どんなゲーム?と聞かれて盛大にキョドった記憶
知らない者が聞くとよく誤解するのだが、アカネは彼女の下の名前ではない。
赤根柚季 (アカネユズキ)が本名だ。
苗字が妙に女の名前っぽいので女子も男子も皆、彼女を苗字で呼び捨てにした。
背は高くないがバスケ部に所属し、結構上手い方だったらしい。
快活な性格で男女問わずにモテていた。
顔は、まぁ、人それぞれ好みはあるだろうが、控え目に言って学年一。
いや、まあ誤魔化しても仕方がない。正直言って、俺が出会った非二次元リアル女子の中ではダントツに可愛いかった。
その俺内記録はあれから十年で一度も更新されていない。
だから、二十七歳───もうそろそろ三十路にも届きそうな男が、未だに初恋の未練をこじらせていたとしても、まあ許して欲しい。
誰とでも仲の良かったアカネが俺に話し掛けて来たときの話題が、メタリボのことだった。
教室で一人スマホをいじってメタリボの情報サイトを読みふけっていた俺の真横に立ち、話し掛けてきたときのアカネの声や仕草は今でもよく思い出せる。
「ねぇ、青木とかが良く話してるの、何てゲームなの?」
「メタリボか? 何? 興味あんの?」
努めて平静を装っていたが、内心は心臓バクバクだ。
確かにメタリボは俺の青春で、完全にそれにのめり込んでいた時期ではあったが、そのときは、アカネが何で俺一人のときを狙ったように話し掛けてきたのかと、話題そのものよりも、そっちの方が気になって仕方なかった。
「んー。凄く楽しそうに話してるし、どんなかな?って」
「メタユニバース・リボルビング。PCのゲームだよ。メタリボで検索すればすぐ見つかる」
───3Dが当たり前になっていたMMORPG界隈。さらには、いい加減本物のVRMMOを出してくれ、と皆が焦れ出していた時代にあって、旧世代の見下ろし型のメタリボが発表・サービス開始されたことは、当時のゲーマーたちにある種の驚きをもって迎えられた。
当時メーカー側はグラフィック面ではなく、ゲームの本質的な面白さを追及するため敢えて古臭いスタイルを取ったのだと説明していた。
何でも、本当の意味で世界がプレイヤーたちの取る行動や戦術を学習していき、どんどん敵が手強くなっていくのだ、という設計思想をウリにしていたのだが、いざ蓋を開けてみると、その敵側の成長や進化は全くと言っていいほど実感できず、誇大広告と叩かれた。
ただし、そんな話とは別に、昔ながらのゲームデザインに郷愁を覚えた古参ゲーマーが、かつての青春を追体験すべく群がったことで人気に火が点いた。
さらに人気は人気を呼び、2Dのゲームに馴染みのなかった俺たちのような若い世代には、その古さが逆に新鮮だと話題になってプレイヤー数は爆増。
そうして、システム的には特に見るべきところのない、ありきたりの古めかしいゲームが意外なほど成功を収めたのだった。
しかし、人気の遷り変わりは世の習い、サービス開始から三年も経つとユーザー数は一気に減少を始めた。
いつまで待っても『自ら成長する世界』なるものが実装される気配はなく、それでいて、「世界は勝手に更新されるのだから外からのアップデートは不要」という当初からの態度を崩さなかったメーカー側の姿勢に反発したコアユーザーが次々と離脱。
過疎は過疎を生み、かつて隆盛を誇ったMMORPGは、今では惨澹たる有り様だ。そんなネット記事を大分昔に読んだ。
もっとも、これはあれから約十年経った今の俺の知識であって、当時の俺はネトゲに夢中な、ただの高校生のガキでしかなかった。
目の前の女子に対し、どうやったら効率良くレベル上げをできるのだとか、何時間ぶっ通しでプレイをしただとかいう話を、ただ思うままに話して聞かせるのが関の山だった。
今でもあのとき、もうちょっと気の利いた会話ができていればと思い返し、発作的に布団を被って叫ぶことがある───。
「興味があるなら、俺たちの遊んでるサーバー名教えようか? 初期の最強装備あげたり、速成レベリングとかできるよ?」
「ん。いい。私、身体動かして遊ぶほうが好きだから」
アカネと一対一で話したのはそれっきりだった。
それっきりだったからこそ良く憶えている。
そして、あのとき話したメタリボを、あのアカネがプレイしていると知って、俺の心は謎の期待で踊っていた。