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17・みたび魔女の店

  魔女は机の上の書物から顔を上げ、わたくしを見ると、

「おや、また来たんかい」

 呆れたように言った。

 わたくしは手にしていた巾着を差し出した。


「お守りのおかげで、無事に生き延びましたわ。こちらはお礼です」

「若いのに、律儀だねえ」

 魔女はにたりと笑って受け取った。じゃらり、と音がする。中には依頼したときの倍、金貨が入っている。


 ほくほく顔で巾着を(あらた)める彼女から視線を外して、机の上を見る。

 すでに瓶があることは確認済み。以前と同じ場所に、以前と同じ布切れがかかったままで置いてある。それに手を伸ばす。


「こちらを拝見させてくださいな」

「勝手にしな」


 布切れを外す。


 ――空だった。


「手は?」

「んん?」

「これに入っていた手です!」


 魔女は巾着を引き出しにしまいながら、

「なんのことかな」

 と楽しげにはぐらかした。


「傷のある手が入っていたでしょう? あれはヴァイルの左手ですわよね? 同じ傷をきのう、負いましたの!」

「なるほど。ならば言い逃れはできないか」と魔女。「そうさ、あれはあの男の左手さ。今回ではなく、前回のな」

「やっぱり! いったいどうして」


 魔女はニヤニヤしながら、空の瓶を手にした。

「『どうして』だって? 言っただろ。特大の願い事を叶えるためには犠牲が必要だって」

「……時を戻したのはヴァイルなのね」

「そうさ。普通はわし以外の人間は記憶を失くすんだがね。お嬢ちゃんは」と魔女はわたくしの胸元に下がる、お母様の形見を枯れ枝のような指で差し示した。「それの力で、災厄から逃れるために記憶が残ったんだろうよ。わしの魔法は強力だから」


 形見のペンダントヘッドを握りしめる。


「彼の左手に不具合があるのは、そのせいなのですか」

「ああ。時を戻ると、切り落とした肉体は元通りになる。だが魔法の担保であることには代わりない。代償は払い続けられるのさ。そうして世界を捻じ曲げてまで願ったことが叶わなかったら、朽ち果てる。本体と一緒にな」と魔女は瓶を叩いた。


「彼の望みは時間を戻すことではなかったのですか?」

「それは手段。願いは――」

 魔女はニタリと笑って口を閉じた。

「わたくしを死なせないこと?」


 ここで初めてヴァイルに会ったとき、彼は『女性を克服しないと、誰かを死なせてしまう気がする』と怯えていた。


「アヤツは『母親が苦手なせいで女性を悪だと思い込み、また、己の欠点を隠すことしか頭になかった。そのせいで罪のない令嬢を死なせてしまった』と幽鬼のような姿で泣いておったよ。『願いが叶うならば手なぞいらぬ』と、付き人が止める間もなく自ら切り落とした」


 前回死ぬ間際に見た、彼の表情を思い出す。驚愕に満ちた顔だった。

 彼は後悔をして、わたくしのために行動してくれたのだ!


「彼の左手はどうなるのですか?」

「んん? どう思う?」魔女はニタリとした。「お嬢ちゃんよ、伴侶を誇るがいい。ヤツは願いを叶えた。記憶のない中で達成できる人間は、そうはいないのだぞ」


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