18・二度目の告白
訪れた王宮は普段どおりで、事件が起きた影響はなにもないように見える。いつものサロンまで案内してくれた侍従にヴァイルの様子を尋ねると、『変わりなし』との答えだった。
だけど昨日の彼は、明らかにおかしかった。第一護衛のことにショックを受けているのだと思っていたけれど、もしかして違うのではないの? 前回のことを思い出したのではないの?
時を戻したことを後悔した?
それとも、わたくしを愛したことを?
そんなことはないわ。昨日の別れ際、彼は
『君に出会えたことを、運命に感謝している』
と言ったもの。
だけど彼の考えがわからず、不安になる。なにより左手。わたくしのために失うのは嫌だ。
待つことなく、護衛を連れたヴァイルがやって来た。昨日と同じように、表情がぎこちない。
わたくしは長椅子から立ち上がると、彼に駆け寄った。
「ヴァイル! 左手の具合は?」
「問題ない」
彼はぎこちなく微笑む。その左手を静かに取る。包帯が巻かれているから傷は見えない。
「チェリーナこそ、昨日は怖い思いをしたろう? よく休めたか」
「ええ。――今回は第一護衛に殺されなくてよかったわ」
ヴァイルの顔が強張った。
「わたくし、二回目の生を送っているの」
「……君も思い出したのか……!」
「やっぱり、あなたも!」
ヴァイルが人払いをする。普段は決して認められないのに、サロンの扉は閉められ、完全にふたりきりになった。
「チェリーナ」彼は苦しげな声を出すと、床に両膝をついた。
「なにをするの!?」
わたくしを見上げるヴァイルの頬を涙が伝う。
「事件の数日あとに、犯人が第一護衛だったと判明した。君は無実だった。俺が愚かだったせいで、君はなんの落ち度もなかったのに殺された。自分のことしか考えていなくて、君の努力も悲しみも辛さも知ろうとしなかった」
「ヴァイル……」
「許してもらえることじゃない。だが今はチェリーナを愛している。捨てないでくれ。君に嫌われたら俺は――」
「ヴァイル!」彼の頬を両手で挟む。「わたくしをよく見て! あなたを責めに来たように見える?」
「……いや」
「前回の記憶は一年前からあるの」
「えっ」
「だから助けてもらおうと考えて、魔女のお店に行ったのよ! あなたと知り合ってしまってどうしようかと思ったけれど、今は心の底からあなたが好き」
ペタリとヴァイルが床に座りこんだ。
「こんな俺を?」
わたくしも床に座る。
「違うわ。あなたの言う『こんな』だったのは前回でしょ。わたくしが好きなのは今のヴァイルよ」
「……チェリーナが記憶を取り戻したら、絶対に嫌われると思っていた」
「だから事件のあとから様子がおかしかったのね。ずっとぎこちない笑みだったわ」
情けない顔をしたヴァイルがゆっくりとうなずく。
膝立ちになり、ふたたび彼の両頬に手を添えた。
「好きよ、ヴァイル」キスをする。「きのう『式典のあと』の約束を楽しみにしていたのに、なにもなく帰されたから、わたくしは拗ねているの」
わたくしの手にヴァイルの手が重なった。
「どうして前回の俺は、チェリーナの素晴らしさがわからなかったのだろう」
「わたくしもあなたの苦しみに気づかなかったもの、お互い様だわ」
「本当にすまなかった。後悔している」
「もういいわ。今は幸せだもの」
ヴァイルが微笑んだ。ぎこちなさも陰もなく、心から幸せそうに。