#8 昔の出来事 前編
俺は今、学校の図書館に来ている。勿論勉強や本を読みにきたわけでもない。今日は第二金曜日、図書委員会がある日だ。面倒くさいと思いながらも、サボると後々だるくなると思ったので、身が入らないものの行くだけ行った。仕事は司書教諭から頼まれたことをただこなすだけの楽な仕事だ。本を揃えたり、運んだり……。今、自分は本を運んでいる最中だ。
「伊藤さん、本運んだから入れといてね。よろしく」
「……うん」
この伊藤花音という生徒は、凄く大人しい。前世では他の人と話しているところを殆ど見たことがなかった。見た目は黒髪セミロングに眼鏡をかけている。前髪が長くてあんまり素顔が分からない。
「……」
「……」
沈黙が続いていて気まずい。なんか話題を振るしかないか。
「伊藤さんって、いつも家帰って何やってるの?」
「…‥本を読んでる」
「へえ、どんな本読んでるの?」
「……恋愛小説」
「俺もたまに読んでるよ、ライトノベルだけどね」
「……」
何だこの空気。この場に真斗がいたならもっと盛り上げてくれるだろうに。
暫く本を並べると、今日はもう終わりでいいと言われた。帰る準備をしようとしたら、もうすでに伊藤さんは帰っていた。
一人で下校しようとした時
「よお怜遠」
そこには、体操着を着た真斗がいた。
「あれ? 真斗。何か用事でもあるのか?」
「部活の仮入部だよ。今日は陸上部に来てるんだ」
真斗は確か足速かったし陸部は向いてると思う。
「そうだったんだ、他にも仮入部行ったの?」
「一応、サッカー、バスケ、バレー、陸上と行ってみた」
「野球は? 強制坊主じゃないらしいよ」
「一応今度行ってみるよ、てか怜遠は何してたん?」
こいつわざと聞いてるのかな?
「図書委員で残らされてたんだよ」
「あーね。それはお疲れ様だわ。相方誰だっけ?」
「伊藤さん」
「あーあの芋っぽい人?」
その言葉を聞いて俺は笑いそうになってしまった。
「お、おい、流石にそれは失礼だろ」
「ごめんごめん、でも実際そうだからね」
真斗は笑いながら話している。可愛い子以外には興味ない感じか。
「まあ部活頑張れー、また来週」
「おう、またなー」
とりあえず伊藤さんとどうにか少しは話せるくらいにしとかないとな。
そう思い俺は、帰りに『相手を惹きつける話し方』という本を購入して、読んでみることにした。
まあ彼女以外と話す時にも有効な気がするしいいんだけれど。