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黒髪賢者の恩返し  作者: しんのすけ
第1章 新しい家族
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プロローグ



 ……今日は調子がいい。

 日の光が暖かく感じる……真っ白な病室で私の本をめくる音だけがする。

 最近は物語に飽きてしまったので、歴史や農業、科学など真面目で難しい本を読んでいた……こんな本は誰が読むのだろうと思っていたが、暇を潰すには丁度いい。

 お父さんにまた図書館から借りてきてもらおう。

 難解な本程眠気が襲うのが早いので、私は難しい本が好きだ。

 ごめんなさい、この本を書いた頭のいい人……私はこの知識を活かせそうにありません。

 

 本を閉じて眠気に負けた私は瞼をゆっくり閉じる……

 本当に今日は調子がいい……苦しいのは嫌いだ、ずっとこんな日が続けばいいのに……



 瞼を開けると私の周りがうるさかった。

 お母さんが何か叫んで泣いている。

 お医者様や看護師のお姉さんたちが忙しく動いている。

 おかしいな……何も聞こえくなってきた……

 それに体が……指も……動かせない……


 お母さん、そんなに泣かないで……私はお父さんとお母さんに愛されてこんなに幸せなんだよ。

 この気持ちを伝えたいのに、伝える術が何もない……

 お母さん…………怖いよ…………私はもう……次、目を覚ます自信がないよ…………


 瞼を閉じる……光が眩しくて…………手術台の明かりは嫌い……

 何度もした手術……また手術してもきっと変わらないだろう……

 ……死にたい…………だけど死んだらお父さんとお母さんが心配で……私はまだ死にたくない。

 でも苦しいのはもう嫌。

 結局私は自分の思い通りに生きられないのだ…………瞼を閉じ、お医者様に生死を委ねるだけだ。……



 徐々に音が……聞こえるようになってきた。

 手術は上手くいったのだろうか?

 だけど瞼が開かない……体の感覚も…………ない。

 麻酔がまだ効いているのだろうか?

 一応意識はある……だけど……騒いでいるのはお医者様の声じゃない。

 聞いたことない男性の声だ。


「父様っ!!このままではシィナが死んでしまいますっ!」

「シィナは絶対に死なせんっ!絶対にだっ!!」

「頼むっ!間に合ってくれっ!」

 

 体が言うことを効かないが、上下に揺れているのは分かる……何?何が起こっているの?

 手術台ってこんなに揺れるもの?

 いつの間にか眩しくない……ただ……息が出来ないかも……苦しい。


 上下の揺れが収まったと思ったら、今度は私は誰かの腕で運ばれているようだ。

 まだ瞼は開かない……何が起こっているのかも分からない。

 怖い……呼吸が浅く時々息が吸えないので、私は生きる事でいっぱいいっぱいだ。

 

「誰かっ!!シスターっ!!神父様っ!!誰か居ないかっ!!」

「こんな夜更けにどうなさいました?」

「あ、あなたはっ!私の娘が死の淵にっ!どうかシィナを……」

「……いけないっ!そこに寝かせてくださいっ!」

「父様っ!シィナが息をしていませんっ!!」


 私はもうダメ……苦しくて……何が起こったのかはどうでもいい。

 もう楽になりたい。

 ごめんなさい……お母さん、お父さん……もういいよね?


「女神よっ!私の最後の願いをお聞き届けくださいませっ!ゴホッ!ゴホッ!…………女神様っ!」


 突然体が楽になる……呼吸も出来るので……苦しくない。

 目一杯酸素を肺に取り込む………………私はまだ生きている。

 瞼はまだ開かないが、とても眩しい。

 でも手術台の明かりとは違って心地良い光だ。


「父様、この光は……」

「聖女様っその癒やしは……」

「ゴホッ!ううっ!……私の……最後の……………………この可愛らしい子に使えて……私は嬉しく思いますっ!ゲッホッ!……」

「聖女様っ!」

「聖女様しっかりなさって下さいっ!誰かっ!誰か居ないのかっ!?」


 私はこれまでにない解放感を味わっている。

 体が軽い……痛みが……すべての苦痛が無くなった感じだ。


「父様……シィナの髪が……」

「な、なんだ?何が起こっている?シィナの髪が、黒く……」 


 ほんの少し……ちょっとだけ瞼が動いた……うっすらと見えたのは見知らぬ男性たちが私を見つめていた。

 外人さんだろうか…………私は……そのまま意識が遠くなった。



 …………なんだろう?…………とても体が軽い…………ううん、違う。

 呼吸がとても楽になった……体を動かしても痛みもないのだ。

 深い眠りから覚めていく感覚……まだ頭が働いていないけど……何か違う気がする。

 そうか……違うのは空気……匂い……いつもの病室では嗅いだことのない匂いがあるのだ…………肺にいっぱい酸素を取り込んでから瞼を開くと…………


「……どこ?ここは……」


 知らない天井……そんなに高くない?…………あれ?これって……天蓋って言うんだっけ?

 お姫様の使うベットに使われているやつだ……周りには薄い布が垂れ下がっている。

 病室では……ない?……本当にここはどこだろう?

 ……そういえば、お母さん……あんなに泣いていたから心配だ。

 体を起こしてみると……何の痛みもない……どうしちゃったの?私の体は……

 自分の小さい手で頬を触る……あれ?やつれていない……ほっぺたに肉がついている…………ちょっと待って……なに?この小さい手は……指が短い……

 ……指が短いというか……手が小さいのだ。

 私は一人で混乱していると、どこからか音がした。

 扉が開く音がしたと思ったら、叫び声を聞いてとても驚いた。


「シィナお嬢様っ!!ああっ!旦那様!!奥様!!シィナお嬢様がお目覚めになられましたっ!!」


 大声を出したのはメイドのような服装をしている女性だった。

 そのメイド?さんがこちらに駆け寄ってくる。


「シィナお嬢様っ!お体は大丈夫でしょうかっ!痛いところなどは……」

「え、ええっと……喉は乾いています……」


 素直にメイド?さんに話しかける……喉が乾いているのは本当だ。

 水が飲みたい。

 シィナお嬢様って誰……

 っていうか……何?この声……自分の声じゃない。

 違和感しかない……小さい手に他人の声……夢でも見ているのだろうか……


「どうぞ、お水です……いえ、私が飲ませて差し上げます……」


 芸術的な水差しから吸い飲みへ水を入れて、メイド?さんが私に水を飲ませてくれる……

 この吸い飲みも芸術的な造形をしている……アンティーク品だろうか……

 私は素直にメイド?さんから水を飲ませてもらう……美味しい。

 水がこんなに美味しいのは本当に喉が乾いていたのだろう……もっと飲みたいので、もう一杯お代わりをねだる。


「お嬢様……お嬢様……私はお嬢様が元気になってくれただけで……もう感無量で…………嬉しくて……嬉しくて…………」


 メイド?さんは私に水を飲ませながら……体が震え、涙がボロボロと溢れ落ちる…………泣いているようだった。

 おかしいな……初対面じゃ……


「「シィナっ!!」」


 扉から見知らぬ2人がまたシィナと叫びながら部屋に入ってくる……シィナって私の事なのだろうか?

 凄い髪の色だ……男性が真っ青の髪の色で女性は緑の髪の色をしている。

 そうえいばメイド?さんはピンクの髪の色だ……カラフル過ぎる。


「シィナ……体は大丈夫か?」

「痛みとか苦しいとかはある?素直に言ってっ」


 まだ水を飲んでいるので、少し待って欲しい……ああ……また空になってしまった。

 メイド?さんは立ち上がり、吸い飲みを水差しの側に置く……もう一杯のみたいが、とりあえず喉は潤った。  


「ふぅ……」


 水を飲み終えたけど……どうしようか……素直に言った方がいいのかな?

 ……貴方たちは誰と。

 今の私は疑問だらけで自分の状態が分からない。

 ただ……体が楽になったのは事実だし、この人たちもそれを聞きたがっているんだよね?…………なら、とりあえず…………


「か、体は……痛くありません……苦しいとかも……ありません……」

「……そうか…………良かった……」

「シィナ……本当に大丈夫なのですね?母に嘘を付いては駄目ですよ」

「は?はは?……え…………」

「……どうかしましたか…………顔色が……真っ青ですよっ」


 母と名乗った女性が私の頬を優しく撫でる……

 温かい手だ……だけど私は更に混乱してしまった。

 お母さんは……どこ?お父さんも……

 目の前の女性はお母さんじゃない……髪の色もおかしいが、顔立ちも声も体も……全然違う別人だ…………これは……これだけは断言できる。

 でもこの頬を撫でる感じは、母親の愛情が詰まっている気がする。

 母と名乗った女性は私を心配しているのが……嫌でも分かるのだ。

 これは本物の愛情だ……だから傷付けたくない……


「す、少しお腹が空いているだけです……」

「…………本当に?苦しくないのね?」

「……は、はぃ……」

「…………レーア、食事の用意をして頂戴……」

「かしこまりました奥様……シィナお嬢様、食べたい物は何かありますか?」

「ええっと…………スープか何か……果物とか…………ありますか?」

「かしこまりましたお嬢様、すぐにご用意致しますね」


 メイド?さんは……レーアという名前のようだ……そして本当にメイドのような感じだ…………本物のメイドさんって初めて見たよ。

 メイドさんの名前が分かった……数多くある疑問の一つが解決した。

 レーアさんは部屋を颯爽と出ていった。

 

「お前たちも来なさい、シィナは大丈夫なようだよ……」


 男性が部屋の外に向かって何か話したと思ったら、また別の人たちがぞろぞろと部屋入ってくる。


「シィナっ!」

「本当に心配したんだぞ……」

「私の可愛い妹が女神様の所に行く訳ないでしょっ!兄様のバカっ!」 


 男性2人と女性1人が新たに部屋に入ってきた。

 また髪の色が増えて……部屋はどんどんカラフルになってくる。 

 そしてこの人たちも……初対面な筈だけど、私を心配しているのがよく分かった。

 私のことを妹と言っていた女性はボロボロと泣いていたし、男性2人も私の手を取って涙目になっていたのだ。


 私はこの人たちにとても……愛されているようだ……

 何も理解できない状況だけど、私は少しだけ安心していた。 


「シィナ……その髪の色も良く似合っていますわよっ」

「ああ、黒髪なんて見たことないけど、シィナには良く似合っているよ」

「まるで神話の女神様だ……綺麗な髪だ」

「……髪?」


 そういえば私の髪はいつもと同じで黒い……普通の日本人の髪の色だ。 

 黒髪が見たことない?

 何を言っているの?貴方たちは日本語喋っているじゃない……

 また疑問が増えたが……色がおかしいのはそっちでしょ?


 そして私は姉らしき人から手鏡を受け取り、自分の姿を認識して固まってしまった。

 私は18歳……の筈だったけど、鏡の中にいたのは6歳くらいの女の子だった…………これは何??…………私はもっとガリガリにやせ細った状態だった。

 でも鏡に映った姿は明らかに別人。

 そしてつい言葉が出てしまった。


「わたしはだぁれ?」

「シィナ?」


 部屋にいた全員が一瞬で青ざめてしまう……

 だけど私が一番混乱しているの……なんなのこの状況はっ!?

 誰か私に説明してくださいっ!


 

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