〜僕は緊張警備員〜
身体が緑色なら、血液も緑色だった。
ゴブリンキングであった物がある。
ひしゃげていびつになってはいるが、辛うじてゴブリンキングと分かる。
濡れた粘土のような塊を見つめ、隼人は立ち尽くしていた。
ラングの大剣でも刃が通らず、マリーの業火でも何事もおこせなかった。
その強敵が、肉の塊になったのだ。
《何が起こった?》
隼人はただ、見つめている。
「隼人? お前・・・何者だ?」
ラングである。
自分の大剣が効かぬ相手を、棒で殴って殺したのだ。
どれ程の攻撃ならそうなるのか───────
「その制服も不思議だ。どこの国の制服とも違う。」
ラングはベテラン冒険者である。
過去、様々な国を渡り歩いてきた。
しかし、隼人の着る服はどこの国の制服とも違っている。
「ラング、それは後にしないか?まだ依頼も達成してないだろ?」
メイガンが会話に入ってきた。
「今は隼人に助けられた。それだけでも収穫だ。」
メイガンがラングの肩に触れる。
ふ───っと深く息を吐いたあと
「そうだな・・・今は依頼に集中する方が良い。隼人、すまなかったな。」
くるりと背を向け、マリー達を見る。
「マリー、セレス。怪我は無いか?」
マリーとセレスは顔を合わせ
「うちは大丈夫。」
「ああ、問題無しだ。」
ラングの険しい顔が少し綻んだ。
「じゃあ、森の奥へ向かうぞ。」
ラング達は森の奥へ歩き出した。
《あの声・・・この力・・・》
メイガンに促され歩き出した隼人は
ずっと考えている。
光の棒は輝きを失い、ただの警棒になっていた。
警棒と分かるのは隼人しか居ないだろう。
そこは重厚な造りの城であった。
大きさこそ、そこそこではあるが丁寧に積み重ねられた石造りには職人達の拘りを感じる。
カーゼム・アンバーラ王城─────────
ボムスライム討伐の依頼をこなしてから
城へ出向いたと言う訳だ。
ちなみに、スライムと言っても男が喜びそうなイベントは無い。
「そこの者達、緩りとするが良い。」
上座に座る国王に促され、ラング達は頭を上げた。
「報告を。」
「はっ! 加乃森隼人。22歳。野党の襲撃により記憶を失うとあるが、間違いは無いな?」
如何にもお付きのお偉いさんと言った風な男が聞いた。
「はい、相違ございません。」
隼人がやや緊張気味に答える。
「ふむ・・・大体の報告は受けておるが・・・」
隼人を見る。
「確かに見たことが無い服を着ておるな。」
興味津々なのだろう。隼人を見つめる目は、小学生がカブトムシを見るそれだ。
「で?この金属の棒でゴブリンキングを倒したと?」
国王の傍には、隼人が腰につけていた警棒が置かれている。
「ハッ!私達がはっきりと確認しております。」
答えたのはラングだ。
「ラングよ。何故処遇の決まっていない者を連れて行ったのだ?」
お付きのお偉いさんがキツい視線を送る。
「記憶も無く、何者かも分かりませんでしたが、冒険者ならばその記憶は身体に染み付いている筈です。戦いの中で記憶が蘇る可能性にかけました。」
嘘だ。
前衛代わりのお手軽アイテムとして連れて行ったに過ぎない。
良くも悪くも手練の冒険者と言う事だ。
「まあ良い。その事については許そう。その代わりと言っては何だが、1つ頼みたい事がある。」
国王はチラリとラング達を見て
「聞き及んでいるだろうが、アンガラに魔物の被害が出ていると言う。それを討伐してもらいたいのだ。」
アンガラの村はカーゼム王国への一本道で繋がっている。
馬車で1日と言った所だ。
「ハッ!用意でき次第向かいます!」
ラングが深々と頭を下げ、王城を後にするのだった。
「おっ?取り調べは済んだか?」
ふざけた様な口調で言ってきたのはカーリス。セレスの兄だ。
「あれ?お兄ちゃん、今日はこっちなの?」
セレスは不思議そうな声をあげた。
「身元不明の奴を独断でお持ち帰りした挙句に、お前達に預けちまったからな。本来ならもっと厳しい処分ものだが・・・」
隼人を見ながら「かなり活躍したそうじゃねえか!俺も今回ばかりは助かったぜ。」
《それで王城の前の見張りって訳なのか。》
「運が良かっただけだよ。」
隼人は前を見ながら言った。
「アンガラに行くんだろ?気をつけてな。」
隼人が手を振る後ろ姿に声をかけた。