最新PCに10年前のゲームをインストする俺
飲み会の後、家に帰った俺は自分の部屋の隅に置きっぱなしになっていたダンボールを開封した。
中には大学時代に使っていたデスクトップのパソコンがそのままになっていた。
就職してアパートを引っ越すにあたって、古くて使わなくなったやつを実家に送っていたのだ。
大学時代に使っていたマウスやマウスパッドなどを見ると、まるで当時の空気までそのまま箱に詰まっていたかのように、一気に記憶が呼び起された。
その中を漁ると記憶のとおり、当時使っていたメモ帳が出て来た。
パラパラとめくり、当時書き記した攻略メモや経験値の時給を計算した数字の羅列などを懐かしく眺める。
……あった。
メタリボのアカウントとパスワードだ。
多分、これが一番最後に使っていたやつだと思うのだが……。
確か大学の二年の頃までは遊んでいたが、サーバーの過疎化とともに俺も段々とログインしなくなったのだ。
メタリボを通じて親しくなった大学の友人たちとも、メタリボをするよりも直接会って遊ぶカードゲームやボードゲームをすることの方が楽しくなって、そのうちメタリボの話題は出なくなった。
長く遊んだプレイヤーはメタリボをやめるとき大抵、『引退』とか言って身内を集めたゲーム内イベントをやったり、これまで集めた強力な装備品を知り合いに譲ったりして去っていったが、俺とメタリボの別れはそんな明確な区切りのないフェイドアウトするようなものだった。
俺は東京から持ち帰ってきたノートPCを立ち上げ、メタリボのクライアントをダウンロードした。
公式サイトの最新ニュース欄の日付が五年前になっているのを見て、俺は不穏な気配を感じる。
サービス終了、してないよな……?
サーバーを維持管理するのもただではない。
昨今の厳しいゲーム企業環境を考えると、廃れたゲームのサービスを何年も続けたままにしておくとも思えない。
メタリボの現状を伝えたあのネット記事を読んだのは、果たして何年前のことだったか……。
インストールを終え、早速ゲームを立ち上げると、懐かしいローディング画面が現れた。
「うわ、全部そのままかよ。アップデートしないにも程があんだろ」
そう独り言を口にしながらも、学生時代に遊んだときのままのネットゲームがそのままの状態で続いていることに俺は密かな感動を憶えていた。
メモ帳を見ながらアカウントとパスワードを入れてログインする。
良かった。弾かれない。
全部あのときのまま残っているんだ。
まるで奇跡に立ち会ったかのような心持ちでゲーム画面が表示されるのを待つ。
一体どこでログアウトしたんだったか……。
操作方法やアイテムなどの情報は憶えているだろうか。
次々と蘇ってくる当時の記憶や空気感に、感情を昂らせた俺が、深夜の自室で一人呟く。
「えっ……。……え、死んだ?」
直近で完結した自作の宣伝です。
「音速ゾンビを予知夢の力で完全攻略!陰キャ男子が学園の危機を救う!……先輩、これってチートですよね!?」「え?ああ、うん、そうだな……(俺って陰キャだったのか……)」
https://ncode.syosetu.com/n5768hj/
わりと良く書けたと思っているのですが不毛ジャンルのせいか致命的に読まれてません。
10万文字のラノベくらいペロリと読んじゃうよ? という活字中毒の方がおられましたら発掘するお気持ちで、是非お試しくださいませ。