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初恋のつづき




そんなこんなで、レイラのピンチを救って白薔薇のアメリアと呼ばれるようになってから、一年ほどが経っている。

尊敬を込めて呼んでくれるのがほとんどだが、それはそれでむず痒い。





「あれから随分経ったけれど…もう白薔薇と呼ばれることにも慣れてきてしまったのが怖いわ…」





あの時は相当悩んだし困ったが、友人を助けたことに後悔はないし、今となっては呼び方なんてどちらでもいいと気にしなくなった。



そしてその噂はもちろん、婚約者のフェリクスにも届いていたのだが、フェリクスはいつでも、アメリアが嫌なことは絶対にしない。



だからこそ、あの時も気がついて触れずにいてくれたほど、優しい人だ。

アメリアは自分の頬が熱くなったことに気が付かないフリをしながら、コサージュを見つめる。



本当によくできた。

これならフェリクスに豊穣祭の夜会で身につけてもらっても恥ずかしくないだろう。



豊穣祭とはケルディアール王国で年に一度開かれる祭典である。

国民がみんなで出店をしたり踊りながら、恵みに感謝してお祝いする。



そのお祭りで「おそろいのものを身につけていると恋が叶う」というおまじないは、身分に関係なく若者の間で信じられているジンクスだ。






「おそろいの髪飾りまで用意してしまったわ…ああどうしよう緊張する…」






震える手で髪飾りにも手をのばす。

こちらも薔薇のように見えるが、角度によって蝶のかたちになっている。



フェリクスに惹かれる気持ちを表現した髪飾りだが、あまりにもあけすけだろうか?

いや、それでも、アメリアとフェリクスは婚約者なのだ。

なにも恥ずかしいことではないと、アメリアは自分に言い聞かせた。



同じ素材である紺金糸で作り上げた二つを自室のローテーブルに並べて、覚悟を決める。

今までずっと、婚約者になってからも言えなかった、フェリクスへの初恋を伝えるチャンスだ。




アメリアが12歳の時に婚約してから、もう7年が経つ。

フェリクスはいつも優しくて、彼が選ぶ花束も、デートの場所も、話す言葉でさえアメリアを思ってくれていることがわかるくらい、とても思い遣ってくれる。



そしていつしか、アメリアはフェリクスと目が合う時に、彼の瞳になにか想いを見るようになっていた。

心なしか、思いやりに混じって…慈しむような、独占欲のようなものを見つけるたびに、思い上がらないよう気を付けてきた。



でも、自分の気持ちが彼に伝わっているのか、そして本当にフェリクスが自分に好意を持ってくれているのか、アメリアには自信がなかった。



アメリアの初恋はフェリクスで、今もその気持ちは変わらない。

これまで核心をつけなかったが、今回はこのコサージュを通してそれを届けたいのだった。






「もしも想いが通じなくても、婚約者としても、将来の伴侶としても、殿下を大切にすると誓うわ」






コサージュと髪飾りに誓いながら、アメリアは両手の指を組んでおでこに当てた。






「だけどお願い。今だけは祈らせて。……フェリクス様と、両思いになれますように」






アメリアの切実な声は、静かな夜の部屋に消えていく。

豊穣祭の”おまじない”だが、おそろいをつけている時点で答えはYESということになる。

だから成立したら両思いの”おまじない”なのだ。






「フェリクス様が、これを身につけて、私の前にあらわれてくれますように……」






だが、もし想いには応えられない時には、お祭りに行かないか、おそろいのものを身につけないということが逆の返事になる。










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