第9話
教会の前には私とハチカちゃんの舞う舞台が設置されていた。
高さは1メートルくらいかな?
そこそこ広くて大きい。
まだ教会の前には誰も居ない……広場とは違って静かだった。
「ここが教会……結構大きいですね」
「そうですね、でもシィナお嬢様のお屋敷の方が大きいです」
おお……教会なんて初めて来たよ……なんて言うんだっけ……厳かだ。
白の建物は綺麗で、少し緊張する。
「行きましょうか、シィナ様……」
私とハチカちゃんは手を繋いで一緒に歩いて行く。
ハチカちゃんも少し緊張しているみたいだね。
舞台を見ながら進んでいくと、玄関扉から誰か出てきた。
「おや?貴女たちは……」
「こんにちはシスター、本日舞うハチカと言います」
「ごきげんようシスター、同じくシィナと言います」
「まぁ、時間前で感心しました……どうぞ中へお入り下さい」
「他に3人居ると聞きましたけど……」
「たぶん、そろそろ来ますよ…………そう、貴女がシィナ様ですか……」
「私を知っているのですか?」
「ええ、話はよく聞いていますよ……後でお話してもいいかしら?」
「はい、大丈夫です」
おばあちゃんシスターはとても優しい雰囲気で、私たちを中へ案内してくれた。
おお……凄い……本物の教会だ……長椅子が沢山あって……奥に祭壇もある。
白い女神様の像はとてもキレイ。
雰囲気があってなんとなく落ち着く。
他の若いシスターさんが出てきて、部屋に案内された。
そこに5人分の衣装がテーブルに置いてあった。
私のはどれかと思ったけど、名前が書かれた紙が衣装の上に置いてある。
「この部屋で衣装に着替えてくださいね、何か質問はありますか?」
「あ、トイレはどちらでしょうか?」
「そこの扉先にありますよ……緊張していますか?」
「少しだけ……」
「ふふっ、そうでしょうね……では着替えたらここでお待ち下さいね」
「「はい」」
いや……食べ過ぎだったからね……一応聞いておいたよ…………一応。
衣裳にさくっと着替えていたけど…………今更だけど女の子だけだよね?
さすがに8歳児とはいえ男の子に下着姿は見られたくない……
「ハチカちゃん、他の3人の子って……男の子は居ないよね?」
「へっ?い、いませんよっ!全員女の子ですっ」
「そう、良かった……」
「私たちは清らかな乙女の役目ですからっ」
「清らかな乙女?初めて聞いたよ……」
なるほど……私は清らかな乙女らしい。
…………間違ってはいないよね?シィナちゃんは私より清らかだし。
(………………)
へへへっ、そう?私も清らかなんだ、ありがとうシィナちゃん。
「神父様からお話を聞けば分かると思います」
「お話?」
「はい、もうすぐ神父様から物語が聞けると思いますので」
神父様が何か物語を語って……舞台で舞う……そういう演出?なのかな。
とりあえず……着替えも終わったし、しばらく待機だね。
「入りますけど大丈夫ですか?」
扉の向こうで声がした、たぶんさっきのシスターさんだ。
どうぞと言って入室を許可すると、シスターさんが私くらいの3人の女の子を紹介してくれた。
「あの……はじめまして……パッセと言います」
「私はセルカと言います、よろしくお願いします」
「リンですっ、宜しくねっ」
「3人共、まずは衣装に着替えましょうか、自分で着替えられる?」
「「「はいっ」」」
3人が着替え始めるけど、皆少し緊張しているみたいね。
自己紹介では貴族のことは伏せておいたほうがいいかな……
(ハチカちゃん、私が貴族ってこと言わないでくれる?緊張させたくないから……)
(は、はい、分かりました)
「えっと、私はシィナ、よろしくお願いします」
「わ、私はハチカと言います、よろしくお願いします」
「うん、ヨロシクねっ」
「シィナさん、ハチカさん、よろしくお願いします」
「よ、よろしくねっ」
3人とも至って普通に返事をくれたので、大丈夫だろう。
着替えも終わり、席で深呼吸している子もいる。
貴族を伏せて良かったかも……
「シィナさんだっけ?髪の色黒いねっ初めて見たよ」
「確かに……凄いですね」
「ツヤツヤしてキレイです……」
「ふふっそう?ありがとう皆は友達?」
「そうだよ、家が近いんだ〜」
「あれ?あなたって大広間の宿屋さん?」
「は、はい、そうです」
「やっぱり、何度か食事しに行ったことあるよ〜」
「あそこは美味しいです」
「私も……行ったことあるよ……美味しかった」
「よかったね、ハチカちゃんっ」
「はい、ありがとうございますっ」
結構打ち解けてきたね……いい感じ。
やっぱり子供はすぐ仲良くなるね〜。
「っていうか今日の甘味っ!あれ凄く美味しかったっ」
「驚きました。リカンの実が最高でしたよ」
「ほっぺた……落ちそうになりましたっ」
「……皆食べたんだ、もう売り切れだったしね」
「私は一生懸命運んで疲れましたよ」
「アハハッ、だろうね〜凄い人だったし」
「あの甘味を考えた人は……天才です。間違いありませんっ」
「う、うんっアレは美味しすぎました……また食べたいなぁ……」
私も記憶から引っ張り出しただけだから、考えた人はすごいね……
リカンの実はこっちの世界しかないからオリジナルかもしれないけど……
まぁ……ジュリエッタさんたちがあれだけ美味しくした張本人だけどね。
「ハチカさんのお母さんかお父さんが考えたんですか?」
「え?……えっと……その……」
うっ……ハチカちゃん……なんとか切り抜けて……
「領主様の……料理長さんから教えて貰いました……」
「ええっ!?領主様のところの?すご〜いっ!」
「さっきヒルク様とダリル様が広場にいましたね」
「2人共……素敵です……」
「そ、そうね……素敵……ですね」
「はい、凛々しくて……カッコいいです……」
「おっ!ハチカさん分かるね〜。ヒルク様派?ダリル様派?」
おっと派閥なんてあるの?……確かにイケメンだけど、まるでアイドルみたい……少し嬉しい……けど少し複雑……よくわかんないね。
「私は…………その〜……秘密です……」
「え〜教えてよ〜、ちなみに私はヒルク様派……大人の雰囲気がいいのよね」
「ちょっとリン、いきなり失礼でしょ?ごめんね」
「リンちゃん、少し自重してっ」
「は〜い……ごめんなさいっ」
「い、いえ、大丈夫です」
いい友達関係みたいね……それにしても、8歳児でも女の子は女の子だね……
もう色恋に興味あるのか………………私より上かもしれない…………
しならく雑談をしながら過ごしていると、シスターさんが飲み物を持ってきてくれた。
まだ本番までは時間があるから、十分落ち着けたし緊張もなくなってきた……リラックスの為に早めに集合させてるのかもしれない。
「皆さん、本番前に一度全員で練習してみましょう、まだ時間はありますから、焦らずにやってみましょう」
おばあちゃんシスターがそう言って、部屋の机を移動させる。
ここなら十分広いから練習もできるね。
「自信のない方はいますか?もしいたら、皆で助け合いましょう」
「「はいっ」」
「では、私が手拍子をするので一度通しでいきましょう、ではいいですか?…………はいっ!」
シスターの手拍子で舞を開始する。
練習通り……私は出来る筈……周りの子たちも動きがいい。
周りで同じ動きをしているので間違ってはいない。
集中して……出来ている。
あっという間に舞の練習は終了した。
「皆さん素晴らしいですね、全員よく練習しましたね」
「あの、本番では並びはどうすれば?」
真面目そうな……確か、セルカさんが質問した。
それは気になる……どうするんだろ?
「舞の不安な子がいた場合は、その子を後ろに配置すれば周りを見て落ち着いて舞えます……ですが、皆さん間違いなく出来ていました…………本番では緊張するかもしれないと思っている方はいますか?素直に言って下さい……」
ん〜私はたぶん大丈夫かな……人前でもそんなに緊張したことはないかな。
小学生の頃の劇でも普通に出来たし。
「あ、あの……私は緊張するかもしれません……」
パッセさんが白状したようにおずおずと手を挙げる。
少し気弱な感じの子だ。
「大丈夫ですよ、他にはいませんか?」
ハチカちゃんは普段なら手を挙げたかもしれないけど、この10日間私とびっしり練習したから、自信のある表情をしている。
まぁあれだけやればね……
「では、こうしましょう……」
シスターの提案はこうだった……横一列ではなく、緊張するかもしれないパッセさんを中央に配置するけど一番後ろに持ってくるやり方だ。
一番後ろなら左右にいる子の舞がよく見えるので安心できる。
中央で目立つが、その分安心できる配置を提案してきた。
「わ、私はそれで構いませんが……」
「ならパッセさんの両隣は私とリンでいきましょう」
「そうね、友達の動きを見ながらならいいんじゃない?」
「じゃあ左右で一番前はシィナさんとハチカさんですが……宜しいでしょうか?」
何気に一番前に来るのは少し怖い……大丈夫かな……
「2人の自信がなければ……左右も下げればいいですが……どうしますか?」
「ハチカちゃん、どうする?下がるとセルカさんとリンさんが一番前列になるけど……」
「シィナさ……ん……が決めて下さい、自信があれば前で……なければ下がりましょう」
ん〜セルカさんとリンさんは友達を助ける為に言い出した配置出し……
バランスはどっちでもいいよね……こういう時は……
「シスター、もう一度軽く練習してもいいでしょうか?その配置で一度やってみたいです」
「ええ、時間はまだまだありますからね、では、最初は左右が前方で、途中で後ろに下がってみてください」
「「はいっ」」
練習を続ける。
前方に舞うと隣のハチカちゃんが遠いので誰も参考に出来ない……完全に一人の世界だね……やっぱり少し怖い。
途中でハチカちゃんとアイコンタクトで後ろへ下がる……すると隣の子が見えるので安心する。
下がるとだいぶ楽になる……でも……前に居ると中央の3人が安心できる。
どっちがいい……
「今ので……いいんじゃないですか?」
ポツリとパッセさんがつぶやいたけど…………ん?どういうこと?
「今のってなに?パッセさん」
「途中でシィナさんとハチカさんが……下がるの……ダメですか?」
「2人の息がピッタリ合っていて、カッコよかったですね」
「あっ、それっ!今の良かったっ!なんていうか……躍動的?」
……前後の動きが良かったのかな?
「ハチカちゃんはどう?下がりながら舞うのは私は簡単だったけど」
「はい、私も簡単で……途中で下がれるのは楽かも……」
私たちは話し合い、練習しながら何度か試してみる。
その様子をシスターが微笑んで見ていた気がする。
「はい、皆さん私も見ていましたが、左右のシィナさんとハチカさんが途中で下がるのはとても良かったです、皆が良ければそれに決定しましょう」
「「「はいっ」」」
決定したみたい皆も納得したようで、ニッコリと笑顔だ。
あっちの世界のダンスをしてる人とかアイドルの人たちもこういう感じで決めているのかな?
なんていうか一体感があってとっても気持ちいい。
「体も温まりましたね……本番までもう少し待機していましょう」
おばあちゃんシスターはそう言って、部屋を出て行った。
皆で机を戻して休憩する。
もう皆は友達感覚だ……普通に楽しく会話が弾む。
話していたらいつの間にか本番の時間になったみたいで、テンションの高いまま本番に挑む。
教会前は多くの人で混み合っていた……こんなに人がいたんだね。
舞台に上がった、神父様が何か語りだした……うん……まったく頭に入ってこない。
ハチカちゃんの言っていた清らかな乙女の話だろうけど、まったく分からない……緊張と高揚感が混じり合って……嫌ではないけどなんとも言えない感じだ。
舞の開始は神父様が出してくれると聞いたけど……
「清らかな乙女たち……皆の魂が女神の元へ迷わず行けるように……舞で示しててほしい……」
シスターが事前に教えてくれていたので、私たちが出るタイミングはバッチリだった。
舞台の神父様が階段を降りて代わりに私たち清らかな乙女たちが舞台に上がっていく……焦らずにゆっくり階段を登る。
自分の立ち位置と皆の場所を確認していく。
皆も大丈夫そうだ。
手拍子はずっと一定の感覚で鳴っていたけど、突然手拍子なくなり、静寂が訪れる。
すると後ろで……神父様だと思うけど、一人が手拍子をしだす……そうかこれが神父様の合図だ。
私たちは一斉に舞うと神父様の手拍子に合わせてまた客席から手拍子が再開されていく。
視界の隅のハチカちゃんもちゃんと舞っているので大丈夫そうだ。
そうか……これは鎮魂祭……魂が安らかに女神様の元にいけるようにする祭りだ……ノリノリの祭りじゃない。
手前の観客は何人か泣いている人もいた。
家族か誰かが亡くなったのかもしれない。
少しだけ……引き締まる思いで舞っていく……
そして何度も練習したのでそろそろだ……ハチカちゃんとのアイコンタクトでゆっくり下がっていく……
私とハチカちゃんのツートップから、今度はセルカさんとリンさんのツートップに代わっていく……
客席からは手拍子の他に、おおっと言う声も出てきた。
後ろに下がったので後は気が楽になる……だけどハチカちゃんと事前に話した事を思い出して、気が緩まないようにする。
まだ半分なんだという事を思い出してしっかり舞っていく。
そして最後はクルッと回って……こう……夜空を見上げて終了だ。
最後は手拍子がなくなり、私たち清らかな乙女が夜空を見上げ続けて祈る……ちゃんと意味があったんだね……
数秒後に大喝采が起こるので私は一人でビクッとなる。
後は神父様が締めの挨拶をして終了した。
最後は呆気なく終わった……まぁいいんだけどね……
観客は解散していく……大広間に戻る人やそのまま家族で帰路につく人たちもいる。
そういえば私は家族を見つけられなかった。
見ていてくれたと思うけど、それどころではなかったので許して欲しい。
清らかな乙女たちも教会に戻ってさっきの部屋で少し休憩だ。
「はぁ〜終わった〜っ!」
「終わったね……疲れたよ……」
「皆……お疲れ様っ」
無事にやりきったので、達成感と充実感が凄い……
お互い褒め合っていく……ふと昼間に会ったシュアレ姉様の友達を思い出した……もしかしたらシュアレ姉様とあの友達は、清らかな乙女をした仲かもしれないと思った……なんとなくだけど……後で聞いてみよう。
パッセさん、セルカさん、リンさんの3人組は着替え終わるとハチカちゃんの店にまた行くと言ってから帰っていった。
今後もハチカちゃんは新しい友達との交流があるかもしれない。
こういう時は自分も平民だったら同じ感じなのにと思ってしまう。
私もハチカちゃんも着替えが終わり、部屋を出ると、おばあちゃんシスターが待っていてくれた。
……ああ、何かお話したいと言っていたけど……
「シィナ様、少しだけお話しても宜しいでしょうか?」
「はい……あっハチカちゃん、シスターさんと話があるから私の家族に伝えてくれる?」
「分かりました、伝えますねっ」
ハチカちゃんも教会を出て行ったのでシスターと二人きりになる。
シスターは祭壇の方にゆっくり歩いて行くので、私も後をついて行く。
「隣町の聖女様は私の姉のような存在で……最後に癒やしを与えたのがシィナ様と聞いていたので、どうしてもお話を聞いてみたくってね…………もし嫌でなければ少しだけ聞かせてくれますか?」
ああ……そういう事か……私はもう大丈夫だから覚えている範囲を語ろう。
「私は……以前の記憶がなくなってしまいましたが、うっすら覚えている事でも宜しいでしょうか?」
「ええ、記憶のことも領主様から聞いております……シィナ様が覚えていること……感じたこと……何でもいいのです……この年寄に是非教えてください」
私はお父様から聞いたことや薄っすら覚えている聖女様の事を少しだったけどシスターに語っていった。
黙って私の言葉を聞いてくれて時折小さく頷いていた。
それから最後に私が命を受け継いだので大事にしたいと感想を言ったら、大粒の涙を流していた……
「シィナ様から聞きたかったことは全て聞けました……シィナ様の未来を救った姉を心から誇りに思います…………わざわざお話をしてくださり感謝します」
そう言ったおばあちゃんシスターは、シワのある手を組んで女神様の像にお祈りをしていた。
私も隣で聖女様の魂が女神様の元に迷わずいけるようにお祈りをした。
教会の外に出ると、若いシスターと神父様がお父様とお話していた。
とりあえず近付くと、お父様は私の頭を撫でて褒めてくれた。
シスターと神父様に別れを告げて中央広場へ戻って来る。
人はまだ多い……明日は片付けが大変そうだ。
お父様以外の家族はハチカちゃんの宿屋にいるようで、そこまでゆっくりと歩いていく。
夕食は貸し切りでハチカちゃんの家族と一緒に食べるみたい。
屋敷の食事とは違うので楽しみだ。
そうしてこの世界の初めてのお祭りは幕を下ろした。
また来年楽しみにしておこう。
……まだ夏は終わらない。
…………そう、まだ夏は終わっていない。
急遽舞の練習で慌ただしかったけど、学院の精霊の塔の事をまだ聞いていなかったのだ。
ダリル兄様とシュアレ姉様が調べた報告を全員忘れていたよ。
ということで、鎮魂祭の翌日……昼食を食べながら報告を聞くことになった……慌ただしいのは終わっていない。」
「ほぉ、精霊の塔とは懐かしい……ワシも昔調べた記憶があるくらいじゃ」
「ダリル兄様が精霊の塔を調べて、シュアレ姉様が精霊研究室で調べてくれたんですよ」
「そうかそうか…………で……なんで今更精霊の塔なぞ調べとるんじゃ?」
…………あれ?……愛し子とか精霊さんの事……お祖父様は知らなかったっけ?
誰も話していないの?
「……父上には……まだ報告していませんでしたね……ハハハ……」
「……なんじゃ、ただ報告し忘れているだけじゃな……さっさと話せっ」
お父様が私の愛し子騒動を説明していく……お祖父様は私を何度も見て驚いた後で怒りだした。
「そんな大事なこと何故誰もワシに言わんっ!?シィナが精霊と喋ったことなぞ今聞いたぞっ!…………しかも愛し子とは……」
「あれから精霊さんは見ていませんでしたから……私も忘れていました……」
夏になってあまり外に出なかったからね……日焼けしたくないし……
舞の練習で忙しかったしね……言い訳というか事実である。
「まあ精霊の塔を調べるうんぬんは理解したわ……それで……ダリルとシュアレは何か分かったのか?」
「じゃあ私から報告します、精霊の塔を調べてた人の記録を漁りました……今更私が調べても特に分からなかったのですが、資料によりますと、魔法を使って中を調べたことはあったそうですが、結果は……分からない事が分かったくらいでした」
「…………つまり全く分からないのが現状か?」
「今ここでは分りませんが、もっと詳しく調べた研究者がいたようで、その資料は学院ではなく王城の書庫に移動されたようです」
「王城か……」
「私見ですが、王城に移動するということは、なんらかの研究成果があったからではと思っています」
「かもしれないな……」
「ワシが王城に出向いて書庫を見て来てもよいぞ?ワシも興味はあるからのぉ……」
「ふむ……それもいいかもしれませんね、ダリルとシュアレの学院行きにでも父上が護衛も兼ねてくれれば安心ですし」
「よしっ!決まりじゃな。ダリル、休みはいつまでじゃ?」
「ええと……9日後……くらいです」
夏休みは20日くらいかな?春休みも確かそれくらいだったね。
秋はあるのかしら?
「じゃあ今度は私の番ね、精霊研究室で精霊を改めて調べたわ」
「こっちも面白そうじゃな」
「調べたのはいいけど、ほとんどが研究してる人の願望とか推測ばかりで、信憑性に欠けるものばかりだったわ。女神様の眷属っていう説も出処が分からなかったしね」
あっちの世界では空想の産物だったけど……こっちで見た精霊さんはなんとなく妖精さんのイメージだったけどね、いたずらもする花の妖精……絵本の知識なので私は黙っていよう……
「それから精霊が現れた時の記録なんかもあったわ、花の周りで飛んでいたり、水の中から現れたり、木の洞で休んでいたなんてのもあったわ」
「昔からいる存在じゃが……ワシはここの庭でしか見たことないの」
「私は実家の池でよく見たわ」
お母様の実家って何処だろ?近いなら行ってみたいな……
「資料を見ていて、自然が豊かな場所で見られることが多いと感じましたね。研究室の方もそのように言っていましたし……たまに見るけど、やはりどういった存在なのかは分りませんね」
「シィナは精霊と話したのじゃろう?何を話したんじゃ?」
「えっと……私のことを愛し子って呼んでいて、遊ぼうって言われました」
「遊んだのか?」
「少しだけ……走ったり……指でクルクルしたり」
「シィナの可愛さに精霊もはしゃいだのかのぉ」
「あ、あと、愛し子って何か聞きました。女神に愛されてる……って言ってましたね」
「…………女神様の眷属か……」
「昔シィナのように精霊と話せる人がいたのかもしれないね……」
「とりあえずワシが王城で調べてこよう、塔と精霊をなっ」
「父上、くれぐれもシィナのことは城の人間に知られないようにしてください」
「分かっておる……ワシはちゃんと報告もするからな」
「……父上すみませんでした……」
最後にお父様がお祖父様に謝罪して昼食での報告会は終わる。
舞の練習からも解放されたので、久しぶりにまったりできる……少しだけお昼寝しよう、寝る子は育つと言うしね。
清らかな乙女たちの面々……正直シィナちゃんより発育が良かったのよね……
同じ8歳でも……シィナちゃんって6歳くらいに見える気がする。
シィナちゃんは幼く見えるくらい可愛いけど……もう少しだけ身長欲しいよね?
(………………)
そうだよね?お母様くらいのスタイルがいいよね?
シュアレ姉様は成長期でどんどんキレイになってるし……お胸も出てきたよ……いいな……お胸……元の体はガリガリだったからしょうがないけど……
…………考えても仕方がない……寝よう。
1時間程寝てスッキリする。
また勉強の日々だ、暑さもそんなに感じないので過ごしやすい。
闇魔法が私は苦手らしいので、まずは慣れる必要がある。
……闇魔法……言葉の響きはあまり良くない。
しかも生活魔法があまりないのだ。
黒い霧のような、黒雲のようなモノを発生させる……目眩まし的な魔法くらいで……普段の生活では実用的ではない。
いたずらをして誰かに見られないようにするとか……それくらいだ。
一応出来てはいるのでこれくらいで止めようか……
シュアレ姉様に少し相談してみよう。
シュアレ姉様の部屋に行ってみる。
扉の奥ではなにやら話し声もしている……とりあえずノックして入室許可を貰う。
「シュアレ姉様、失礼します」
「あら、シィナいらっしゃいっ」
「お母様、いらっしゃったのですか」
「ええ、少し王都の喫茶店の話をしていたのよ」
「あのシフォンケーキは売れますからね……」
「あれはまだ厨房でも研究中なのよ。シィナ考案した甘味は売れると鎮魂祭で証明されましたからね」
……お金儲けのお話か……そっちは完全に任せているよ。
「あ、シィナ何か用があった?」
「はい、闇魔法のことで相談が……」
「お母様、もう闇魔法なんて教えているのですか?」
「え?だって、シィナは教えたら全部覚えるのよ?教え甲斐があって楽しいのよ」
「私も魔法を覚えるのが楽しいですっ」
「はぁ……そう。……で、闇魔法がどうしたの?」
「目眩ましくらいは出来るのですがなんとなく苦手なんです。どうしたらいですか?」
「……やってみてくれる?」
「はいっ!…………」
私の手のひらから黒い霧が出てきて空中でイカがスミを吐いた感じになる。
「出来てるじゃない……」
「ええ、十分凄いわよ?」
「お母様、これで魔力制御全開なのです」
「ああ……相性問題ね、簡単に言うと苦手な魔法ってことよ」
「お母様、全開って……もうそこまで?まだ8歳ですよ?」
「だって勝手に覚えちゃったのよ?シィナの魔法見たんでしょ?」
「見ましたけど……大丈夫ですか?体は……」
「大丈夫、私が毎日健康診断してるから」
朝イチで抱きついてくるのは健康診断だったのね……
でも、さすがお母様……苦手魔法は相性って言っていたね。
詳しくはわからないけど、そいうものってことで良さそう……
よし、闇魔法終わりっ!残りは無っ!…………無ってなにっ!?
「お母様、姉様、無属性魔法の事を教えてください」
「ん〜シュアレは何か覚えられた?」
「私には無理でした……というか私以外もまだ何も……」
あれ?姉様って魔法も優秀だよね?なんか……挫折してる……
「シィナ、無属性魔法はとても難しいの。……頭の中で想像した自分だけの魔法なのよ」
「自分だけの……魔法ですか?」
「ええ、私は自分だけの魔法を持っているわ……遠くのモノを見る魔法よ」
「それはシュアレ姉様は覚えられないのですか?」
「私も何度も挑戦したけど、遠くのモノなんて見えなかったわ」
「どのくらい遠くが見えるのですか?」
「……そうね………………そこの窓からあの山の大きい木が見えるでしょ?」
窓に近付いて山を見る。
…………大きい木……ってあのすっごく遠い木?確かに大きい木はあるけど。
「はい、一応見えます」
「その木の周りを鳥が飛んでいるわ、たぶん巣があるのね」
「…………鳥なんて見えませんが」
「ちゃんと飛んでるわ。嘘じゃないわよ?」
「シィナ、お母様は本当の事を言っているわ」
「これが私の遠視の魔法よ、遠くのモノを見たいって思ったら見えたのよ」
「お母様は非常識です」
「これが無属性魔法……シィナにも、もしかしたら出来るかもしれないわ……頑張ってっ」
「参考になりましたっ!頑張りますっ!」
私は部屋を出て行った。
凄く興奮したのだ。
自分だけの魔法……なんていい響きっ。
頭の中……想像……つまりイメージ……お母様の目は魔法で強化されている感じだった。
なるほど、レーアに聞いても分からない訳だ。
無属性魔法…………自分だけの魔法……オリジナル魔法。
いいねっ、色々と試してみよう。
最高の暇つぶしを手に入れた気分……
ま、気楽にやってみようっ!




