居酒屋同窓会で彼女の近況を知る 1
『メタユニバース・リボルビング』。通称『メタリボ』。
十年ほど前に流行したMMORPGの名前を久しぶりに思い出したのは、高校の同窓会での飲み会のことだった。
俺のように大学に進学した者であれば大体が社会人五年目。
そんな中途半端な時期に招集された同窓会は、出席人数が十人ちょっと、とこれまた中途半端な規模で行われた。
成人式以来、大体年に一回ぐらいのペースで催されていたらしいのだが、東京に出ていた俺はいずれも出席を見送っており、今回が初めての参加だった。
自然と、かつてのクラスメイトたちの現在の動向に関する噂話が話題の中心になる。
段々と若いとばかりも言えなくなってきた年頃の男女だ。
酒の飲み方も心得たもので、バカ騒ぎをするでもなく、かと言って冷え冷えともしておらず、それなりに盛り上がり、それなりに皆酔いが回ってきた頃合い。
俺はいよいよ気になっていた話題について探りを入れてみる。
「なあ、全然話題出てないけど、アカネはどうしてるか誰か知らないのか?」
自分でも割とさり気なく言えたと思う。
アカネはクラスでも目立つ存在だったし、こんな同窓会の席で名前が上がらないのはおかしい。
俺でなくとも、彼女の現在がどんなものか、興味を持つことは不自然ではないはずだった。
そう。そんな一言で、俺が高校生の当時、彼女に想いを寄せていたことを看破されるはずはないと、俺はそう踏んでいた。
だが、その満を持した俺の発言によって、場の雰囲気は瞬時に盛り下がった。
「ああ、アカネな。うん……」
「そっか、青木君、成人式も出てなかったもんね」
「何? お前、アカネのこと好きだったの?」
皆、自分たちで作った微妙な間を誤魔化すように、ワイワイと喋り出したが、しばらくそれに耳を傾けていても、誰もアカネが今何をしているのか、といった具体的なことは何も言わなかった。
「なんだよ、お前ら。言いにくいことでもあるのか? まさか、AV堕ちしてるとか言わねーよな?」
冗談めかして聞くが、俺は内心気が気ではない。
「まあ、そこまで悲惨じゃねえけど。高校のときのアイツのイメージで聞いたらちょっとショックかもなぁ」
祝日なのに会社の背広姿で遅れてやって来た村井が、俺の隣でシミジミと呟くように言った。
「無茶苦茶可愛かったしねぇ。気になってた男子は多かったんじゃない?」
気合を入れてめかし込んで来たと思われる大西が腰を浮かせ、シーザーサラダを小皿に取り分け、斜め対面に座る俺の前に置いた。
別に頼んでないのだが、これを食えと?
何となく周囲が俺を気遣っている空気を感じる。
「そこまでもったいぶる話でもねぇだろぉ? 今どき引きこもりなんて珍しくもねー」
赤ら顔になった田尾が多少怪しくなった呂律でがなり立てた。
引きこもり? 引きこもりかぁ……。
確かに多少驚くが、皆の発していた空気感に対し、その程度の話であったことに安心もした。
「まあ、そうだな。つってももう働いてるんじゃないか? あれからもう大分経つだろ?」
「だなあ。それか、結婚してるんじゃねえか?」
少し離れた席にいた宮野と平田は、それから別の誰かの結婚話の方に興味が移ったらしく、俺の方は無視して再び盛り上がり始めた。
あ、ちなみに続々と出てくる彼らの名前は全く覚える必要はない。
この飲み会の回想シーンでしか出てこないのだから。