〜僕は不死鳥警備員〜
土が剥き出しの道路は、馬車の荷台に居る人間にはキツイだろう。
現代の整備されたアスファルトなら兎も角、そんな場所では無い。
ラング達は馬車の揺れに身を任せていた。
アンガラへの一本道である。
「しかし、こうも上手くいくとはなあ。」
ラングは誰に言うとでもなく馬車の天井を見ながら言った。
王城での事を言っているのだろう。
「カーリスさんが丁寧な説明をしてくれたのもあるんじゃないですか?」
メイガンも天井を見ている。
「お兄ちゃんはどうだろ。説明下手な所あるから。」
セレスの言葉には兄に対する謙遜も含まれているようだ。
「今回の事で分かったのは、隼人が戦力になるって事よ。」
セレスは得意げである。
自分が隼人をスカウトしたからだと。
「ふんっ、まあ足手まといにはならないようね。」
マリーは納得できてないようだ。
「ねぇラング、今回の討伐内容は?うちは聞いてないんだけど。」
マリーは身体を起こし、ラングに向き直る。
「ああ、まだ言ってなかったな。皆、聞いてくれ。」
全ての目がラングに向けられる。
「王様直々の依頼だ。これはギルドにも正式に依頼されている。アンガラの村にモンスターの群れが度々現れるそうだ。」
ラングが皆を見回しながら言う。
「この依頼、シルバー級以上の冒険者全てに依頼されているものだ。もちろん、俺達だけが向かっている訳では無い・・・と思う。」
冒険者は階級制である。
下から
ブロンズ
コッパー
アイアン
シルバー
ゴールド
ミスリル
オリハルコン
ラング達はシルバー級に属している。
「と思うって何よ?他に誰も来ないの?」
マリーは不服申立てをしている。
「これはある意味、隼人を試す為の依頼じゃないかと考えている。そう考えれば合点がいくからな。」
《えっ!?》
ラングの言葉に隼人は顔を上げ目を見開いた。
ラングとバッチリ目が合う。
「俺の悪い予感の的中率を聞きたいか?」
ラングはとびきりの笑顔だ。
「いや、やめとくよ。俺の悪い予感的中率もかなりの物だから。」
隼人はまた顔を伏せてしまった。
そんな時、馬車が左右に激しく揺さぶられ
馬のけたたましい鳴き声が響いた。
「どうした!?」
ラングが飛び跳ねるように起きた。
「ガーゴイルです!!かなりの数が来てます!!」
馬主が叫んだ。
ラング達は荷台から飛び降り、前方を睨んでいた。
「あれは・・・凄い群れですよ!50・・・いや、100は居そうです。」
メイガンは背中に冷たい物が流れるのを感じた。
言う間にも第一陣が上空から急降下してくる。
「あ〜もう!!面倒臭いわ!!」
マリーは杖を構えて詠唱を唱えだした。
「爆ぜるは我が魂─────ファイヤーボール!!」
燃え上がる火球がガーゴイルを襲う。
ギガァァァァッ!!
炎に包まれたまま、断末魔の叫びと共に落ちてゆく。
メイガンも体力上昇の魔法をかけた。
ラングとセレスが前に出る。
「地上の奴等は任せろ!マリー!数を減らせ!!」
ラングは指示しながら地上に降り立った敵を切り捨てていく。
ギィィィィィ!!
グゲェェェェェ!!
「デカイの行くよ〜〜!!」
「焔〈ほむら〉の不死鳥、爆炎と燃焼を司る者よ。我が声に応えよ。ファイヤーバード!!」
目の前の空間が弾け、炎の中から無数の火の鳥が飛び出す。
複数のガーゴイルが悲鳴を上げ、次々に落ちてゆく。
「どんなもんよ!」
マリーは笑顔でVサインだ。
「駄目です!数が多過ぎます!!」
メイガンはマリーを背に叫ぶ。
「あ〜もう!何なのよ、こいつら!もう一発───────」
マリーが詠唱しようとした時、背後から隼人が肩を叩いた。
「マリー、俺に合わせて。」
驚いて振り返ると、隼人の腰と肩が光り輝いていた。
「詠唱を続けて。」
隼人は肩紐の先端を頭上に持ち上げ、もう片方の手で弓の様に光る棒を構えていた。
《使い方は分かる。あとはやるだけだ。》
「────────ファイヤーバード!!」
マリーの詠唱が終わり空間が弾ける。
「喰らえ〜〜〜〜!!フェニックス・バースト!!!!」
隼人の怒号は何百と言う光鳥の輝きでガーゴイル達の身体を貫いた。
バタバタとガーゴイル達は落ちていく。