だ。
王都は四方に検問所がある。
まるで高速道路の入口の様。
入口用と出口用が別になっていて、それぞれ2箇所ずつある。
更に平民用と貴族用になっている様で、平民用は列になっている。
貴族用はそんなに混んでいないので、スムーズに馬車は検問所まで辿り着いた。
「シィナ、お父様から貰った家紋持ってる?そろそろ検問よ」
「はい、持ってます」
「それを検問所の兵士さんに見せなさい。通して貰えるから」
「分かりました、やってみます」
懐から家紋入りの小さな短剣を取り出す。
これは身分証明書みたいな物らしい、絶対になくしてはいけない物だ。
「シュアレお嬢様、シィナお嬢様、そろそろ検問ですが大丈夫ですか?」
「エントさん、大丈夫ですっ」
「宜しくお願いしますっ」
なんか緊張する。
もし入れて貰えなかったらどうなるのかと考えると…………どうなるんだろ?
Uターンして帰るの?
そんな馬鹿なことを考えていたらすぐに私たちの番がやってきた。
最初にエントさんと兵士さんが話していた。
なんか……知り合いみたいに仲が良い会話をしていた。
エントさんはベテランだから顔を覚えられてるのかな?
人数や荷馬車の数を言った後で、兵士さんが窓から中を覗いてきたので、私は窓を開ける。
「リンドブルグ家のお嬢様、家紋を見せて頂けますか?」
「はい、どうぞ」
私の握った短剣を兵士さんは何かの紙と家紋を見比べている。
家紋の確認かな?
「…………はい、問題ありませんっ!ご協力感謝致します。王都へようこそっ」
「恐れ入ります」
「こちらは王都の簡単な地図です、どうぞお持ちください」
問題なかったみたいで、すんなり王都へ入ることが出来た。
城壁って分厚いんだね……凄い……地図も貰えた。
「家紋はしまっておきなさいね」
「はい、ドキドキしました」
「ふふっ、最初は緊張するものよ」
「シィナお嬢様ご立派でした」
「そう?へへっ」
この後の予定ではリンドブルグ家の経営している喫茶店で昼食を食べる予定だけど、どこにあるのかな?
「姉様、喫茶店ってどこにあるのですか?」
「さっきの地図を見せてくれる?」
私は手に持っていた地図を広げていく。
ざっくりした地図だけど、宿屋や公衆トイレの場所くらいは分かる観光用マップみたいな感じだった。
中央にはお城……学院も載っている。
「えっと……ここが今の検問所で、学院がここだから……この辺りね」
「……ここまで馬車でどのくらい掛かりますか?」
「30分位かしら」
「…………馬車で30分も掛かる……王都は大きいです……」
なんとなくの縮尺は分かった……大き過ぎる……
喫茶店は学院の近くのようなので無駄に移動しなくて良かった。
そろそろお馬さんにも食べ物と水をあげたい。
窓から見る王都はどこもかしこも人で溢れていた。
ちゃんと馬車が走る道もあって、街道よりも振動が少なくてとても快適。
都会って感じがする。
でもリンドブルグ領の自然豊かな方が好きかな……
まぁ、住めば都っていうし慣れの問題かもしれないけどね。
子供が沢山いて何かで遊んでいたり、犬を散歩させてる人がいたり、主婦のおばさんたちが集まって井戸端会議をしていたり……本当に井戸の側だよ……
とても平和そうでいいところのようだね。
窓に張り付いて見ていたら、少し先に大行列もあった。
馬車はそっちの方へ曲がっていった。
「姉様、この先に大行列のお店がありましたよ」
「…………何のお店だと思う?」
「お昼ですから食事処ですか?」
「そうね、大体正解よ」
やっぱり人気店とかあるんだね……最近シンプルな料理ばかりで……ジュリエッタさんの料理が食べたいよ…………少しホームシックになる。
馬車が止まったけど、着いたのかな?
「シィナ、降りるわよ」
「は〜いっ」
扉を開いて降りると、馬小屋があった。
どこだろう?ここは喫茶店の敷地かな?
とりあえずお馬さんに水をあげよう。
「ココナ、手配をしてきて」
「かしこまりました……レーアさん、こっちへ」
「はい」
エントさんや御者さんとお馬さんのお世話をする。
人参に似た野菜が好物で、手のひらに立てて与えるとパクっと食べてくれるので可愛い。
水もバケツに出してあげよう。
「エント、マルム、荷馬車の見張りをお願い、これお弁当ね」
「「はっ!かしこまりましたシュアレお嬢様っ」」
エントさんたちと御者さんたちのお弁当のようだ。
確かに荷馬車の見張りは欲しいからね……
「エントさん、お水入ります?」
「はい、シィナお嬢様の出す水は冷たくてなんか美味しいんですよね」
「助かりますシィナお嬢様っ」
旅の男性陣の水袋に水を注いでいく。
この旅では完全に水の係になった私……水くらいはいくらでも出すよ。
「シィナ、こっちにいらっしゃい」
「は〜いっ」
シュアレ姉様について行くけど……ここが喫茶店なの?
看板もないし……なんか裏口っぽいけど。
黙ってついて行くと、二階へ上がって行く。
……あ、この香り……久しぶりにいい香りがする。
大部屋に入っていくと、テーブルに沢山の料理が並んでいた。
全部知っている料理……ここが喫茶店で間違いないようだね。
でもなんか……お店っぽくないよ?
普通の部屋に見える。
「ここが喫茶店なのですか?」
「ここは従業員たちの休憩場所よ、お店は下ね。」
「ああ、なるほど……」
経営者の裏技だ。
「シィナお嬢様、こちらで見てくださいっ凄いですよっ」
「ん?外?」
レーアが珍しくはしゃいでいた。
窓の外に何か見えるのかな?近付いて見てみる。
「……ああっ!?さっきの大行列ですっ!」
「はい、こんなに多くの人がシィナお嬢様の考えた料理を食べに来ているのですねっ」
うっ!?そうなの?だって軽く100人くらい並んでるよ?
「今、王都一番の料理と甘味を出しているのはココよ」
「人気があるとは聞いていましたけど……こんなに?」
「列は途切れることないってよ、昼食の時間の後はお茶の時間で甘味も売れて、夜もやっているからね」
「はぁ……」
「だからここのお陰でだいぶ儲かっているみたいよ、2号店も出す予定だし」
「……2号店」
これがお母様が忙しくしている理由か……家族会議をした甲斐があったよ。
お金は大事……でもまさか私が食べたかっただけで作った物がこんな事になっていたとは思ってなかったよ……
「さあ、頂きましょう」
「は、はい……」
とりあえず食べよ、お腹は空いている。
久しぶりに食べるジュリエッタさん風の料理は美味しかった。
食事も甘味も美味しい……幸せ……
「お食事中失礼します……シュアレお嬢様、シィナお嬢様にご挨拶しても宜しいでしょうか?」
「ええ、シィナ、ここの料理長よ」
「は、はいっ」
落ち着いた感じのおじさまだ。
なんか……出来る男って感じの。
「お初にお目にかかります、子猫の奇跡亭料理長をしているモーガンズと申します。シィナお嬢様にようやく出会えて女神の元に行った気分です」
「……シィナ・リンドブルグです、よろしくお願いします…………子猫の……奇跡亭?」
なに?その可愛らしいお店の名前はっ!?子猫の奇跡って……
「店名に相応しい……いえ、シィナお嬢様はそれ以上に愛らしいお嬢様ですね、シュアレお嬢様が自慢するのも分かります」
「ふふっ、そうでしょう?シィナは自慢の妹ですからっ」
「うっ!?」
子猫って私のこと?…………は……恥ずかしいっ!!
お母様…………ああっ……
「申し訳ございませんが、これで失礼します。シィナお嬢様、ごゆっくり食事をお楽しみください。12歳のお誕生日おめでとうございますっ……ではっ!」
……出来る男は去っていった。
…………あまり考えないようにしよう……あ、これも美味しい。
「馬の休憩もあるからね、ゆっくりしましょう……やっぱりここの料理は美味しいわ、実家にいるみたい」
「私もジュリエッタさんの料理が恋しくなってきたので、美味しいですっ」
「学院が休日はいつもここに来ているのよ……シィナのお陰よ、ありがとうねっ」
「……お母様の手腕が凄いのですよ……2号店も……」
「……それもあるわね、忙しそうだし」
食事が終わったら外の男性陣にも甘味を差し入れると、美味しそうに食べてくれた。
……余り物でごめんなさい。
最後に裏手から厨房の様子とお店の様子を邪魔にならないように覗く。
厨房は忙しそうにしているけど、焦ってはいない……余裕がある感じだね。
さすが出来る男は采配が上手いようだ。
お店は50人くらい入っていて、満員だ。
外にはまだまだ列が出来ている。
「皆、手を止めずに聞いてくれ、こちらがあのシィナお嬢様だっ!ここの料理の考案者で我らの女神だっ、シィナお嬢様のまたのお越しを心よりお待ちしておりますっ」
「「「お待ちしておりますっ!」」」
「ご、ご馳走様でした、美味しかったです。また来ますねっ」
「「「ありがとうございますっ!」」」
「し、失礼しま〜す……」
「「「いってらっしゃいませっシィナお嬢様っ!」」」
……なに?仕込み?セリフを同時に言ってるよ……料理人だけに仕込んでいたの?…………私、上手くない?
……裏口から出て馬車に乗り込む。
もう準備は出来ているので今度は寮へ向かう。
姉様は帰ってきた感覚だけど、私は入寮だから全然違う。
大変なのは荷馬車一杯の荷物を運ぶ人だけどね……
未だに貴族の感覚がわかっていない。
人を使うのは……難しい……どうしても遠慮してしまう。
こればっかりは慣れないなぁ……
子猫の奇跡亭…………喫茶店から学院はまあまあ近い。
普通に歩いて行けそうだ。
ただその学院も大きい……学院の塀が長々と続いている。
……歩けるよね?
入口は2つあるようで、正門と裏門があって、当然今回は正門から入る。
さすが貴族の通う学院だよ、門番さんが4人くらい見える。
今度は姉様が帰寮報告の為に門番さんに対応してくれる。
門番さんじゃなくて守衛さんと言うらしい。
守衛さんに帰寮報告と私の入寮報告もしてくれた。
そのまま女子寮へ進んでいく。
学院は本校舎の左右に男子寮と女子寮があるみたい。
……そういえば精霊の塔ってどこにあるのかな?
ぱっと見ても塔っぽいのが見えない…………まぁそのうちでいいか。
学院ではシュアレ姉様の言う通りにしていこう。
もうすぐ入学試験もあるので、私のように新しく入寮する人も多い。
女子寮の入口付近はそこそこ混んでいた。
「シィナお嬢様の部屋を確認してきます、少し待っていてくださいね」
そう言ってココナさんは馬車を降りて女子寮に入って行った。
「たぶん3階の筈だと思うけどね、卒業した先輩の使っていたのが3階だったから」
「姉様は何階ですか?」
「2階よ、後でお茶でもしましょう」
「はいっ」
寮は7階建て……各階で1年生から6年生まであるようだ。
最上階じゃなくて良かった……一番上は階段登るのキツそう……
シュアレ姉様は今年6年生……今年で卒業だ。
なので今年は姉様から沢山のことを学ぼう。
来年からは私一人だ…………寂しいけど、まだ始まってもいないからね。
ハチカちゃんのペンダントを掴んで勇気を出す。
ココナさんが馬車に戻って来た。
私の部屋は予想通り3階のようで、部屋の場所も確認してくれた。
もう少し待てば前の人の荷運び作業も終わるみたい。
10分後に今度は私の荷運びが始まる。
男性陣総出で運んでもらう。
ムキムキマッチョの護衛さん2人は軽々と荷物を持ち上げ小走りで部屋へ運んでくれる。
私はお馬さんと戯れているだけだ……
今日でお別れだよ、また夏に迎えに来てね。
最後に水を飲ませていると、男性陣が運び終えて戻ってきた。
「はぁはぁ…………シィナお嬢様の荷物、シュアレお嬢様の荷物は全て運び終えましたっ」
「ご苦労様でした、ありがとうございますっ」
「シュアレお嬢様、我々はこれで失礼します。これから隣町へ向かいますが、大丈夫でしょうか?」
「ええ、ゆっくり帰って……貴方達の無事を祈っています」
「はっ!ありがとうございますっ!……シィナ様、ヘンリー様から伝言です」
「はい?お祖父様から?」
「シュアレお嬢様から色々と学ぶようにと……それから……早く帰ってきてくれ……と…………夏にまたお迎えに上がりますので、それまで健康には気を付けてくださいね」
屋敷を出た時の駄々をこねるお祖父様が脳裏に浮かんだ……
「はい、ありがとうございます……お祖父様にはなるべく早く帰ると伝えてください……」
「はっ!必ずお伝えしますっ!シュアレお嬢様、シィナお嬢様、では失礼しますっ!行くぞっ!」
私とシュアレ姉様を残して馬車は行ってしまった。
おっと、ここに居ては次の人の邪魔になるね……
「さあ、行くわよ、レーアとココナを手伝いましょう」
「はい姉様っ」
女子寮の敷居を跨いで中へ入る。
まだ色んな使用人さんたちがバタバタして忙しそうだ。
「あ、最初に寮長に挨拶へ行きましょう」
「寮長さん……どんな人ですか?」
「……お祖父様のような……優しいけど厳しい人……かな?」
「お祖父様の厳しいところ見たことないですけど……」
「そのうちシィナにもわかるわよ……さあこっちよっ」
入口から一番近い扉を姉様がノックする。
「マイヤーレさん、入室しても宜しいでしょうかっ」
「ええ、どうぞっ」
中から声がしたので、入ってもいいようだ。
「この扉に、この札がある時は中にマイヤーレ寮長が居るからね…………中では丁寧にハッキリと喋りなさい」
「はぁ分かりました」
マイヤーレ寮長……札があれば中に居る……覚えた。
シュアレ姉様と一緒に中へ入ると、気の良さそうなお婆さんが事務作業か何かしていた。
「あら〜、シュアレさん、お帰りなさい。」
「只今帰寮致しましたっマイヤーレ寮長っ」
「はい、シュアレさん帰寮……っと……おや?そちらの可愛らしいお嬢さんは?」
「こちらは私の妹です、入寮報告に来ましたっ」
……姉様の態度が違う……少し真面目……?いや、ハキハキしている。
「まぁまぁ、シュアレさんの妹さんですか。私はこの女子寮寮長をしているマイヤーレと申します。お名前はなんていうのかな?」
「……シィナ・リンドブルグと申します、これから宜しくお願いしますっ」
「は〜い、よく言えましたね……ええっと新入生の項目は…………はい、シィナさん入寮報告完了です。ようこそ王立学院女子寮へ、歓迎致します」
「歓迎して頂き感謝致しますっ」
「まぁまぁシィナさんはとても利発そうな妹さんですね、これから6年間宜しくお願いしますね」
「はい、マイヤーレ寮長っ」
「ではまだ荷解きの途中ですので、失礼しますっ」
「は〜い、シィナさん、入学試験頑張ってくださいね」
「はいっ精一杯頑張りますっ……失礼しますっ」
部屋を出て一息つく。
……なんだろうあの人……優しい人なのに……なんか怖かった……
「シィナ、上出来よっ!よく頑張ったわねっ」
「へ?何がですか?」
「言ったでしょ……優しくて厳しいって……変な態度を取ると淑女らしくないっって言って優しく怒るのよ……この学院の中でもかなり怖い人だから、気を付けてね」
「……理解しました。以後注意します」
「一旦シィナの部屋に行きましょう」
「はい3階ですね……ん?」
入口付近の掲示板に新入寮生の部屋割り表が貼ってあった。
注意事項も……入寮報告はお早めに。
…………忘れたらどうなるんだろう……入寮報告……
階段を上がって行くけど、荷物運びの人が多い。
エントさんのような護衛の騎士たちだろう。
みんなムキムキな腕をしている。
2階、3階と上がって行き、私の部屋へ行ってみる。
扉には私の名前のプレートがあったので、間違いない。
一応扉をノックしてから扉を開ける。
中ではレーアとココナさんが忙しそうにしている。
「お疲れ様、私たちも手伝うわ」
「シュアレお嬢様、帰寮報告は大丈夫でしょうか?」
「ええ、シィナの入寮報告も一緒にしてきたわ」
「シュアレお嬢様、ありがとうございます」
「レーアもココナもお茶の時間にはちゃんと休みなさいね」
「「かしこまりました」」
「私たちは何をしましょうか?レーア指示して」
「……でしたら衣装を棚に入れて貰えますでしょうか、荷箱は衣装棚の前にありますので」
「「は〜い」」
なるべくレーアの負担を減らさないとね……衣装棚って……どこ?
というか結構広い、実家の部屋と同じくらいか。
「シィナ、衣装棚はここよ」
「はい、凄く大きい衣装棚ですね」
「ええ、人によっては季節物も全部収納してる人もいるからね」
「はぁ〜」
「今回は春と夏物だけよね?」
「はいっ」
「じゃあ、私がどんどん出していくから、春物と夏物に分けて収納しなさい」
「了解ですっ」
……あれ?もう何か入っている。
これは……
「姉様、これって制服でしょうか?」
「ええ、そうよ、シィナの大きさで発注した物よ。後で着てみなさい絶対に似合うからっ」
……おお……制服……気になる……シィナちゃんの制服姿絶対に可愛いよっ。
(…………………)
大丈夫、シュアレ姉様の言うように絶対似合うからっ。
とりあえず春物から収納していこう……
なんだかんだ一番かさばるのは衣類なので、ひたすら収納作業をしていく。
こういう作業ってやりだすと止まらなくなるんだよね。
衣装の収納が一段落ついた頃、丁度どこかで鐘がなった。
「3時の鐘よ、シィナ、先に私の部屋へ行きましょうか」
「え?でも……」
「こうでもしないとあの2人は休憩しないわ、さあ行きますよ」
「は、はいっ」
私は部屋を出たけど……
「ココナ、レーア、私の部屋でお茶をするから早く来なさいっ!先に行ってるわよっ」
「「は、はいっ」」
「これでよし、早く行きましょう」
なるほど……姉様らしいやり方だね。
私と姉様は階段を降りて2階へ行く……こっちは3階と違って静かだ。
静かというか3階がバタバタとうるさいのか。
姉様の部屋へ行こうとしたら、扉が開いて誰か出てきた。
「あら、シュアレさん、帰ってきてましたの?」
「ええ、今日着いたばかりで、今は妹の荷解中です」
「……妹さん……黒い髪凄いですね……って!可愛いっ!?おめめがぱっちりして……はぁ……こんにちわ〜シュアレさんの友人のルルエラ・エスチュアレと申しますっ宜しくねっ」
「は、はいよろしくおねがいしますっ、シュアレ姉様の妹でシィナ・リンドブルグと申しますっ」
「あっあっ!可愛いっ!ちょっとシュアレさんっ!ズルいですわっこんな可愛い妹がいるなんてっ…………言っていたわね、そういえば」
「はいはい、妹が怖がりますから、また今度ね」
「そ、そんなっ!」
姉様はこのルルエラさんを軽くあしらって自分の部屋へ歩いていく……
「あ、あのっ!よろしくお願いしますっ……えっと、ルルエラ……先輩っ」
「ああ〜〜〜〜っ!!シィナちゃ〜んっ!」
なんかヤバイ人かもしれないので私は走って姉様の開けてくれた部屋に入る。
少し怖かった……ん?……姉様の部屋はいい匂いがした、お香かな?
「はぁ……気を付けてね、さっきのはルルエラ……公爵家の人間よ」
「公爵……って凄いですね……」
「一応王家の血筋だからね……昔から可愛いものが好きなのよ」
「……そうですか……」
「あのままじゃシィナを攫っていきそうだったから……気を付けてね……」
「は、はい……」
王族……初めて見た。
綺麗だけど…………ちょっと変態ぽかった。
姉様は隣の部屋に入っていくのでついて行く。
こっちは……ココナさんの部屋かな?
あ、普通に立派なキッチンがある……もっと簡素な物だと思っていたけど、焼き窯もあるので何でも作れそうだね。
「お湯を沸かしておきましょう」
「ここはココナさんの部屋ですか?」
「ええ、側仕え用の部屋よ、ちょっとした料理も出来るからね」
「結構広いですね〜」
魔石で火を起こせるキッチンがあれば何でも作れるね……材料があれば。
材料……食材……どこで買えるかな?
フライパンがあれば大抵は作れるね……泡立て器も1つ持ってきたし。
「姉様、食材を売っているところを知っていますか?」
「食材?…………市場なら知ってるけど……果物くらいしか買ったことないわね」
「……ジュリエッタさん程ではありませんが、食材があれば簡単な甘味なら作れます」
「明日にでも買いに行きましょうっ」
おお……即決……さすが姉様だ。
姉様もまだ冬休み中の筈だしね。
「お待たせしましたっ、シュアレお嬢様っ」
「ここがココナさんの部屋……」
レーアとココナさんがやって来た。
やっぱり少し疲れているのかな……馬車ではため息をついていたしね。
「もうすぐお湯が沸くから座っていていいわよ〜」
「シュアレ姉様がお茶を淹れるのですか?」
「私だってお茶くらい淹れられるわよ」
「以前練習しましたからね」
「シュアレお嬢様のお手並みを拝見致しましょう、シィナお嬢様」
全員が座れるテーブルや椅子もあるので、素直に待っていよう。
姉様らしい、いい部屋だ……なんとなく落ち着く。
「……レーア、初日に全部片付けなくてもいいからね、レーアの部屋もちゃんと生活出来るようにするんだよ」
「……はい、無理はしませんので、ご安心くださいシィナお嬢様」
「シィナお嬢様は優しくてレーアさんが羨ましいですね」
「ちょっとココナ、聞こえてるわよっ」
「申し訳ありませーんっ……ふふっ。シュアレお嬢様もお優しいですよ」
「まったく……」
私がレーアを信じているように、シュアレ姉様とココナさんも絆があるのがよく分かるね……
いい香りがしてきた……いつも実家で飲んでいる茶葉の香り。
これだけで安心する。
あっちの世界では紅茶なんてあんまり飲まなかったけど、こう毎日飲んでいると自然と欲しくなってくる………………中毒症状じゃないの?これって。
お茶は体にいいから飲むけどね、美味しいし。
「……あ、子猫……喫茶店で出されたクッキー少し貰ってきましたけど、食べます?」
「シィナお嬢様……いつの間に……」
「ハンカチに少しだけだよ」
「帰ってきたばかりで何もありませんから頂きましょう、お皿を持ってきますね」
ポケットからハンカチの包を出して、ココナさんが持ってきた上品なお皿に乗せれば立派な甘味だ。
お腹いっぱいだったから少し貰ってきたのだ。
「はい、皆様お待たせ致しました〜、どうぞシィナお嬢様っ」
「まぁ、シュアレとても美味しそうに淹れられましたねっ偉いですわよっ」
「プッそれお母様?ふふっ似てるっ」
「…………はい、とてもよく……ふふっ」
「シィナお嬢様、奥様に言いつけますよ〜」
「まぁなんて侍従なのかしらっ!信じられないわっ!」
「ちょ、ちょっとシィナやめてっアハハハッ!お腹痛いっ!」
「確かに似てますっふふふっ」
私のモノマネは家族にウケるのでたまにやる。
ただお茶を飲んでる最中にやると吹き出す恐れがあるので要注意。
お母様ごめんなさい……私はいけない娘です……これは子猫のお礼です。
姉様の淹れてくれたお茶はとても美味しかった。
クッキーもジュリエッタさん並には美味しい。
このレベルをひっきりなしに来るお客様に出してるなら十分凄い。
2号店を出す訳だね……
「姉様、そういえば夕食はどうするのですか?」
「え〜っと、食堂で食べるか……お弁当にしてもらって、部屋で食べるかを選べるわ。どうする?どっちでもいいわよ」
「側仕えの侍従さんたちはどうするのですか?」
「食堂は貴族用区画、使用人区画で分けられていて、私達は食堂専門で働いているメイドもいるから何も心配しなくてもいいわ。使用人区画のことはココナからレーアに教えてあげてね」
「かしこまりました」
ふぅん……あんまり好きじゃないかも……試しに行ってもいいけど……
「今日は疲れているので、お弁当にしましょうか」
「分かったわ、ココナお願いね」
「はい、シュアレお嬢様」
「でしたら私もご一緒します」
「レーアはシィナお嬢様の部屋と自分の部屋を進めていて、私も後で手伝うから」
「……ありがとうございます、ココナさん」
「お弁当の手配とかは明日にでも覚えられるから大丈夫よ」
「……朝食も同じ感じですか?」
「ええ、同じよ。まだ学院は冬休み中だから人もそんなに多くないから大丈夫よ。入学試験が4日後にあるから、徐々に増えていくけどね」
「では明日の朝は食堂に行ってみますか」
「ええ、朝迎えに行くから安心してね」
姉様は本当に優しいな……大人の余裕も感じるよ。
おかしい……精神年齢は私の方が年上なんだけど…………深くは考えないようにしよう、ヘコむ。
お茶の時間が終わった後も部屋の準備を進めていく。
とりあえず生活出来るようにはなった。
部屋には洗面所、トイレ、脱衣所、お風呂場なども完備していて、十分広いし、快適だね……さすがお貴族様の寮だ。
レーアの部屋も同じ様な作りで部屋が少し狭い程度かな。
魔石冷蔵庫や魔石で動くキッチン周りもあるので、機能的にはレーアの部屋の方がいいくらいだった。
勉強する為の道具などは明日以降でも大丈夫なので、ほぼほぼ引っ越し作業は終了した。
寝具等は事前に寮に注文していたので、枕やマットレスなどは新品。
冬場はリンドブルグ産の羽毛布団にしよう。
夕食のお弁当はココナさんに取ってきてもらったので、私の部屋で皆で食べる。
うん、そこそこ美味しいし、少し甘味もあったので合格だね。
だけどそのうち飽きそうな味付けだった。
やはり明日は食材探しに行ってみたい。
入学試験の勉強は十分したので、後は当日に実力をぶつけてみるだけだ。
姉様から大浴場もあると聞いたけど、もう出歩きたくないので、部屋のお風呂に浸かった。
無事に王都に来て入寮も出来て安心したのか、すぐ眠気が襲ってきた。
明日は王都の散策が楽しみだよ。
ハチカちゃんのペンダントを握って眠りについた。




