第10話
……私がシィナちゃんの体に入って3年……もうすぐ4年が経つ。
8歳だったシィナちゃんの体は11歳。
季節は冬……もうすぐシィナちゃんこと私は誕生日を迎えて12歳になる。
次の春には王都へ行くことになっている。
この世界にも慣れて、毎日勉強をして頑張っています。
だけど今年の冬は結構寒い……こう寒いと勉強もしたくないくらいね。
暖炉はあるけど、これがいけない……暖かくてパチパチと音がするせいで眠気が増してくるのです。
そう、私は悪くない……環境がいけないのだ……
だから今日も暖炉の前で居眠りをすると心地良すぎて……眠ってしまう。
……それに、眠るのは良いことだし……子供の体は眠ることでホルモンの分泌が……なんとかかんとかで……成長促進効果がどうのこうの……
つまり寝る子は育つということです。
これは惰眠ではなく、成長の為の睡眠だから……いいの。
だってシィナちゃんの……私の体は11歳に見えないのだ。
おかしい……栄養も摂取してよく動き、よく寝ている筈だけど…………もうすぐ中学生くらいだよね?ようやく10歳くらいには成長したけど……少しのんびりしすぎている気がする……だから私は寝るの。
雪が凄いので勉強するか寝るかの2択しかない。
だったら迷わず成長の為に寝るの…………長々言い訳したけど……
昨日の大雪のお陰で窓から見る景色は目が痛い程の雪景色になった。
一面真っ白の銀世界というやつです。
大人は雪を嫌うけど、私は雪が大好きです。
私は早速防寒着を着て外に出てみる。
あ、ちなみに防寒着とは以前のモコモコの羽を使ったダウンコートの様な物を作って貰った。
これがまた暖かい。
コートだけでなく帽子やズボンも作って貰ったので、今の私は全身モコモコの羽でぬくぬく……幸せです。
手袋もして、準備は完璧。
玄関だけは雪かきしてくれたようで、扉は普通に開くけど私の身長程はある雪に驚いた……1メートル以上くらいはある。
馬小屋とか鳥小屋などは使用人さんたちが頑張ってくれたみたいだけど、私も遊びながら雪を溶かしていこう。
勿論魔法で。
私は火魔法を使いたくて仕方なかったのだ。
危ないから禁止されていたので、これだけ雪があれば大丈夫な筈です。
ちゃんと怒られないようにレーアもついてくれるしね。
「シィナお嬢様、魔力制御は最初はゆっくりですよ」
「はい、わかっています」
火魔法と言ったけど、種類は沢山あるの。
火の玉を発射する、火の壁を作り出す、自分の周囲に炎を出すなど色々ある。
生活魔法は小さい火を発現させるだけだけど、それではこの雪の量では無意味だね。
そこで私は以前から考えていた方法でこの大雪をなんとかしてみようと思う。
ただ雪を溶かすだけという火魔法は存在しない。
なので風魔法を組み合わせて熱風を作り出そうと思う。
魔法の同時使用はお母様のような上級者でないと出来ないみたいなので、私はそこそこ出来る女になっていた。
レーアは難しくて出来ないと言っていたからね。
生活魔法の火を起こしながら、風魔法で熱風を作り出す。
少し魔法制御が難しい……火の調整をしながら風の調整もするのだ。
まずは玄関の目の前の雪に向って熱風を送ってみる。
レーアはジッと私を監視している。
風は吹いたけど全く溶けない……火の調整を少し強くする。
すると少しだけ雪が溶けだした……これは魔法の練習にはぴったりだよ。
もう少し火を強くし、風も少し強くする。
すると雪の溶けるスピードが早くなる。
いい感じーっ。
「……お嬢様、もう少しだけ火を強くし、風は広がるように出来ますか?」
「……やってみます」
風はただ吹かせていたけど、広げるのか……少し難しいけど出来そう……
レーアの方が私より魔法の先輩だ。
調整……調整……いい感じに雪が溶けて水になっていく。
この土地は水はけがいいので、地面にすぐ吸収されていくみたい。
「さすがお嬢様です、このまま歩けますか?」
「大丈夫……走れます。」
「いえ、危ないので歩いて屋敷を一周してみましょう」
「は〜い」
ここに除雪車シィナちゃんが爆誕した瞬間だった。
私は屋敷周辺を勢い良く雪を溶かしていく。
物凄い爽快感っ!これは楽しすぎる。
「……非常識ですが、これで屋敷の使用人たちはだいぶ楽になりますね」
「レーア、これ面白いよっ!すご〜いっ!」
「魔力制御は常に意識してくださいね」
「大丈夫です、間違いはおこしませんっ!」
どんどん進んで行くと、裏口で使用人さんが雪かきしていたので、どいてもらう。
「屋敷に入っていてくださいね〜っ!危ないですよ〜っ!」
「「は、はいっ!!」」
雪かきした跡もなくなるくらい熱風を雪に当てていく。
裏口周辺は完全に雪がなくなった。
更に進んで行くと、後ろで使用人さんたちが口を開けて驚いていた。
まだまだいきますっ!
約20分掛けて屋敷を一周したので、少し休憩する。
今日は日差しもあってそこそこ暖かい……いや、ダウンが熱いので、帽子はもう要らないかな。
一度屋敷に入って水を飲んでから再開する。
魔力制御は問題ないので、今度はレーアと一緒に街までの道を開通させていきましょう。
調子に乗った私は街に入って大広間の大雪を全部溶かして周った。
さすがにこれ以上は人がいたら大変……大広間だけにしておこう。
「お嬢様、これで住人も助かるでしょう、屋敷に戻りましょうか」
「あ、ここまできたからハチカちゃんとこに寄っていい?」
「少しだけですよ」
「は〜い」
宿屋の前に誰も居ない事を確認してから雪を溶かす。
入口でノックしてみるとハチカちゃんのお母さんが扉を開けてくれた。
「あら?シィナ様……こんな雪の日にどうしたんだい?」
「大広間の雪を溶かしたついでに寄りましたけどハチカちゃんいます?」
「居るけど……溶かし?……あれ?雪がない…………ハ、ハチカ〜シィナ様だよ〜」
ハチカちゃんはすぐに来てくれた。
暖かそうな部屋着……可愛い。
「シィナ様、急にどうしましたか?こんな雪の中…………あれ?雪がない?」
「おばさんと同じ反応だよ、親子だねアハハッ」
「シィナお嬢様、それが普通の反応です……」
「ハチカちゃん、少し寄っただけだからもう帰るね〜。 あ、大広間は魔法で雪溶かしたからね」
「え?あ、はい?」
「またね〜」
「ハチカお嬢様、失礼します」
「はい、また……ん?」
私とレーアは屋敷に帰る途中でハチカちゃんの声を聞いた気がした。
「お母さん、雪がここだけ溶けてるよっ!?なにこれ〜!?」
雪かきは大変だからね、サービスサービス。
雪景色を堪能しながらゆっくり帰りましょう。
日差しもあるからその内溶けるでしょ……
屋敷に帰ってからは一人でかまくらと雪だるまを作って大満足。
冬はのんびりしていいね〜……お父様とかは雪の対応で大変そうだったけど……大人は大変だね。
雪も完全に溶けて落ち着きを取り戻した頃、私はジュリエッタさんとパイ作りを一緒にしていた。
今日はハチカちゃんの誕生日。
ミュートとの果実を使ったパイを焼いていた。
要はアップルパイに近い物を作っている。
リンゴと梨の中間みたいなミュートの実を甘く煮詰めてから、パイを焼き窯で焼くんだけど火加減はジュリエッタさんにお任せです。
「火加減は難しいからね、アタシに任せておくれ」
私が厨房へ行くとジュリエッタさんは嬉しそうにしてくれるのでつい甘えてしまう。
ちなみにこのミュートパイは試作を重ねて作ったので、かなり美味しい。
今日はお昼にこのミュートパイで私はハチカちゃんを祝う。
レシピも一緒に渡すので、これが誕生日プレゼントだ。
リカンケーキも喜んでくれてるみたいだから、このミュートパイも喜んで欲しいな……
お昼前に出発したけど、パイの入ったカゴは以外に大きいのでレーアに運んでもらった……途中で転んで駄目にしたくなかったからね。
街に着くと、人影はまばら。
この間の大雪の影響で街道も通行不能になっていたせいもあって、普段よりも人の姿は少ない。
まぁ、そのお陰でハチカちゃんの宿屋は開店休業状態の為、お昼に誕生日会が出来る。
食事処を使っていいとハチカちゃんのお母さんから言われたのでせっかくだから誕生日会で盛大に祝うことになったの。
「こんにちわ〜」
「シィナ様、いらっしゃいませどうぞお入り下さい」
ハチカちゃんのお父さんが対応してくれた。
私は久しぶりハチカちゃんのお父さんに会った、物腰の柔らかいお父さんで料理が得意……優しいお父さんって感じの人だね。
「シィナお嬢様のリカンケーキはここのお客さんから大好評ですよ」
「喜んで貰えて私も嬉しいです……儲かってますか?」
「お陰様で冬は働かなくてもいいくらいは稼がせて貰いました、ハンバーグも大好評です」
「レーア、レシピをハチカちゃんのお父さんに渡してくれる?」
「かしこまりました、どうぞ」
「レシピ?また新しいのを考えたのですか?」
「今日はジュリエッタさんに焼いて貰ったので、誕生日会に出してもらってもいいですか?」
「はい、勿論……いい香りですね……」
「レーア、カゴも渡して頂戴」
レーアはカゴをハチカちゃんのお父さんに渡した後は屋敷に帰って行った。
一緒でもいいよと誘ったけど、何やら縫い物か何かで忙しいらしい。
食事処の席に座って待っていたらすぐにハチカちゃんがやってきた。
「シィナ様、いらっしゃいませ」
「ハチカちゃん今日は可愛い格好だね似合ってるよっ」
「そ、そうですか?……なら良かったです」
「シィナ様、いらっしゃいませっ!ゆっくりしていっておくれ」
「はい、もうしてますっ」
「アハハッ、そうかい、お茶でいいかい?」
「はい、お願いしますっ」
「あっ、本当にあの3人を呼んでも良かったのですか?」
「誕生日会なら多いほうが楽しいでしょ?」
「それはそうですが……」
「私も久しぶりに会いたいしね〜。たまに会ってるんだよね?」
「偶然会うこともありますからね、この間も……」
「ハチカ〜お友達が来てくれたよ〜」
「は〜いっ。来たみたいですね、連れてきます」
鎮魂祭から私はずっと合っていないので、少し緊張してしまう。
みんな成長してるよね……ハチカちゃんはもう私より背が高いし…………いや、私が低いのか…………解せん。
すぐに来るかと思ったけどなかなか来ない……どうしたのかな?
先にハチカちゃんのお母さんがお茶を人数分持ってきてくれた。
いい香り……いつも飲んでいるお茶と違うみたい……そんな事を思っていたら、ハチカちゃんと3人組がやってきた。
…………あれ?何か様子がおかしい?喧嘩でもした?
「パッセちゃん、セルカちゃん、リンちゃん、お久しぶり〜覚えてる?」
こういう時はこっちから挨拶する方がいい……大丈夫だよね?
「ねっ?普通にしてて大丈夫だよっ」
「で、でも……あのシィナ……様?えっと……」
「リンちゃん、ハッキリと喋らないと……」
「シィナ様……普通に喋っても……宜しいのでしょうか?」
あ……これって……バレた?いや、絶対にそうだね……
「3人共、ごめんね、貴族ってことバレちゃったみたいね……ハチカちゃんそうだよね?」
「は、はい……黙っていてすいませんでした」
「ハチカちゃん、リンちゃんたちも座って話そう?」
「「「はいっ」」」
3人は私より少し離れて座って、ハチカちゃんは隣に座ってくれた。
「えっと、鎮魂祭の時はみんな舞で緊張していたから、私が貴族って言ったらもっと緊張するかもしれないと思って黙ってたの……」
「さっきも言ったけど、シィナ様は普通に話しても大丈夫だから」
「そうそう、普通に話して欲しいの。普通で……敬語もいらないから」
「じゃあ……普通に話すけど、いいので……いいの?」
「そう、かしこまられると困るよ……それに今日はハチカちゃんの誕生日でしょ?主役はハチカちゃんだよ」
「シィナ様がそういうなら、普通にします……ああ、私は普段からこの喋り方なのでご容赦を……」
「パッセちゃんも普通でいいからね、久しぶりっ」
「は、はいっ……久しぶりです…………えっとリンちゃんも普通に喋ろう?」
「う、うん……シィナ様久しぶりに会えて……嬉しいです……本当にいいの?」
「いいよ〜リンちゃんっ」
「はぁ〜…………分かったわよ……最近気付いて驚いたんだからね……」
「へへへっ、ごめんね〜……ちなみに何で気付いた?参考に聞きたいかな」
「その黒髪よ……知り合いがシュアレ様の妹の髪が黒髪って言っていたのよ」
「ああ……なるほどね、それはバレちゃうね」
「その時リンちゃんは失恋したんだよね〜」
「ちょ、パッセちゃん、それは秘密にっ!」
「なにそれ?私は知らないけど……リンちゃんの片思いの相手て……」
「セルカちゃんっ!あ〜〜〜っ!ダメっ!シィナ様だけには知られたくない」
「え〜なにそれっ!なんで私に知られたくないの?」
「ふふっ皆良かった……」
ハチカちゃんは胸をなでおろしていた。
大丈夫そうだね……リンちゃんの失恋相手は気になるけど……
全員でお茶を飲んで一息つく。
「本当は様もつけてほしくないんだけどね……ハチカちゃんは頑なに私のことシィナ様って言うから……シィナちゃんでいいのに……」
「親しき間にも礼儀は必要ですっ、お父さんとお母さんに怒られるよ……シィナちゃんなんて呼んだら……」
「そうね、誰か大人がいたら怒られそう……私もシィナ様って呼ぶわ」
「「私も」」
「あ〜、ハチカちゃんのせいだよ……もう〜」
そこへハチカちゃんのお父さんがやってきた。
そろそろ食事かな?
「シィナ様、あのパイから出しましょうか?」
「そうですね、あれからでもいいでしょう、お願いします」
「はい、分かりました、今持ってきます……皆運がいいぞ、シィナ様の新作が食べられるからな」
パイは切り分けておいたからすぐ出てくるだろう。
「シィナ様の新作って?」
「シィナ様、何か持ってきたのですか?」
「ふふん、自信作よ。お楽しみに」
冷めても美味しいからねアップルパイは…………ん?ミュートパイだった。
「……リカンケーキを考えたのはシィナ様だよ」
「ええ!?」
「本当ですか?」
「リカンケーキはリンドブルグ家の料理長が作ったと聞きましたけど?」
「料理長はシィナ様から教えて貰ったって言ってました」
甘い物もいいけど食事は調味料が足りないから……難しい……ネットがあれば代用品?代替品?とか分かるんだろうけどなあぁ……ああっ検索したい。
「シィナ様?聞いてます?」
「え?ごめんごめん、少し考え事してたよ。……ん?なに?」
「リカンケーキはシィナ様が考えたんですよね?」
「そうだよ、私が最初に作って、ジュリエッタさんに教えたの。さすが料理長だよ、私のリカンケーキがどんどん美味しくなっていくから驚いたよ」
「本当なんだ……」
「シィナ様凄いですね」
「はぁ〜」
「今日のパイもジュリエッタさんと何度か試作を重ねたから美味しいよ」
「はい、どうぞ」
そう言った矢先にパイが出されてくる。
私は何度も食べたからね……パイ生地もサクサクで美味しいよ〜
全員にミュートパイが行き渡ったので、まずは……
「ハチカちゃん、誕生日おめでとう」
「「「おめでとうっ」」」
「これは私からの誕生日の贈り物です、ハチカちゃんのお父さんにレシピを渡したからね。ハチカちゃんミュートパイ食べてみてっ」
「う、うん。……シィナ様ありがとうございます、嬉しいです。じゃ、じゃあいただきます……」
ハチカちゃんはゆっくりフォークをミュートパイに入れて一口食べた。
「はぁ〜ミュートの実が凄く甘いっサクサクして美味しいですっ」
「さあさあ、皆も食べてみてっ」
3人も一口食べて美味しそうにしてくれた。
女の子は甘い物を食べると幸せになるよね〜、分かる分かるよっ。
それにジュリエッタさんが言うには果物を砂糖で煮詰めるなんて事は、やったことがないらしい。
ジャムは砂糖を潰した果実に加えただけだしね。
果物はそのまま食べるか、果実水にするのが普通らしい。
私はミュートの実を煮詰めてから更にオーブンで焼いたので、このミュートの実は甘すぎる。
だけど甘すぎるミュートの実を受け止めてくれるのがパイ生地。
そう、要はただのアップルパイなのです。
「シィナ様、これも美味しいですっ!」
「ミュートの実……なんでこんなに甘いのですか?私はリカンケーキより好きかも……ああでも……」
「幸せ〜っ」
いい感じのようだね。
お茶とも良く合う……はぁ〜……パッセちゃん可愛くなったなぁ。
セルカちゃんはなんか……こう……カッコよくなった……アリだね。
リンちゃんも可愛いけど、失恋が気になってしまう。
皆背が高いし……やっぱりおかしいよ……
「あ、ハチカちゃんのお父さんとお母さんも食べてみてください、お店で出すかはお任せしますね」
「遠慮なくいただいます、ただ確実に出すでしょうね……いつもありがとうございます」
「シィナ様、頂きますっ、ミュートの実は好物だからねっ」
すぐ隣のテーブルでハチカちゃんの両親も一緒に誕生日を祝っていく。
皆いい人で優しいね。
……ハチカちゃんとはしばらく会えなくなるけど、友達もいるし、家族もいるから大丈夫だろう。
ミュートパイの後はハンバーグとここの名物料理も出てきて、皆でワイワイと楽しい時間が流れていった。
久しぶりに会えた3人と普通に話せて嬉しかった。
こうして今年のハチカちゃんの誕生日は無事に終えた。
私の誕生日はもう少し先にあるけど……ハチカちゃんとパッセちゃんたち3人も招待しよう、今日は楽しかったしねっ。
……私の誕生日は冬の終わり……春に近いので結構温かい。
今日はお祖父様と一緒に庭をランニングしている。
お祖父様はまだまだお元気で、私が体力を付けたいと言ったら付き合ってくれている。
「走るのは体にも心にもいいことじゃ、冬の間で体がなまってしまっとるからのぅ、丁度いいわっ」
私も一生懸命走る……体力を付けたいのは建前だけど……もっと運動すれば身長も伸びる筈だっ!それに甘味の試作のせいで少し肥えた。
横にじゃなく縦に伸びたいのっ。
30分くらいランニングしても息は上がっていないから、そこそこ体力はあるけど……2時間ランニングはさすがに疲れた。
「シィナはこれで限界か?どれ水でも持ってきてやろう、そこの花園で待っておれっ」
「あ、ありがとう……ございますっ……はぁはぁはぁはぁ……」
お祖父様は元気だ……私は休憩しよう。
丁度花園も近いのでゆっくり歩いていく。
「ん?シィナお嬢様、どうされました?随分お疲れのご様子で……」
「あ、モルトさんだ、お祖父様と運動していて……疲れたので休憩をしに……」
「なるほど、運動は大事ですからな。水でも持ってきましょうか?」
「今、お祖父様が持って来てくれますので、大丈夫ですっ」
「そうですか、ああ、座って下さい」
花園の椅子に座って一息つく。
あ〜膝が限界だよ、疲れた……結構汗も出たし、いい運動になった。
「モルトさんは何してるの?」
「最近温かくなってきたので、少しせん定作業……ここらを整えておりました」
「ふぅん……大変そう……」
周りは花の蕾もちらほらあるけどまだまだ咲く気配はない。
庭師は大変だね、ここの管理や花壇もあるし。
「大変な作業ですが、ワシは好きなので苦に思ったことは今までないですな」
凄いなモルトさんは……花や草木が大好きなんだね。
ここの椅子やテーブルもキレイだし。
……うっ?眩しいっ?
『シィナだ』『愛し子だ』『シィナ見つけた』
「精霊さん?」
おおっ久しぶりに精霊さんキターーっ!
やっぱりキレイで可愛いっ。
「こんにちわ、精霊さんなにやってるの?」
『春を運んでるんだ』『もうすぐ春がくるよ』『シィナは春は好き?』
「春も好きだよ、花も咲くし暖かいからね」
『春も好きシィナも好き』『シィナと遊びたいけど春を運ばないと』『シィナまたね春を楽しみにして』
「うん、春を運んで来てくれてありがとうっ」
小さな光はまた何処かへ行ってしまった。
……ああ……なんか疲れが飛んでいった気分だよ……
「見たかモルトよ……」
「見ましたヘンリー様……」
ん?……お祖父様とモルトさんが並んでこっちを見ている。
…………んん?……うわっ?また精霊さんっ!?
『愛し子本当にいた』『シィナシィナ』『愛し子好き』『シィナだ』
『シィナ春を連れてくるからね』『シィナは愛し子』『シィナまたね』
「うん、精霊さんまたね〜」
今度は10くらいの精霊さんが私の周りを回ってからすぐ去っていった。
集団で来るなんて……はぁ〜なんていうか幻想的でステキだった。
「…………愛し子……」
「……シィナお嬢様が特別な存在に見えてきましたわい」
……精霊さんが春を運んでくるんだ…………ファンタジーっていうよりメルヘンの世界だね…………メルヘンってなんだろう?可愛いイメージだけど。
「……いいか、モルト……今のことは内密にな」
「へい、ヘンリー様……でも誰かに言っても信じませんじゃ……」
「それでも内密に……じゃ」
「へいっ」
今日の運動はここまで……疲れたけど精霊さんに会えたお陰で疲れがなくなったよ。
お祖父様に水を貰って一気に飲み干した。
水が一番美味しいね〜最高。
私はお祖父様にお礼を言ってから屋敷で着替えた。
そういえばお祖父様が前に王都の書庫で調べた時は、精霊が春を運んでいるなんて言っていなかった……これってもしかして新発見?
……家族会議は面倒なので黙っていよう。
どっちにしろ季節を運ぶのが精霊さんだったとして……どうしようもないからね。
さて、運動もしたのでちょっと眠ろう。
寝る子は育つ筈なんだよ……カモンマイシンチョー!




