表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/19

3・ヴァイルの変化

 ヴァイルの訓練は可愛らしいものだった。数日に一回、変装した彼と町のカフェでこっそり会う。向かい合わせにすわって、世間話。それだけ。

 それでも彼にとっては意味のある訓練なのだそう。

 ヴァイルは女性と目を合わせるのも、対面し続けるのも恐怖でしかないという。それを普段は精神力と王太子としてのプライドと、母親への恐怖で押さえこんで普通に振る舞っているらしい。


 わたくしは彼のことをなにも知らなかったみたい。

 注意深く観察していたら、気づけたかもしれない。半年も婚約していたし、陛下の命令で三日に一回は食事を共にしていたのだから。

 結局わたくしもヴァイル同様に、相手のことを考えていない婚約者だったのだ。


 殺される未来を回避できなかったらと考えると怖いけれど、多少は訓練に付き合ってあげてもいいかなと思う。

 わたくしが彼の婚約者にならなければ、ほかの令嬢がなるのだもの。そのひとが不幸になるのを防ぐことになるかもしれない。

 わたくしは、きっと大丈夫。魔女が力を込め直した、お母様の形見があるから。




「チェリーナ。お願いがある」

 訓練が始まって三ヶ月ほどが過ぎたある日の別れ際。真剣な面持ちでヴァイルが頼んできた。

「なにかしら」

「手を握らせてくれないか。そろそろ普通に触れられる気がする」

 わたくしの馬車の前で、そばにはサラがいる。彼女は不快そうに顔をしかめたけれど、王太子に意見できる立場ではないからか、黙っている。


「……ダメか?」

 ヴァイルが捨てられた子犬のような目でわたくしを見つめる。

 仕方ないわ。


「どうぞ」

 わたくしは両手を差し出した。

 恐る恐る、わたくしの手を両手で包み込むヴァイル。

「やった! 鳥肌が立たないぞ!」

 すごく嬉しそう。

 わたくしも、さすがにほっこりする。


「それはようございました」

「ああ、チェリーナのおかげだ!」


 そう言われると悪い気はしない。かつてのヴァイルと違って、今のヴァイルはただの好青年だもの。

 今のこの努力が、わたくしやほかの令嬢の不幸を遠ざけていると考えると、がんばろうという気にもなる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ