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【閑話】白薔薇のはじまり①

閑話です!

ちょっと長くなりそうなのと、本編ストーリーには大きな影響ないはず…なので、とばしていただいて大丈夫です!



自分の鉄仮面に振り回されたというか…そんなケースでアメリアが真っ先に思い浮かべるのは「白薔薇事件」だ。

今でも友人たちが事あるごとに話題にするので、忘れたくとも忘れられない。











ある時、授業を終えたあとでアメリアが友人2人と学生食堂に向かっていると、普段はひと気のない渡り廊下の奥から言い争うような声が聞こえた。

アメリアは訝しみながら一緒にいる友人に問いかける。




「ジュリー、いまあの辺りから声がしなかった?」




「まあ、リアには愛しのフェリクス様の声が聞こえたのかしら」




友人のジュリアンヌが腰まである巻き髪のピンクブロンドをひるがえし、かがやく青い瞳でアメリアを振り返る。

喋り方はだいぶ嫌味っぽいが、これでまったく他意はない。

テラデルジア伯爵家で遅くに生まれた一人娘のジュリアンヌは、甘やかしたい大人に囲まれて育った。

そんな彼女にとっての喜びは、自らの手で努力して自分を磨くことだ。


それでいて、本心で褒められるのは苦手なのだ。

彼女が管理するそのお手入れについて、すこしでも褒めようものなら、特大のツンデレが発動してしまう。

それを知らずにアメリアが髪の美しさを褒めた時、ジュリアンヌはつっけんどんな返事をしつつ、毎日髪型を変えていた。




「やめてあげて。いま聞こえるはずないわ。昨日も夢で聞いているのに」




呆れるようにジュリアンヌを嗜めたのは、サラというもう1人の友人だ。

深緑の髪をきっちり一つに背中へ編みおろし、明るいグリーンの瞳にシルバーフレームの眼鏡をかけて笑う。


宰相を務める家系の伯爵令嬢として育ち、効率を最重要とした価値観を持っている。

オシャレより読書がしたいタイプである。彼女はずばぬけて勉強が得意なのだが、占いにも造詣が深いので、今朝「フェリクスと喧嘩する夢を見た」と相談したのだ。

聞いた時は必死だったが、冷静に考えると相当はずかしい。




「…2人とも、おこるわよ?」




「あらあら、冗談が通じないんだから。まるでわたくしの父上みたい」




「テラデルジア伯爵は厳しい方なのでしょう?王国議会の公開議事録でも評判どおり、厳格な雰囲気だったわ」




「サラ、議事録でなくファッションの本を読めば、その瓶のフタのような眼鏡から解放されるのではなくって?」




「心配しないでジュリー。金髪ドリル巻きが好まれる美意識ならついていけないもの」




あと多分フタじゃなくて底よ、とサラが付け加えている。

この2人、一見まるで言い争いをしているように見えるが、実はこの軽口を楽しんでいるのだ。


2人とも伯爵家の令嬢で、幼馴染。はじめはクラスメイトも引いていたが、実はとんでもなく仲がいいのだということに気づいてからは、もはや風景として扱っている。

そしてこの2人は放っておくといつまでもこのやり取りをしているので、まずはひとりで廊下の奥を見に行くことにする。








やはり、近づいていくにつれて怒ったような声が大きくなる。何かトラブルが起きているようだが、若い女性の声しかしない。

角を曲がると、大きなプラント越しに女子3人が立っていた。上級生の制服が2人、同級生の制服が1人だ。




「いい加減、認めなさいよ!」




「あなた、ティリオーネ様のアイデアを盗んだのでしょう?」




よく見ると、絡まれているのは私たちのクラスメイトで、レイラという男爵令嬢のようだ。必死に弁解する、水色のボブヘアーにカナリアイエローの瞳の彼女が見える。

ティリオーネというのは昨年度の学内コンクールでポエトリー(詩歌)部門の賞をっていた人だ。

最近あった公開授業でポエトリーのよい成績を収めていたレイラに、本人不在で取り巻きが言いがかりをつけているらしい。




「誓ってそんなことはしていません!!わたしが、わたし自身で生んだ作品です!!」




「だっておかしいもの。今期の公開作品で『ラベンダー』という言葉が入っているのは、ティリオーネ様とあなただけだったのよ」




…こじつけではないか?まさか「ラベンダー」という言葉が入っているというだけで糾弾しているのか。

アメリアは信じられない気持ちで足を止めてしまった。アメリアも、もちろん彼女たちの詩を読んだが、印象は正反対だったのだ。

レイラの詩趣はよく覚えている…




『わたしは夕日を眺めていた。開けた窓から風が届き、光とラベンダーが運ばれた。優しく包んでくれたあなたを、今は私が抱きしめる。』




レイラのお父上は数年前に病気で他界されていて、これはその直後の情景を表したポエム。

ある日、デスクの整理をしているときに、レイラは突然父が書斎に入ってきたように錯覚した。

それは父が好んで懐に忍ばせていた、ラベンダーの香りがしたから。




「…わたしは詩が好きで、大好きな家族のこともたくさん書いてきました。でも書けなくなったんです。ポエムを悲しい気持ちに染めたくなくて。だけどやっと、あの時のことを『おかえり』って穏やかな気持ちだけで思い出せるようになった。」




レイラが震えている。怒りを、もどかしさを、虚しさを堪えるような彼女の横顔がみえる。

もしこれが彼女の「戦い」なら首をつっこむのは野暮かと思ったが、もういいのではないだろうか。

勇敢に立ち向かった時点で、彼女はのりこえている。アメリアは静かに一歩を踏み出した。




「私が……そんな思いで世に出したあの作品……

私の本心を、盗んだなんて言われる覚えはないです!!!」




「へ、屁理屈を!先輩であるティリオーネ様と同じ言葉を使っているのは事実でしょう!」




「たしかに同じ言葉は入っています。だけど私が見るラベンダーと、ティリオーネ様の見るそれは、まったく別物のはずです。もし同じに見えたなら、それはあなたの想像力がないからよ!!!」




「なんてことを!伯爵令嬢の私たちに向かって、男爵家のくせ…」




「その辺りになさってはいかがかしら?ご令嬢方」




アメリアが観葉植物のうしろから姿を現すと、3人が振り返った。

なぜか先輩方は、私をみてハッと目を見開くと、バツがわるそうな様子で顔を逸らしてしまった。

人に見られて困ることをした自覚があるのだろうか。

レイラの「アメリア様…?」という戸惑ったような声を聞きつつ、アメリアは上級生たちに話しかけた。


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