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10・疑問は深まる

 ヴァイルとわたくしは婚約をした。けれど、もさもさ眼鏡っ娘姿は続けることになった。お父様にしたのと同じ説明をしたら、ヴァイルは心配してしまったのだ。それにこの姿のほうが彼が落ち着くのは事実のようだし。だからわたくし、今でももさもさ眼鏡っ娘!


 視界が悪い難点はあるけれど、便利ではある。王宮に行っても、以前みたいに顔目当てのイヤらしい中年男たちに話しかけられることがないのだもの。


 女王陛下にも素の姿をお見せしたら、一応は納得してくださった。好かれてはいないようだけど、そのぶん前回みたいに、呼びつけられてあれこれ言われることがない。とても助かる。

 あの頃はわからなかったけれど、陛下のヴァイルへの関心――というより執着は行き過ぎている。彼が女性恐怖症になってしまったのは当然のことだと思う。


 わたくしは少しでもヴァイルの力になりたい。


 冤罪と死の不安はありつつも、前回とおなじように王宮に日参し、前回とは違ってヴァイルと多くの時間を過ごしている。

 彼はそばに誰がいようともわたくしに甘々な態度を取るから気恥ずかしさはあるけれど、同時に嬉しさもある。彼とこんなに良い関係が築けるとは思っていなかったもの。


 そうして妃教育も社交も、わたくしはがんばった。

 彼の良い伴侶になりたい気持ちが半分と、純粋に日々が楽しい気持ちが半分。

 ヴァイルはわたくしを大切にしてくれるし、自分の努力の結果でお友達もできたんだもの。陰でわたくしの悪口を言うひとも大勢いるけれど、気にはならない。


 ただ、どんなにがんばっても、前回わたくしがかけられた冤罪の手がかりが見つからない。そこまでわたくしを嫌っているひとも、陥れようと企んでいるひとも見当がつかないのだ。


 あえて言うなら、陛下がヴァイルの婚約者にと決めていた伯爵令嬢くらい。彼女は本気でヴァイルの妃になりたいみたいで、懸命にアピールをしている。

 第一護衛の幼馴染らしくて、彼に話しかけるふりをして近づいてくる。

 けれど、わたくしに罪を着せるほどの度胸はないと思う。


 もしかしたら、わたくしの冤罪は偶然の産物で、犯人の目的はヴァイルだけだったのかもしれない。

 あの日の事件は、彼の飲み物に下剤が入れられていたというものだった。


 当日行われた御前試合は、王宮の中庭に会場が特別に設えられていた。ヴァイルはかなりの腕前らしく、優勝候補のひとりだった。実際に準々決勝まで勝ち上がり、そこで優勝者に敗れた。


 下剤は、この試合が開催されている間のことみたい。たまたまヴァイルは飲まず、試合に参加していた第二護衛にあげたそうで、彼はお腹をくだして棄権した。当初はただの体調不良かと思ったものの、あとになって特定の下剤を飲んだときに起こる黄疸が出たから、下剤のことがわかったそう。


 そして彼が発症前に口にしたのはヴァイルの飲み物だけで、それは彼とわたくしだけが座る王太子席にあったのだという。だから下剤を入れた犯人はわたくし、自分を愛さない男への嫌がらせ、と断じられてしまった。


 でもわたくしはやっていない。本当に飲み物が原因なら、席に置かれる前から混入されていたのだと思う。


 正直なところ、事件自体が腑に落ちないではいる。

 いったいなんのために、そんなことをするの?

 試合に出したくないなんて理由だけで王太子に薬を盛るのは、リスクが大きすぎる。実際、犯人だと思われたわたくしは、暗殺未遂だとまで言われて、簡単に殺されてしまった。


 でも第二護衛が飲んだのは偶然のようだったから、やっぱりヴァイルの不出場を企んでいたのだろう。問題は主目的がそれなのか、わたくしの冤罪なのかがわからないこと。

 飲み物をめぐるやり取りはわたくしのそばで行われていたはずだけど、記憶にない。彼が嫌いだったから、見ないようにしていたもの。


 第二護衛の自作自演かとも考えたけど、それはなさそうだし。

 どれほど探ってみても、ヴァイルの周辺に彼を陥れようとするひとは見つからないし。

 わたくしがなにかを見落としているのか、それとも今回は事件が起こらないのか。


 困ったことに、まったく見当がつかない……。

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