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#61 何かに夢中になることは、楽しいことである。

 それから俺らは、電車に乗って、ラウセカに向かい始めた。電車に揺られながら、まず最初に何をやるかを考えていた。


「ねえ大田さん。俺に少しテニス教えてくれない?」


 俺は、テニスを今までで一回もやったことがない。まず、前世では小学校では何もスポーツやっていなかったし。中学では野球、高校でも何もやっていなかった。大学でも水泳をやっていただけで、球技は一切やっていなかった。


 もし小学校の頃からスポーツに積極的だったら、鈴木や真斗に並ぶレベルの運動神経を持つことができたのだろうか。


「うん。いいよ。私が優しく教えるね」


 やっぱり聖女だ。こういうあだ名をつけた真斗はある意味天才だと思う。


「私にも教えて欲しいな……」


「もちろん伊藤さんにも教えるね。森くんにもね」


「僕はテニスは全くやったことないから助かるよ」


 このメンツは、比較的穏やかで心が落ち着くな。真斗や石井と過ごすのも面白くて嫌いじゃないけれど、俺の元の性格上、うるさいのはあんまり向いていないようだ。


 ラウセカについて、早速入場すると、平日だったおかげもあって、結構空いていた。待ち時間があったら面倒だと思っていたので、ありがたかった。


「まずテニスやる?」


「うん。ソフテニでいい?」


「僕らは初心者だからそうしてくれると嬉しいな」


 ラケットってどのくらいの長さで持ったらいいのかわからないな。そう思って適当に真ん中を持っていると、


「最初は、短めに持った方がやりやすいよ」


「そうなんだ、ありがとう」


 そしてやってみたが、ボールは当たるもののなかなかコート内には入らなかった。一輝も全くコントロールができないらしく、横で嘆いていた。


「難しいね……」


「それな。ただ動けばいいわけじゃないから難しい」


 そして、伊藤さんに至っては、ラケットに当たってすらいなかった。やっぱり、テニスって難しいよな……。


 ふと大田さんを見てみると、フォームも綺麗で、サーブも綺麗な軌道を描いていた。流石経験者と言ったところか。


 大田さんのフォームを見よう見まねでやってみると、先ほどよりは球の軌道もよくなりコート内に入るようになってきた。


「よし」


「神里くん。いい感じだね」


「うん。大田さんのフォームを真似してみたら、さっきよりは良くなったよ」


「そう? それなら良かった」


 そしてその後、一回四人で打ち合ってみようということになり、俺は大田さんのサーブを受けた。彼女のフォームは完璧で、ボールの軌道はとても綺麗だった。


「速いな……」


俺はなんとか返球しようとしたが、打つポイントがわからず、コート内には入ったものの、緩いボールが大田さんの前に行ってしまった。


「はい」


 そして大田さんから放たれた球は、綺麗な軌道を描いて、一輝の横を通り過ぎていった。


 俺はそれを見ながら、未経験者が経験者に勝つことは難しい、と改めて実感した。


 それから、しばらく打ち合っていると、慣れてきて、そこそこ返球できるようになってきた。俺がボールを打つと、ボールは軌道を描いて、伊藤さんの横を通り過ぎていった。


「よし」


「怜遠習得はや。僕も頑張らないと」


「たまたまだよ。でもテニスって楽しいな」


「ね」


 そして、軽く試合をしてみようと言うことになり、三ゲームマッチをすることになった。チームは俺と一輝対大田さんと伊藤さんである。俺の戦法は、とりあえず大田さんからのサーブを打ち返して、チャンスボールがきたらすかさず伊藤さんに向かって打ち返すことだ。大田さんに打ち返したところで俺らの実力じゃ返されることが目に見えている。


「じゃあ行くよ」


 そう言った瞬間、素早いサーブが放たれた。俺はすぐさまくらいついて、相手コートにボールを返すと、伊藤さんはボールを空振り、俺らにポイントが入った。


「とりあえず、一点獲得か」


「だね」


 そして俺は初心者ながら、一生懸命やってみた。一輝もそこそこ返せるようになってきて、伊藤さんもボールが当たるようになってきた。


 そして後一点で勝ち負けが決まるというところで、俺は思った。どうせなら大田さんに勝ちたいと。


 そして、俺は今日一番強いサーブを、大田さんに向かって打った。しかし、彼女は頑張って合わせてこちらに返してくる。


「さすがだな」


 俺は再び、ボールを返すが、やはり彼女はくらいついてくる。


「僕に任せて」


 一輝はそう言って、伊藤さんと大田さんの間にボールを放つと、二人はお見合いしてしまい、余裕がなくなった。大田さんがかろうじて返したが、彼女の体力がもうあまりないのを俺は見抜いていた。


「これで終わりだ」


 俺はチャンスボールを打ち返して、ゾーンのギリギリを狙って、しっかり入れた。


「ナイス怜遠」


「強いね……」


 俺はその場に倒れ込み、


「何かに本気になるのは、楽しいな」


 そう呟いた。

 

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