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#28 バーベキュー、そして不穏な空気

「…くん。神里くん」


 誰かから呼ばれる声によって俺は体を起こした。まだ顔が痛い。なんかヒリヒリするし。


「えっと、俺は確か莉果に……」


「うん」


「てかわざとじゃないからね。あれは事故だよ」


 ここまでいったら逆に怪しい気もするが、仕方がない。


「分かってるよ。神里くんはそういうことしなさそうだし」


 俺のこと信用してくれている証拠かな。でも、莉果と和解するのは簡単ではなさそうだな……。


「なあなあ、野村さんの感触どうだった?」


「一回黙ってくれ」


 女子のいる前でそのセリフが出るの普通にヤバすぎるからな。大田さんは笑っているけど、心の中では引いてるぞ多分。


「田中くんそういうのはちょっと……ね?」


「大田さんが聖女でよかったな真斗」


「マジそれ、聖女様〜」


「恥ずかしいからその呼び名やめてよ……」


 彼女の恥ずかしがっている顔も可愛くて、見つめていたいくらいだった。


 その後レクリエーションの時間が終わり、部屋に戻った。そして部屋で、石井の自慢話に付き合わされている。


「でさ、クラスの子の連絡先ゲットしたわけよ」


「よかったね。因みにボクは基本みんなの連絡先持っているけどね」


「マジかよ〜」


 モテ自慢する相手間違っているだろ。因みに真斗だって発言はアレだが、顔と明るさでそこそこモテるので、石井の自慢はあまり通用しないだろう。一輝もあんまり目立たないものの、女子から『美系』だの『可愛い』など言われているのを俺は知っている。本人はあまり嬉しくないみたいだが。


 俺に自慢してきても別に気にしないつもりだ。別に連絡先くらい聞こうと思えば聞けるし?


 すると、石井が俺の方に来て、


「なあ神里〜。お前は女子の連絡先持ってるか?」


 やっぱきたよ。特別女子と仲良くない俺には石井はいつもこうやっていじってくる。まあ彼は一輝のことはいじらないので、俺と石井の仲が深まっているということだろう。


「一人だけなら」


「誰?」


「大田さん」


 その瞬間、石井が『負けた』と言って崩れ落ちた。正直これに勝ち負けもクソもないと思うんだが。


「負けってどういうこと?」


「クラスのマドンナには敵わねえよ」


 何が敵わないのか、俺には理解ができなかった。


 バーベキューの時間になったので、俺らは集合場所に行った。因みに班のみんなと食べるので、莉果と少々気まずい。しっかり謝るつもりだが、許してくれるとは思えないしな。


「食いまくるぜ」


「お腹壊すよ〜?」


「そういや、激辛カップ麺はいつ食べるんだ?」


「夜食うよ」


 ガチでアレを食べるのか……。考えただけで、汗が出てきそうだ。てか、石井も石井でなかなかの畜生である。 


 女子チームと合流し、食材を焼き始めたが、やっぱり莉果は俺と目も合わせてくれない。どうすればいいのだろうか……。とりあえずタイミングを伺うしかなさそうだ。


「……いただき。……もらい」


 真斗に関しては、俺がみんな用に焼いているのに、全部取っていくし……。次は取らせないけどな。


「は? 俺の肉」


「お前だけのじゃねーよ」


 そして一つずつみんなの皿に置いていく。大体みんな一言お礼を言ってくれたものの、


「はいこれ」


「……」


 莉果に関してはこの有様である。こんな険悪な空気の俺たちが仲直りできるのか不安になってくる。


 一輝が焼くのを変わってくれたので、俺は食べながら大田さんに莉果と仲直りする方法を聞いていた。


「うーん。莉果は素直になれないだけだと思うよ」


「彼女がツンデレなのは俺も知ってるよ」


 俺のツンデレという発言が面白かったのか、彼女は口を抑えて笑った。そして俺も自分で言って笑いが込み上げてきた。結局ほとぼりが冷めるまではそっとしておいたほうがいいということになったので、俺は無理に莉果に話しかけずに、この空気を壊さないようにした。


「なあ、これ食べたらキャンプファイヤーだよな? 怜遠は行く?」


「任意参加なんだろ? 俺は別に踊る相手いないし行かなくていいかな」


「オレは踊ってくれる相手探すけどな」


 どうしてそこまで本気になれるのか……。逆に誰も踊ってくれなかったら虚しくなるだけだろう。まだ一番可能性ありそうな莉果ですらこの空気だからな……。


「一輝はどうするの?」


「僕はいいかな……」


「多分お前と踊りたい相手いると思うぜ」


「いないでしょ……」


 一輝は優しいので、普通に女子からの印象いいと思う。だから、普通に踊りたいと思ってくれている子がいてもおかしくない。真斗は初対面にはモテるから、他クラスの女子となら行けるかも。


「何が一緒に踊る相手よ。つまらない」


「私はそういうのなんだかロマンチックで憧れるけどね」


「私も」


 三人とも客観的に見て可愛い。恐らく一緒に踊りたがる男子は多々いるだろう。まあ莉果はとりつく島もなさそうだけど。


「まあ、真斗頑張れよ。応援してる」


「よし分かった。じゃあ野村……」


「無理」


「そくとー!?」

 

 真斗は落ち込んでいるが、逆に今の莉果の状態を見ていけると思ったのならそれはそれですごい自信家である。


「二人は……」


「えっと……。ごめんね?」


「ごめんなさい」


 恐らくもう真斗のライフはゼロだろう。まあもしアレなら俺が後で慰めてあげるとしよう。

 

「くっそー待ってろよ〜」


 真斗はそう言って食べるのを再開した。結局真斗が五分の一、いや四分の一くらい食べたに

違いない。まあ俺もそこそこ食べれたので気にしないでおこう。

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