コーラ炸裂。
自動販売機は、都会ではそれこそ目に入る分だけでも数台は設置されてある。値段は軒並みスーパーの方が安いことが多いため、まんまと引っかかるのは観光客くらいのものではある。
「あれ、コーラ売り切れかよ……」
その自動販売機を前にして、赤いバツ印が点灯しているボタンとにらめっこをしているのは、男子高校生の優平だ。小銭を投入したものの、お目当てのドリンクの在庫がなくいら立っている。
というのも、優平は部活の帰りなのである。サッカー部は疾走時間が他の運動部よりも多く、水分の消費が激しい。持参した水筒も空になり、たどり着いたのがこの自動販売機だったのだ。
「……しゃーない、諦めるか……」
商品のカバーをじっと眺めていても、商品が天から湧いて出てくるわけではない。猿ではないのだ、それくらいのことは分かる。
仕方なく自動販売機を素通りしようとした優平だったが、後ろからの駆け足の音がどんどんクレッシェンドしてくることが引っかかった。
「あ、優平じゃん。どーしたの、自販機とタイマン張っちゃってー」
ノリが軽く優平につるんできたのは、朋だ。本人御自慢の天然カール茶髪が、今日もしなやかにカーブを描いていた。
優平は、あまり彼女と共に居るのが得意でない。押せ押せの朋に我慢しっぱなしになってしまうのがストレスになり、上手くいかないのだ。
「……朋か。コーラが売り切れてたんだよ。それだけ」
言われて、朋はガラス張りの向こうにあるサンプルをジロジロと見物し始めた。コーラで視線が止まり、すぐ下のボタンにスライドする。
「……あー、たしかに。……別の炭酸じゃダメなの?」
「いつもコーラしか飲んでないからな……」
「そんなんじゃ、健康に悪いよ! おじいちゃんになるころに歯が無くなってても、知らないよー?」
かなりのコーラ好きである優平は、最早コーラ無しでは生きていけないほど依存している。早く脱却しなくてはと思い断絶に挑戦しては見るのだが、その度に失敗している。喫煙者の『禁煙』と同じくらいだと思っていい。
「……ちょっとだけ待っててねー。帰ったら、とことん束縛してやるから!」
人差し指で忠告を受けたと思うと、朋は足早に走り去っていった。
……ここら辺日影が無いから、暑いことこの上ないんだけどな……。
朋の言いつけなど無視して帰ってしまいたいものだが、過去の経験が優平をこの直射日光の当たるコンクリートの上に留まらせた。
前に一度、朋のお願いを通告なしに破ったことがあった。すると翌日から一週間、登校から下校まで朋に行動を監視され、身動きが取れなくなってしまったのだ。
……怒らせたら、怖いからな……。
そうこうしている内に、彼女が戻って来た。両手に、一本ずつコーラのペットボトルが握られていた。
「はい、優平! 次、なにかおごってくれたらそれでいいから!」
「へいへい」
いつも通りだ。ツケは直ぐに消費せず、次回に持ち越し。それが優平であっても朋であっても変わらない。
朋から受け取ったペットボトルのキャップを、何の考えも無しに捻った。朋も同じようにキャップを開けるところだった。
……あれ、これって朋が走って持ってきたやつだよな……。
『プッシャーーーーー』
開封と同時に、二酸化炭素の泡が勢いよく噴き出した。目と鼻の先で開封しようとしたため、ダイレクトに顔にかかった。
「うわっ!」
「わわわわわ! 走ってきちゃったからかな……」
朋の方を振り返ると、彼女も泡でヒゲができていた。優平と違うのは、これも一種の余興だと笑顔になっているところである。
「……あ、優平もおんなじになってるー!」
「朋が揺らしたからだろ」
「だって、早く渡したかったから。ほらほら、怒らないで? ハンカチ、あげるから」
朋は、青一色に染まったハンカチを優平に差し出した。
……こういうところがあるから、憎めない。
彼女は、純真無垢だ。ガラスの色は透明で、どの色にも染まっていない。そこから繰り出されるパンチには、硬さもあるがそれ以上の柔らかさがある。
残ったコーラをゴクゴクと飲み干す朋は、美味しさ以外の喜びを感じているようだったのは気のせいなのだろうか。
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